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チャッピー&せんせ

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第一章

帰りの車内(真弓)

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 相変わらず気が重かった。そして、列車が家に近づけば近づくほど、どんどん気が重くなっていく。真弓は帰りの電車の中でどんよりした気分に浸っていた。席はまばらに空いていたが、シートに座ることなく、ドア付近の壁に頭をもたれかけるように立っていた。車窓からの見慣れた風景が家に近づいていく度、何度も何度も、誰からも聞かれない程度の小さなため息を出す。
 八月末の模試の結果が過去最悪だったのだ。
 判定云々というよりも、この結果を父親と母親に見せなくてはならないことに悩んでいた。
 高校二年生の九月。かなり重要な分岐点になる。
 しかも、今朝は出掛ける前に、玄関口で母親から、「今日は模試の結果が返ってくる日よね」と、念を押されていたのだ。ごまかしはきかない。なにせ母親は自分でその結果を自分の生徒たちに返却する立場なのだから……。
 正直、今日の結果では県内の国立合格は難しい。こんなに星の数ほど大学があるこの時代に、なぜ国公立にこだわらなければならないのか……。まして、県内となると……。真弓は揺れる車内で、またため息をついた。
 そして、昼休憩時の結果返却の場面が再び思い出される。
 
   *

 昼休憩、名簿順に進路指導室前の廊下に並ばされていた。まるで捕虜収容所の囚人みたいだった。夏休み最後の模試結果返却。正直、模試に対しての手応えはなかった。悪いのは覚悟していた。夏休み……サボり過ぎた。そんなことを考えていると、ドアが開いた。先に入室していた男子生徒が肩を落とし、暗い表情で出てきた。「最悪だぁ」彼の独り言のような言葉が真弓の耳に入ってきて、鼓動が早まった。
 真弓は大きく息をして、そっとドアを開けて、入室した。
「お願いしまぁす」
 担任の表情を上目遣いで見た。腕を組んだままの担任は、あからさまに不機嫌な表情を見せていた。担任は無言で机を指さし、着席を促した。そして、こちらの言い分なぞ聞きもせず、第一声だった。
「夏休み……何やってたんだ!」
 怒鳴るほどの声ではないが、確実に音量は普段より大きい。返す言葉など考える余裕もなかった。
「ご両親に申し訳ないなぁ」
 明らかに嫌味のこもった言い方だった。担任は当然こちらの両親の仕事のことも承知している。真弓は黙り込むしか術はなかった。そして、そのあとのことは記憶にない。担任が何を話したかも記憶にない。多くの雑念が心を占めていたからだ。

   *

 揺れる車内で、真弓は今日これからのことを想定した。間違いなく、スマホ禁止、ネット禁止を言われるに違いない。
 確かに自分はネット依存症気味のところはある。勉強そっちのけでソーシャル・ゲームにはまってしまい、気が付いたら夜が明けていたなんてこともある。しかし、今の自分にはそんなことぐらいしか、外界との接点がないのだ。これしか現実の辛さから逃げることはできないのだ。
 そんなスマホやネットさえ禁止されたら、外界との接点も消え、ストレスの溜まる日々が始まる。受験までの辛抱……一年半……いや、浪人なんてことも考えられる……こうなるとマイナス思考しか思い浮かばない。ネガティブな気持ちが心を占めた。気が重い……。すべては偏差値を上げればいいことなのだが……。
 間もなく降車駅だ。
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