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15.その瞬間は近い

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 小さな手が自分の着ているシャツを脱がそうとボタンを外していく。

 その動きを感じながらブルームは葛藤していた。

(……羊が百匹! 羊が百一匹! 百二! 百四! 百八……!)

 ────煩悩と、である。

 何せ少し視線を下げれば、ソルフィオーラの慎ましやかな膨らみがふるふると揺れているのが目に入るのだ。
 ちょっと目にするだけで視線は縫い付けられたようにそこから離れなくなる上、むくむくと感情が込み上げてくる。

(……愛しさが二百匹、愛しさが三百匹……!)

 冷静沈着、真面目、堅物。
 今脳内を覗き込まれたらそのイメージを崩されるであろうこと間違いない。
 ブルームの頭の中でソルフィオーラが満開に咲いていた。
 彼女が一言『脱がせてあげる』と告げてからずっと頭の中は太陽でいっぱい。
 ────以前からずっとそうであることはさておき。
 彼女の一挙一動の破壊力がそれだけ凄まじいということだ。

 やがて小さな手がボタンを全て外し終えた。
 開かれたところが外気に触れ、次いでソルフィオーラがはっと息を呑む気配を感じた。

 毎日欠かすことなく鍛え上げた己の肉体。
 若いからと舐められないように、厚い胸筋と六つに割れた腹筋は一体妻にはどう映るだろう?
 柄にもなく緊張しながらソルフィオーラの反応を待つ。
 しかし気になってちらりと目を向ければ、ちょうど彼女が何か発しようと口を開くところだった。
 桃色の唇がほう……と息を漏らす。

「……男の方の身体って……こんなにも、たくましいのですね……」

 刹那、ズキュンと心臓を撃ち抜かれたような衝撃を得た。
 吐息交じりに紡がれた妻の声が弾丸となって飛んできたのだ。

 殺し文句、まさに殺し文句だった。
 ブルームは額を抱え天を仰ぐ。

(……これ以上は……耐えがたい……っ)

 ぐわっと噴火寸前の火山のように感情が込み上げてきている。
 沸々と煮え滾るマグマ感情が身体を熱くする。
 噴火口を塞ぐ理性という名の岩が無ければとっくに感情を爆発させていただろう。

 今夜は大切な大切な──初夜のやり直しなのだ。
 あの夜のように興奮を抑え切れずに行動してしまいたくない。

 指南書を読み、しっかりと学んでから夜に臨んだのだ。
 ソルフィオーラの為に。
 祖母の願いを共に繋ごうと頷いてくれた妻との未来の為に。

 ────冷静に優しく導いて、ソルフィオーラを抱きたかったのに。

「……かたい……」

 そんなブルームの心情を知ってか知らずか、さりげなく胸元に指先を這わせてきたソルフィオーラが一言を漏らすものだから。

「きゃっ……」

 感情を抑えることに失敗した理性が吹き飛んでしまった。
 ゆるゆると波打った金糸の髪がふわりと滑らかなシーツの上に広がる。
 やや強引気味なキスを施しながら、ブルームはソルフィオーラを再び押し倒していた。

「────ンんっ」

 蕩けた吐息が塞いだ桃色の唇から漏れる。
 割り入れるように侵入させた舌をソルフィオーラのと絡ませて吸い上げると、吐息はより甘くなった。
 拙さが消えた口づけ方は得た知識をしっかりと物にしている証拠。
 元々真面目なブルームである。実戦・・さえ出来れば器用にコツを掴むのは容易かった。

 それに合わせてブルームは砕けた理性の集め方も学んでいた。
 今までで一番深く激しく口づけていながらも、初夜の失敗を思い出し我を忘れるなんてことがないようギリギリで踏み止まった。

「……っは、ソフィー……」

 ふわふわの髪を撫で、小さな身体を強く優しく抱きしめる。
 抱き締めた身体はやや強張っていた。
 少々強引だったブルームのキスに驚いていたようだった。

「……ソフィー」

 つい理性を飛ばしてしまったことを反省しながら、髪を撫でる手と共に口づける位置を下げていく。
 妻の身体から緊張を吸い取るかのように首筋、鎖骨、胸の間へキスの痕を残す。
 それから慎ましやかな膨らみの先でぷっくりと身を尖らせた粒へ────

「ああっ……!」

 小さな身体に奔った感覚が鋭かったのか、ソルフィオーラが縋るようにブルームの頭を掻き抱く。
 柔らかな膨らみがふにふにとブルームの頬へ押し付けられた。
 堪らない感触に本能がじりじりと燻られる。

 これがどれほど男を──ブルームを煽ることになるのか、ソルフィオーラはきっと分かっていないだろう。

 愛しい妻への想いが身体中に溢れ返る。
 全身全霊を持って彼女を愛したい気持ちに襲われる。

 何度も実感してきたのに、やはり自分も分かっていなかった。
 どんなに理性を総動員しようと愛する者の手に掛かればいとも簡単に崩されてしまうことを。

「……っ!」

 長い髪を撫でていた手を下腹部に移動させると、次を予想したのかソルフィオーラの身体がぴくりと跳ねる。
 滑らかな布地の上をなぞるように、彼女が唯一肌を隠している場所────最も秘めたるところへ指を添えた。
 布越しでも分かるように、その場所からは湿った気配がしていた。

