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Interlude1 アレクサンドラのその後
大商人夫人ミランダの来訪(前)
「お初にお目にかかります、アレクサンドラ妃殿下。お望みとあればどのような商品も準備致します、イシドロ商会より参りました――」
「ちょっと待って。色々整理させて」
王太子妃として用意された王宮の私室に出入り可能な者は限られていて、いかに私でも好き放題は出来ない。基本的には私が招待状を作成、国王陛下の承認を得て、正門で手続きを取ってもらい、初めて呼んでこられる。
で、よ。公爵令嬢時代に便利屋扱いしてた大商人イシドロを今後も贔屓しようと思って申請したら、思った以上に時間がかかった。これはこれまで大商人ドミンゴの商会が王家御用達を独占していたせいね。
それでもってようやくイシドロ本人を呼び出したのはいいんだけれど、いざやってきたのは全身黒ずくめの婦人だった。手袋、ドレス等で肌の露出が無いに等しい。体型がきちんと出ているところは出て腰と腹部が引き締まっている分、余計に際立つ。
そして一際目を引いたのは仮面ね。それも目元どころか顔全体を覆う奴。白い仮面の唇には口紅が引かれていて、目元は更に仮面舞踏会で貴婦人達が好んで使うような黒いアイマスクを付けている。正直異様と言っていいでしょうね。
そんな彼女は優雅に会釈してきた。公爵令嬢だった私から見ても洗練されている、との感想を抱くぐらいに。さすがはイシドロが王太子妃である私に派遣してきた者だけのことはあるのだけれど……。
「まず質問。今日はイシドロ本人に来いって言ったつもりだけれど?」
「申し訳ありませんがイシドロは来れなくなりました」
「何故? 王家の者の呼び出し以上に優先される仕事なんて無いでしょうよ」
「腰を痛めて立ち上がることも出来なくなりましたので」
「あー……お大事に、とでも伝えておいて」
「畏まりました。伝えておきます」
腰を痛めたって、イシドロは何したのかしらね。力仕事なんて部下に命じればいいんでしょうし、率先して重いものを持ち上げるような人でもないでしょうよ。使用人を顎でこき使えばいいんだし、彼にはその財力があるもの。
「ちなみにどうして腰を痛めたか詳しく聞いても?」
「それが困ったことに年甲斐もなくわたくしを持ち上げた際にやってしまったらしく、お恥ずかしい限りですわ」
「……ごめん、聞いちゃまずかったわね」
そう言えばイシドロは自分は妻を愛しているし今でも愛し合っている、とか事あるごとに口にしていたっけ。つまりはお楽しみの最中に体勢を変えたらピキッと腰をやらかしたってわけね。何やってるんだか……。
「じゃあ貴女はイシドロの妻、ってことでいいのかしら?」
「はい。わたくしはミランダと申します。本来なら主人の代理には息子をよこすべきだったのですが、あいにく出張中でして急遽わたくしが参りました」
「それはいいのだけれど、貴女の商会での立ち位置は?」
「現在は人材部門の部門長を勤めています。頼まれれば衣装部門と総務部門の手伝いもしておりますわ」
「結構。仕事の話が出来るのなら充分だわ」
一応もてなし用の菓子とお茶はどうするかとセナイダが問いかけたのだけれど、ミランダは丁重に断った。何でも夫であるイシドロの前以外で仮面を外したくないらしい。例え国王に命じられても夫の許しを得るように言うつもりだとか。
「早速だけれど、引き受けてもらいたい仕事の内容は分かってる?」
「勿論ですとも。アレクサンドラ様にお仕えする侍女を探している、でしたね」
そう、セシリオお兄様と婚姻を遂げて公爵夫人になったセナイダの引き継ぎ相手を探しているわけ。今は私が子をお腹に宿しているのもあって二足わらじを履いてもらっているけれど、今後まで彼女を縛り付けておくわけにはいかなくなったから。
「しかしどうしてうちに依頼を? 王宮には優秀な女官がいらっしゃるでしょう」
「普段はそれでいいのだけれど、いざって時に頼りに出来る世話係が欲しいの。無茶ふりも叶えてくれるような、ね」
「成程。この前のような事態に備えて、ですね」
「話が早くて助かるわ」
例えば王太子妃になったからには楯突く奴にはその権力を振るえば済むのだけれど、悪徳商人としてのイシドロとの繋がりも保っておきたい。そんな悪い仕事を命じられるほど信頼出来る人材を望んでいるってわけ。
あーあ、折角セナイダをここまで手懐けたのにさ。また最初から教え込まないとなるとうんざりだわ。まあ、今思い返せば、表向きは金のために従いつつも内心で恨んできていた昔のセナイダも悪くなかったけれど。
「検討した結果、お断りさせていただきます」
「……なんですって?」
だが、目の前の女はあろうことか申し訳無さすら無い口調で突っぱねてきた。
仮面で顔色を伺えないけれど、きっと微笑を浮かべているに違いないわ。
