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第二章
越前一乗谷
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加賀の国金沢城大手門の東、現在は新丸広場と呼ばれる広大な緑の公園、ここはかつて前田家に仕え一万三千石の知行を与えられた冨田重政の屋敷跡である。
冨田家は朝倉氏が滅んだ後は、代々中条流の剣術指南役として前田家に仕えていたが、名人越後とうたわれた重政の代に数々の戦功を認められ、指南役としては破格の恩賞を賜ったのである。それだけに、重政以後の当主たちに掛かる重責は大変なものだった。何しろ前田家の御流儀として剣の腕で負けることは許されず、日常においてはすべての藩士の手本とならねばならなかった。二代目を継いだ重政の長男重家は大阪冬の陣、夏の陣で手柄を挙げ、父に負けぬ一万一千石の知行を与えられたが、二十四歳の若さで他界した。そのため、突然三代目を継ぐことになった次男重康の苦労は並大抵のことではなかった。
「御館様、お顔の色が優れませぬが、今日のお勤めはおやめになった方がよろしいのではござりませぬか」
着替えを手伝う妻の言葉に、重康は苦笑しながら答えた。
「わしがお勤めをやめるということは、冨田の家がもう前田家にとって無用のものになったと藩内外に知らせることじゃ。これだけは死んでもやらねばならぬ」
藩主光高と二人の弟に剣術と平法の指南をする日だった。重康は昨年暮れから中風を患い、手足のしびれとともに、時折言葉ももつれたり、澱んだりするようになっていた。まだ四十を過ぎたばかりだったが、冨田家の男子につきまとう早逝の業は重康にも暗い影を落としていた。
中条流の剣術指南役は、冨田家の他にも山崎家、関家、矢野家が拝していたが、他の三家は冨田家を宗主と仰ぎ、決して冨田家を押しのけて前に出ようとはしなかった。
「おお、重康、このところあまり具合が良くないと聞いておったが、どうなのじゃ?」
「ははっ┅┅殿より遣わしていただきました藩医の薬のおかげで、随分と良くなりましてございます」
「それは良かった┅┅では、御師、ご教授お願いいたします」
若き藩主で三人兄弟の長男光高は重康に師弟の礼をとり、下座に座って頭を下げる。
「お願いいたします」
「お願いいたします」
次男で富山藩主の利次、三男で大聖寺藩主の利治も兄に習って下座に並び、頭を下げた。三人は父忠常が藩主の時からもう十年以上、こうして月に二度、重康から中条流の手ほどきを受けてきた。それぞれが藩主になって独立した後も、それは続いていたのである。
「うむ┅┅では、本日は多勢に一度に襲われたときの対処の仕方をお教えいたしましょう
┅┅」
重康は裃姿のまま、一尺六寸ほどの木刀を持って道場の中央に立った。
「では、まずそれがしが仕太刀をいたしまする。お三方は打ち太刀をなさいませ」
三人の若者たちは木刀を手に、重康を囲むように立った。
「多勢といっても、必ず差がござりまする。どんな差かお分かりか?」
「一人一人、技量に差があります」
「左様、他には?」
「背の高さ┅┅かな」
「うむ、まあ、それも良しといたしましょう。他には?」
三人の若者は首をひねって考え込む。
重康は楽しげな顔で三人を見回していたが、誰も答えられないのを見て言った。
「では、実際にやってみた後、もう一度お尋ねいたしますぞ。さあ、かかってこられよ」
三人の兄弟は誰も一対一ではまだ重康に子供扱いされて負けてしまう。だが、三人がかりなら勝てるのではないか、と淡い期待を抱いて、本気で重康めがけて打ち込んでいった。
ところが、重康はさっと移動して、まず三男利治の上からの打ち込みをぎりぎりでかわすと、懐に飛び込み、小手を軽く叩いた。次に、近くの利次に近づき、利次が慌てて振りかぶるところをすっと飛び込んで胸を突く。そして最後の光高に木刀を前に突きだしてすすっと迫っていった。光高はその迫力に押されて思わず尻餅をつく。
「どうじゃな?お分かりになられたか?」
「ぎ、技量の弱い順に倒してゆかれたのは分かりました┅┅あとは┅┅自分との間合いでしょうか?」
「うむ、その通りでござる┅┅もう一つ、どなたかござりませぬかな?」
「早さの違い┅┅ですか?」
「おお、利治殿、よくぞお気づきになられましたな、その通りでござる」
重康はその場に座り、三人の若者たちも師の前に並んで座った。
「多勢に囲まれても、相手にするのは常に一人と心得よ。まず人数を減らすには弱い相手から倒す。これは卑怯ではござらぬ。相手が卑怯なことをしておるのですから、気にすることはござらぬ。次に近い相手から倒す。だが、気をつけるべきは相手の早さでござる。これはその場その場で見極めねばなりませぬ。相手の動き、太刀行き、それらを見ながら、どこに穴を開けるかを決め、決死の覚悟でそこに飛び込んでゆくのでござる」
「はいっ、ご指南ありがとうござりました」
「うむ。では、二対一の形で交代で仕太刀をやってみなされ」
「はいっ。では、一番はわしじゃ┅┅」
三人は勇んで立ち上がり、熱心に稽古を始める。それを見守りながら、重康はもう自分が長くは生きられないことを悟った。襲いかかるめまいと下半身のしびれ、体を支えるのがやっとの状態だった。
重康にはいくつか心残りがあったが、中でも中条流の宗主の家を継ぐべき息子がいないことが、最も大きな心残りだった。弟の高宗は自分より早くこの世を去り、やはり娘しか残していなかった。他の中条流の指南の家はそれぞれ順調に後嗣が育っている。何とも羨ましい限りだ。
(冨田の家が絶えるからといって、中条流が絶えるわけではない。それはいいのだが、やはり御先祖に対して申し訳が立たない┅┅明日にでも勢源様の墓所にお参りしてお詫びを申し上げてくるか┅┅)
重康は迫り来る死期を泰然として受け入れながら、遠い時空の彼方を見つめていた。
越前一乗谷、ここはかつての領主朝倉氏の城下町である。かつては北の京とも呼ばれ、華やかな京文化が花開いて栄えたが、今は荒れ果てた野山が続くばかりで、その面影すら見当たらない。ここに、朝倉家に仕え孤高の剣豪とうたわれた冨田勢源が晩年の居を構えていた。
