タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

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6話

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冬の放課後。

 外は木枯らしが吹く寒空だが、俺のマンションの自室は暖房が効いて生温かい。


 そこは今、俺が作り上げた歪な「箱庭」となっていた。

​「ん……ぁ、透くん……もっと……」
「透くん、私のも見て……。今日、頑張って耐えたの」


​ ソファに座る俺の足元、毛足の長いラグの上には、ミナとアイリが侍っていた。

 二人は競うように俺の膝に身を寄せ、猫のように甘えた声を出す。

 学校では誰からも無視され、汚物扱いされている彼女たちにとって、ここだけが唯一、自分を肯定してもらえる聖域なのだ。

​「ああ、よしよし。二人ともいい子だ」

​ 俺はミナの髪を優しく梳き、アイリの頬を親指で撫でる。

 まるで愛しい恋人に接するかのような、とろけるほど甘い手つきと声色。

​「ミナは今日、教科書を隠されても泣かなかったな。偉いぞ」

「えへへ……透くんが褒めてくれるなら、私なんでも平気」

「アイリも、机に花瓶を置かれても怒らなかった。我慢強いな、可愛いよ」

「本当……? 透くん、私のこと好き?」

「ああ、大好きだ。お前たちは俺の大切な宝物だからな」

​ 俺がそう囁くと、二人は恍惚とした表情で俺の太ももに顔を埋めた。

 完全に思考停止した、幸福な奴隷たち。

​ だが、その光景を、部屋の隅から冷ややかな目で見つめる少女が一人。

​「……気持ち悪い」
​ 桐島玲奈だ。

 彼女は腕を組み、壁に寄りかかって、俺たちを汚いモノを見るような目で見下ろしていた。

​「よくやるわね、あんたたち。そんなゴミみたいな男に媚び売って、プライドのかけらもないの?」

「玲奈」

​ ミナが俺の膝に頬を乗せたまま、虚ろな目で玲奈を睨み返す。

​「玲奈には分からないよ。透くんの優しさが」

「そうだよ。玲奈はかわいそう。透くんに愛してもらえないんだもん」

​「はぁ? 愛? バカじゃないの」
​ 玲奈は鼻で笑った。

 本心からの軽蔑だ。あんな風に男に媚びて、頭を撫でられて喜ぶなんて、家畜と変わらない。

 あんな扱い、私は絶対に御免だ。死んでもお断りだ。





​ ――そう、思っているはずなのに。





​ 俺がアイリの顎を持ち上げ、甘いキスを落とす。
 チュ、と水音が響く。

 アイリが幸せそうに頬を染め、俺の首に腕を回す。
俺は彼女の腰を抱き寄せ、大切そうに背中をさする。

​ その光景を見た瞬間、玲奈の胸の奥で、チリッとした不快な痛みが走った。


​(……なによ)


​ イラつく。無性にイラつく。

 あの二人のだらしない顔に? それとも、透のあの甘ったるい笑顔に?

 違う。
 私がイラついているのは、透が『私を無視している』ことだ。


​ この部屋に来てから一時間。透はずっとミナとアイリばかりを構っている。
 私には視線一つ寄越さない。
 まるで、この部屋に「桐島玲奈」なんて存在しないかのように。


​(別にいいけど。あんなゴミに構われても嬉しくないし)
(むしろ好都合よ。気持ち悪いことされなくて済むんだから)

​ 頭ではそう考えている。

 なのに、視線は俺の手元……ミナの髪を優しく撫でる指先に吸い寄せられてしまう。


 
 私には、あんな風に触れたことなんてないくせに。

 私にする時は、いつも乱暴で、痛くて、一方的なくせに。
 どうしてあいつらには、そんなに優しく笑うの?
 あいつらは「いい子」で、私は可愛げのない「道具」だから?

………ぇ?

​「……ッ」
​ 無自覚な嫉妬。


 玲奈は爪が食い込むほど自分の腕を抱きしめた。
 その殺気に気づいたのか、俺はようやく顔を上げ、玲奈の方を見た。

​「なんだ玲奈。まだいたのか」
​ 第一声が、それだった。

 ミナたちに向ける声とは真逆の、温度のない冷淡な声。

​「……帰っていいなら帰るわよ。見てるだけで吐き気がするし」

「そうか。じゃあ報告だけ置いていけ。くるみはどうした?」

「……今日は塾よ。それだけ」

「分かった。帰っていいぞ」

​ 俺は興味なさげに視線を切り、またアイリの耳元に何かを囁いて笑わせた。

 その徹底的な「無関心」に、玲奈の中で何かがプツンと切れた。

​ 彼女はドカドカと俺の前に歩み寄ると、乱暴に俺の胸ぐらを掴んだ。

​「二度は言わないぞ…離せ」

「……ッ!ムカつくのよ、あんたのその態度!」

「……」

「私だって……私だって、ちゃんと仕事してるじゃない! あいつらよりずっと有益な情報を持ってきてるじゃない!」

​ 玲奈自身も、自分が何を言っているのか分かっていなかった。
 ただ、自分を無視して、バカな女たちと戯れているのが許せなかった。

 私を見ろ。私を認めろ。

 そんな歪んだ独占欲が、叫びとなって溢れ出す。



​「なのに……なんで私には『ご褒美』がないのよ!?」
​ 部屋の空気が凍りついた。




 ミナとアイリが、ぽかんと口を開けて玲奈を見ている。

 玲奈自身も、自分の口から出た言葉に愕然として顔を赤らめた。


​「あ……ちが…、今のは……」


​ 俺はゆっくりと立ち上がり、動揺する玲奈を見下ろした。
 そして、ニヤリと口元を歪めた。
​「……なんだ。お前も欲しかったのか?」

「っ、違う! 言葉のあやよ! 誰があんたなんか!」

「素直じゃない犬だな」

​ 俺は玲奈の後頭部を強引に掴み、引き寄せた。
 だが、キスはしない。

 鼻先が触れるほどの距離で寸止めし、焦らすように瞳を覗き込む。

​「ミナたちみたいに『好き』って言えば、優しくしてやるよ」

「……ッ! 死んでも言わない!」

「そうか。なら、お前にはこれが似合いだ」

​ 俺は冷たく言い放つと、彼女の唇を乱暴に奪った。

 甘さなど欠片もない、所有印を刻みつけるような痛みを伴う口づけ。

 けれど玲奈は、抵抗するどころか、俺の服を強く握りしめ、震えながらその行為を受け入れていた。
​ 乱暴でもいい。痛くてもいい。


 今、この瞬間、透は「私だけ」を見ている。

 その事実に、背筋がゾクゾクするほどの暗い歓喜を感じてしまっている自分に、玲奈は気づかないフリをした。

​ 唇が離れる。

 俺は荒い息をつく玲奈を突き放し、またソファに座り直した。

​「満足したか? じゃあ帰れ」

​ 再び向けられた冷たい背中。

「…///……ッ!」
 玲奈は悔しそうに唇を噛み、真っ赤な顔で部屋を飛び出した。


​ パタン、とドアが閉まる。

 その音を聞きながら、俺は膝元のミナの頭を撫でつつ、心の中で嗤った。


​ 嫉妬。独占欲。
 一番扱いづらかった優等生が、一番深く沼に沈んでいく。
 その様は滑稽で、何よりも愛らしかった。
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