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最悪の魔物と遭遇
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私は坂を一気に駆け上がったせいで息を切らして『ひょっとこバーガー』のドアを開けた。
建物の外観は、カウボーイの帽子を被った男性がパクッとハンバーガーを食べて、酸っぱいものでも食べて思わず口を突き出した様子の一風変わった巨大な看板があるので、すぐにここだと思った。
ぐー。情けないけど、私のお腹がなってしまう。
ガランと中に入ると、白ひげの年配のコックが、色鮮やかな沢山のジュエルを机の上に出して指を舐めながら、数えているところだった。
やばっ。タイミング悪いよね。
「お嬢ちゃん、ドアの張り紙は見たかい? この店まだ準備中なんだよ」
そう言うお爺さんは私の制服を見ると、目が優しく微笑んだ気がした。
「こんにちわ。コックさん。この店アップル王国で1番人気のレストランなんですってね」
そう言うと、顔がパッと明るくなってきた。よし、交渉に入らないと。掲示板に私の書いた募集の紙を貼って貰えるようにしないと。
「嬉しいことを言ってくれるね。あと30分後から開店なんだが、今日は特別に今からオープンということにしよう」
「いえ、今日は……なんでもありません」
私は壁に貼られた一番人気のタンシチューとサラダのランチを頂くことにした。
「もしかして、調合学園の生徒さん? 制服が孫とそっくりなんだよ」
「はい! アップル学園の生徒です。お孫さんとは同級生か分かりませんけど、今年入学したばかりです」
もしかして意地悪なアミのおじいさんだったら、困ってしまう。嫌な予感は当たり、入口付近の掲示板を見ると既に何故かアミの書いたコラムのような新聞が貼り出されていたから何か関係がありそう。
そう、あれは一週間前、アミがクラスの広報担当ということで、机に向かって書いていた調合学園の日常生活を描いていたその新聞がこのひょっとこバーガーの掲示板のど真ん中に堂々と貼られているものだから焦ってしまう。
――これ身内だよ。きっとアミのおじいさんの店だ……。
タンシチューのお肉がすごく柔らかくて、歯で噛まなくてもトロッと溶けてしまう。頬を押さえながら味を堪能して、そんな様子をコックは見つめていた。
「ありがとうございます。美味しかったです」
他をあたろう。お金を払い、肩を落としながら、ドアに向かって歩き出すと、後ろからおじいさんが声を掛けた。
「もしかしてメアリちゃん? ショートボブでピンクの蝶の髪飾りが付いているから」
「どうして……私だって分かったんですか?」
名前も名乗ってないのにおかしい。私はそんな有名人じゃないのに。
「孫のマーガレットの親友のメアリちゃんじゃないのかなって。特徴しか聞いてないから分からなかったけど。学校ではとても良くしてもらってると聞いてるよ」
良かった。
「メアリです。実はマーガレットにいつもお世話してもらってるのは、私の方なんです」
「その手に持ってるのは新聞? 孫の親友の頼みならできることならなんでもしてあげたいからね。お金ももちろんいらないよ。こないだアミって子が来て勝手に掲示板に貼り付けていったけど、その新聞はいらないからそこに貼ってもらって構わんよ」
その言葉に困ってしまう。自意識過剰なあのアミの事だ。後から新聞をまたこの店に見に来る可能性がある。そこに私のチラシが貼られてたらまた文句を言われるかもしれない。
「どれどれ、えっ、冒険者の募集? 冒険者は魔物退治が主な仕事で、危険なことも多いんだよ。まーでも、若い頃冒険者に憧れてそんな真似事したこともあるし、そう言えばこないだここに来てたハリソン彼がパーティを探してたな。あの子なら大丈夫だ」
「ワシがもっと若ければ一緒に行けるんじゃが、あいにく腰痛持ちで。もうあと10年若ければなあ」
そして、スポーツ刈りの青年がドアを勢いよく開けて入ってきた。