勢源は眼病のため両目がほとんど見えなくなり、家督を弟の景政に譲った後も、中条流の宗主として隠然とした影響力を持ち続けた。その求め続けた理想の剣術とは、〝兵法は平法なり〟と言う言葉に集約される。つまり、剣術(兵法)とは、戦いの時だけに使うのではなく、平時(日常)に生かしてこそ意味があり、その目的は無用の争いを避けるということだ。だから、中条流の剣士は平時には太刀を腰に差さない。差しているのは一尺八寸以下の脇差しだけである。自分は争い事が起こっても、剣を使っての解決はしません、という意思表示でもある。何よりも、争いが起こらないように常日頃から心配りを怠らないことが肝要なのだ。
「なるほどな┅┅だが、人間は物分かりが良い連中ばかりじゃないからな┅┅」
副島から中条流の概要を聞いていたダリルがぽつりとつぶやいた。負ければすぐに死が待っている世界で生きてきた彼にとって、日本の剣術が目指す理想は、やはり机上の空論とまでは言わないが、自分が目指す理想とはかけ離れているように思えた。
「そうですね┅┅それがしもなるべく争い事は起こさないように心がけてはいますが、剣でしか解決できないこともありますからね┅┅」
二人は永平寺を訪れ、剣豪冨田勢源の墓に参拝しようと墓地の中を歩いていた。
「住職の話だと、確かこの辺りだと思うのですが┅┅」
副島はそう言って辺りを見回した。すると、右手の奥の立派な墓石の前に、かがんでじっと瞑目している武士がいる。
「あのお方に尋ねてみましょうか」
二人は頷き合って、その武士に背後から近づいていった。すると、五メートルほどの距離になったとき、その武士は少し足下をふらつかせながらゆらりと立ち上がり、右足をわずかに引いて二人を振り返った。
副島はその立ち姿を美しいと感じ、思わず頭を下げていた。
「お参りの所をお邪魔して申し訳ござらぬ。少々お尋ねしたきことがございまして┅┅」
武士はにこやかな微笑みを浮かべると、手で近くに来るよう促した。
「お見かけしたところ、旅のお方のようでござるな。手前に分かることであれば、何でも訊いて下され」
「はっ、かたじけない。実は、我らは剣術の修行のため全国を旅しておりまする。ここには、かの有名な冨田勢源先生の墓所があると聞き、ぜひ参拝いたしたいと思い立ち寄りました。勢源先生のお墓は何処にあるかご存じでしょうか?」
「ほお、これはこれは┅┅剣術修行とは、この太平の世にあっては奇特なことでござるな。ぜひお参りしていって下され、我が宗師もきっと喜ぶでござろう」
壮年の武士はそう言うと、目の前の墓に手のひらを差し出した。
「あっ、こ、ここでしたか┅┅では、あなた様は┅┅」
「冨田重康と申す」
副島は驚いて、慌てて腰を折り頭を下げる。ダリルもそれを見て、目の前の武士が相当名のある人物だと思い、帽子を取って深くお辞儀をした。
「知らぬ事とは言え、ご無礼をいたしました。それがしは肥前藩士で長崎奉行所通司の副島計馬と申します。こちらは、オランダ商館にお勤めのダリル・バスケス殿でございます」
「ああ、いやいや、そのような堅苦しい遠慮は無用でござるよ。同じ剣の道を志す者同士、上下の差などありませぬ」
「ソエジマ、この人は?」
「ああ、はい┅┅このお方は、現在の中条流宗家の御当主、冨田重康様です。勢源先生の弟君の御孫様になられます」
ダリルはそれを聞いて、驚くとともに何か不思議な運命の巡り合わせを感じた。
二人は墓に線香を上げ、持ってきた桔梗と百合の花を供えて瞑目した。重康は二人がお参りを済ませるまで、後ろで微笑みながら立っていた。
「ありがとうございました。お陰様で修行にも弾みがつきそうです」
「あはは┅┅それは良うござった。ときに、これからどこかへ行かれる予定はおありかな?」
「いいえ、特にはござらぬ。ただ、できれば中条流の小太刀の技を見たいと念願しておりましたので、どこかに道場がないか探そうかと考えておりまする」
「ふむ┅┅それは少々難しいかもしれませぬな。ご存じかと思うが、中条流は加賀藩の御流儀、市井に道場はござらぬ。それよりも┅┅」
重康は水桶を持ち上げて帰り支度をしながら続けた。
「これから手前と一緒に加賀までおいで下さらぬか?ご覧の通り、中風で手足もろくに動かせぬ片輪者ではござるが、多少なりとも小太刀の一手をお見せできるかと┅┅」
それは二人にとって願ってもかなわない申し出だった。副島が興奮気味にダリルに通訳すると、ダリルも大喜びで同意した。
「あはは┅┅そんなに期待されると、かえって恐縮いたすよ。まあ、加賀の城下町を見たり、うまい酒や食い物を味わう楽しみもあるゆえ、気楽な物見遊山の気持ちでご同行下され」
重康はそう言って笑いながら歩き出す。
「あ、桶をお持ちいたす」
「おお、これは申し訳ない┅┅ありがたくお言葉に甘えさせていただきまする」
こうして、奇なる縁で知り合った三人は、川舟で九頭竜川を三国の港まで下り、そこから駕籠を使った陸路で加賀国へ向かった。
途中の川下りの舟の中で、ダリルはどうしても訊いてみたくなって、副島を介して重康に尋ねた。
「この世には強い者と弱い者がいる。そして、強い者は弱い者を支配し搾取する。これは紛れもない事実だ。正義は勝者しか語れない。勝った者が結局は正義なのだ。だから自分は強くなりたい、自分の正義を貫くためにも。戦わなければ、それは負けたということだ。相手は自分の正義を押しつけてくるだろう。これについて、どう思われるか?」
重康は両岸の景色を目を細めて見やりながら副島の言葉を聞いていた。そして、聞き終わると静かに微笑んで頷き、ダリルに目を向けた。
「勝った者が正義┅┅まことにその通りでござる。それについては、何の異論もござらぬ。冨田の家も元々仕えていたのは朝倉様でござった。本来なら最後まで朝倉の家とともに戦い滅びるのが武士としての美しき生き様、正義と言ってよかろう。だが、そのとき我が家には多くの家臣たちや領民たちがいた。祖父景政は己の正義を捨て、家臣や領民たちを守る道を選んだ。これもまた正義と呼んで、なぜいけないのか。祖父にとって、恐らく己の武士としての美しき正義より、家臣と領民を守る正義の方がより重かったのであろう。中条流は戦うことを捨てたのではござらぬ。無用な、言い換えれば私利私欲のための争いはせぬということ。民のため、国のためという大いなる正義、つまり大義のために戦うことにはいささかの躊躇もござらぬ。これで、答えになりましたかな?あはは┅┅」
副島の通訳を聞きながら、ダリルは何度も深く頷いた。
「大義のための戦いか┅┅」
副島も感銘を受けたような表情でつぶやいた。
「つまりは、大きな戦と考えても良いですね?そうすると、小太刀の他にも太刀や槍などのわざも中条流には伝えられていると┅┅」
