遥香のはるかな海の歌

mitsuo

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 マリンパークを出た遥香は、学校に向かって一目散に坂道を走っていく。
 丘の上のほうにある小学校までは、どんなに急いで走っても二〇分はかかる。しかし遥香が展示室で時計を見た時にはもう、その時間を軽く過ぎてしまっていた。遥香は絶望的な気分で、せめてなるべく早く学校に着くようにと必死に走っていた。
「おーい、遥香あーっ!」
 後ろから呼ぶ声がして、遥香はふり返る。そこには黒いランドセルを大きくゆらして坂道を駆け上がってくる男の子の姿があった。同じクラスの進藤裕一(しんどう ゆういち)だ。彼は遥香の幼なじみであり、朝にこの坂道でよく出会う遅刻仲間でもあった。
「おはよーっ!なによ?今日も海を見てるうちに時間を忘れちゃったの?」 
「おはよーっ!うるせーっ!」
 遥香の嫌味に文句を言いながらも、すぐに追いついた裕一は隣に並んで走り始めた。裕一はこういう時、いつも遥香にペースを合わせてくれる。
 前に「私に合わせると遅くなっちゃうし、先に行って良いよ」と話したこともあるのだが、裕一は「俺もどうせ遅刻だし、それなら一緒に学校に着いたほうが怒られた時のダメージは少ないだろう」と言って断った。変な理由だけど、確かにその通りだ。
 遥香たちが五年生の教室に着いたのはとっくに朝の会が始まっている時間。けれど担任の崎田先生はまだ来ていなかった。
「ラッキー!今日はついてる!」
 二人は声を合わせ、ハイタッチして喜んだ。
 先生が教室に入ってきたのは、それから五分ほどたってからだ。その後ろには、ハルカたちの知らない女の子の姿があった。教室に「ざわっ」と小さなどよめきが起こる。
 「起立、礼!」のあとで、先生が説明を始めた。 
「おはようございます。さて…もう気が付いていると思うけど、今日はみんなに新しいお友達を紹介します」
 先生が目で合図をすると、隣のその女の子は一歩前に出てぺこりと頭を下げた。
「西島梨華(にしじま りか)といいます。先週まで東京の小学校に通っていましたが、今日から皆さんと一緒にお勉強させていただくことになりました。なにとぞよろしくお願いいたします」
 梨華というその女の子は一目見ただけでもはっきりと分かるほど、都会のお嬢様といった雰囲気を漂わせていた。長い髪は雑誌のモデルみたいにウェーブがかかっていて、服装もすごく可愛らしい。
 だけどそれ以上に遥香の印象に強く残ったのは、梨華の顔だった。おじぎをして頭を上げた彼女は口では笑っていたけれど、目は少しも笑っていない。顔立ちがキレイにととのっているせいもあって、遥香にはこの転校生がお人形のように見えた。
「聞いた?東京から来たんだって!だからあんなに落ちついてるのかなあ」
「うわあ、すっごいオシャレ!あんなお洋服、月浦じゃ買えないよねー!髪の毛もふわふわですっごく可愛いし!」
「おいっ、『なにとぞ』ってどういう意味だ?」
 教室のあちこちから話し声が飛びかい始める。田舎のこの小学校には転入生が来るだけでも珍しいのに、東京から来たいかにもお嬢様な女の子だったので、クラスメイトのテンションもすっかり上がっていたのだ。崎田先生がパン!と強く手を叩いて静かにさせる。
「静かに!みんなももっと聞きたいことがあると思うけど、よってたかって質問したりしないようにね。それと西島さんにはまだ分からないことがたくさんあるんだから、困ってるようだったら助けてあげるのよ」
「はーい!」
 みんなが声をそろえて返事をすると、梨華は「よろしくお願いします」と言ってもう一度頭を下げた。その時の表情も、やっぱり人形みたいだと遥香はますます思った。

