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後編 みんながそれなりに幸せに暮らせますように
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(もちろん、私も同罪だけどね)
だからこそ、彼らを救うためにも、マリーはここから逃げるわけにはいかない。
ダリアの「神の意志、ですか?」という問いかけに、マリーは静かに頷いた。
「神は、聖女である私に試練を課されました。そして、それは、この国の未来のために、高位貴族男性を誘惑するというものだったのです」
デイビィスに「マリー……な、何を言っているんだ?」と聞かれたが、マリーも『そうですね。私は、何を言っているんでしょうね?』と思う。
しかし、生き残るには、もう聖女であることを利用して、これまでの悪行を全て神様のせいにするしかないと思う。
嘘がバレたらどうしようという緊張感から全身が震えて、マリーの瞳に涙が滲んだ。
「神は、この国の行く末を案じておられました」
全てが嘘ではない。正直、このデイビィスが将来、この国の王になると思ったら、誰でも不安になると思う。
「私に与えられた使命は、人々の人間性を試し、より良い未来に導くことだったのです」
会場中の人が戸惑う中で、ダリアだけが小さく何度も頷いている。
「なるほど。では、マリーさんは、デイビィス殿下の人間性を試すために、今までおバカなふりをしていたと?」
『いえ、今までは本当に、おバカでした』という言葉を飲み込み、マリーは「はい」と答えた。
ダリアに「マリーさん、では、神の判決はどうなりましたか?」と尋ねられて、マリーはデイビィスを見つめた。
「デイビィス殿下、貴方は……王の器(うつわ)ではありません」
今までデイビィスを称え甘い言葉を囁いてきた同じ口で、マリーはデイビィスに現実を突きつけた。
「ま、マリー?」
デイビィスを無視して、マリーは騎士団長の息子、宰相の息子、公爵令息に目を向ける。
「貴方たちも、人の上に立つ器ではありません」
「なっ!?」
マリーは『なっ!? じゃねーよ、婚約者に暴言を吐く男を誰が信用してくれるのよ!?』と思ったが、顔には出さない。
デイビィスが「マリーがっ、マリーが言い寄ってきたではないか!?」とキレ出したので、冷たい視線を送っておく。
「確かに私が言い寄りましたが、私を受け入れて、婚約者より優先したのは、貴方達だけですよ?」
そう、おバカなマリーは、デイビィス達以外にも、第二王子や侯爵令息や、教師にまですり寄っていたが、デイビィスたち以外には、はっきりと断られ距離を取られた。
特に第二王子には、「今度、私に無許可でふれようとしたら君を処罰する」とまで言われている。そのことを説明すると、デイビィス達はようやく自分たちの愚かさを理解したのか顔を赤くした。
「誘惑という名の試練を与え人を見定める。これが神の意志でした。そして、彼らは神の試練により振り落とされました」
マリーがダリアに告げると、ダリアは満足そうに微笑んだ。
「そうですか。マリーさん、ご苦労様でしたね。この件は、わたくしより陛下にご報告いたします。まぁ、このような場での騒ぎですから、もうすでに陛下のお耳に届いているかもしれませんが」
学生の身ですでに王妃の貫録を出しているダリアにガクブルしながら、マリーは深く頭を下げた。
「ダリア様、今までのご無礼をお許しください」
ダリアは優雅に口端を上げる。
「許します」
なんとか死罪は免れた。ホッとしたマリーは、全身の力が抜けその場に座り込んだ。本当なら気を失ってしまいたいところだが、そうもいかない。
「ダリア様。デイビィス殿下や、その他の方たちは、神の意志とは言え、私に騙されたのです。どうか、ご温情を……」
クスッと笑ったダリアは、「それを決めるのは陛下です。……でも、あなたが騙さなくても、彼らはいつかはこうなっていたと思いますよ?」とマリーの耳元で囁いた。
ダリアの言うことはもっともで、デイビィス達は、マリーがすり寄らなくても、いつか彼らにすり寄ってきた別の女性に入れあげて、婚約者をないがしろにしていたと思う。
ダリアは「ですから、婚姻までに破局に追い込んでくださったマリーさんには、わたくしたち感謝していますの」と、マリーに向かって優雅に微笑んだ。
ダリアの視線の先には、騎士団長の息子や、宰相の息子、公爵令息の婚約者達が、もう我慢できないというように必死に笑みをかみ殺している。
(ああ、高貴なご令嬢の皆さんが……おバカな婚約者と婚約破棄ができて喜んでいらっしゃる……)
ダリアはマリーに手を差し伸べると、引っ張り立ち上がらせてくれた。
「マリーさん、わたくし、今まであなたが聖女様だって信じていなかったの。でも、神様は本当にいるのね。ごめんなさい、あなたは確かに聖女様ですわ」
ふわりと微笑みかけられて、マリーは今さら『すみません……違います』とは言えず苦笑いした。
その後、マリーは『神からの信託を受け取った聖女』として、学園をやめてすぐに神殿に仕えることになった。
ダリアは、誠実な第二王子と婚約をし直し、とても幸せそうだ。今回の件で婚約破棄になったご令嬢達にも新しい婚約者ができたらしい。
デイビィス達は、騒ぎを起こした責任を取らされ、それぞれ辺境の地に飛ばされていったが、それほど酷い目にも合わず、なんとかその土地で名誉を挽回するために頑張っているようだ。
神殿に仕えるようになってからマリーは、神々しい神の像の前で毎日熱心にお祈りしている。
(どうか、皆がそれなりに幸せに暮らせますように。そして、神の名を騙った私に、天罰が下されませんように)