「うむ、無論じゃ。当流はもともと馬上での刺戟の術として生まれたのが始まりでな、だから、太刀も槍も使うし、その術も伝わっておる。むしろ小太刀があまりにも有名になり過ぎただけの話じゃ」
晩夏の日差しの中を、川面を滑るように進んでゆく舟の中を爽やかな風が吹き抜けていった。
加賀百万石の城下町は、賑やかな中にも落ち着いた雰囲気があった。一つには京や大坂の町に比べると、呼び込みの声がほとんど聞こえないことが挙げられるだろう。物売りの声もどこかのんびりとした感じだった。恐らく、焦る必要も無いほど町全体が豊かなためであろう。
金沢城内の新丸にある屋敷に着いた重康は二人を屋敷に招いて歓待した。急な来客にもかかわらず、出された料理や酒は、京のどんな料亭よりも豪勢なものだった。やはり、ここにも加賀の国の豊かさが表れていた。
「色気がちと足りぬのが難点じゃが、酒や料理は十分にあるゆえ、どうか我慢してくれ」
「まあ、父上、お客様の前でひどい、ねえ、母上」
「うふふ┅┅そうですね。でも、その格好ではしかたがないかも┅┅」
重康の一人娘雪乃は十七になるが、普段着ている木綿の小袖に袴、髪も振り分けて、前髪を短く切り、後の髪を後ろでくくった小姓のような髪型で現れ、きびきびした挨拶で副島とダリルを面食らわせていた。
「冨田の家の娘がひらひらした服を着て、なよなよしている方がよほどおかしいのです。そうでございましょう、父上?」
「ああ、まあ、そうじゃな┅┅だが、それでは誰も嫁にもらおうとは思わぬだろうよ」
「嫁になど行きませぬ。わたくしと試合をして勝った男に、この家に入ってもらうのです」
「やれやれ┅┅小さい頃からずっとこの調子でな、困ったものじゃ」
副島とダリルは親子のやりとりを楽しげに眺めながら、酒を飲んでいた。
「副島様とダリル様は剣術の修行で全国を回っておられるとか、ぜひ、お話を聞かせて下さりませ」
雪乃が副島とダリルの間に来て、二人に酌をしながら勢い込んでそう言った。
「これ、行儀が悪いぞ、少しは女らしくせぬか」
「あはは┅┅いやいや、構いませぬ。雪乃殿は、小さい頃から剣術を習っておられるのか?」
「はい。我が家には男子がおりませぬゆえ、わたくしが家を嗣がねばなりませぬ。それゆえ、物心がついた頃から父に┅┅」
「ふむ┅┅それなら、京の町で出くわした辻斬りのお話でもいたしましょうか。ねえ、ダリルさん┅┅ん?ダリルさん┅┅?」
「あっ┅┅ああ、な、何の話だ?」
ぼおっとした顔で雪乃を見ていたダリルは、慌てて空の杯をあおりながら尋ねた。副島はにやりとしながら、ダリルに言った。
「ははあ、ダリルさんの好みがつかめてきましたよ。こう、目がくりっと大きくて、鼻筋高く、ちょっと男勝りな娘がいいんですね?」
「な、何を馬鹿なことを┅┅ほら、お、お嬢さんが変な顔で見ているじゃないか」
副島は笑いを必死にこらえながら、雪乃の方へ向き直った。
「雪乃殿、ダリルさんにお酌をしてやって下さい。彼は、雪乃殿がとてもお美しいと言っておいでですよ」
それを聞いた少女は真っ赤になってあたふたし始める。
「まあ、そ、そのようなおたわむれを┅┅」
そして、今度は恥ずかしそうに身を縮めて固まってしまった。
「┅┅そのようなこと、初めて言われました┅┅恥ずかしい┅┅」
それを見た重康と妻はいかにも楽しげに笑い出す。
「あははは┅┅これは、ダリル殿に一本取られたのう、雪乃┅┅そなたをおとなしくする術を持っておられたとはな┅┅」
「もう、父上ったら┅┅母上まで┅┅もう、知りませぬ」
広い座敷の中に楽しげな笑い声が響き渡る。それは、長らくこの屋敷に無かったものだった。
副島とダリルは、心ゆくまでうまい酒と料理を味わい、重康一家にこれまでの旅の中の主な出来事を語って聞かせた。一家は興味深げに話に聞き入り、特に雪乃は矢継ぎ早に質問をしながら、目を輝かせて二人が語る試合や実戦の話に聞き入るのだった。
次の日、卯の刻(午前六時)を半刻ほど過ぎた頃、ダリルと副島は同時に目を覚まして起き上がった。屋敷の離れの方から、何やら甲高い声が聞こえてきたからである。二人が顔を見合わせていると、またその声が聞こえてきた。
「あれは、雪乃殿の声ですね。ははあ、朝稽古をされているようです」
「ほう、こんな時間から稽古か┅┅熱心なことだな┅┅」
「行ってみますか?」
「うむ」
二人は頷き合うと、さっそく着替えをして廊下に出て行った。
冨田家の道場は屋敷の隣に建てられ、渡り廊下でつながっていた。幅六間、奥行き一二間ほどでさほど大きなものではなかったが、総檜張りで、拝殿の間付きのさすがに風格を感じさせる造りだった。
二人が渡り廊下を通って道場の入り口に着くと、すでに顔中汗に濡れた雪乃ともう一人、まだ二十歳前後の体格の良い若者が、木刀を下ろして二人の方を見た。
「お早うござります、副島様、ダリル様」
「お早うござります。稽古のお邪魔をして申し訳ありません」
「いいえ、むしろお待ちしておりましたわ┅┅ふふ┅┅」
雪乃はそう言うと二人を道場の中に招き入れ、歩み寄ってきた。
「この者は山崎助次郎と申して、山崎家から遣わされ父の門弟となっております」
「山崎助次郎です。以後、お見知りおきを」
「副島計馬です。こちらは┅┅」
「ダリル・バスケスともします。どぞ、よろしくおねがいいたす」
ダリルは片言の日本語で初めて自分から挨拶した。
「まあ、ダリル様は日の本の言葉をお話になるのですね」
「ああ、はなすの、まだまだ┅┅きくの、すこしわかる┅┅」
副島は雪乃へのダリルの並々ならぬ思いを感じて微笑ましく思いながら、一方でその淡い思いは決して報われることはないことを知っていた。今、目の前にいる若者は、恐らく重康と山崎家の当主が話し合って、雪乃の婿になるべく遣わされたに違いなかった。
「副島様、ダリル様、ぜひ一手ご教授のほど、お願いいたします」
雪乃と山崎はその場に正座して、床に頭が着くほど平身した。
「どうか、お手をお上げ下され。稽古とあらば、こちらからお願いいたしたいくらいでござる。よろしくお願いします」
雪乃はぱっと周囲が明るくなるような笑顔を見せると、立ち上がって反対側の壁際へ行って座った。山崎青年もその横に並んで座る。
「出来ればお二人とお手合わせをいたしたいので、初めにわたくしと副島様、ダリル様と助次郎、二本目は相手を替えて、ということでよろしいでしょうか?」
副島は了承し、ダリルも頷いて、二組が同時に試合を始めることになった。副島は壁に掛けられた木刀からやや短めの一本を手に取って中央に出て行った。逆に、ダリルは一番長い三尺ほどの木刀を取ると、副島から三間ほど距離を置いて立った。雪乃はたすきを掛けて気合いを入れ、すっくと立ち上がる。山崎青年は落ち着いた表情で、短い木刀を手にダリルの前に歩み寄った。
