聖女は復讐の為なら何でもします!

茜色 一凛

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十六話 「戦士ユウキ」

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「ひょっとこバーガーって変な名前」

 受付嬢から示された道を進むと、ハンバーガーの看板のある木造の建物にたどり着いた。

 炭火で焼いているのだろう、食欲をそそる肉を焼く匂いが、周りに充満している。お腹がぐーと鳴いて思わず辺りをキョロキョロしてしまう。

「なんじゃ?」

 扉をガランと開けると、カウンターの所に白ひげの年配のコックがいて手を動かしている。手元には色鮮やかな沢山のジュエルがあり、数えているところだった。

 タイミングよくないかも。

「おっとっとっ、びっくりさせないでくれ。お嬢ちゃん、ドアの張り紙は見たかい? この店まだ準備中なんじゃよ」

 そう言うお爺さんは慌てた様子でジュエルを机の引き出しにしまう。そして視線を私の制服に移し、途端に目が優しくなった。

「こんにちわ。お願いがあって来ました」

 突然訪れて話を聞いてもらえると思えないけど、もうここしか頼るべき場所は無かった。

「今は忙しいから、後にしてくれんか」

「そうですよね。急いでて準備中の札見てませんでした。ここは何時から開店なんです?」

「もしかして、調合学園の生徒さんか? 制服が孫とそっくりなんだが」

「はい! アップル学園の生徒です。今年入学したばかりです」

 ふと、意地悪なアミのおじいさんだったら、嫌だななんて考えて、ふと壁の掲示板を見ると嘘でしょ。アミの書いた新聞が貼り出されていて、目を擦る。

 そうだ。確か一週間前、アミがクラスの広報担当ということで、調合学園の日常生活の新聞を書いていた。

 ――まさか、アミのおじいさんの店じゃないよね? 頼んでもまたアイツに邪魔されるかもしれない。ほんとツイてない。

「この新聞ですけど、お孫さんの書かれたものです?」

「あー! 迷惑しとってのー。剥がすの忘れとったわい。それ目を離した隙に勝手に貼られてたんじゃ」

 そう口にすると、手を伸ばすと雑にベリッと破り、丸めてゴミ箱へと投げ込んだ。

 えええええー! けっこう孫に厳しいタイプなのかな? 大抵、お爺さんは孫を甘やかすもんだと思ってたけど、この家は違うみたい。

 孫の物でもこうなら赤の他人の私の掲示物なんて貼ってもらえるわけないか。

「私そろそろ、行きますね。お邪魔しました」

 そうして肩を落としながら店を出ることにした。

「もしかしてメアリちゃん? ショートボブの髪にピンクの蝶の髪飾りが付いているから」

「え? どうして……私のこと知っているんです?」

 名前も名乗ってないのに。私はこの街に来てまだ2ヶ月くらいしかたってないし、有名人じゃないはずだけど。

「実はな、孫のマーガレットが、親友のメアリちゃんの話をよくしておってな。特徴しか聞いてないから判断つかなかったのじゃが、やっぱりそうじゃったんだな。学校ではうちの孫に良くしてもらってると聞いとるよ」

 なんだ、マーガレットの実家なんだ。安心して胸を撫で下ろした。だったらお願いしたら話くらいは聞いてくれるかもしれない。

「そんな……。お世話になっているのは私の方なのに」

「その手に持ってるのはポスター? それを貼りたかったのかい? ちょっと見せてもらっても良いかな?」

「ほー、冒険者の募集? 冒険者は魔物退治が主な仕事で、危険なことも多いが。調合学園の生徒なら薬草系の素材採集の冒険じゃよな?」

 上目遣いで「はい」と返答する。

「ワシがもっと若ければ一緒に行けるんじゃがのー、あいにく腰痛持ちで。もうあと10年若けりゃのー」

「こないだ、冒険者になりたいユウキって子がおったな。あの子も君と同じぐらいの年齢で誰もパーティに入れて貰えず不貞腐れておったが」

 突如、バタンと音がして、丸刈りの青年がドアを勢いよく開けて入ってきた。

「オヤジー、トマトバーガー1個とシェイク頼むわ!」

「噂をすれば、ユウキお前、このメアリちゃんのパーティに入らんか?」

「冗談よしてくれ。俺は冒険はソロでって決めてるんだから」

「お前さんどこのパーティーにも入っておらんだろうに…」

 ユウキがおじいさんの口を無理やり塞ぐ。

 私と同じで何か事情があるのかもしれない。

「だったら今はフリーですよね?」

 ユウキは、視線を私の身体を上から下へ移動させるとふうとため息を吐く。

「あんたさ、戦闘経験はあるのか? そもそもなんで冒険者になんてなりたいの?」

「ありませんけど。これから少しずつ積んでいく予定です。友達がモンスターに石にされたので、治すための素材を採取しなければいけないの」

「石化? こんな城下町にそんなモンスターいたか? 嘘じゃないだろうな?」

「嘘じゃないです。証拠はありませんけど、学園にいけば校長とマーガレット、友達なんですけど、後は聖女様が証人です」

「え! せ、せっ、聖女さまだとおおおおおおっ」

 勇気は身体を後ろに反らせて酷く驚いている。頬が紅潮して、目にはうっすらと涙を浮かべている。

 まさか、聖女様のファン?