 三時間目は体育。この時期はちょうどプール授業が始まったばかりだった。
 準備運動を終えた遥香が怪しい目つきでプールサイドをうかがっていると、はじっこの木かげで体育座りをしている梨華の姿を見つけた。一人だけ体操服を着て、頭にはつばの大きな麦わら帽子までかぶっている。今日のプールは見学らしい。
 これはチャンスだと思った遥香はそっとプールからはなれ、梨華に近づいた。  
「西島さん」
 声をかけると、梨華が顔をあげた。遥香はにっと白い歯を見せ、親しげに笑いかける。
「私、叶遥香っていうの。隣に座ってもいい?」
「うん、いいよ」
 小さな声で梨華がこたえる。彼女の目は帽子に隠れていて、表情が読み取れなかった。
「プール休んでたんだ。もしかして、プール授業があるって聞いてなかったの?」
 遥香が質問すると、梨華はぶんと首を横にふった。
「前からママに言われているの。外のプールは絶対にお休みして、ずっと日の当たらない場所にいなさいって」
「えっ、どうして?もしかして…体が悪いとか?」
 遥香は急に心配になって、おそるおそるたずねてみた。すると梨華はさっきよりもオーバーに、ぶんぶんぶんと首をふる。
「お肌が日に焼けちゃうとダメなんだって。『もしもシミでもついちゃったら、ずっと残って大人になってから後悔する』なんて言うのよ」
「へ、へえ…」
 どこかぶっきらぼうな梨華の返事を聞いて、遥香は思わず表情をひきつらせた。
 子供のうちからお肌のシミを気にするなんて、さすが東京のお嬢様…関心する一方で、遥香は急に緊張してきた。この子と私なんかとじゃ、話が合わないかもしれない。
「あの…叶さんは、ずっとこの町に住んでいるの?」
「うん。生まれも育ちも月浦だよ」
「そうなんだ。じゃあ聞いていい?月浦ってどんなところ?」
 それでも梨華のほうから話題をふってくれたので、遥香は正直ほっとした。見た目のイメージと違って、実は気さくで話しやすいのかもしれない…なんて期待もわいてくる。
「そうだなあ…とにかく海がキレイなところかな。坂をおりたところに月浦湾っていう流れのおだやかな海があるの。そこには立派なサンゴ礁があって、いろんな生き物が住んでいるんだ。南の国みたいなカラフルなお魚もいっぱいいるよ!」
「サンゴ礁?カラフルなお魚?」
 梨華はむぎわら帽子のつばを指でぐいと押し上げて、丸い目で遥香を見つめた。帽子の奥の瞳はキラキラと輝いており、今の話に興味を持ったのがはっきり伝わってくる。これは良い反応だと思い、遥香はますます勢いにのってしゃべりだす。
「そうなの!しかも港には水族館もあるんだよ!」
「えっ!水族館があるの?」
 すると梨華は急に大きな声を出し、帽子の先がぶつかりそうなほど顔を近づけてくる。それは遥香が期待していたよりも、ずっとずっと大きなリアクションだった。
「私、水族館って大好きなの!東京にいたころは近くの水族館に何度も連れて行ってもらってたんだ。イルカのショーとか、水中トンネルとか、ジンベエザメの泳いでいる大きな水槽とか!見ているうちにちがう世界に入りこんだみたいで、すっごく素敵だよねえ!」
「そ、そうだね。でも…ごめん。マリンパークはすごく小さな水族館だから、展示は普通の水槽ばっかりだし、イルカやジンベエザメみたいな人気者はいないんだよね」
 自称グルメのわがままなスナメリだったらたまにいるけど…とは言い出せなかった。
「そっか。私こそごめんね…変なこと言っちゃって。でもね、キレイな色の海水魚とか、サンゴも大好きだよ。東京のおうちには、本物のサンゴとお魚を一緒に飼ってる水槽だってあったんだから」
「えっ!本当に?」
 マリンパークの中身を聞いてがっかりしたかと思いきや、梨華はまたすぐに輝く瞳を遥香に向けてそう言った。思っていたよりもずっと上手(うわて)な梨華の話を聞いているうちに、遥香もだんだんドキドキしてくる。