(ほお、小太刀か。こいつ、若いがかなりできるな)
ダリルは山崎の挙措から、確かな自信を読み取っていた。一方、雪乃はあえて長い木剣を選んで副島の前に立った。なるべく対等な条件で戦ってみたいと思ったからである。ところが、いざ副島を目の前にすると、自分の考えが思い上がりだったと気づいた。副島の背丈は自分とさほど変わらない。山崎と比べると横幅は一回り細いくらいだ。しかし、その副島が、今は大きくそびえ立つ巨人のようにさえ感じていた。
「では、お願いします」
「お、お願いします」
「おねがいします」
「お願いします」
四人は一斉に頭を下げると、さっと木剣を構えた。
(小太刀に対しては自分の間合いで戦うことが大切┅┅俺の間合いには余裕がある┅┅よし、ここは一つ仕掛けてみるか)
ダリルはそう決めると、木剣を左斜めに倒して自分の胸の近くに構え、一気に山崎に向かって突進していった。対して山崎は左半身で、木剣を中段やや下に構え、右足をかなり前に出していた。ダリルが横に剣を払うと見て、その瞬間、右足を引き、ダリルの剣が空を切ったところを後の先の踏み込みで、首元に袈裟懸けに切り込むつもりだ。案の定、ダリルは一気に間合いを詰めて、気合いの声とともに横なぎに木剣を振った。読んでいた山崎は右足を引いてぎりぎりにそれをかわすと、木刀を振り上げて無防備のダリルの首にそれを打ち込もうとした。ところが、ダリルは木刀を横に振ったそのままの勢いで、斜め右前に移動しながら回り、二回目の払いを放った。それはトウジが得意としていたもので、副島と最初に戦ったときに使って勝った技だった。
山崎は副島ほど素早くなかったので、逆にそれが幸いして、踏み込む前に慌てて体を開いてぎりぎりにそれをかわすことができた。しかし、そのため右足に体重が乗ってしまい、次のダリルの突きを避けることが出来なかった。
「ま、参りました」
左の肋骨辺りに突きつけられた木剣を見て、山崎はその場にひざまづいた。ダリルはにっこり微笑むと、剣を引いて頭を下げた。
「ありがとござました」
早々と勝負がついたダリルたちに対して、副島と雪乃の戦いは静かに続いていた。というのも、雪乃は副島に近づくことが出来ず、間合いを遠くとったまま右回りに移動し続けていたのである。
すでに雪乃の顔からは汗がしたたり落ち、一方、副島は涼しげな顔で正眼に構えてじりじりと雪乃を追いかけ回しているだけだった。
(だめだ┅┅このままではいずれ壁際に追い詰められてしまう┅┅かといって、無理に打ち込めば、間違いなく一撃で脳天か、胴を真っ二つにされる┅┅これほどまでに差がある相手と戦ったことはなかった┅┅)
雪乃はそこで木剣を下ろし、頭を下げた。
「参りました」
「ありがとうございました」
副島は剣を引いて頭を下げ、ダリルのいる方へ歩き出した。
「副島様┅┅」
雪乃は副島を呼び止めて、近づいていった。
「今の試合、わたくしは何もすることができませんでした。打ち込めば、必ず自分が負けるとしか思えなかったのです。いったいなぜでしょうか?」
副島は柔らかな笑みを浮かべながら、後頭部に手をやった。
「いや、なぜと訊かれましても、どう答えていいのやら┅┅たぶん、雪乃様がお強いからではないかと┅┅」
「わ、わたくしが強い?おからかいになっておられるのですか?」
「あっ、い、いや、違います、あの┅┅」
「剣気を感じ取る力があったということじゃ┅┅」
「父上┅┅」
いつの間に来ていたのか、重康が上座の床几に座って観戦していた。
「副島殿は、おそらくどこの藩の指南役でも十分勤められるほどの剣客┅┅もしその気がおありなら、当藩でお抱えしたいくらいじゃ┅┅」
「い、いや、それほどのことは┅┅」
「その副島殿の剣気に、お前が圧倒されたのはいたしかたのないこと┅┅逆に言えば、それを見抜くだけの力がお前にあったということじゃ。副島殿が言われたのは、つまりそういうことじゃよ」
雪乃ははっとしたように、副島を振り返った。副島は照れくさそうに頭を触りながら、小さく頷いた。
「さてさて、お二人には、若者たちではいささか荷が重すぎるようでござるな┅┅」
重康はそう言うと、立ち上がって壁に掛けてある木刀の中から、一尺六寸ほどの短い木刀を取って、静かに中央へ出てきた。
「わしにも荷が重いかも知れぬが┅┅この後、お二人の境地が高まるために、いささかでも足しになるなら、喜んで御相手いたそう」
ダリルはこのときの光景を、後々まで鮮明に思い出すことがあった。人間が剣の高みを目指して死期を早めるほどの過酷な鍛錬をすれば、これほどまでの境地に達することができるのだと、現実に目にすることができた希代の剣客の姿だった。
皆が一心に見守る中、まず、副島が重康の前に立った。雪乃を圧倒した副島の剣気を、しかし、重康はまるでふわりと包み込むかのように、鋭い突きや払いを最小限の動きでかわし、いなし、押し止めていく。
「てやあああっ」
それでも、さすがに副島の攻めは鋭かった。小手への一撃を払われた瞬間、体をひねるようにして重康の間合いの中に入り、必殺の突きを放ったのである。
二人が重なるようにして動きを止めた。周囲で見守る者たちは副島の突きが入ったと誰もがそう思った。
「ま、参りました」
しかし、負けを認めたのは副島の方だった。
「剣の長さの差でしたな┅┅」
重康は左の脇に挟んだ副島の木刀を返しながら微笑んだ。
「な┅┅あの突きをかわして、脇に挟んだというのか?┅┅」
ダリルはバスク語でつぶやいて、茫然となった。人間業とは思えなかった。一方、副島はなぜか喜々とした表情でダリルの元へ帰ってきた。
「見ましたか、ダリルさん?あれが小太刀の奥義ですよ┅┅いやあ、まだまだ奧は深い┅┅あれを破るにはどうするか、修行する楽しみが増えました」
ダリルはあっけにとられて副島を見ていたが、思わず笑いがこみ上げてきた。
「ふ┅┅まったく、君という男は┅┅うむ、そうだな、何事も修行だ。よしっ┅┅」
ダリルは木剣を持って立ち上がった。おそらく、完敗するだろう。だが、これほどの名人、達人に稽古をしてもらえるのだ、勝ち負けなど問題ではない。何かをつかめたらいいが、何もつかめなかったとしても、この経験はきっと後に生きてくる。
ダリルは、重康の前に立って爽やかな風を感じた。それは、昨日舟で川を下っていくときに受けた風のようだった。
