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第28話 宣戦布告
しおりを挟む嶋達は神田川の地下をくぐる通路を抜け、17号線沿いのビルの地下駐車場にいた。
ビルは嶋とはまったく無関係のビルだが、嶋と『アリサ』が勝手に地下通路を掘り接続していたのだ。
ただ、駐車スペースだけは4台分を正式に借りており、4台の予備の4WDを駐車していた。
「社長、何か当たり前にこのビル来ましたけど、このビルも社長のですか?」
古田達はこのビルを知らなかった為、質問は当然だった。
「駐車場借りてるだけで、私のビルではありませんが…。
言ってませんでしたかね?」
嶋は伝えてるつもりだったが、事実誰も聞いた事が無かった。
「聞いてませんよ!それに、もしかして地下通路は、社長が勝手に?」
「勝手にじゃなくて、ただ所有者に言ってないだけですし、出入り口はカモフラージュしてますから、他の人にはわかりません。」
「それを勝手にって言うんです!」
嶋は駐車場と通路の事は、本当に言ったと思っていて、『アリサ』に確認をした。
ーーー伝えてませんよ。私が皆さんにお伝えするか尋ねたら、マスターは御自分で伝えると。
いつ伝えるのか、不思議には思ってました。ーーー
「勝手に繋げた上に…。ホント俺らも知ってたら、色々違う行動出来たでしょ…。」
古田達も『アリサ』と通信が繋がっていた。
「あっ、ごめん…。」
柴田達は笑っていたが、加入したての川中の顔は引き攣っていた。
その川中に気付いた柴田が言う。
「川中、笑うトコだ(笑)社長はいつも古田に叱られて、シュン…てなるんだ(笑)」
「柴田さん!川中さん、いつもじゃないですよ!」
嶋は不満気に言って、ボディーガード達は笑っていたが、現実では日本が戦火に晒されるカウントダウンが始まっていた。
そんな状況もあり、川中は笑う事が出来なかった。
「まあ、伝えて無かったのは謝りますから、とりあえず急ぎましょう!」
嶋達は4WDに乗り込み、17号線へと出た。
そこから本郷通りへ入り、神田橋交差点まで来ると、西へ向かう402号と南へ向かう403号は、自衛隊の検問によって封鎖されていた。
ーーー現政権により、皇居及び議事堂周辺は封鎖されております。
封鎖している部隊は高岡派の部隊で、危険性は無いと思われます。ーーー
嶋達4台も検問に停められ、自衛隊員により、迂回する様伝えられたが
「私は田中学、嶋です。高岡さんか警視庁の入間さんにつないでくれますか。」
自衛隊員は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに上官に伝え、上官は何処かに通信を始めた。
通信を切った上官が、封鎖バリケードの解除を命令し、嶋達に近付いてきた。
一度敬礼をし
「議事堂まで我が隊が護衛致します!」
すぐに自衛隊車両が、嶋達の前後に付け出発した。
議事堂に到着すると、中央玄関前にSP達の集団があり、その中に暫定総理となった高岡と入間、中村がいた。
3人は嶋達が車から降りると同時に一歩前へ出て敬礼をした。
川中も吊られて返礼をしたが、柴田に返礼の手を叩かれた。
「俺達はもう隊員じゃねぇ。敬礼も返礼も、もういいだろ(笑)」
嶋は川中を見て笑顔を見せた。
[愚直で真面目な人です。]
古田も笑っていた。
「どうも…、」
嶋は高岡に向き直り短く挨拶をした。
高岡も入間も敬礼を解き、もう一歩嶋に近付き、玄関内へと誘導する。
誘導しながら、短く現時点での状況説明を始めた。
「衆参両議員を招集して、状況説明と臨時議会を開いてます。
前政権の自由党の平議員達は、完全に見捨てられてた様で、本当に何も知りませんでした。
私は非常時と言う事で、党の垣根を取っ払い、国を憂うイチ議員として協議をお願いした所、全議員が賛同してくれました。
陛下の御力添えもありますが。」
非常時の臨時政権の初国会と言う事で、天皇も議事堂入りしていた。
「陛下もお迎えにあがると仰られたのですが、私が…」
「構いません。陛下の御心を煩わせるのは、私も本意ではありません。」
だが、玄関を入った中央広場に、議員に囲まれた天皇が立っていた。
嶋達、高岡や入間を含めた全員が、驚いた様に立ち止まり、だがすぐにゆっくりと頭を下げ、天皇に敬意を尽くした。
見た目は30代でも、昭和中期生まれの嶋には、天皇の存在は絶大だった。
「陛下!私めの為に…」
嶋は頭を下げ地面を見つめたまま、言葉をだしたが
「田中さん、いや嶋さんですか?まず、どうか頭をお上げ下さい。
高岡さんからお話は伺っております。あなたの御協力がなければ、敵と戦う前に我が国の自衛隊が同士討ちしてしまう所でした。
日本の天皇として、御礼申し上げます。」
そう言って天皇は、頭を下げようとしたが、その気配を察した嶋は慌てて天皇のそばに駆け寄り
「失礼致します!」
そう言って天皇の肩を押さえた。
「陛下は頭を下げてはなりません!