「本当だよ。といっても、お世話はみんなアクアショップの人におまかせしてたんだけどね。水槽の水は汚いからさわっちゃダメって言われてて、私はずっと見てるだけなんだ」
「お店の人がわざわざ来るの?すごい!西島さんのおうちってお金持ちなんだねえ!」
「うん…まあね」
 うなずく梨華の表情はどこか暗かったけれど、遥香の頭の中は別のことでいっぱいだった。同い年でそこまで海の生き物が好きな子と出会えるとは、思いもよらなかったのだ。
「西島さん!実は私もサンゴを育てているの。さっき話したマリンパークで」
「え?マリンパークって、水族館なんだよね?」
「そう!私はそこのお手伝いをしているの。その中で、アヤイロミノリイシっていう珍しいサンゴのお世話もしているんだ」
「うそ!すごーい!」
 それは梨華にとって、家でたくさん生き物を飼っているよりもずっとすごいことだったようだ。彼女はほっぺが赤くなるほど感激して、遥香にぐっと顔を近づけた。
「ねえ、どうしたら水族館で働かせてもらえるの?」
「え?いや…ええっとねえ、そこはもともと生き物の世話をしている人が一人しかいなくて、ボランティアの人たちもちょうど忙しくて来れなくなっていたの。だから特別に、お手伝いするのを許してもらったんだよね。お母さんも昔はマリンパークで働いてて、その職員さんとも小さいころから知り合いだったし」
 今まで何度も答えた質問だったけれど、急に聞かれると今でもどぎまぎしてしまう。まさか生き物の声が聞こえるようになったおかげだとは言い出せない。 
 それでも同い年の女の子とサンゴの話ができるのが嬉しくて、遥香はすぐにミノリイシの飼育の悩みを打ち明けた。その卵が、すごく不思議で大事な役目を持っているってこと以外には。それでも梨華は遥香の話にふむふむとうなずき、それからすごくしっかりとした意見をくれた。
「サンゴって、あげる光の強さとか、エサとか水温とか水質とか…よく育つ環境の条件が種類によってちがっているんだよね。そのサンゴが月浦にしかいない種類だったら、月浦の海にしかない特別なものが必要だったりするかもしれないよ」
 説得力のある梨華の意見を聞いて、遥香はなるほどとうなずいた。確かに海の中の環境はいろんな要素が混ざり合ってつくられているのだし、特にミノリイシは環境の変化でまっ先に絶滅してしまったほどのデリケートな種類。遥香が水槽のミノリイシにまだ与えていないものがあるっていうのは、すごくありえる話だ。
 遥香は納得し、同時に梨華のことがすごく頼もしく思えてきた。彼女と一緒なら、ミノリイシに卵を生ませるのも夢じゃないかもしれない。
 だから遥香は、さっそく梨華に呼びかけてみた。
「西島さん…ううん、これからは『梨華ちゃん』って呼んでいいかな?もし良かったら、 今日の放課後マリンパークに遊びに来ない?本物のミノリイシも見せたいし、他にもいろんな生き物を紹介したいから」
 そう言って、遥香は開いた右手をすっと梨華のほうに差し出した。「握手をして、これからお友達になろう」という意味だ。
 朝から教室でずっと一人ぼっちだった梨華はこの遥香のメッセージを感じとって、ほっとしたような笑顔を見せた。そして自分の右手を、ゆっくり遥香に近づける。
 だけど、白い指先が日焼けした遥香の指にもう少しで届きそうなところで、梨華の表情がふっと変わった。大切なことを急に思い出したように。そして握手しようとしていた右手を、さっと引っこめてしまった。
「叶さん、ごめんね。名前で呼ぶのは良いんだけど、一緒に水族館には行けないわ。学校が終わったら一度家に帰ってきなさいって、ママに言われているの」
 さっきまであんなに楽しそうだった梨華の表情が、みるみるうちに暗くなっていく。
