八尺様♂と男の子くん。

うめしゅ

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喋れたんだね。

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そのままコンクリートの上に膝を抱えて座り込んだ。
体育座りしても伸ばしても、膝小僧がとても痛くて、じわぁっとまだらに浮き出る血を眺めた。
傷口に小さい砂利が入り込んだようで、所々に黒い点がある。

凄く痛い。
水で洗って、絆創膏を貼らなくちゃ。
でも、おうち、帰りたくないな。

さっきの突き動かされる激しい気持ちの何かしらが、すっと消えて寂しさと痛さだけが残ったみたいだ。

お父さんとお母さんを置いて、外に走り出して。
でも、どこへいくつもりだったんだろう。
他に行く場所なんて、ないのに。

夜の歩道には誰も居ない。

きっと、今は、お家に帰ってお父さんとお母さんに謝って、また2人を困らせない良い子でいるって約束をして、絆創膏をして、眠るのが一番なんだと思う。

久しぶりにお母さんがご飯を作ってくれたんだもん。ぼくがちゃんと帰っていれば、今頃3人で笑顔で晩ご飯を食べれていたのかな。
約束を破ったぼくが、悪かったんだなぁ。

2人はぼくを嫌いな訳じゃないんだから。

帰らなきゃいけない。
もしかしたら2人はぼくを追いかけて来てくれてたかもしれない。

帰らなきゃ、

かえらなきゃ。


帰らなきゃ駄目かな。



気付いたら、はっしゃくさまと別れた公園に来ていた。

なんで来ちゃったんだろう。これはきっと、正しくない。

正しくないけど、今はとにかく はっしゃくさまに抱き締めてもらって、頭を撫でて貰いたい気分だった。

「はっしゃくさま……いる?」

公園は暗々としていて、所々が電燈で明るくなっていた。
本当の夜の公園は、初めて来た。

「はっしゃくさま……」

また呼んでみる。
ちゃんと目を見てお別れの挨拶しなかったから、幻滅しちゃったのかな。
ぼく自身、顔を背けられて話される事の寂しさを知ってるのに。
もう会ってくれないのかな……。

悲しい気持ちが溢れていく。

素直に家に帰ろう、慰めてもらおうなんて、都合良すぎたんだよ。

そう思って公園を後にしようとした時。

「ぽぽ」
聞きたかった声がした。

「はっしゃくさま…!」
電燈の横にすらりと立ってるはっしゃくさまが居た。
さっき別れたばかりだったけど、すごくすごく、会いたかった。
「あ、えっと…あのね!さっきはちゃんとお別れの挨拶しなくてごめんなさい……!」
ぼくは思わず謝ってしまっていた。

「ぽ、ぽぽ」
はっしゃくさまは穏やかな顔で、ぼくの前にしゃがんでくれた。
大きな手でぼくのあたまをそろりそろりと撫でている。

「あのね、はっしゃくさま。もう会ってくれないんじゃないかなって、思っちゃった」
「ぽぽぽ」
「でもね、会いに来てくれて うれしい!」
「ぽ!」
嬉しくて嬉しくて、ぼくの頭を撫でてくれている手をぎゅっと抱き締めた。
目の前に、ちゃんと居る。
触れられる事がすごく嬉しい。

しばらくそうしていたら、はっしゃくさまがじっとぼくを見ている事に気が付いた。
それから、擦りむけた膝や手や顎を心配そうに見つめてくれてる。

「えへへ、ぼくさ、ちょっとドジしちゃってさ。さっき転んじゃったんだ」
なんだか急に恥ずかしくなって、笑うことしか出来なかった。

「ぽぽぽぽ」
そう言うとはっしゃくさまは、ぼくを持ち上げて口をかぱりと開けた。
中からてろりと長い舌が伸びてくる。
はっしゃくさまって なんでも長いんだなぁ、なんて思っていたら、その長い舌で膝小僧を舐められた。

やわらかくてひんやりとした舌で、少し固まってきた血をざらりざらりと舐められる。
「…ぁ!いたい…き、汚いよ!はっしゃくさま!」
それでも はっしゃくさまは ぼくの傷口を舐める事をやめない。

「や!やめて、はっしゃくさま!」
ゆっくりと上へ下へと舐められる。
てろてろと電燈の光が反射して輝いている舌が、別の生き物のように見えた。
ぼくのふくらはぎにはっしゃくさまの唾液が伝っていく。

「あぁ、あう……やめて、やめてってばぁ!」
はっしゃくさまは やめてくれない。

なんで舐めるの?汚いのに。血なんて舐めるなんて美味しくないよ。はっしゃくさまには嫌われたくないのに。
訳が分からなくて、止まった涙がまたこぼれ落ちた。

「ぽ……ぁあ……ンン゛……泣カナいで……」
「え?」
はっしゃくさまが、しゃべった……?

アーアー、と言いながら喉を鳴らしたり、咳払いをしているはっしゃくさまを見つめた。

「ともや、泣かなイで」
今度ははっきりと聞こえた。はっしゃくさまの口の動きと共に、言葉がぼくの耳へと流れ込んでくる。

声は子どもみたいに高い声だった。ちょっとぼくに似てるかも。
その見た目と不釣り合いな音に、思わずふふっと笑ってしまった。

「いたい…の?ダイジョブ?だいじょぶ?大丈、夫?」
「うん、大丈夫だよ。でもちょっとビックリしたよ」
「泣か、ない…で。いいこイイコ、いい子」
「だって急に舐めるんだもの。ビックリして涙でちゃったよ」
はっしゃくさまは困ったような顔をして、ぼくを見つめてる。

「はっしゃくさまって喋れたんだね?」

「いいこ、カワイイともや泣かナイで…ともやイイコだいじょぶイタカッタ?かわいいともやトモヤだいじょぶ」

会話ができてるようで、ちょっと出来てないみたい。でも思わずぼくは笑ってしまう。

嬉しい言葉を沢山くれる。ぼくを心配してくれてるみたい。

あぁ、そうか。ぼくは心配して欲しかったんだなぁ…ってその時気付いた。

お父さんにもお母さんにも、まずは心配して欲しかったのかも。ぼく自身よくわかってなかったけど、その気持ちがストンと胸に落ちてきた。

「ありがとうね、はっしゃくさま。ぼくね、はっしゃくさまが居るから大丈夫みたい。心配してくれて嬉しいよ」
はっしゃくさまのほっぺたを両手で包んで、ちゅっと唇にチューしてみた。
はっしゃくさまは、目をとろりと細めて微笑んでくれた。

「ぼくさ、はっしゃくさまが居てくれたら、もうそれでいいのかも」
ぼくの心臓がことことと鳴ってる気がする。

「だからね、はっしゃくさま。ぼくが呼んだらすぐ来てね。ぼくも会いにくるからね。ひとりぼっちにしないでね」

さっきみたいに、公園で名前を呼んでひとりぼっちで居るのは嫌だった。
「イイコだいじょぶともやいいよ」
そっと微笑むはっしゃくさまは、長い指でぼくの唇をさすさすとさすっている。






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