「ごめんなさい」の話(エッセイ集)

三枝七星

文字の大きさ
1 / 2

「ごめんなさい」の話

しおりを挟む
 「悪くないんだから謝らなくて良い」と言われたことがある。
 以前勤めていた職場での話だ。

 当時私は職場では新人で、とりあえず受けた電話で何かしらあったら「すみません」だの「ごめんなさい」だのとりあえず言っていたので、冒頭の言葉に繋がったわけである。なお、当時から電話対応がめちゃくちゃに苦手で、相手が高圧的だと言っている事の半分も理解できないと言うことがよくあった。皆もう少し落ち着いて話してくれんかの。今も苦手で昨日も電話の仕方で怒られた。頼むから電話の仕事だけ他の人に頼んでくれ。

 それはさておき、「こちらが悪くなかったら謝らなくて良い」と言うのは目から鱗……と言うには反発があったが、自分にはまったくない価値観だったので実に驚いた。

 言い換えると「私は悪くないから謝らない」と言うことで、当時の私も若かったが「それはちょっとどうなんだ……」と思ったものである。なおそれを私に言ったのは私よりもう少し年上の人だった。

 と言うのも、私は「ごめんなさい」や「ありがとう」は「相手の感情の動きに対する配慮の言葉」であるからと考えているからである。
 別に本当に悪いなんて思ってなかったとしても、仮にそれがありがた迷惑に類する好意だったとしても、とりあえず相手の気持ちを無下にできないから「ごめんなさい」とか「ありがとう」を言う物だと思っているからである。

 「気持ちだけで嬉しい」と言う慣用句があるが、まさにその「気持ち」に配慮した言葉だと言えよう。

 逆に言うと「思ってもないことを言うな」と言うことになるかもしれないが、そんなもん万札を「ご祝儀」の袋に入れるか「ご仏前」の袋に入れるかの違いで、中に「万札=何かしら相手への配慮」が入っていることには変わりない。どんなに嫌いな奴だって結婚式に呼ばれたらご祝儀持っていくし亡くなったら葬式行くようなもん。

 あれから何年か経って、私もその時より大人になった。あの時のモヤモヤを言葉にできるようになった。
 自分がそこまで悪いなんて思ってないが、相手が気分を害したようなので、その心の動きに対しては配慮しないといけない。それが社会性だと信じている。そこに配慮した言葉を選ぶ事によって相手がほんの少し救われると信じている。

 と、私は思っているのだけれど、どうやら世の中そうでない人もいるようで、祝う気がそんなにない一万円で祝儀袋だけ見て「祝ってくれたんだよね!」とガワだけ振り回してくる人もいるので世の中不思議なもんだな~と思うのであった。
 まあそのガワの効果を期待して言ってるんだけど、なんかやたらと効いてしまったと言うかなんと言うか。

 言葉の効果って難しいね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...