「オヤジー、トマトバーガー1個とシェイク頼むわ!」
「噂をすればなんとやらじゃな。ユウキお前、このメアリちゃんのパーティに入らんか?」
「? 確かに俺は魔王をぶっ倒すためのパーティーを探しているけど、ふっ、こんな少女にそれが務まるのか?」
「一度魔物退治とか連れてってあげたらどうなんだ? 調合学園の生徒だから社会勉強にもなるだろう。パーティーには調合師、僧侶、司祭といった職業もあるし、そもそも、お前さんどこのパーティーにも雇って貰えないって言ってなかったかな……」
ハリソンがおじいさんの口を無理やり塞いだことでそのあとの言葉が聞き取れなかったけど、何か問題があるのかもしれない。でも私には仲間が必要だ。
「ぜひお願いします。本当に困ってるんです。魔王を倒してドロップアイテムをゲットしないといけないのです!」
私の言葉にハリソンは感激してその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ぜひ入れて欲しい! というか、今から俺の技見せてやるよ。モンスターをちょちょいと刈りに行くけど付いてくるか? それを見てから判断してもらっても構わない」
「でも、良いんですか? 私はまだ調合師の卵ですよ」
「それでも魔王を倒すんだろ! 俺はさ、今まで色んなパーティに仲間にしてくれと頼んだんだけど、どいつもこいつも根性無しなんだよ。一つ聞かせてくれあんたは何がしたいんだ?」
私のしたいこと。それはジャックを救うこと。そのためには聖女様みたいにならないといけない。彼女のようにあらゆる調合に精通して、回復と補助の魔法を誰よりも抜きんでないといけない。
「わ、私は、聖女様になる!」
それを聞いてハリソンは涙を流すくらい笑った。でも、馬鹿にする笑いじゃなくて心から嬉しそうなそんな笑い方にコックさんまで釣られてしまう。
「そう。メアリがリーダーだ。それぐらい言ってくれないと俺も困るよ。俺の名前は佐藤ユウキ。いちおう戦士をやっている。目指すは世界一の騎士隊長。なんでそんなの目指してるかって。こんなとこじゃ言えない」
二人は街のそばでスライムを狩ることにした。スライムはE級モンスターで、モンスターランキングでは最下層に位置する。白くて弾力のある体が特徴で体当ぐらいしかしてこない。
ハリソンが短剣でスライムを切り、私は安心しながらぼーっと見学している。
剣術なんて見たことないけど、素人目で素質があるように見える。彼は地面を蹴ってダッシュすると目で追いつけないぐらいの速さで剣を振りあっという間に10匹ほどのスライムを倒したのだから。
「どう?」
「いいよ! 戦士の技とかもあるの?」
すると、彼は満更でも無い顔で、
「しゃーない。見せてあげようか。スラッシュ斬りを」
小脇に抱えた短剣を横に振ると、空気を切る刃が飛んで行った。
「えっ……」
それは5m離れたスライムの胴体を真っ二つにした。
「こんな凄い人だったの?」
「いんや、このくらいのこと戦士の卵でも出来るよ。ちなみにスラッシュは物質系に効くから、他のモンスターだと、人間もそうだけどここまでの威力はでないんだ。メアリに打ってみようか」
「やめてよっ」
「冗談だよ。それにしてもここにはもっと強い魔物は居ないのかよ! ハリソンの相手になれる魔物はっ!」
空を見上げて大声をあげるハリソンを見ていると、頼もしく思えてくる。
そうよ。もっと強い凶悪なモンスター出なさいよ。私も同じように復唱する。ポケットに王妃の彼のレオンから貰ったお守りを握って。
ずごおおーん。
地面が割れるかと思うぐらい大きな音がして、砂埃から現れたのは、体長3メートルぐらい一つ目で、体色の赤い筋骨隆々のサイクロプスであった。
な、なんで……。このサイクロプスは……A級モンスターじゃないの。これ倒せるのは騎士団の中でも隊長クラスだと聞いたことがある。とんでもないモンスターが現れた。
「ぐおおおおおおおおおおー」
サイクロプスの咆哮が辺りの山々に鳴り響く。そして私たちの方をちらっと見ると、ターゲットを絞ったかのように棍棒を振り回しながらこっちに走ってきた。