「あんた名前は? 聖女様とどんな関係なんだよ?」

「私はメアリ。聖女様は命の恩人でもあり、私に道を示してくれた方でもあります」

「実は俺も1回だけ彼女に助けられたことがあって、あれは冒険の初期、仲間に見捨てられてワイルドウルフに殺されそうになっている所を聖女様が助けてくれたんだ。まー、そういう経緯もあって仲間なんて信じてねーけど」

「それなら仕方ないですね」

 人には色々事情があるもんだし、多分仲間に見捨てられてトラウマになっているんだと思った。だから勧誘しても仲間になっては貰えないんだろう。

「ん? まー、ごめんな。人の事信用してないんだ。信じられるのはこれだけよ」

 ユウキは腰の短剣を抜くと目の前で構える。そして鞘にそっとしまう。

「メアリは冒険の目標とかあるのか?」

「私は憎い勇者に殺されかけたから、制裁を与えたいのもあるけど、それより友達を助けたいの!」




 ユウキ視点


 サンド村で平和な日々を送っていた少年、ユウキは幼なじみのミッシェルと魚釣りへと向かっていた。

「今日も大漁でママに褒めてもらうんだ」

「私、餌付けれないからつけてね」

「しゃーないなー。つけるからいつもの場所に行こう」

 僕も本当は虫とか触るの苦手なんだ。虫も針で刺すと体液が出るし、うねうねして気持ち悪い。でも魚が引くとミッシェルが胸の前でファイティングポーズをとって釣り上げると満面の笑みでかけてきて喜んでくれるとこが好きだった。

「ユウキー! 今日も大漁ね」

「あ、うん。、半分はミッシェルの分だから、持っていきな」

「いつもありがとう。えへへ」

 ミッシェルが顔を紅潮させて魚を受け取ろうとしたら、突如雷呪文がこちらに飛んできた。見ると勇者が魚を取るのに川に電撃魔法を放ち感電させてとっていたらしい。

 それはミッシェルの額を掠め、血が吹き出し、地面へと零れた。すぐ俺は勇者の元へと走った。

「あなたのせいで、ミッシェルが怪我をしたんです。回復魔法をかけてください」

「は! 何言ってんだこのガキは! うぜーな俺の視界からさっさと消えろ!」

 心無い言葉を口にする。これが国の英雄といわれるものなのかと絶望した。

 それから三年経ってもミッシェルはいつも麦わら帽子を深く被るようになり、顔から笑みが消えた。

「私お嫁にいけない。額に大きな傷が残ってしまって」

 ぶわっと涙を目に浮かべるミッシェルを見ているとこちらまで居た堪れない気持ちになってしまう。俺のせいだ。俺が川なんて連れていったせいで。数え切れないぐらい後悔した。

「俺が貰ってあげるから」

「他の人の目が怖いの」

 河原で俯く俺とミッシェルをたまたま通りがかりの聖女様が傷を治してくれた。

「あーねー! この調合でいいわ! 毎日朝起きたらこれを塗ってね。缶の中に入れとくから」

「あなたは?」

「名乗る程のものでも無いし、お代はいらないわ。二人ともいつまでも仲良くしなさいね」

 そう軽い口調で詮索することなく話すピンクの髪の女性が聖女様だと後に知った。

 あのバカ勇者を絶対に許さない。

 それから冒険者になり、勇者を倒すメンバーを探したが、誰も骨のあるやつなんていやしない。魔王を倒す程の力を秘めた英雄に歯向かうなんてありえないからだ。それどころか仲間を見捨てるやつしかこの街には居ない。

 はあ……。



「私は憎い勇者に殺されかけたから、制裁を与えたいのもあるけど、それより友達を助けたいの!」

 変な女だ。だが何故か俺の渇いた心に潤った水が注がれたような気がした。

 見た目は全然ダメだ。冒険者になりたい? 無理だろ。そんな華奢な身体でどうするつもりだ。笑える。どうせキツくなったらお前も逃げ出すんだろ。まあいいさ、暇つぶしでもしてやるか。

「いいぜ! 仲間になってやる!」
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