相手がどこの何者であろうとも、貴方様は日本国天皇陛下です!
頭を下げては、なりません!」
嶋の祖父は、第二次世界大戦で従軍した生き残りで、祖父に可愛がられていた嶋は、尊王思想をすり込まれていた。
「側衛官!陛下を御安全な御部屋へ!」
皇族の身辺警護は、皇宮護衛官と呼ばれ警視庁所属のSPとは、所属警察も違っていた。
護衛官の中でも、間近での護衛や、いざとなれば盾となる護衛官の事を、側衛官と呼ぶ。
すぐに側衛官が近寄り、議事堂内にある天皇の休憩所、御休所へと案内して行った。
御休所へと案内されて行く天皇に深々と頭を下げた後、高岡に向き直った嶋は
「敵の到着が、想定より2日も早く着きそうだ。
政府から非常事態宣言と戒厳令、避難命令を出して欲しい。
避難場所は、出来るだけ地下が良い。
ロシアの核戦争危機で、地方自治体レベルで大規模核シェルターがある筈だ。
国民を出来るだけシェルターに避難させてくれ。
特に激戦区になるだろう東京、大阪、福岡は。」
「大規模シェルターは、ありません…。
当時の平和ボケした政権は、旧ソ連圏での戦争を、対岸の火事程度にしか捉えておらず…」
高岡は呆れて言った。
「あれ程の核危機だったのにか!」
ロシアが隣国に侵攻し、ヨーロッパや全米に向けて、核ミサイル発射寸前まで危機が高まった戦争も、日本は対岸の火事でしか無かった。
「どれだけ無能な政権だったんだ…」
呆れたと同時に、嶋は『アリサ』に通信をした。
[『アリサ』日本に核シェルターはない!
全国にシェルターの代わりになる様な施設を探してくれ。]
ーーー畏まりました。ーーー
嶋は最悪、日本での核使用も考えていた。
その場合は、東京、大阪、福岡が候補地になり、最悪3都市すべてに核を堕とす必要性が生じるかも知れなかった。
《シマー》軍は朝鮮半島と中国を攻撃した時、各国主要都市に終結し焦土と化し、徹底的に地均しをした。
日本の主要都市も同様に、《シマー》軍が集結すると考えて当然だった。
「とにかく、議員達にこの危機を!
私達はいまだに敵の全容どころか、侵攻具合すら掴めてません…。
貴方に頼るしか無いのが現状です。」
高岡は議会での演説を嶋に要請し、嶋は議会を、地上波だけではなく全ての通信を使い、日本全国隅々にまで届かせる様、高岡に要請した。
「すぐに各放送局に依頼します。ネットやラジオ、有線まで、全てが整うまで少しだけ時間を下さい。」
嶋は軽く頷き、待つ事にした。どちらにしろ『アリサ』からの報告がまだだったからだ。
避難場所が見つからない以上、避難命令も出せない。
だが程なく『アリサ』から報告が入った。
ーーーまず大阪ですが、大阪各地に核シェルターが存在し、大阪府全人口をほぼ収容可能です。ーーー
大阪は独自色の高い行政区で、日和見主義の政府と違い、危機を危機として正確に受け止め、府民を守る政策を実行していた。
[今高岡は全国への通信準備をしている。その通信すべてに、避難場所の座標を載せてくれ。
で、福岡と東京は?]
ーーー福岡、東京にシェルターは御座いません。
国会議事堂と皇居へ建造されてるだけで、とても都民を収容出来る規模ではありません。
ただ、50メガトン級であれば、地上5000メートル以上で爆発させれば、地下鉄レベルの地下でも、人命の即座の消失には至りません。
ただ、その後の汚染や、爆心から半径100キロ圏内までが、爆発の直接被害地になると思われます。ーーー
[半径100キロ…地上の被害は甚大か…。
大阪以外での核使用は不可能だな。
大阪に核を使用したとして、こっちのナノマシンはどうなる?