私は嫌な記憶が蘇り、我を忘れて叫ぶしか無かった。
建物の外観は、カウボーイの帽子を被った男性がパクッとハンバーガーを食べて、酸っぱいものでも食べて思わず口を突き出した様子の一風変わった巨大な看板があるので、すぐにここだと思った。
ぐー。情けないけど、私のお腹がなってしまう。
ガランと中に入ると、白ひげの年配のコックが、色鮮やかな沢山のジュエルを机の上に出して指を舐めながら、数えているところだった。
やばっ。タイミング悪いよね。
「お嬢ちゃん、ドアの張り紙は見たかい? この店まだ準備中なんだよ」
そう言うお爺さんは私の制服を見ると、目が優しく微笑んだ気がした。
「こんにちわ。コックさん。この店アップル王国で1番人気のレストランなんですってね」
そう言うと、顔がパッと明るくなってきた。よし、交渉に入らないと。掲示板に私の書いた募集の紙を貼って貰えるようにしないと。
「嬉しいことを言ってくれるね。あと30分後から開店なんだが、今日は特別に今からオープンということにしよう」
「いえ、今日は……なんでもありません」
私は壁に貼られた一番人気のタンシチューとサラダのランチを頂くことにした。
「もしかして、調合学園の生徒さん? 制服が孫とそっくりなんだよ」
「はい! アップル学園の生徒です。お孫さんとは同級生か分かりませんけど、今年入学したばかりです」
もしかして意地悪なアミのおじいさんだったら、困ってしまう。嫌な予感は当たり、入口付近の掲示板を見ると既に何故かアミの書いたコラムのような新聞が貼り出されていたから何か関係がありそう。
そう、あれは一週間前、アミがクラスの広報担当ということで、机に向かって書いていた調合学園の日常生活を描いていたその新聞がこのひょっとこバーガーの掲示板のど真ん中に堂々と貼られているものだから焦ってしまう。
――これ身内だよ。きっとアミのおじいさんの店だ……。
タンシチューのお肉がすごく柔らかくて、歯で噛まなくてもトロッと溶けてしまう。頬を押さえながら味を堪能して、そんな様子をコックは見つめていた。
「ありがとうございます。美味しかったです」
他をあたろう。お金を払い、肩を落としながら、ドアに向かって歩き出すと、後ろからおじいさんが声を掛けた。
「もしかしてメアリちゃん? ショートボブでピンクの蝶の髪飾りが付いているから」
「どうして……私だって分かったんですか?」
名前も名乗ってないのにおかしい。私はそんな有名人じゃないのに。
「孫のマーガレットの親友のメアリちゃんじゃないのかなって。特徴しか聞いてないから分からなかったけど。学校ではとても良くしてもらってると聞いてるよ」
良かった。
「メアリです。実はマーガレットにいつもお世話してもらってるのは、私の方なんです」
「その手に持ってるのは新聞? 孫の親友の頼みならできることならなんでもしてあげたいからね。お金ももちろんいらないよ。こないだアミって子が来て勝手に掲示板に貼り付けていったけど、その新聞はいらないからそこに貼ってもらって構わんよ」
その言葉に困ってしまう。自意識過剰なあのアミの事だ。後から新聞をまたこの店に見に来る可能性がある。そこに私のチラシが貼られてたらまた文句を言われるかもしれない。
「どれどれ、えっ、冒険者の募集? 冒険者は魔物退治が主な仕事で、危険なことも多いんだよ。まーでも、若い頃冒険者に憧れてそんな真似事したこともあるし、そう言えばこないだここに来てたハリソン彼がパーティを探してたな。あの子なら大丈夫だ」
「ワシがもっと若ければ一緒に行けるんじゃが、あいにく腰痛持ちで。もうあと10年若ければなあ」
そして、スポーツ刈りの青年がドアを勢いよく開けて入ってきた。
「オヤジー、トマトバーガー1個とシェイク頼むわ!」
「噂をすればなんとやらじゃな。ユウキお前、このメアリちゃんのパーティに入らんか?」
「? 確かに俺は魔王をぶっ倒すためのパーティーを探しているけど、ふっ、こんな少女にそれが務まるのか?」