(……なるほど、これが濡れるということか)

 女の身体は興奮や快楽を得るとその奥から蜜を溢れさせるらしい。
 その蜜が大切なところを傷つけないよう守り、また男女の交合をよりスムーズにするための潤滑剤になるのだという。
 そこにあるだろう穴へ指を押し込むようにくっと力を入れれば、くちゅりと水音がする。

(………………なるほど)

 これは興奮する。
 ここに自分のアレをアレしてアレするのだと思うと、自身の下腹部にそびえ立つモノがより硬度を増した気がしてブルームは震えた。
 この行為の本番とも言える時間がいよいよ迫ってきていた。

 だが、蜜が染み出しているからと言ってもアレをアレできるわけではない。

(……ここを、解して……)

 そう、ソルフィオーラは純真な乙女だ。処女である。
 最初はどうしても痛みを伴わせてしまうが、しっかり解してやることで相手が受けるだろう痛みを軽減してやるのだという。
 その方法もしっかりとあの指南書に記されてあった。
 キスや胸への愛撫へと違い、ここからは未知の領域である。

「…………脱がせて、いいだろうか」

 一応確認を取ると、顔を林檎色に染めたソルフィオーラがこくこくと頷いた。
 首を縦に振るのは肯定の意。
 ブルームは秘所を覆う布の中へ手を差し入れた。

 胸とは違う張りのある感触を掌が捉えた。
 林檎のような丸み、滑らかな肌、ソルフィオーラの可愛らしい小尻である。

(………………うむ、先へ進めようか)

 多くは語るまい。
 無意識にすべすべした小尻の感触を堪能し始めた手を急かす。

 やがて、髪色と同じささやかな金色の茂みが目の前に晒された。

「……っ、ぁあ……」

 羞恥が限界なのだろうか、ソルフィオーラが身を捩りその場所を隠すようにピタリと足を閉じてすぐに見えなくなったが。

(……うむ)

 なんと可愛い仕草か。

 羞恥に震える妻の姿が愛おしくて下腹部が震えるのだが、足を閉じられてしまうと先に進めない。
 ブルームは白肌の膝に手を添えた。
 ぐっと力を入れ左右に割開くようにすると、若干の抵抗はありつつもゆっくりと足は開かれ再び秘所が露わにされる。

 天蓋付きのベッドとはいえ、カーテンを閉じさえしなければ照明の光は入って来る。
 閉じたとしてもヘッドボードの上に小さなランプが設置されている。
 視界の明るさは充分確保可能だった。

 そんな環境で初めて目にした秘めたる場所。
 沁み出る蜜に薄紅色の花弁は濡れて────淡く差し込む明かりに照らされてぬらぬらと光る様子がブルームには神秘的に見えた。
 ささやかな茂みに隠されるように、ひくひくと蜜を垂れ流す穴があった。

 ブルームの親指程しかなさそうなその場所に、自分のモノが、入る。

(……確かに解さねば、辛いだろう……)

 本当に自分のあんなモノがここに入るのか些か疑問ではあるが。
 ブルームは恐る恐るその場所へと右手を添えた。

 沁み出る蜜を纏わせるように人差し指を宛がえば、立ち昇る熱気の中に包まれた。
 溶かされるのではないかと思うくらいに────熱い。

 まるで泥濘の中に指を突っ込んだかのような感覚だった。
 指の先だけ沈めた状態でも、蕩けて熱くうねるナカの様子が伝わって来る。

「……っ、ン……!」

 入り口を広げるように指を緩やかに動かしてみる。
 中へ侵入を始める感覚に違和感があるのか、ソルフィオーラの漏らす声が少々苦しげだった。

「……ソフィー」

 今日から呼び始めた妻の愛称。

「──っ、ぶる、ぅむさま……」

 夫となった者の名前を呼ぶ妻の声が返って来る。
 羞恥と緊張が入り混じったような声音に、ブルームもまた静かに声を返す。

「……私は、器用ではない。だが、ソフィーを傷つけないと約束する。……私に身を委ねてくれるだろうか」

 紡がれた声は震えていた。
 ブルームもまた緊張していたのだった。

 何せ初めて触れるのだ。女性の神秘ともいえるその先に。
 紡いだ言葉は今のブルームの精いっぱいの気持ちである。

 緊張しているのはソルフィオーラだけではない。
 自分も一緒だと、不安を抱えているだろう愛しい妻を安心させたい一心だった。

 ソルフィオーラはちらちらと窺うような視線をブルームに数回向けたあと、林檎色の顔を更に赤く染めてこっくりと頷く。

「……はぃ……」

 消え入りそうな声はしっかりとブルームの耳に届いた。
 小さく紡がれた可憐な声が脳内で木霊する。
 ブルームの想いを固めるようにじんじんと響き渡り、緊張ごと巻き込んで確固たるものへと作り替えていく。