協力してくれる皆さんの命は、守れるか?]
ーーー未知数です。恐らくは、核を防ぐのは不可能とおもわれます。ーーー
実質的に核使用は不可能と言う事だった。
[わかった。核は使用出来なくても、シェルターや地下に避難する様、座標を載せてくれ。
それと、核を衛星軌道上で爆破した時のインフラやナノマシンへの影響を計算してくれ。]
核爆弾を衛星軌道上で爆破した場合、熱波や爆風被害は起こらないが、電磁波が発生し地上に降り注ぐ為、インフラ破壊は深刻だった。
現代文明のほぼすべてが破壊される。
地下100メートルに移動した『アリサ』にすら影響があるかもしれない。
[『アリサ』が破壊されれば、日本は負ける!]
だが、嶋と『アリサ』は気付いていないが、嶋のオリジナルナノマシンは、核の威力や電磁波ですら吸収し、破壊される事はない。
《シマー》軍が核により蒸発してる姿を見ていた為に気付く事が出来なかったのだ。
嶋のナノマシンは、単体で2メガバイトを超え、『人間』の身体を造り上げるには約60兆ものナノマシンが必要だ。
単純なストレージだけで12000テラバイトもあった。
それだけでなく、太陽光や皮膚表面に当たる風による風力発電によって得られるエネルギーは、年間10万キロワット。
原子力発電1機による年間発電量は約100万キロワット。
ナノマシンの『人間』が10人いれば、原子力発電1機に相当するエネルギーを生産してる計算になる。
嶋のナノマシンの有するストレージや生産エネルギーをフル活用すれば、核爆発下でも、損傷や破壊スピードを超える再生スピードで、消滅や破壊的ダメージを受ける事はない。
電磁波による影響もなく、逆に電磁波を吸収し、エネルギーに変換してしまう。
嶋のオリジナルナノマシンは、《シマー》軍の使用する破損したナノマシンのコピーなど、比べ物にならなかった。
『アリサ』自身もナノマシンの集合体であり、核爆発も電磁波も吸収してしまう。
自分達が生産したナノマシンの能力に気付いていない事もあるが、街や現代文明の機械は違う。
核爆発により確実に破壊され、電磁波により機能を失う。
ならば嶋の選ぶ道は1つ。
[こちらも不死の軍団で、最小限の被害で《シマー》軍を倒す!]
全国への全通信網を使っての準備が整い、嶋は衆議院議場へ向かった。
議場正面上方の玉座には、すでに天皇がついていた。
玉座真下の議長席には、元野党党首の小牧が座っていた。
高岡が野党の顔を立て、議長に任命したのだろう事は理解出来た。
嶋は議場に入る前に議員達に一礼し、更に玉座正面にまで進み、玉座につく天皇に最敬礼をした。
頭を上げた嶋は、再度議場内の議員達を1人1人、目を合わせて見回した。
[結局は党同士で固まってるんだな。]
少し呆れた思いで、演壇へと進んだ。演壇に立つと、再び議場内を見渡した。
議員達はただ、黙って嶋を見つめていた。
テレビやネット動画を見ている一般人達も、画面を食い入る様に見ていた。
クーデター時に見た自動小銃の乱射や、それでも傷ひとつ負わない前総理達。
ゲームアバダーで闘う真一や夏菜達。
今日本で何が起きているのか?
大陸を滅ぼした軍勢が、日本にもやって来るのか?
その中心人物であろう『田中学』が登壇し演説をする。
国全体が『田中学』の言葉を待っていた。
嶋は小さく息を吐き、それから顔を上げ、正面カメラを見つめて声を出した。
「私は嶋智彦。皆さんには『田中学』の名の方が知られていると思いますが、重要なのは私の名ではなく、現在日本に迫る危機です。」
嶋は特に感情を込める訳でもなく、テレビアナウンサーの様な口調で話始めた。
だが次の瞬間、嶋は声を張り、国全体へ届く様に訴えかけた。
「この国は今!未曾有の危機に襲われようとしている!」
議場の議員達だけでなく、モニター越しの国民まで、一瞬で嶋に呑み込まれた。
「ロシアを滅ぼし!中国を滅ぼし!続いてアメリカを制圧した軍勢!
軍事超大国を、悉く滅ぼした軍勢が今!この時も、日本へとその破滅の進行を続けている!
悪魔の軍勢には近代兵器は役に立たず!核兵器すら、時間稼ぎにもならなかった!