「では、お願いいたす」
にこやかに微笑む希代の剣客に対して、ダリルもにっこり微笑んで深く頭を下げた。
「よろしくおねがいいたす」
冨田家は朝倉氏が滅んだ後は、代々中条流の剣術指南役として前田家に仕えていたが、名人越後とうたわれた重政の代に数々の戦功を認められ、指南役としては破格の恩賞を賜ったのである。それだけに、重政以後の当主たちに掛かる重責は大変なものだった。何しろ前田家の御流儀として剣の腕で負けることは許されず、日常においてはすべての藩士の手本とならねばならなかった。二代目を継いだ重政の長男重家は大阪冬の陣、夏の陣で手柄を挙げ、父に負けぬ一万一千石の知行を与えられたが、二十四歳の若さで他界した。そのため、突然三代目を継ぐことになった次男重康の苦労は並大抵のことではなかった。
「御館様、お顔の色が優れませぬが、今日のお勤めはおやめになった方がよろしいのではござりませぬか」
着替えを手伝う妻の言葉に、重康は苦笑しながら答えた。
「わしがお勤めをやめるということは、冨田の家がもう前田家にとって無用のものになったと藩内外に知らせることじゃ。これだけは死んでもやらねばならぬ」
藩主光高と二人の弟に剣術と平法の指南をする日だった。重康は昨年暮れから中風を患い、手足のしびれとともに、時折言葉ももつれたり、澱んだりするようになっていた。まだ四十を過ぎたばかりだったが、冨田家の男子につきまとう早逝の業は重康にも暗い影を落としていた。
中条流の剣術指南役は、冨田家の他にも山崎家、関家、矢野家が拝していたが、他の三家は冨田家を宗主と仰ぎ、決して冨田家を押しのけて前に出ようとはしなかった。
「おお、重康、このところあまり具合が良くないと聞いておったが、どうなのじゃ?」
「ははっ┅┅殿より遣わしていただきました藩医の薬のおかげで、随分と良くなりましてございます」
「それは良かった┅┅では、御師、ご教授お願いいたします」
若き藩主で三人兄弟の長男光高は重康に師弟の礼をとり、下座に座って頭を下げる。
「お願いいたします」
「お願いいたします」
次男で富山藩主の利次、三男で大聖寺藩主の利治も兄に習って下座に並び、頭を下げた。三人は父忠常が藩主の時からもう十年以上、こうして月に二度、重康から中条流の手ほどきを受けてきた。それぞれが藩主になって独立した後も、それは続いていたのである。
「うむ┅┅では、本日は多勢に一度に襲われたときの対処の仕方をお教えいたしましょう
┅┅」
重康は裃姿のまま、一尺六寸ほどの木刀を持って道場の中央に立った。
「では、まずそれがしが仕太刀をいたしまする。お三方は打ち太刀をなさいませ」
三人の若者たちは木刀を手に、重康を囲むように立った。
「多勢といっても、必ず差がござりまする。どんな差かお分かりか?」
「一人一人、技量に差があります」
「左様、他には?」
「背の高さ┅┅かな」
「うむ、まあ、それも良しといたしましょう。他には?」
三人の若者は首をひねって考え込む。
重康は楽しげな顔で三人を見回していたが、誰も答えられないのを見て言った。
「では、実際にやってみた後、もう一度お尋ねいたしますぞ。さあ、かかってこられよ」
三人の兄弟は誰も一対一ではまだ重康に子供扱いされて負けてしまう。だが、三人がかりなら勝てるのではないか、と淡い期待を抱いて、本気で重康めがけて打ち込んでいった。
ところが、重康はさっと移動して、まず三男利治の上からの打ち込みをぎりぎりでかわすと、懐に飛び込み、小手を軽く叩いた。次に、近くの利次に近づき、利次が慌てて振りかぶるところをすっと飛び込んで胸を突く。そして最後の光高に木刀を前に突きだしてすすっと迫っていった。光高はその迫力に押されて思わず尻餅をつく。
「どうじゃな?お分かりになられたか?」
「ぎ、技量の弱い順に倒してゆかれたのは分かりました┅┅あとは┅┅自分との間合いでしょうか?」
「うむ、その通りでござる┅┅もう一つ、どなたかござりませぬかな?」
「早さの違い┅┅ですか?」
「おお、利治殿、よくぞお気づきになられましたな、その通りでござる」
重康はその場に座り、三人の若者たちも師の前に並んで座った。
「多勢に囲まれても、相手にするのは常に一人と心得よ。まず人数を減らすには弱い相手から倒す。これは卑怯ではござらぬ。相手が卑怯なことをしておるのですから、気にすることはござらぬ。次に近い相手から倒す。だが、気をつけるべきは相手の早さでござる。これはその場その場で見極めねばなりませぬ。相手の動き、太刀行き、それらを見ながら、どこに穴を開けるかを決め、決死の覚悟でそこに飛び込んでゆくのでござる」
「はいっ、ご指南ありがとうござりました」
「うむ。では、二対一の形で交代で仕太刀をやってみなされ」
「はいっ。では、一番はわしじゃ┅┅」
三人は勇んで立ち上がり、熱心に稽古を始める。それを見守りながら、重康はもう自分が長くは生きられないことを悟った。襲いかかるめまいと下半身のしびれ、体を支えるのがやっとの状態だった。
重康にはいくつか心残りがあったが、中でも中条流の宗主の家を継ぐべき息子がいないことが、最も大きな心残りだった。弟の高宗は自分より早くこの世を去り、やはり娘しか残していなかった。他の中条流の指南の家はそれぞれ順調に後嗣が育っている。何とも羨ましい限りだ。
(冨田の家が絶えるからといって、中条流が絶えるわけではない。それはいいのだが、やはり御先祖に対して申し訳が立たない┅┅明日にでも勢源様の墓所にお参りしてお詫びを申し上げてくるか┅┅)
重康は迫り来る死期を泰然として受け入れながら、遠い時空の彼方を見つめていた。
越前一乗谷、ここはかつての領主朝倉氏の城下町である。かつては北の京とも呼ばれ、華やかな京文化が花開いて栄えたが、今は荒れ果てた野山が続くばかりで、その面影すら見当たらない。ここに、朝倉家に仕え孤高の剣豪とうたわれた冨田勢源が晩年の居を構えていた。
勢源は眼病のため両目がほとんど見えなくなり、家督を弟の景政に譲った後も、中条流の宗主として隠然とした影響力を持ち続けた。その求め続けた理想の剣術とは、〝兵法は平法なり〟と言う言葉に集約される。つまり、剣術(兵法)とは、戦いの時だけに使うのではなく、平時(日常)に生かしてこそ意味があり、その目的は無用の争いを避けるということだ。だから、中条流の剣士は平時には太刀を腰に差さない。差しているのは一尺八寸以下の脇差しだけである。自分は争い事が起こっても、剣を使っての解決はしません、という意思表示でもある。何よりも、争いが起こらないように常日頃から心配りを怠らないことが肝要なのだ。