「そっ、そうなんだ。確かにより道するのはよくないもんねえ。じゃあそのあととか、違う日に遊びにきてよ!私はだいたい水族館にいるから、いつでも案内してあげるから」 
 遥香が話しかけても、梨華は黙りこむばかりだった。帽子をかぶり直して顔をそむけたせいで、また表情が分からなくなっている。
「あのね…叶さん、私に親切に話しかけなくてもいいよ。そのうちにきっと、私のことを嫌いになると思うから」 
 長い沈黙のあとで梨華がぽつりと言った言葉を聞いて、遥香は目を丸くした。
「え?それって、どういう意味?」 
 梨華からの返事はなかった。そのかわりひざを抱える手に力をこめて、くちびるをぎゅっとかみしめているのが見えた。
 今の言葉、どういう意味なんだろう…気になった遥香はもう一度質問しようとする。だけどそれに待ったをかけるように、急に後ろから大きな声が響いた。
「かーなーいーさんっ!」
 ぎょっとしてふり返ると、二人の近くには崎田先生が立っていた。仁王立ちで遥香を見下ろす顔は鬼のようで、握りしめたメガホンが金棒に見えてくる。
 やばいっ…遥香の全身からどっと冷や汗がふき出してくる。
「今まですっかり見逃してたわ。叶さん、みんなもうシャワーを浴びてプールに入っているのに、なんで一人だけここに座っているのかなあ?」
「い、いやあ…それは、そのう…えへへ」
「ごめんなさい先生、叶さんはずっと私に付き合ってくれていたんです。私が一人で座っていたから、心配して話しかけてくれたんですよ。だから悪いのは私なんです!」
 梨華がとっさに遥香をかばうと、先生は別人みたいに優しい笑顔を彼女に向けた。
「西島さんは親切なのね。でも気にしなくて大丈夫だよ。叶さんはどさくさにまぎれて西島さんをプールから逃げる理由に使おうとしたんだから」
「えっ?」
 びっくりしている梨華に、遥香はすっかり青くなった顔で「ごめん…」と謝った。確かに遥香は一人で座っている梨華を見つけた時(これはチャンスだ)と思ったのだ。
「ほらっ、あきらめてこっちにきなさい!」
 先生にしっかり肩をつかまれて、遥香はずるずるプールサイドを引っぱられていく。そしてあっという間に冷たいシャワーを浴びさせられ、プールの前に立たされた。遥香はそこをひそかに「がけっぷち」と呼んでいる。
 遥香はおそるおそる足を入れて、水の中にちゃぷんと入った。次の瞬間に「ぎゃああ!」と悲鳴をあげ、手足を必死にバタつかせる。
「ムリ!ムリ!溺れるう!」
「遥香ちゃん落ちていて!あんまりしゃべると水飲んじゃうよ!」
「そうだよ。っていうかさ、まだ足がつくところだぞ?」
 近くにいた友達や裕一の声も耳に入らないほど、遥香はパニックになっていた。
 やっとのことでプールのはじをつかみ、ようやく落ち着く。「ふう」と息をついて顔を上げると、目の前のプールサイドでは梨華がきょとんとして遥香を見下ろしていた。
「叶さん、もしかしてカナヅチなの?」
「…うん」
「水族館のお手伝いをしてるのに?」
 遥香は顔を真っ赤にしてもう一度うなずいた。梨華はすっかりあっ気にとられてしまったらしく、お肌を日差しから守るのも忘れてパチパチとまばたきをくり返している。
 ああ…情けない。
 
(本当に情けないよ!まったくう、ガラスがなけりゃ頭を叩いてやりたい所だわよ!)
 その日の放課後。大水槽に来ていたメリーに今日の出来事を話したら、ものすごく怒られてしまった。いつもはメリーに強気な遥香もしゅんとうなだれてしまう。
「そうだよね。別に水族館で働くのに泳ぎが必要ってわけじゃないけど、お魚の世話をしている人がカナヅチって、なんだかおかしいもんねえ」
(それだけじゃない!乙姫様から大切な使命をまかされている人間が水にもぐることさえできないなんて、話にならないよ!)