「その分代案をご提供しようと思っていますが、お時間を頂戴しても?」
彼女、私が思った以上に曲者のようね。
「……続けなさい。けれど私の気もあまり長くなくてよ」
「ちょっと待って。色々整理させて」
王太子妃として用意された王宮の私室に出入り可能な者は限られていて、いかに私でも好き放題は出来ない。基本的には私が招待状を作成、国王陛下の承認を得て、正門で手続きを取ってもらい、初めて呼んでこられる。
で、よ。公爵令嬢時代に便利屋扱いしてた大商人イシドロを今後も贔屓しようと思って申請したら、思った以上に時間がかかった。これはこれまで大商人ドミンゴの商会が王家御用達を独占していたせいね。
それでもってようやくイシドロ本人を呼び出したのはいいんだけれど、いざやってきたのは全身黒ずくめの婦人だった。手袋、ドレス等で肌の露出が無いに等しい。体型がきちんと出ているところは出て腰と腹部が引き締まっている分、余計に際立つ。
そして一際目を引いたのは仮面ね。それも目元どころか顔全体を覆う奴。白い仮面の唇には口紅が引かれていて、目元は更に仮面舞踏会で貴婦人達が好んで使うような黒いアイマスクを付けている。正直異様と言っていいでしょうね。
そんな彼女は優雅に会釈してきた。公爵令嬢だった私から見ても洗練されている、との感想を抱くぐらいに。さすがはイシドロが王太子妃である私に派遣してきた者だけのことはあるのだけれど……。
「まず質問。今日はイシドロ本人に来いって言ったつもりだけれど?」
「申し訳ありませんがイシドロは来れなくなりました」
「何故? 王家の者の呼び出し以上に優先される仕事なんて無いでしょうよ」
「腰を痛めて立ち上がることも出来なくなりましたので」
「あー……お大事に、とでも伝えておいて」
「畏まりました。伝えておきます」
腰を痛めたって、イシドロは何したのかしらね。力仕事なんて部下に命じればいいんでしょうし、率先して重いものを持ち上げるような人でもないでしょうよ。使用人を顎でこき使えばいいんだし、彼にはその財力があるもの。
「ちなみにどうして腰を痛めたか詳しく聞いても?」
「それが困ったことに年甲斐もなくわたくしを持ち上げた際にやってしまったらしく、お恥ずかしい限りですわ」
「……ごめん、聞いちゃまずかったわね」
そう言えばイシドロは自分は妻を愛しているし今でも愛し合っている、とか事あるごとに口にしていたっけ。つまりはお楽しみの最中に体勢を変えたらピキッと腰をやらかしたってわけね。何やってるんだか……。
「じゃあ貴女はイシドロの妻、ってことでいいのかしら?」
「はい。わたくしはミランダと申します。本来なら主人の代理には息子をよこすべきだったのですが、あいにく出張中でして急遽わたくしが参りました」
「それはいいのだけれど、貴女の商会での立ち位置は?」
「現在は人材部門の部門長を勤めています。頼まれれば衣装部門と総務部門の手伝いもしておりますわ」
「結構。仕事の話が出来るのなら充分だわ」
一応もてなし用の菓子とお茶はどうするかとセナイダが問いかけたのだけれど、ミランダは丁重に断った。何でも夫であるイシドロの前以外で仮面を外したくないらしい。例え国王に命じられても夫の許しを得るように言うつもりだとか。
「早速だけれど、引き受けてもらいたい仕事の内容は分かってる?」
「勿論ですとも。アレクサンドラ様にお仕えする侍女を探している、でしたね」
そう、セシリオお兄様と婚姻を遂げて公爵夫人になったセナイダの引き継ぎ相手を探しているわけ。今は私が子をお腹に宿しているのもあって二足わらじを履いてもらっているけれど、今後まで彼女を縛り付けておくわけにはいかなくなったから。
「しかしどうしてうちに依頼を? 王宮には優秀な女官がいらっしゃるでしょう」
「普段はそれでいいのだけれど、いざって時に頼りに出来る世話係が欲しいの。無茶ふりも叶えてくれるような、ね」
「成程。この前のような事態に備えて、ですね」
「話が早くて助かるわ」
例えば王太子妃になったからには楯突く奴にはその権力を振るえば済むのだけれど、悪徳商人としてのイシドロとの繋がりも保っておきたい。そんな悪い仕事を命じられるほど信頼出来る人材を望んでいるってわけ。
あーあ、折角セナイダをここまで手懐けたのにさ。また最初から教え込まないとなるとうんざりだわ。まあ、今思い返せば、表向きは金のために従いつつも内心で恨んできていた昔のセナイダも悪くなかったけれど。
「検討した結果、お断りさせていただきます」
「……なんですって?」
だが、目の前の女はあろうことか申し訳無さすら無い口調で突っぱねてきた。
仮面で顔色を伺えないけれど、きっと微笑を浮かべているに違いないわ。
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