「なるほどな┅┅だが、人間は物分かりが良い連中ばかりじゃないからな┅┅」
副島から中条流の概要を聞いていたダリルがぽつりとつぶやいた。負ければすぐに死が待っている世界で生きてきた彼にとって、日本の剣術が目指す理想は、やはり机上の空論とまでは言わないが、自分が目指す理想とはかけ離れているように思えた。
「そうですね┅┅それがしもなるべく争い事は起こさないように心がけてはいますが、剣でしか解決できないこともありますからね┅┅」
二人は永平寺を訪れ、剣豪冨田勢源の墓に参拝しようと墓地の中を歩いていた。
「住職の話だと、確かこの辺りだと思うのですが┅┅」
副島はそう言って辺りを見回した。すると、右手の奥の立派な墓石の前に、かがんでじっと瞑目している武士がいる。
「あのお方に尋ねてみましょうか」
二人は頷き合って、その武士に背後から近づいていった。すると、五メートルほどの距離になったとき、その武士は少し足下をふらつかせながらゆらりと立ち上がり、右足をわずかに引いて二人を振り返った。
副島はその立ち姿を美しいと感じ、思わず頭を下げていた。
「お参りの所をお邪魔して申し訳ござらぬ。少々お尋ねしたきことがございまして┅┅」
武士はにこやかな微笑みを浮かべると、手で近くに来るよう促した。
「お見かけしたところ、旅のお方のようでござるな。手前に分かることであれば、何でも訊いて下され」
「はっ、かたじけない。実は、我らは剣術の修行のため全国を旅しておりまする。ここには、かの有名な冨田勢源先生の墓所があると聞き、ぜひ参拝いたしたいと思い立ち寄りました。勢源先生のお墓は何処にあるかご存じでしょうか?」
「ほお、これはこれは┅┅剣術修行とは、この太平の世にあっては奇特なことでござるな。ぜひお参りしていって下され、我が宗師もきっと喜ぶでござろう」
壮年の武士はそう言うと、目の前の墓に手のひらを差し出した。
「あっ、こ、ここでしたか┅┅では、あなた様は┅┅」
「冨田重康と申す」
副島は驚いて、慌てて腰を折り頭を下げる。ダリルもそれを見て、目の前の武士が相当名のある人物だと思い、帽子を取って深くお辞儀をした。
「知らぬ事とは言え、ご無礼をいたしました。それがしは肥前藩士で長崎奉行所通司の副島計馬と申します。こちらは、オランダ商館にお勤めのダリル・バスケス殿でございます」
「ああ、いやいや、そのような堅苦しい遠慮は無用でござるよ。同じ剣の道を志す者同士、上下の差などありませぬ」
「ソエジマ、この人は?」
「ああ、はい┅┅このお方は、現在の中条流宗家の御当主、冨田重康様です。勢源先生の弟君の御孫様になられます」
ダリルはそれを聞いて、驚くとともに何か不思議な運命の巡り合わせを感じた。
二人は墓に線香を上げ、持ってきた桔梗と百合の花を供えて瞑目した。重康は二人がお参りを済ませるまで、後ろで微笑みながら立っていた。
「ありがとうございました。お陰様で修行にも弾みがつきそうです」
「あはは┅┅それは良うござった。ときに、これからどこかへ行かれる予定はおありかな?」
「いいえ、特にはござらぬ。ただ、できれば中条流の小太刀の技を見たいと念願しておりましたので、どこかに道場がないか探そうかと考えておりまする」
「ふむ┅┅それは少々難しいかもしれませぬな。ご存じかと思うが、中条流は加賀藩の御流儀、市井に道場はござらぬ。それよりも┅┅」
重康は水桶を持ち上げて帰り支度をしながら続けた。
「これから手前と一緒に加賀までおいで下さらぬか?ご覧の通り、中風で手足もろくに動かせぬ片輪者ではござるが、多少なりとも小太刀の一手をお見せできるかと┅┅」
それは二人にとって願ってもかなわない申し出だった。副島が興奮気味にダリルに通訳すると、ダリルも大喜びで同意した。
「あはは┅┅そんなに期待されると、かえって恐縮いたすよ。まあ、加賀の城下町を見たり、うまい酒や食い物を味わう楽しみもあるゆえ、気楽な物見遊山の気持ちでご同行下され」
重康はそう言って笑いながら歩き出す。
「あ、桶をお持ちいたす」
「おお、これは申し訳ない┅┅ありがたくお言葉に甘えさせていただきまする」
こうして、奇なる縁で知り合った三人は、川舟で九頭竜川を三国の港まで下り、そこから駕籠を使った陸路で加賀国へ向かった。
途中の川下りの舟の中で、ダリルはどうしても訊いてみたくなって、副島を介して重康に尋ねた。
「この世には強い者と弱い者がいる。そして、強い者は弱い者を支配し搾取する。これは紛れもない事実だ。正義は勝者しか語れない。勝った者が結局は正義なのだ。だから自分は強くなりたい、自分の正義を貫くためにも。戦わなければ、それは負けたということだ。相手は自分の正義を押しつけてくるだろう。これについて、どう思われるか?」
重康は両岸の景色を目を細めて見やりながら副島の言葉を聞いていた。そして、聞き終わると静かに微笑んで頷き、ダリルに目を向けた。
「勝った者が正義┅┅まことにその通りでござる。それについては、何の異論もござらぬ。冨田の家も元々仕えていたのは朝倉様でござった。本来なら最後まで朝倉の家とともに戦い滅びるのが武士としての美しき生き様、正義と言ってよかろう。だが、そのとき我が家には多くの家臣たちや領民たちがいた。祖父景政は己の正義を捨て、家臣や領民たちを守る道を選んだ。これもまた正義と呼んで、なぜいけないのか。祖父にとって、恐らく己の武士としての美しき正義より、家臣と領民を守る正義の方がより重かったのであろう。中条流は戦うことを捨てたのではござらぬ。無用な、言い換えれば私利私欲のための争いはせぬということ。民のため、国のためという大いなる正義、つまり大義のために戦うことにはいささかの躊躇もござらぬ。これで、答えになりましたかな?あはは┅┅」
副島の通訳を聞きながら、ダリルは何度も深く頷いた。
「大義のための戦いか┅┅」
副島も感銘を受けたような表情でつぶやいた。
「つまりは、大きな戦と考えても良いですね?そうすると、小太刀の他にも太刀や槍などのわざも中条流には伝えられていると┅┅」
「うむ、無論じゃ。当流はもともと馬上での刺戟の術として生まれたのが始まりでな、だから、太刀も槍も使うし、その術も伝わっておる。むしろ小太刀があまりにも有名になり過ぎただけの話じゃ」
晩夏の日差しの中を、川面を滑るように進んでゆく舟の中を爽やかな風が吹き抜けていった。