 ようしゃないメリーの毒舌に、遥香はがっくりとうなだれた。
「はあ…海の町に生まれ育ったっていうのに、どうして私はカナヅチなんだろう。私以外の五年生はみんな普通に泳げるし」
(まったくだよ。特に遥香は私が一生懸命トレーニングしてあげたのに、今じゃ泳ぎの名人どころかカナヅチだなんて。すごくショックなんだけど)
 メリーはぷうっとほっぺをふくらませるかわりに、口からぼこぼこっと白い泡をはき出す。だけど今の話を聞いた遥香は眉をひそめ、「えっ?」と驚いた声を出した。
「ちょっと待って。メリー、私に泳ぎの特訓なんてしてくれたっけ?」
(ひどーい!忘れたの?もっと遥香と水の中で遊びたくて、すごくがんばって特訓してあげたのに!遥香が長く水の中で息をとめられるように顔をおさえてあげたりとか、深いところまでもぐれるように水着をくわえて引っぱってあげたりとか)
 メリーの話を聞くうちに、遥香の顔がみるみる青ざめていく。彼女の心の中では今、封印していた恐ろしい記憶が次々によみがえっているところだった。
 …苦しくなって水面に顔をあげようとする遥香の頭を、大きなおなかでむりやり押さえつけてくるメリー。じたばたもがく遥香を暗い海の底へ引きずるメリー。記憶の闇から浮かびあがってくるその姿はまさに、微笑をうかべる白い悪魔そのものだった。
「メリーのせいじゃん!私、メリーにそうやって殺されかけたことが原因で水の中がトラウマになっていたんだよ!なんてことしてくれるの!」
(え、そうだったの?じゃあ今度こそ泳げるようにもう一回特訓してあげようか?)
「絶対イヤ!っていうかさ、どうして今も大水槽にいるの?朝に来たばかりでしょう?」
(だって帰る時に言ったじゃん。『近いうちにまた来る』って)
 メリーはそういうと片方の胸ビレを遥香の前にひゅっとつき出して「ごはんちょーだい」のポーズをとった。「帰れ!」と遥香は即答する。
「いくらなんでも近すぎるよ!学校行ってる間にメリーのエサなんて用意できないし!そもそも、他の仕事はしなくていいの?」
(うーん…っていうよりもね、乙姫様からなるべく遥香のところについてるようにって言われているのよ)
「え?」
 メリーの話を聞いて、遥香は急に緊張した。
(遥香のことをしっかり見守るように、って念を押されているの。なぜだか分からないけれど、乙姫様は遥香のことがやけに気になっているみたい)
 自分とはかけ離れた世界に住むえらい人(?)が私を気にしてくれていると思うと、ハルカはなんだか不思議な気分になった。思わず背筋がぴーんと伸びる。
「つまり私は竜宮にとって、大切な使命をたくされた大切な存在ってことなんだね」
(どうかなあ~?単にハルカが頼りなくて不安なだけじゃないの?)
「ちょっと!それ、どういう意味よ!」
 メリーの遠慮のない言葉に、ハルカはまたむっとした表情になる。
「か、叶さん?」
 だけどメリーを怒鳴りつけてすぐに、後ろから聞き覚えのある声がした。遥香ははっとして、おそるおそる後ろにふり返る。
 そこには梨華が、大きく目を見開いた表情で立っていた。メリーとの会話を聞かれていたらしい…あせった遥香はあわてて笑顔をつくり、梨華に話しかける。
「さ、さっそく来てくれたんだ」
「うん。叶さんのお話を思い出したら、やっぱり気になっちゃって。でもさ、これってどういうこと?」
 ま…まずい。遥香は返事に困って、梨華と大水槽のメリーを交互に見た。
 だけど梨華の口から出てきた言葉は、遥香の予想とはちがうものだった。
「ここにイルカはいないって言ってたよね?なのにこの水槽にいるってどういうこと?」
「へっ?」
(ちょっと!私はイルカじゃないよお!) 
 梨華の言葉を聞いた遥香はひょうしぬけした声を、メリーは抗議の声を同時に上げた。もちろん、メリーの声は梨華には聞こえていないけど。
 メリーとしゃべっていたことを指摘されるのかと思ってひやひやしたけれど、どうやら梨華が気にしているのはちがう部分だったらしい。
「え、ええっとねえ…この子は月浦湾に住んでいるスナメリなの。この子ってドジでしょっちゅうケガしちゃうから、そのたびにこの水槽に入れて保護してあげてるんだよねえ。前から知ってる仲だし、他に誰もいないとつい話しかけちゃうんだ」
「へえ…そうなんだ」
 どうやらうまくごまかすことができたようだ。ついでに自分が一人でメリーとしゃべってたことも説明できたし、遥香はひそかにほっとする。
 梨華はイルカの仲間に思いがけず出会えたことが嬉しかったらしい。メリーをじっと見つめたまま、ゆっくりと大水槽に近づいていく。
「名前はメリーって言うの。呼んでみて」
 遥香の言葉に、期待と不安がまざった表情でうなずく梨華。その一方で遥香はメリーに(ちゃんと可愛く返事してよ)と目で合図をを送る。だけどメリーの返事はなかった。
「メ、メリー」
 梨華がドキドキしながら名前を呼ぶと、メリーは彼女の目の高さまですうーっと下りていく。そして梨華に向かって、思いきり叫んだ。
(帰れっ!今すぐここから出て行け!)