あと、この国では聖職者も結婚できるそうなので、『私にもいつか素敵な出会いがありますように』と今日も偽聖女マリーは、聖女のふりをしながら真剣に祈っている。
おわり
だからこそ、彼らを救うためにも、マリーはここから逃げるわけにはいかない。
ダリアの「神の意志、ですか?」という問いかけに、マリーは静かに頷いた。
「神は、聖女である私に試練を課されました。そして、それは、この国の未来のために、高位貴族男性を誘惑するというものだったのです」
デイビィスに「マリー……な、何を言っているんだ?」と聞かれたが、マリーも『そうですね。私は、何を言っているんでしょうね?』と思う。
しかし、生き残るには、もう聖女であることを利用して、これまでの悪行を全て神様のせいにするしかないと思う。
嘘がバレたらどうしようという緊張感から全身が震えて、マリーの瞳に涙が滲んだ。
「神は、この国の行く末を案じておられました」
全てが嘘ではない。正直、このデイビィスが将来、この国の王になると思ったら、誰でも不安になると思う。
「私に与えられた使命は、人々の人間性を試し、より良い未来に導くことだったのです」
会場中の人が戸惑う中で、ダリアだけが小さく何度も頷いている。
「なるほど。では、マリーさんは、デイビィス殿下の人間性を試すために、今までおバカなふりをしていたと?」
『いえ、今までは本当に、おバカでした』という言葉を飲み込み、マリーは「はい」と答えた。
ダリアに「マリーさん、では、神の判決はどうなりましたか?」と尋ねられて、マリーはデイビィスを見つめた。
「デイビィス殿下、貴方は……王の器(うつわ)ではありません」
今までデイビィスを称え甘い言葉を囁いてきた同じ口で、マリーはデイビィスに現実を突きつけた。
「ま、マリー?」
デイビィスを無視して、マリーは騎士団長の息子、宰相の息子、公爵令息に目を向ける。
「貴方たちも、人の上に立つ器ではありません」
「なっ!?」
マリーは『なっ!? じゃねーよ、婚約者に暴言を吐く男を誰が信用してくれるのよ!?』と思ったが、顔には出さない。
デイビィスが「マリーがっ、マリーが言い寄ってきたではないか!?」とキレ出したので、冷たい視線を送っておく。
「確かに私が言い寄りましたが、私を受け入れて、婚約者より優先したのは、貴方達だけですよ?」
そう、おバカなマリーは、デイビィス達以外にも、第二王子や侯爵令息や、教師にまですり寄っていたが、デイビィスたち以外には、はっきりと断られ距離を取られた。
特に第二王子には、「今度、私に無許可でふれようとしたら君を処罰する」とまで言われている。そのことを説明すると、デイビィス達はようやく自分たちの愚かさを理解したのか顔を赤くした。
「誘惑という名の試練を与え人を見定める。これが神の意志でした。そして、彼らは神の試練により振り落とされました」
マリーがダリアに告げると、ダリアは満足そうに微笑んだ。
「そうですか。マリーさん、ご苦労様でしたね。この件は、わたくしより陛下にご報告いたします。まぁ、このような場での騒ぎですから、もうすでに陛下のお耳に届いているかもしれませんが」
学生の身ですでに王妃の貫録を出しているダリアにガクブルしながら、マリーは深く頭を下げた。
「ダリア様、今までのご無礼をお許しください」
ダリアは優雅に口端を上げる。
「許します」
なんとか死罪は免れた。ホッとしたマリーは、全身の力が抜けその場に座り込んだ。本当なら気を失ってしまいたいところだが、そうもいかない。
「ダリア様。デイビィス殿下や、その他の方たちは、神の意志とは言え、私に騙されたのです。どうか、ご温情を……」
クスッと笑ったダリアは、「それを決めるのは陛下です。……でも、あなたが騙さなくても、彼らはいつかはこうなっていたと思いますよ?」とマリーの耳元で囁いた。
ダリアの言うことはもっともで、デイビィス達は、マリーがすり寄らなくても、いつか彼らにすり寄ってきた別の女性に入れあげて、婚約者をないがしろにしていたと思う。
ダリアは「ですから、婚姻までに破局に追い込んでくださったマリーさんには、わたくしたち感謝していますの」と、マリーに向かって優雅に微笑んだ。
ダリアの視線の先には、騎士団長の息子や、宰相の息子、公爵令息の婚約者達が、もう我慢できないというように必死に笑みをかみ殺している。
(ああ、高貴なご令嬢の皆さんが……おバカな婚約者と婚約破棄ができて喜んでいらっしゃる……)
ダリアはマリーに手を差し伸べると、引っ張り立ち上がらせてくれた。
「マリーさん、わたくし、今まであなたが聖女様だって信じていなかったの。でも、神様は本当にいるのね。ごめんなさい、あなたは確かに聖女様ですわ」
ふわりと微笑みかけられて、マリーは今さら『すみません……違います』とは言えず苦笑いした。
その後、マリーは『神からの信託を受け取った聖女』として、学園をやめてすぐに神殿に仕えることになった。
ダリアは、誠実な第二王子と婚約をし直し、とても幸せそうだ。今回の件で婚約破棄になったご令嬢達にも新しい婚約者ができたらしい。
デイビィス達は、騒ぎを起こした責任を取らされ、それぞれ辺境の地に飛ばされていったが、それほど酷い目にも合わず、なんとかその土地で名誉を挽回するために頑張っているようだ。
神殿に仕えるようになってからマリーは、神々しい神の像の前で毎日熱心にお祈りしている。
(どうか、皆がそれなりに幸せに暮らせますように。そして、神の名を騙った私に、天罰が下されませんように)
あと、この国では聖職者も結婚できるそうなので、『私にもいつか素敵な出会いがありますように』と今日も偽聖女マリーは、聖女のふりをしながら真剣に祈っている。
おわり
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