加賀百万石の城下町は、賑やかな中にも落ち着いた雰囲気があった。一つには京や大坂の町に比べると、呼び込みの声がほとんど聞こえないことが挙げられるだろう。物売りの声もどこかのんびりとした感じだった。恐らく、焦る必要も無いほど町全体が豊かなためであろう。
金沢城内の新丸にある屋敷に着いた重康は二人を屋敷に招いて歓待した。急な来客にもかかわらず、出された料理や酒は、京のどんな料亭よりも豪勢なものだった。やはり、ここにも加賀の国の豊かさが表れていた。
「色気がちと足りぬのが難点じゃが、酒や料理は十分にあるゆえ、どうか我慢してくれ」
「まあ、父上、お客様の前でひどい、ねえ、母上」
「うふふ┅┅そうですね。でも、その格好ではしかたがないかも┅┅」
重康の一人娘雪乃は十七になるが、普段着ている木綿の小袖に袴、髪も振り分けて、前髪を短く切り、後の髪を後ろでくくった小姓のような髪型で現れ、きびきびした挨拶で副島とダリルを面食らわせていた。
「冨田の家の娘がひらひらした服を着て、なよなよしている方がよほどおかしいのです。そうでございましょう、父上?」
「ああ、まあ、そうじゃな┅┅だが、それでは誰も嫁にもらおうとは思わぬだろうよ」
「嫁になど行きませぬ。わたくしと試合をして勝った男に、この家に入ってもらうのです」
「やれやれ┅┅小さい頃からずっとこの調子でな、困ったものじゃ」
副島とダリルは親子のやりとりを楽しげに眺めながら、酒を飲んでいた。
「副島様とダリル様は剣術の修行で全国を回っておられるとか、ぜひ、お話を聞かせて下さりませ」
雪乃が副島とダリルの間に来て、二人に酌をしながら勢い込んでそう言った。
「これ、行儀が悪いぞ、少しは女らしくせぬか」
「あはは┅┅いやいや、構いませぬ。雪乃殿は、小さい頃から剣術を習っておられるのか?」
「はい。我が家には男子がおりませぬゆえ、わたくしが家を嗣がねばなりませぬ。それゆえ、物心がついた頃から父に┅┅」
「ふむ┅┅それなら、京の町で出くわした辻斬りのお話でもいたしましょうか。ねえ、ダリルさん┅┅ん?ダリルさん┅┅?」
「あっ┅┅ああ、な、何の話だ?」
ぼおっとした顔で雪乃を見ていたダリルは、慌てて空の杯をあおりながら尋ねた。副島はにやりとしながら、ダリルに言った。
「ははあ、ダリルさんの好みがつかめてきましたよ。こう、目がくりっと大きくて、鼻筋高く、ちょっと男勝りな娘がいいんですね?」
「な、何を馬鹿なことを┅┅ほら、お、お嬢さんが変な顔で見ているじゃないか」
副島は笑いを必死にこらえながら、雪乃の方へ向き直った。
「雪乃殿、ダリルさんにお酌をしてやって下さい。彼は、雪乃殿がとてもお美しいと言っておいでですよ」
それを聞いた少女は真っ赤になってあたふたし始める。
「まあ、そ、そのようなおたわむれを┅┅」
そして、今度は恥ずかしそうに身を縮めて固まってしまった。
「┅┅そのようなこと、初めて言われました┅┅恥ずかしい┅┅」
それを見た重康と妻はいかにも楽しげに笑い出す。
「あははは┅┅これは、ダリル殿に一本取られたのう、雪乃┅┅そなたをおとなしくする術を持っておられたとはな┅┅」
「もう、父上ったら┅┅母上まで┅┅もう、知りませぬ」
広い座敷の中に楽しげな笑い声が響き渡る。それは、長らくこの屋敷に無かったものだった。
副島とダリルは、心ゆくまでうまい酒と料理を味わい、重康一家にこれまでの旅の中の主な出来事を語って聞かせた。一家は興味深げに話に聞き入り、特に雪乃は矢継ぎ早に質問をしながら、目を輝かせて二人が語る試合や実戦の話に聞き入るのだった。
次の日、卯の刻(午前六時)を半刻ほど過ぎた頃、ダリルと副島は同時に目を覚まして起き上がった。屋敷の離れの方から、何やら甲高い声が聞こえてきたからである。二人が顔を見合わせていると、またその声が聞こえてきた。
「あれは、雪乃殿の声ですね。ははあ、朝稽古をされているようです」
「ほう、こんな時間から稽古か┅┅熱心なことだな┅┅」
「行ってみますか?」
「うむ」
二人は頷き合うと、さっそく着替えをして廊下に出て行った。
冨田家の道場は屋敷の隣に建てられ、渡り廊下でつながっていた。幅六間、奥行き一二間ほどでさほど大きなものではなかったが、総檜張りで、拝殿の間付きのさすがに風格を感じさせる造りだった。
二人が渡り廊下を通って道場の入り口に着くと、すでに顔中汗に濡れた雪乃ともう一人、まだ二十歳前後の体格の良い若者が、木刀を下ろして二人の方を見た。
「お早うござります、副島様、ダリル様」
「お早うござります。稽古のお邪魔をして申し訳ありません」
「いいえ、むしろお待ちしておりましたわ┅┅ふふ┅┅」
雪乃はそう言うと二人を道場の中に招き入れ、歩み寄ってきた。
「この者は山崎助次郎と申して、山崎家から遣わされ父の門弟となっております」
「山崎助次郎です。以後、お見知りおきを」
「副島計馬です。こちらは┅┅」
「ダリル・バスケスともします。どぞ、よろしくおねがいいたす」
ダリルは片言の日本語で初めて自分から挨拶した。
「まあ、ダリル様は日の本の言葉をお話になるのですね」
「ああ、はなすの、まだまだ┅┅きくの、すこしわかる┅┅」
副島は雪乃へのダリルの並々ならぬ思いを感じて微笑ましく思いながら、一方でその淡い思いは決して報われることはないことを知っていた。今、目の前にいる若者は、恐らく重康と山崎家の当主が話し合って、雪乃の婿になるべく遣わされたに違いなかった。
「副島様、ダリル様、ぜひ一手ご教授のほど、お願いいたします」
雪乃と山崎はその場に正座して、床に頭が着くほど平身した。
「どうか、お手をお上げ下され。稽古とあらば、こちらからお願いいたしたいくらいでござる。よろしくお願いします」
雪乃はぱっと周囲が明るくなるような笑顔を見せると、立ち上がって反対側の壁際へ行って座った。山崎青年もその横に並んで座る。
「出来ればお二人とお手合わせをいたしたいので、初めにわたくしと副島様、ダリル様と助次郎、二本目は相手を替えて、ということでよろしいでしょうか?」
副島は了承し、ダリルも頷いて、二組が同時に試合を始めることになった。副島は壁に掛けられた木刀からやや短めの一本を手に取って中央に出て行った。逆に、ダリルは一番長い三尺ほどの木刀を取ると、副島から三間ほど距離を置いて立った。雪乃はたすきを掛けて気合いを入れ、すっくと立ち上がる。山崎青年は落ち着いた表情で、短い木刀を手にダリルの前に歩み寄った。
(ほお、小太刀か。こいつ、若いがかなりできるな)