「えっ?メリー?」
 驚く遥香にかまわず、メリーは激しくガラスに頭をぶつけて梨華に迫る。驚いた梨華がバランスを崩して転んでしまった。
「ちょっと、なんてことをするの!イタズラにしてもひどすぎるよ!」 
(イタズラじゃないよ!遥香こそ、どうしてこんな子と仲良くしてるの?この子は私たちの敵よ!今すぐマリンパークから追い出して!)
 メリーの思いもよらない言葉にすっかり混乱してしまい、遥香はおろおろしながらメリーと梨華を交互に見つめた。その間に梨華はゆっくりと立ち上がり、ゴン!ゴン!と激しくガラスをたたき続けているメリーをじっと見た。悲しそうな眼差しで。
「そうか…イルカさんも私のことが嫌いなんだね」
(イルカじゃないし!私はス・ナ・メ・リ!)
 怒りをあらわにするメリーを前に、梨華は小さくため息をついた。
 なんだかよく分からないけれど、今はこの二人(正しくは一人と一頭)を一緒にしておかないほうが良さそうだ。遥香はうなだれている梨華の手をにぎって、大水槽の見えない入り口の近くに連れていった。
 それから遥香は大水槽に戻ってみたけれど、そこにはもうメリーはいなかった。すぐに帰ってしまうくらい、メリーは梨華との遭遇に腹を立ててしまったようだ。
 梨華ちゃんにはなにか秘密がある…遥香はその正体が気になったけれど、その一方で今までの梨華を見て確信していることもあった。
 それは「たとえどんな秘密を抱えていたとしても、梨華ちゃん自身は決して悪い人じゃない」。そして「梨華ちゃんは海の生き物のことがすごく好き」ということだ。
 メリーには追い出せなんて言われてしまったけど、今は落ちこんでいる梨華のために何かしてあげたい。そんな気持ちから、遥香は思いきってある提案をしてみることにした。
「ねえ、マリンパークの裏側のぞいてみる?」
「えっ?」
 それを聞いた梨華がはっと顔をあげ、きょとんとした顔を遥香に向けた。
「叶さん…良いの?」
「うん!ちょうどエサをあげる時間だし、ついでだから大丈夫だよ」
 それを聞いて、梨華の表情がふっとゆるんだ。やっぱり、この子は海の生き物が本当に好きなんだな…確信をさらに深めて、遥香はほっと胸をなでおろす。
「だけど水槽の水とかさわっちゃうと、ママがまた…」
「ああ、それなら大丈夫だよ。ゴム手袋もあるし」  
 遥香はまだためらっている梨華に手まねきをして、一緒にバックヤードに向かう。
 マリンパークのバックヤードには展示室にはない二階と三階があり、大水槽以外の水槽は二階から世話ができるようになっている。
 裏側だけあってこのスペースには照明や海水を運ぶパイプなんかがむき出しになっていて、展示室に比べるとだいぶごちゃごちゃした印象だ。だけど梨華にはそれさえも興味深いらしく、嬉しそうに視線をあっちこっちへ忙しく泳がせている。連れて来て良かったみたいだと、遥香も思わず笑顔になった。
 だけど「ある物」を見つけると、梨華の目はそこに釘付けになった。ゆっくりと近づき、それをじっとのぞき込む。
「叶さん、これってキイロハギだよね?」 
 水温のチェックをはじめていた遥香がふり返った時には、梨華は小さなアクリル水槽をのぞきこんでいた。中にはあざやかな黄色をした平べったい魚か三匹、小さな胸ビレをちょこちょこ動かして泳いでいる。
「当たり!よく分かったね」
「うん。東京の家の水槽でも同じ魚を飼っていたから」 
 遥香にほめらて、梨華は嬉しそうにはにかんだ。遥香はにっと笑顔を返すと、「じゃあ、これ知ってる?」と言って、給餌室から持ってきていたエサの中からレタスの葉っぱを一枚取り出した。首をかしげた梨華に、遥香は得意げに説明する。
「キイロハギってね、海水魚なのに実は野菜も食べるっていう不思議な性質があるの。これは知らなかったでしょう?」
「えっ!全然知らなかった!」
 梨華は遥香からレタスを受け取ると、すぐに細かくちぎって水槽の中に入れてみた。すぐに三匹のキイロハギがすーっと寄ってきて、細長い口で鳥みたいにつっつき始める。