我々日本国民も、亡国の様に滅ぼされるしか無いのか!
虐殺や蹂躙!ただ無力に受け入れるしかないのか!
否!
私は悪魔の軍勢の全貌を掴んでいる!奴等はゲーム機《シマー》のバーチャル世界より現実世界に現れた悪魔だ!
奴等をコントロールしているのは、アメリカ合衆国!
前総理、前閣僚達は日本をアメリカに売ったのだ!
日本だけではなく、世界の人口を半数以下に減らし!生き残った人類を、悪魔に魂を売った奴等が支配する!
その野望の為に、東側超大国を滅ぼした!
野望に意を唱える者達を、その悪魔の力で亡き者とした!
だが日本では高岡が立ち上がった!
高岡は命を狙われながらも同志を募り!日本を悪魔に売り渡そうとした奴等を倒した!
それが先の議事堂での戦闘だ!」
テレビやモニターには、真一や夏菜達の戦闘、レオ・テスカポリとナナ・テスカポリのドム・ボロス迎撃映像が流れていた。
モニターの無い議場でも、議員達それぞれが、自身のスマホで映像を見ていた。
「あの日!我々と闘った自衛隊は!何も報せられず、最高司令官であった前総理に踊らされた被害者だ!
彼等も今!真実に気付き、日本を守る為に立ち上がった!
我々には、悪魔の軍勢と同じテクノロジーがある!
滅ぼされた国とは、我々は違う!
闘う剣と槍!身を守る盾がある!
影虎がいる!ヒメカがいる!世界から!生き残った英雄達が!世界を守る!と守護達が集まっている!
我々は闘う!我々は勝つ!日本を守り、世界を守る!愛する人を守る!
これは聖戦だ!」
嶋は一度言葉を切り、大きく息をすった。
「たが、日本の全域が戦地になると思われます…。」
先程と打って変わって、哀しさを含めた静かな口調だった。
「みなさんの家や建物、インフラが破壊され瓦礫と化してしまうでしょう。
ですが生きていれば再生出来ます。
第二次世界大戦敗戦から立ち上がり、数多の自然災害から立ち上がった我々ならば、必ず立ち上がれる!
だから!守護たる英雄達が、心置きなく闘える様に、皆さんには迅速な避難をお願いする!
避難場所は24時間、地上波やWEBを問わず流されます!」
『アリサ』は各地域の避難施設の住所の配信を始め、画面下にテロップで流れ始めた。
「ただ、悪魔の軍団第一陣到着が明後日!
2日後には到着し、即座に殺戮が始まると予想されます!
到達地点は、九州から北陸の日本海側全域!
日本海側全域の皆様は、落ち着いて迅速な避難を願います。」
嶋はその言葉を最後に演壇から降りた。
議場ではあまりにも急な展開に、呼吸すら忘れている様に静まり返っていた。
中継を見ていた国民達も。
高岡は即座に演壇にあがり
「日本全国に、非常事態宣言を発令します!
同時に戒厳令、避難命令を発し、全国の自衛隊、警察組織は全力で国民の避難誘導!
全国のアメリカ軍駐屯地域自衛隊は戦闘準備!
日本は悪魔の軍勢に、宣戦布告する!
敵と接触した場合、即座に攻撃!
日本を再び焦土にしてはならない!」
嶋は高岡の号令を聞いて、議場を後にした。
議場の外には警視庁の入間と中村が待っていた。
入間は嶋を見た瞬間に敬礼をし
「全国警察官は、国民の避難誘導の任務につきました。」
「警視庁が全国の警察に命令できるのか?」
嶋は感情もなく問いを投げつけた。
「高岡総理により臨時ではありますが、私が警察庁長官に任命されました。」
「あぁ、そうか。ご苦労さま。」
入間には疲労の色が強く現れていた。
何階級をも飛び越えた任命に、庁内の反発や混乱があり、調整に忙殺されたのは容易に想像出来た。
だが警察も階級や立場が絶対の組織。力づくで反発派をねじ伏せてきたのだった。
嶋はそのまま立ち去ろうとした。
入間はその背を見ながら
「私も貴方の組織する防衛軍に加わります!」
嶋は足を止め、ゆっくりと振り返った。
そのまま黙って入間の目を見つめたあと
「議会が終わったら秋葉原に来い。」
そう言って再び背を向け歩き出し、入間はその背を、敬礼で見送った。
そして中村に、崩れ去った秋葉原のビルの包囲解除と、日本に潜入しているCIAの逮捕、アメリカ大使館の包囲を命じた。
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