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眠り姫と魔術師
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レオンハルトが倒れた隙に、オフィーリアは王太子宮にある私室へと戻された。
見慣れたはずの部屋だったが、自分の足で床を踏みしめ、歩き回るのは実に新鮮な事だった。寝台の上にいる時には、死角となっていて見ることの出来なかった部分など、隅々まで見て回るれるのが嬉しい。
部屋はカーテンから小物類に至るまで、細部に渡り拘りが伺える。チェストの上に置いてある、美しい陶磁器のオルゴールなど、小物類もじっくり眺めた。調度品は素人目であっても、見るからに高級そうな予感がする物ばかりで、何かあったら大変。触れるのは遠慮しておいた。
部屋を歩いているうちに、鏡台の前で足を止める。今までは部屋の主であるオフィーリアが眠っていた事により、使われる事の無かった鏡台。
その鏡で姿を確かめる。映し出されたその姿を見て、息を飲んだ。
自分は黒髪に黒目に平凡な容姿だった気がするのに、煌めく銀色の髪に穏やかな夕暮れを閉じ込めたような、不思議な瞳の色を宿している。眼前の鏡には信じられない美少女が映し出されていた。
「失礼致します、オフィーリア様」
「シスカっ」
オフィーリアはシスカの顔を見るなり、立ち上がって満面の笑みで駆け寄った。
「……!オフィーリア様……私の名前をっ」
まだシスカは名乗っていない筈なのに、オフィーリアが顔を見ただけで名前を言い当ててくれた事に感動した。それは、自分の事をオフィーリアが把握していたと言う事。
「ちゃんと知っているわ。可愛らしく自己紹介してくれた時から、ちゃんと見てたもの。貴女やレイチェル達には、いつも感謝していたの。
こうして向き合ってお話し出来る日が来る事が、楽しみだったのよ」
「私も…私もですオフィーリア様っ!」
「…何だかレオンハルト殿下よりも感動の対面なのは如何なものなのでしょうか…」
二人を見守り、シスカの後ろに控えていたケントが苦笑する。
彼らは寝室へ入ろうとせず、寝室の手前にある応接室で足を止めている。
先程は緊急事態だった事もあり、やむ終えず男性がオフィーリアの寝室に足を踏み入れたが、本来であればレオンハルト以外の男性は寝室に入れないらしい。
オフィーリアは、寝室に隣接する応接室へと足を踏み入れた。そこには既に、艶やかな黒髪を背中まで伸ばした魔術師がオフィーリアを待っていた。
「私は魔術師のレナードと申します」
「魔術師……手品師ではなく……?」
「……手品?」
手品と聞くや否や、レナードの眉間に皺が刻まれた。
(怖っ)
オフィーリアは魔術師という単語に違和感を覚えた。魔術師というのは、もしや魔術、魔法などを使うとでもいうのだろうか。魔法という非科学的な未知の領域。そんな物が本当に存在するのか。少なくともオフィーリアの知る世界では、魔法とは空想上の物であった。
しかし、今は話をこれ以上遮る事は出来ず、取り敢えず聞く事に徹すると決める。
「貴女はオフィーリア様であった記憶を失っておられる。今世の記憶を無くした、その代わりに前世の記憶を朧げに思い出したのでしょう」
「そうなのでしょうか…?」
そう言われても少しも実感が湧かなかった。
「今は憶測ではありますが、殿下を庇われた時の衝撃により記憶を無くしてしまわれている」
(庇う?)
「長い間眠っていたのです。目覚められてからまだまもない事もあり、一時的に記憶が混濁している可能性もあり、徐々に記憶を取り戻されるやもしれません。
我々も出来る限りの事をするつもりです。貴方は隣国の王を祖父に持ち、王の降嫁した第一王女の娘、オフィーリア・リュミエール公爵令嬢であらせられます。今後もこの王太子宮にて丁重に扱わせて頂きます」
(お爺ちゃんが王様!?お母さんが王女様!?)