「ねっ、本当だったでしょう?」
 遥香が後ろから声をかけたけれど、なぜか梨華の返事はない。
 よく見ると、残ったレタスを握りしめている梨華の手が小さく震えていた。
「どうしたの?」
「叶さん、ごめんね…私、たくさんお魚を飼ってるのに、エサをあげたのはこれが初めてだったの。だから、なんだか感激しちゃって」
「えーっ!そうなの?」
 遥香が驚いた声を出すと、梨華は恥ずかしそうにこくんとうなずいた。
 梨華ちゃんのお母さんって、よっぽど過保護なんだなあ…それは遥香にとってはもはや、かわいそうとしか思えないレベルだった。
 梨華はこのキイロハギがよほど気になったらしく、エサをあげたあともずっと水槽をのぞきこんでいる。さっきの姿を見てすっかり梨華の魚好きを信用していた遥香は、彼女から目を離してふたたび水温のチェックに戻っていた。
 だけどそれからしばらくたったあと。事件はいきなり起こった。
(うわあっ!助けてぇ!) 
 急に魚の悲鳴が聞こえたので、別の水槽をのぞきこんでいた遥香はびっくりして顔を上げた。甲高くて鋭い声から、叫んだのは小さな魚だとすぐに気が付く。
 再び後ろを向いた遥香は、水槽の前で梨華がとっている行動を見て衝撃を受けた。
 梨華はゴム手袋をはめた手を水の中に入れて、そこにいる一匹のキイロハギを追いかけまわしていた。さっきまでとは別人みたいな怖い表情で。今の叫びは、追いかけられているキイロハギが必死に助けを求める声だった。
 遥香はさっきのメリーの言葉を思い出し、激しいショックに襲われる。やっぱり梨華はここにいる生き物たちの敵だったのだろうか?
「梨華ちゃんっ!何やってるの?」
 遥香はあわててキイロハギの水槽の前に走り、彼女の腕を力いっぱいつかんで水槽から取り上げる。その瞬間に梨華の表情は一変し、びっくりした顔を遥香に向けた。
「ごっ、ごめん!」 
 梨華はすぐに謝って、しおらしく下を向いた。キイロハギを追い回していじめようとしたにしてはおかしな反応だ。
「梨華ちゃん…今、何をやっていたの?」
 遥香の顔が怖かったのだろうか。梨華は様子をうかがうような上目づかいで遥香を見ながら口を開いた。
「あ…あのね、キイロハギの中に気になる子が一匹いたの。白点病じゃないかって」
「え、白点病?どの子が?」
 梨華はその疑いがあるという魚をガラス越しに指さしたけど、みんなちょこまか動き回っているし、体の色がまったく同じせいでよく見えなかった。確かにこれは近くで見てみないと分からない。
 遥香は魚をすくう小さな網を持って来て、そのキイロハギをすくいあげた。彼(?)はまた悲鳴をあげたけれど、「心配しないで」とささやいて落ち着かせる。
 よく見てみると、その体には確かに白点病の特徴である小さい白い斑点ができていた。
 ここにいるキイロハギは閉店することになった元山さんの知り合いのアクアショップから引き取ったもので、そこで病気をもらったようだ。白点病は他の魚にうつってしまう病気だから、このまま展示の水槽に移していたら大変なことになっていたかもしれない。
 他の二匹の体もチェックしてみたけれど、白点病は持っていないようだった。遥香は素早く別の水槽を用意して、白点病のキイロハギと他の二匹の水槽を別々に分けた。
「もしかして梨華ちゃん、病気に気がついてずっとこの水槽を見ていたの?」
「うん。一匹だけ見た目がちょっと変だなって思ったから。私ってあわてるとすぐに手が動いちゃうクセがあって、確かめようと思ってつい手を入れちゃったの…ごめんなさい」
「ううん。ありがとう!このまま大きな水槽に入れてたら病気が広がっちゃうところだったよ」
 やっぱりこの子は本物の魚好きなんだ…梨華の話を聞いて、遥香は今度こそ確信する。そして、さっきは少しでも疑ってしまったことを反省した。
 でも、だからこそ謎がさらに深くなる。どうしてメリーはそんな梨華を見ただけで、あんなに激しく怒ったのだろう?
