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前編 前世の記憶を思い出しました

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「ダリア! 今日、この場でお前との婚約を破棄する!」

 卒業パーティーの場で、この国の第一王子デイビィスが高らかに宣言した。デイビィスは、憎しみを込めた瞳で婚約者である公爵令嬢を睨みつけている。その断罪の様子をマリーは夢見心地で見つめていた。

(フフッ、これで私がお姫様だわぁ)

 もう学園内で男爵令嬢だと侮られることはない。マリーは、優越感に満たされながら断罪されているダリアを見下した。

 いつも澄ましている生意気なダリアの顔が屈辱に歪んでいると思ったのに、ダリアは優雅に口端を上げた。

 そのとたんに、マリーの背筋にゾクッと悪寒が走る。不思議に思っているとマリーの脳内に言葉が響いた。

――デイビィス殿下、婚約破棄の理由をお聞かせください。
――理由はこのマリーを虐げたからだ!
――まぁ、わたくしがそこの方を?

 デイビィスとダリアがにらみ合っている。

(な、に? この記憶……?)

 マリーは学園に入学すると同時に、未来を予知する記憶の断片を見ることができるようになり、国から正式に聖女に任命された。しかし、たった今見たこの記憶は、今まで垣間見てきたぼんやりとした記憶とは明らかに違う。

 戸惑うマリーの目の前で、現実のダリアは、あくまで優雅にデイビィスに話しかけた。

「デイビィス殿下、婚約破棄の理由をお聞かせください」
「理由は、聖女であるマリーを虐げたからだ!」
「まぁ、わたくしがそこの方を?」

 たった今聞いたばかりの会話が、すぐ目の前で繰り広げられている。

(どういうことなの!?)

 そのとたんに、マリーは激しい頭痛に襲われた。見たこともない世界の、自分ではない女性の記憶が、滝のように流れてくる。

「あっ、う……」

 こらえきれずマリーが頭を押さえると、優しいデイビィスはすぐに気がつき「どうしたんだ、マリー!?」と心配してくれる。

(ああ、やっぱり、私の王子さまはデイビィスよね。素敵……ん? デイビィス?)

 記憶の中の見知らぬ女性が熱心にプレイしていた乙女ゲームの攻略対象もデイビィスという名前だった。こういう展開は、前世で何度も見たことがある。

(前世? はっ!? もしかして、私、異世界転生している!?)

 しかも自分はヒロインのマリーで、今は、悪役令嬢ダリアの断罪イベントの真っ最中らしい。

 普通ならこれで悪役令嬢が処罰され、ヒロインは幸せになるが、目の前のダリアは余裕の笑みを浮かべて、どこか楽しそうですらある。

(こ、これは……)

 大好きな悪役令嬢ものによくある『断罪イベント返し』ではないだろうか?

 『断罪イベント返し』とは、悪役令嬢を断罪するはずが、逆に悪役令嬢に断罪され、断罪に関わった一同がとんでもなく酷い目に遭わされるという展開だ。

 ちなみに、男爵令嬢の多くは投獄ののち死罪。もしくは娼館行きだったり、バカ王子と一緒に平民に落とされ過酷な環境に陥った末に死亡したりする。

「い、いやぁあああああ!?」

 思わず叫んでしまったマリーを、デイビィスもダリアも驚きの表情で見ている。

(し、死にたくない!)

 しかし、マリーはこれまで聖女なことに調子にのり、いろんなことをやらかしたあとだった。
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