やたら豪華な部屋に囲われているからもしやと思っていたが、姫なのは自分ではないが、母親が王女様らしい。
道理で丁重に扱われているはずだ。
「お爺ちゃんが王様……では私の両親は……」
「隣国におられます。エルトラントよりも魔法の発達したこの国の方が、オフィーリア様の容態の改善を見込めるだろうと、信頼して預けて下さいました。オフィーリア様のご容態については、小まめにご報告させて頂いておりますし、今回の事もすぐに書簡を届けさせて頂くつもりです。ずっとオフィーリア様の目覚めを、心待ちにされておりました」
両親。そう言われても、両親の記憶のないオフィーリアには想像がつかない。でも、自分の子供が眠ったまま目覚めないなどと、とても辛い事だ。
それだけは自分だって胸が痛い程分かる。
なのに、折角目覚めだ娘が自分達の事を覚えていないなんて、どれほど苦しめてしまうのだろうか。オフィーリアの心に翳が落ちる。
そもそも自分は本当にオフィーリアなのか?記憶を失っているのか、別の誰かが意識を乗っ取っている可能性はないのか。
この世界の記憶を一つも持たないにも関わらず、別の世界の記憶を朧げに所有するオフィーリアには、単なる記憶喪失とは考えられなかった。
見慣れたはずの部屋だったが、自分の足で床を踏みしめ、歩き回るのは実に新鮮な事だった。寝台の上にいる時には、死角となっていて見ることの出来なかった部分など、隅々まで見て回るれるのが嬉しい。
部屋はカーテンから小物類に至るまで、細部に渡り拘りが伺える。チェストの上に置いてある、美しい陶磁器のオルゴールなど、小物類もじっくり眺めた。調度品は素人目であっても、見るからに高級そうな予感がする物ばかりで、何かあったら大変。触れるのは遠慮しておいた。
部屋を歩いているうちに、鏡台の前で足を止める。今までは部屋の主であるオフィーリアが眠っていた事により、使われる事の無かった鏡台。
その鏡で姿を確かめる。映し出されたその姿を見て、息を飲んだ。
自分は黒髪に黒目に平凡な容姿だった気がするのに、煌めく銀色の髪に穏やかな夕暮れを閉じ込めたような、不思議な瞳の色を宿している。眼前の鏡には信じられない美少女が映し出されていた。
「失礼致します、オフィーリア様」
「シスカっ」
オフィーリアはシスカの顔を見るなり、立ち上がって満面の笑みで駆け寄った。
「……!オフィーリア様……私の名前をっ」
まだシスカは名乗っていない筈なのに、オフィーリアが顔を見ただけで名前を言い当ててくれた事に感動した。それは、自分の事をオフィーリアが把握していたと言う事。
「ちゃんと知っているわ。可愛らしく自己紹介してくれた時から、ちゃんと見てたもの。貴女やレイチェル達には、いつも感謝していたの。
こうして向き合ってお話し出来る日が来る事が、楽しみだったのよ」
「私も…私もですオフィーリア様っ!」
「…何だかレオンハルト殿下よりも感動の対面なのは如何なものなのでしょうか…」
二人を見守り、シスカの後ろに控えていたケントが苦笑する。
彼らは寝室へ入ろうとせず、寝室の手前にある応接室で足を止めている。
先程は緊急事態だった事もあり、やむ終えず男性がオフィーリアの寝室に足を踏み入れたが、本来であればレオンハルト以外の男性は寝室に入れないらしい。
オフィーリアは、寝室に隣接する応接室へと足を踏み入れた。そこには既に、艶やかな黒髪を背中まで伸ばした魔術師がオフィーリアを待っていた。
「私は魔術師のレナードと申します」
「魔術師……手品師ではなく……?」
「……手品?」
手品と聞くや否や、レナードの眉間に皺が刻まれた。
(怖っ)
オフィーリアは魔術師という単語に違和感を覚えた。魔術師というのは、もしや魔術、魔法などを使うとでもいうのだろうか。魔法という非科学的な未知の領域。そんな物が本当に存在するのか。少なくともオフィーリアの知る世界では、魔法とは空想上の物であった。
しかし、今は話をこれ以上遮る事は出来ず、取り敢えず聞く事に徹すると決める。
「貴女はオフィーリア様であった記憶を失っておられる。今世の記憶を無くした、その代わりに前世の記憶を朧げに思い出したのでしょう」
「そうなのでしょうか…?」
そう言われても少しも実感が湧かなかった。
「今は憶測ではありますが、殿下を庇われた時の衝撃により記憶を無くしてしまわれている」
(庇う?)
「長い間眠っていたのです。目覚められてからまだまもない事もあり、一時的に記憶が混濁している可能性もあり、徐々に記憶を取り戻されるやもしれません。
我々も出来る限りの事をするつもりです。貴方は隣国の王を祖父に持ち、王の降嫁した第一王女の娘、オフィーリア・リュミエール公爵令嬢であらせられます。今後もこの王太子宮にて丁重に扱わせて頂きます」
(お爺ちゃんが王様!?お母さんが王女様!?)
やたら豪華な部屋に囲われているからもしやと思っていたが、姫なのは自分ではないが、母親が王女様らしい。
道理で丁重に扱われているはずだ。
「お爺ちゃんが王様……では私の両親は……」
「隣国におられます。エルトラントよりも魔法の発達したこの国の方が、オフィーリア様の容態の改善を見込めるだろうと、信頼して預けて下さいました。オフィーリア様のご容態については、小まめにご報告させて頂いておりますし、今回の事もすぐに書簡を届けさせて頂くつもりです。ずっとオフィーリア様の目覚めを、心待ちにされておりました」
両親。そう言われても、両親の記憶のないオフィーリアには想像がつかない。でも、自分の子供が眠ったまま目覚めないなどと、とても辛い事だ。
それだけは自分だって胸が痛い程分かる。
なのに、折角目覚めだ娘が自分達の事を覚えていないなんて、どれほど苦しめてしまうのだろうか。オフィーリアの心に翳が落ちる。
そもそも自分は本当にオフィーリアなのか?記憶を失っているのか、別の誰かが意識を乗っ取っている可能性はないのか。
この世界の記憶を一つも持たないにも関わらず、別の世界の記憶を朧げに所有するオフィーリアには、単なる記憶喪失とは考えられなかった。
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感想有り難いです、ありがとうございます
ガチギレですΣ(゚д゚lll)
それぞれの状況などを明らかにしながら、物語を進めていきたいとおもいます。
ノロノロ進行で申し訳ございません。
読んで下さってありがとうございます!