 それから遥香は梨華に水槽のエサやりを手伝ってもらったり、バックヤードの中を色々案内してあげたりした。メリーとの出来事で最初はすっかり落ちこんでいた梨華も少しずつ元気を取り戻して、遥香に明るい笑顔を見せるようになっていく。しかしそれも、ある出来事が起こるまでの短い時間にすぎなかった。
 それはすっかり日も暮れて、二人でマリンパークを出る時のことだ。
 出口のドアを開けた瞬間に梨華の足が止まり、その表情がたちまち凍りついた。
 梨華の視線の先には、ぴかぴかにみがかれた真っ黒な高級外車があった。この町の人間の車ではないことは、遥香にもすぐに分かった。
 二人が出てくるのを待ち構えていたかのように前のドアから運転手らしき男の人がおりてきて、後ろのドアをさっと開けた。中からはシンプルだけど高級そうな服をまとった女の人が、ゆらりと姿をあらわす。
「ママ…」
「え!あの人が、梨華ちゃんのお母さん?」
 うなずいた梨華はやけに緊張しており、体じゅうがやけにこわばっていた。
 それを見た遥香もよっぽど怖い人なのかと思って緊張する。けれどこっちに向かってくる梨華のお母さんはまず、遥香に向かってにっこりと笑いかけた。
「梨華のお友達のかたかしら?」
「は、はい。同じ五年生の、叶遥香っていいます。はじめまして」
「そう。転校してきたばっかりなのに、娘と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」
 予想とはちがって、梨華のお母さんはすごく優しそうだ。だけど梨華は自分のお母さんを前にして明らかにおびえていたし、遥香もその笑顔に、なんとなく不自然なものを感じとっていた。
 それは梨華を初めて見た時に似てると遥香は思った。梨華が自己紹介をした時の、あの人形みたいな雰囲気…それをずっと強くしたような感じがする。
「梨華、今は何時だと思ってるの?出かける時に『一時間だけ』と言ってたでしょう?」
「ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」
 梨華はやけにびくびくした声でお母さんに謝っている。それを見た遥香は手伝いをさせてしまった責任を感じて、梨華を助けようと思った。
「あの、梨華ちゃんのお母さん。ちょっといいですか?」 
 急に呼ばれた梨華のお母さんは、ぱっと笑顔に戻って遥香のほうにふり向いた。
「あの…さっき梨華ちゃんは、水槽に入れようとしていたお魚の病気に気が付いてくれたんです。梨華ちゃんに教えてもらわなかったら、病気が他のお魚にもうつって大変なことになるかもしれませんでした」
 ここで梨華がお魚の世話に貢献してくれたことを伝えたら、お母さんもきっと許してくれるだろう。遥香はそんなことを期待していた。
「お魚の病気?…あらあ、そう」
 だけど梨華のお母さんは眉をぴくりと動かしただけで、すぐに相変わらずの笑顔にもどった。遥香の言葉が響いたという手ごたえは、まったくと言っていいほどない。
「それじゃあ梨華、すぐに帰るわよ」
「はい。じゃあね叶さん、今日はありがとう」
 梨華は最後に力のない笑顔を向けて、車に向かって歩き出した。
 お母さんは梨華をすぐに後部座席に乗せると、さっさと車を出してしまう。遥香の目には、梨華の不安そうな表情が強く焼きついていた。
 同じ人形みたいな美人でも、あのお母さんはすぐに心を開いてくれた梨華とはきっとちがう。「完璧な人形」という言葉が、遥香の心にふっと浮かんだ。
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シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
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貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

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──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

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冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

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