 ────この夜を一生忘れられないものにしよう。
 不器用な夫婦の、大切な一夜に。

「……っ」

 ブルームはゆっくりと狭苦しそうな泥濘の中へ指を押し進める。
 親指程……とは思ったが、実際中に入ってみると人差し指がぴったりな狭さだった。
 想像以上のキツさである。
 どう解そうか。指南書にはとにかく相手の反応を窺いながらとあった。
 人差し指が根元まで入ったところでブルームは一考し、絡みつく柔襞を押し上げるように指をくっと曲げてみた。

「──ッあ……!」

 そのままその場所をくにくにと揉んでみると、ソルフィオーラの口からなんとも甘い声が漏れた。
 わずかな隙間を通って蜜がこぷりと溢れ出る。

 腰のあたりがぞくぞくした。
 甘美な響きを持ったソルフィオーラの声はあの夜も今までも聞いたが、今耳に届いたものはブルームの興奮を高める効果を大いに持っていた。

 経験のないブルームでも察することができた。
 今自分が揉み解そうとした場所が、彼女を悦ばせるポイントであると。

 つまり、ここを揉めばソルフィオーラの甘い声をもっと聞ける────
 ブルームは再び指を押し曲げ、柔らかくも熱い肉壁を揉み解しにかかった。




 それから、もうどれくらいの時間を掛けただろうか。
 溢れ出る蜜はびっしょりとブルームの手を濡らし、狭かったはずの泥濘の中は少々余裕が出来ていた。
 これが解れるということなのか。
 ブルームの指を締め付けていた柔襞の纏わりつき具合が緩くなっていた。

「……っ、あ……あぁ……っ!」

 くちゅ、ぐじゅりと。
 卑猥な水音と羞恥の混じった甘い声の合奏が響く。
 音を鳴らすように指を動かすと、その動きに合わせるかのようにソルフィオーラの口から甘い響きが漏れ出た。

「ンん……っあ……んんぅ……っ!」

 最初は揉み解すことに専念していたブルームにも、愛撫の合間に蕩けだした妻へキスをする余裕が生まれていた。

「──っぅ、……ふぅ……ンんッ」

 ソルフィオーラの桃色の唇には舌を、薄紅色に包まれた蜜穴へは指を。
 唇の隙間から零れる吐息は熱く、どろりと蜜を流すナカはそれ以上だった。

 蕩けた表情でブルームのキスを愛撫を受けるソルフィオーラを見つめながら、このナカに自身のモノを挿入した時のことを想像して腰回りがざわめく。

(……そろそろ、頃合い……だろうか)

 溢れ出る蜜の量と締め付けの緩くなったことを考え、ブルームはくるくると入り口を広げるようにしながら指を引き抜いた。
 それと同時に妻の愛らしい唇を解放することも忘れない。
 離れると『はぁ……っ』と悩ましい吐息が妻から零れて、ブルームの欲望を煽ってきた。

 前を開けたまま羽織っている状態となっていたナイトシャツを脱ぎ捨て、起き上がって・・・・・・きつくなった下衣を引き下ろす。

 飛び出すように顔を出した赤黒い頭。
 初夜の時のことを思い返せば、ここまでよく耐えたものだと思う。
 我が半身ながらよく我慢したと褒めたたえてやりたい。
 ──先走った欲望が先端を濡らしている事実からは目を逸らして。

「ソフィー……」

 確認の意を込めて愛称を呼べば、意図を汲み取った妻が荒い息を零しながらこくりと頷く。
 熱い蜜を零す入り口に先端を宛がうと、緊張からか小さな身体が強張った。
 ぷるぷると震える華奢な手が伸びてきて、ブルームの腕を頼りなく掴んだ。
 胸の奥が、きゅうと締まる。

 ブルームはゆっくりと腰を押し進めた。
 熱いぬかるみの中に半身がずぷずぷと沈んでいく。

 ──未だ誰も受け入れたことのない狭き隘路は、想像以上の感覚をブルームにもたらした。

 侵入してきたものに驚きうねる柔襞の動きに半身を扱かれる。
 その、昇り来る快感の凄まじさが想像以上で正直これだけで果ててしまいそうだった。
 どうにかこうにか堪えようとは思うが、少々(かなり)自信ない。

「…………っ」

 しかし、ブルームが快感を得ている一方で、ソルフィオーラは苦しそうに顔を歪めていた。
 ぎゅっと口を引き結び、額には玉粒の汗、閉じられた瞼には涙がじわり。
 喪失の痛みに耐えていてくれているのだと、ブルームは思った。

 ブルームは愉悦の波に耐え、ソルフィオーラは貫かれる痛みを堪える。

 やがてぬかるみに押し進めていた腰がぴったりと妻の臀部に密着していた。
 柔らかな肉襞に扱かれて硬さを増していた半身が、何かを破ったような感覚を得ながらコツンと最奥にぶつかった。

「────っぃい……ッ!」

 破瓜の痛みを分かち合うように、華奢な指先がブルームの腕にぎゅっと食い込んだ。
 
 ────健やかなる時も、病める時も。
 いついかなる時も、助け合い────

 食い込む爪の痛みに奥歯を噛むブルームは、誓いの言葉を思い出していた。
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