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16話
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カーテンの閉め切られた薄暗い部屋。
早川結衣は、布団にくるまりながらスマートフォンの画面を凝視していた。
『死ね』
『学校来んな泥棒』
『くるみ先輩を傷つけたクズ』
SNSの通知が鳴り止まない。
クラスのグループLINEからも、裏掲示板からも、絶え間なく罵詈雑言が届く。
外に出るのが怖い。
制服を見るだけで吐き気がする。
かつての正義感あふれる少女の姿は、そこにはなかった。
コン、コン。
窓ガラスが小さく叩かれる音がした。
結衣が怯えながらカーテンを少し開けると、そこには深澄透が立っていた。
彼はベランダから、人差し指を口に当てて「静かに」と合図している。
「と、透先輩……?」
結衣が窓を開けると、透は身軽に部屋へと入ってきた。
不法侵入だ。
だが、結衣にとって彼は唯一の理解者であり、救世主だった。
「ごめんね、玄関からだとご両親に迷惑がかかると思って」
「……」
結衣は俯いた。
来てくれて嬉しい。
でも、心のどこかで黒い感情が渦巻いていた。
どうして、もっと早く来てくれなかったの?
私が一番辛かった時、先輩はどこにいたの?
透は、そんな結衣の心を見透かしたように、痛ましげな表情で切り出した。
「遅くなってごめん。……すぐにでも飛んできたかったんだけど、できなかったんだ」
「え……?」
「くるみが、君を監視していたから」
透は悔しそうに拳を握りしめた。
「あいつは、俺が君と接触するのを待っていたんだ。もし俺がすぐに君を助けに来たら、『やっぱりグルだった』と言いふらして、もっと酷い噂を流すつもりだったんだよ。君のご両親の職場や、家の壁にスプレーで落書きをさせる準備までしていた」
「そ、そんな……」
「だから、俺は動けなかった。君が一人で耐えているのを知りながら、くるみの興味が逸れるのをじっと待つしかなかったんだ。……本当に、すまない」
透が頭を下げる。
嘘だ。
実際は、結衣が孤独に耐えられず完全に心が折れるのを待っていただけだ。
だが、その言葉は結衣の疑念を『感動』へと変えた。
(先輩は、私のために……耐えてくれていたんだ)
自分を守るために、あえて冷たく振る舞っていた。
その「優しさ」に、結衣は涙を流した。
「先輩……ううん、ありがとうございます。私、そんなことも知らずに……」
「いいんだ。君が無事でよかった」
透は泣きじゃくる結衣の背中を優しくさすりながら、本題を切り出した。
「もう、無理して学校に行く必要はないよ」
「え?」
「あんな地獄に戻らなくていい。君には、もっと大事な役割があるんだ」
透は結衣の机にあったノートパソコンを開き、電源を入れた。
「君の『眼』は優秀だ。尾行の才能も、些細な変化に気づく洞察力もある。それを学校という狭い箱の中で使うから潰されたんだ」
「……」
「これからは、ここから戦うんだ。ネットの海と、夜の街が君の戦場だ」
透は結衣に、一つの役割を与えた。
それは『情報収集』。
くるみの取り巻きたちのSNSを監視し、裏垢を特定し、弱みを見つけること。
そして時には、顔を隠して夜の街に出て、ターゲットを尾行し、決定的な証拠写真を撮ること。
「君は影になれ。誰にも気づかれず、全ての真実を暴く監視者に」
「影……」
「そうすれば、俺たちは勝てる。君が集めた情報が、いつか必ずくるみを追い詰める刃になる」
結衣の瞳に、暗い光が宿った。
学校に行かなくていい。誰にも会わなくていい。
ただ、この部屋で、あるいは誰にも知られずに、あいつらの秘密を暴けばいい。
それは、今の結衣にとって最高の『復讐』であり『生きる意味』だった。
「……やります。私、先輩の眼になります」
「ありがとう、結衣。頼りにしてるよ」
透は満足げに微笑み、結衣の頭を撫でた。
~~~~~~~~~~
帰り道。
夜風に吹かれながら、透は冷徹に計算していた。
(これでいい。結衣は完全にこちらの駒になった)
彼女には学校という枠組みは不要だ。
むしろ、社会から隔絶されている方が都合がいい。
余計な価値観に染まらず、俺のためだけに動く優秀なスパイになるからだ。
だが、問題は彼女の両親だ。
今は『不登校』で済んでいるが、いずれ高校進学の時期になれば無理やりにでも学校へ行かせようとするだろう。世間体を気にする親なら尚更だ。
