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その52
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恐怖で血相を変えたアイリーンが走って逃げ出す。アイリーンを追おうとする男の間合いに素早く入ったクリストファーは、既に鞘から引き抜いていた剣で切り付ける。
グレン同様に、クリストファーも密かに護衛に徹していたようだ。
傷を負った事により、アイリーンを諦めた男は裏の路地へと逃走を図った。
逃すまいと追い詰めようとするクリストファーだったが、路地には偶然居合わせた男の通行人が驚きの表情で立ち竦んだ。
事態が飲み込めていないであろう男性が、巻き込まれてはいけない。通行人を背後に庇いながらも、クリストファーは逃走する敵も諦めなかった。
刹那、背後から微かに聞こえる詠唱に、全身が一斉に警鐘を鳴らす。
振り返るとクリストファーが守ろうとした男は、こちらに手をかざし、呪文を詠唱した。
「何!?」
「クリス!!」
グレンは叫ぶと同時に地面を蹴り、魔法を放った男を手にした剣で薙ぎ払った。
「こいつ、通行人に扮した魔術師か……」
転がった男に向けて呟くグレン。
懸念はあれど、今は魔法の直撃を食らったクリストファーを最優先させる事にした。
これまた何処に隠れ潜んでいたのか、ミシェルとルイザが姿を現した途端、ぴたりとオリヴィアに付き添っている。
彼らがいれば心配はいらないと、二人にオリヴィアを頼むと、エフラムは渦中の方へと向かった。
クリストファーを担いだグレンがこちらに歩みを進めるエフラムに気付き、慌てて声をあげる。
「まだ仲間が潜んでいる危険もありますら、お下がりくださいっ!」
グレンの言葉を聞き流して更に進んだ先には座り込んでガタガタと震え、涙を流すアイリーンがいた。
「ねぇ」
「ひっ」
先程の恐怖が抜けず、エフラムに声を掛けられただけでアイリーンは怯えたように、小さく悲鳴を上げた。
兄であるヨシュアが襲われ、大怪我を負っているというのに冷静さを失わないエフラムが、さぞかし奇妙に映っているのだろう。襲われた恐怖と共に、エフラムに対し不気味に感じる気持ちが徐々に増していく。
「君は聖女なんだよね、兄上の腕を治してくれないかな?」
「無理よ!普通の傷口ではないのだから、切断された腕なんて治せる訳がないじゃない!第一そんなモノ見たくないわ!気持ち悪い!!」
半狂乱で泣き叫ぶアイリーンに「そうか」と一言呟いたエフラムは踵を返す。
振り返ると、町に配置されている兵士や、エフラムの護衛騎士なども駆け付け、王立騎士団関係者が辺りに増え続けていた。
町の人々は事件現場に近付かないよう、呼び掛けがされている。
人だかりの中心にいるのは横たわるヨシュア──そして地面に座り込み、彼と向き合うオリヴィアの姿があった。
グレン同様に、クリストファーも密かに護衛に徹していたようだ。
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振り返るとクリストファーが守ろうとした男は、こちらに手をかざし、呪文を詠唱した。
「何!?」
「クリス!!」
グレンは叫ぶと同時に地面を蹴り、魔法を放った男を手にした剣で薙ぎ払った。
「こいつ、通行人に扮した魔術師か……」
転がった男に向けて呟くグレン。
懸念はあれど、今は魔法の直撃を食らったクリストファーを最優先させる事にした。
これまた何処に隠れ潜んでいたのか、ミシェルとルイザが姿を現した途端、ぴたりとオリヴィアに付き添っている。
彼らがいれば心配はいらないと、二人にオリヴィアを頼むと、エフラムは渦中の方へと向かった。
クリストファーを担いだグレンがこちらに歩みを進めるエフラムに気付き、慌てて声をあげる。
「まだ仲間が潜んでいる危険もありますら、お下がりくださいっ!」
グレンの言葉を聞き流して更に進んだ先には座り込んでガタガタと震え、涙を流すアイリーンがいた。
「ねぇ」
「ひっ」
先程の恐怖が抜けず、エフラムに声を掛けられただけでアイリーンは怯えたように、小さく悲鳴を上げた。
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振り返ると、町に配置されている兵士や、エフラムの護衛騎士なども駆け付け、王立騎士団関係者が辺りに増え続けていた。
町の人々は事件現場に近付かないよう、呼び掛けがされている。
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