「一度魔物退治とか連れてってあげたらどうなんだ? 調合学園の生徒だから社会勉強にもなるだろう。パーティーには調合師、僧侶、司祭といった職業もあるし、そもそも、お前さんどこのパーティーにも雇って貰えないって言ってなかったかな……」
ハリソンがおじいさんの口を無理やり塞いだことでそのあとの言葉が聞き取れなかったけど、何か問題があるのかもしれない。でも私には仲間が必要だ。
「ぜひお願いします。本当に困ってるんです。魔王を倒してドロップアイテムをゲットしないといけないのです!」
私の言葉にハリソンは感激してその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ぜひ入れて欲しい! というか、今から俺の技見せてやるよ。モンスターをちょちょいと刈りに行くけど付いてくるか? それを見てから判断してもらっても構わない」
「でも、良いんですか? 私はまだ調合師の卵ですよ」
「それでも魔王を倒すんだろ! 俺はさ、今まで色んなパーティに仲間にしてくれと頼んだんだけど、どいつもこいつも根性無しなんだよ。一つ聞かせてくれあんたは何がしたいんだ?」
私のしたいこと。それはジャックを救うこと。そのためには聖女様みたいにならないといけない。彼女のようにあらゆる調合に精通して、回復と補助の魔法を誰よりも抜きんでないといけない。
「わ、私は、聖女様になる!」
それを聞いてハリソンは涙を流すくらい笑った。でも、馬鹿にする笑いじゃなくて心から嬉しそうなそんな笑い方にコックさんまで釣られてしまう。
「そう。メアリがリーダーだ。それぐらい言ってくれないと俺も困るよ。俺の名前は佐藤ユウキ。いちおう戦士をやっている。目指すは世界一の騎士隊長。なんでそんなの目指してるかって。こんなとこじゃ言えない」
二人は街のそばでスライムを狩ることにした。スライムはE級モンスターで、モンスターランキングでは最下層に位置する。白くて弾力のある体が特徴で体当ぐらいしかしてこない。
ハリソンが短剣でスライムを切り、私は安心しながらぼーっと見学している。
剣術なんて見たことないけど、素人目で素質があるように見える。彼は地面を蹴ってダッシュすると目で追いつけないぐらいの速さで剣を振りあっという間に10匹ほどのスライムを倒したのだから。
「どう?」
「いいよ! 戦士の技とかもあるの?」
すると、彼は満更でも無い顔で、
「しゃーない。見せてあげようか。スラッシュ斬りを」
小脇に抱えた短剣を横に振ると、空気を切る刃が飛んで行った。
「えっ……」
それは5m離れたスライムの胴体を真っ二つにした。
「こんな凄い人だったの?」
「いんや、このくらいのこと戦士の卵でも出来るよ。ちなみにスラッシュは物質系に効くから、他のモンスターだと、人間もそうだけどここまでの威力はでないんだ。メアリに打ってみようか」
「やめてよっ」
「冗談だよ。それにしてもここにはもっと強い魔物は居ないのかよ! ハリソンの相手になれる魔物はっ!」
空を見上げて大声をあげるハリソンを見ていると、頼もしく思えてくる。
そうよ。もっと強い凶悪なモンスター出なさいよ。私も同じように復唱する。ポケットに王妃の彼のレオンから貰ったお守りを握って。
ずごおおーん。
地面が割れるかと思うぐらい大きな音がして、砂埃から現れたのは、体長3メートルぐらい一つ目で、体色の赤い筋骨隆々のサイクロプスであった。
な、なんで……。このサイクロプスは……A級モンスターじゃないの。これ倒せるのは騎士団の中でも隊長クラスだと聞いたことがある。とんでもないモンスターが現れた。
「ぐおおおおおおおおおおー」
サイクロプスの咆哮が辺りの山々に鳴り響く。そして私たちの方をちらっと見ると、ターゲットを絞ったかのように棍棒を振り回しながらこっちに走ってきた。
私は嫌な記憶が蘇り、我を忘れて叫ぶしか無かった。
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