ダリルは山崎の挙措から、確かな自信を読み取っていた。一方、雪乃はあえて長い木剣を選んで副島の前に立った。なるべく対等な条件で戦ってみたいと思ったからである。ところが、いざ副島を目の前にすると、自分の考えが思い上がりだったと気づいた。副島の背丈は自分とさほど変わらない。山崎と比べると横幅は一回り細いくらいだ。しかし、その副島が、今は大きくそびえ立つ巨人のようにさえ感じていた。
「では、お願いします」
「お、お願いします」
「おねがいします」
「お願いします」
四人は一斉に頭を下げると、さっと木剣を構えた。
(小太刀に対しては自分の間合いで戦うことが大切┅┅俺の間合いには余裕がある┅┅よし、ここは一つ仕掛けてみるか)
ダリルはそう決めると、木剣を左斜めに倒して自分の胸の近くに構え、一気に山崎に向かって突進していった。対して山崎は左半身で、木剣を中段やや下に構え、右足をかなり前に出していた。ダリルが横に剣を払うと見て、その瞬間、右足を引き、ダリルの剣が空を切ったところを後の先の踏み込みで、首元に袈裟懸けに切り込むつもりだ。案の定、ダリルは一気に間合いを詰めて、気合いの声とともに横なぎに木剣を振った。読んでいた山崎は右足を引いてぎりぎりにそれをかわすと、木刀を振り上げて無防備のダリルの首にそれを打ち込もうとした。ところが、ダリルは木刀を横に振ったそのままの勢いで、斜め右前に移動しながら回り、二回目の払いを放った。それはトウジが得意としていたもので、副島と最初に戦ったときに使って勝った技だった。
山崎は副島ほど素早くなかったので、逆にそれが幸いして、踏み込む前に慌てて体を開いてぎりぎりにそれをかわすことができた。しかし、そのため右足に体重が乗ってしまい、次のダリルの突きを避けることが出来なかった。
「ま、参りました」
左の肋骨辺りに突きつけられた木剣を見て、山崎はその場にひざまづいた。ダリルはにっこり微笑むと、剣を引いて頭を下げた。
「ありがとござました」
早々と勝負がついたダリルたちに対して、副島と雪乃の戦いは静かに続いていた。というのも、雪乃は副島に近づくことが出来ず、間合いを遠くとったまま右回りに移動し続けていたのである。
すでに雪乃の顔からは汗がしたたり落ち、一方、副島は涼しげな顔で正眼に構えてじりじりと雪乃を追いかけ回しているだけだった。
(だめだ┅┅このままではいずれ壁際に追い詰められてしまう┅┅かといって、無理に打ち込めば、間違いなく一撃で脳天か、胴を真っ二つにされる┅┅これほどまでに差がある相手と戦ったことはなかった┅┅)
雪乃はそこで木剣を下ろし、頭を下げた。
「参りました」
「ありがとうございました」
副島は剣を引いて頭を下げ、ダリルのいる方へ歩き出した。
「副島様┅┅」
雪乃は副島を呼び止めて、近づいていった。
「今の試合、わたくしは何もすることができませんでした。打ち込めば、必ず自分が負けるとしか思えなかったのです。いったいなぜでしょうか?」
副島は柔らかな笑みを浮かべながら、後頭部に手をやった。
「いや、なぜと訊かれましても、どう答えていいのやら┅┅たぶん、雪乃様がお強いからではないかと┅┅」
「わ、わたくしが強い?おからかいになっておられるのですか?」
「あっ、い、いや、違います、あの┅┅」
「剣気を感じ取る力があったということじゃ┅┅」
「父上┅┅」
いつの間に来ていたのか、重康が上座の床几に座って観戦していた。
「副島殿は、おそらくどこの藩の指南役でも十分勤められるほどの剣客┅┅もしその気がおありなら、当藩でお抱えしたいくらいじゃ┅┅」
「い、いや、それほどのことは┅┅」
「その副島殿の剣気に、お前が圧倒されたのはいたしかたのないこと┅┅逆に言えば、それを見抜くだけの力がお前にあったということじゃ。副島殿が言われたのは、つまりそういうことじゃよ」
雪乃ははっとしたように、副島を振り返った。副島は照れくさそうに頭を触りながら、小さく頷いた。
「さてさて、お二人には、若者たちではいささか荷が重すぎるようでござるな┅┅」
重康はそう言うと、立ち上がって壁に掛けてある木刀の中から、一尺六寸ほどの短い木刀を取って、静かに中央へ出てきた。
「わしにも荷が重いかも知れぬが┅┅この後、お二人の境地が高まるために、いささかでも足しになるなら、喜んで御相手いたそう」
ダリルはこのときの光景を、後々まで鮮明に思い出すことがあった。人間が剣の高みを目指して死期を早めるほどの過酷な鍛錬をすれば、これほどまでの境地に達することができるのだと、現実に目にすることができた希代の剣客の姿だった。
皆が一心に見守る中、まず、副島が重康の前に立った。雪乃を圧倒した副島の剣気を、しかし、重康はまるでふわりと包み込むかのように、鋭い突きや払いを最小限の動きでかわし、いなし、押し止めていく。
「てやあああっ」
それでも、さすがに副島の攻めは鋭かった。小手への一撃を払われた瞬間、体をひねるようにして重康の間合いの中に入り、必殺の突きを放ったのである。
二人が重なるようにして動きを止めた。周囲で見守る者たちは副島の突きが入ったと誰もがそう思った。
「ま、参りました」
しかし、負けを認めたのは副島の方だった。
「剣の長さの差でしたな┅┅」
重康は左の脇に挟んだ副島の木刀を返しながら微笑んだ。
「な┅┅あの突きをかわして、脇に挟んだというのか?┅┅」
ダリルはバスク語でつぶやいて、茫然となった。人間業とは思えなかった。一方、副島はなぜか喜々とした表情でダリルの元へ帰ってきた。
「見ましたか、ダリルさん?あれが小太刀の奥義ですよ┅┅いやあ、まだまだ奧は深い┅┅あれを破るにはどうするか、修行する楽しみが増えました」
ダリルはあっけにとられて副島を見ていたが、思わず笑いがこみ上げてきた。
「ふ┅┅まったく、君という男は┅┅うむ、そうだな、何事も修行だ。よしっ┅┅」
ダリルは木剣を持って立ち上がった。おそらく、完敗するだろう。だが、これほどの名人、達人に稽古をしてもらえるのだ、勝ち負けなど問題ではない。何かをつかめたらいいが、何もつかめなかったとしても、この経験はきっと後に生きてくる。
ダリルは、重康の前に立って爽やかな風を感じた。それは、昨日舟で川を下っていくときに受けた風のようだった。
「では、お願いいたす」
にこやかに微笑む希代の剣客に対して、ダリルもにっこり微笑んで深く頭を下げた。
「よろしくおねがいいたす」
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