(……金がいるな)
透は夜空を見上げた。
今はまだ、中学生の身分では大金を稼ぐことはできない。
だが、俺には未来の記憶がある。
数年後に高騰する株、仮想通貨、競馬の万馬券……金を生み出す情報は山ほどある。
高校生になれば、口座を作り、それらを実行に移せる。
莫大な資産を築くのに、そう時間はかからないはずだ。
(高校生になったら、結衣を買い取ろう)
その時が来たら、結衣の両親にすべてを話してやる。
娘が学校でどれほど酷いイジメを受けていたか。
教師も生徒も全員が敵で、娘の心がどれほど壊されたか。
詳細な証拠データを突きつけてやる。
その上で、一生遊んで暮らせるほどの「大金」を積むのだ。
『娘さんを預けてくれれば、一生面倒を見る。無理に学校に行かせて殺すより、その方が幸せだ』と。
金と、娘の命。その二つを天秤にかけさせれば、親は必ず口をつぐむ。
そうすれば、早川結衣は戸籍上だけの存在となり、実質的には俺だけの『私有物』となる。
「……今はまだ、雌伏の時だな」
透はポケットの中で拳を握った。
ミナ、アイリ、玲奈、そして結衣。
手駒は揃った。
あとは中学卒業までの残りの期間、くるみに気づかれないように力を蓄え、牙を研ぎ澄ますだけだ。
復讐の舞台である『高校』へ向けて、透の準備は着々と整いつつあった。
早川結衣は、布団にくるまりながらスマートフォンの画面を凝視していた。
『死ね』
『学校来んな泥棒』
『くるみ先輩を傷つけたクズ』
SNSの通知が鳴り止まない。
クラスのグループLINEからも、裏掲示板からも、絶え間なく罵詈雑言が届く。
外に出るのが怖い。
制服を見るだけで吐き気がする。
かつての正義感あふれる少女の姿は、そこにはなかった。
コン、コン。
窓ガラスが小さく叩かれる音がした。
結衣が怯えながらカーテンを少し開けると、そこには深澄透が立っていた。
彼はベランダから、人差し指を口に当てて「静かに」と合図している。
「と、透先輩……?」
結衣が窓を開けると、透は身軽に部屋へと入ってきた。
不法侵入だ。
だが、結衣にとって彼は唯一の理解者であり、救世主だった。
「ごめんね、玄関からだとご両親に迷惑がかかると思って」
「……」
結衣は俯いた。
来てくれて嬉しい。
でも、心のどこかで黒い感情が渦巻いていた。
どうして、もっと早く来てくれなかったの?
私が一番辛かった時、先輩はどこにいたの?
透は、そんな結衣の心を見透かしたように、痛ましげな表情で切り出した。
「遅くなってごめん。……すぐにでも飛んできたかったんだけど、できなかったんだ」
「え……?」
「くるみが、君を監視していたから」
透は悔しそうに拳を握りしめた。
「あいつは、俺が君と接触するのを待っていたんだ。もし俺がすぐに君を助けに来たら、『やっぱりグルだった』と言いふらして、もっと酷い噂を流すつもりだったんだよ。君のご両親の職場や、家の壁にスプレーで落書きをさせる準備までしていた」
「そ、そんな……」
「だから、俺は動けなかった。君が一人で耐えているのを知りながら、くるみの興味が逸れるのをじっと待つしかなかったんだ。……本当に、すまない」
透が頭を下げる。
嘘だ。
実際は、結衣が孤独に耐えられず完全に心が折れるのを待っていただけだ。
だが、その言葉は結衣の疑念を『感動』へと変えた。
(先輩は、私のために……耐えてくれていたんだ)
自分を守るために、あえて冷たく振る舞っていた。
その「優しさ」に、結衣は涙を流した。
「先輩……ううん、ありがとうございます。私、そんなことも知らずに……」
「いいんだ。君が無事でよかった」
透は泣きじゃくる結衣の背中を優しくさすりながら、本題を切り出した。
「もう、無理して学校に行く必要はないよ」
「え?」
「あんな地獄に戻らなくていい。君には、もっと大事な役割があるんだ」
透は結衣の机にあったノートパソコンを開き、電源を入れた。
「君の『眼』は優秀だ。尾行の才能も、些細な変化に気づく洞察力もある。それを学校という狭い箱の中で使うから潰されたんだ」
「……」
「これからは、ここから戦うんだ。ネットの海と、夜の街が君の戦場だ」
透は結衣に、一つの役割を与えた。
それは『情報収集』。
くるみの取り巻きたちのSNSを監視し、裏垢を特定し、弱みを見つけること。
そして時には、顔を隠して夜の街に出て、ターゲットを尾行し、決定的な証拠写真を撮ること。
「君は影になれ。誰にも気づかれず、全ての真実を暴く監視者に」
「影……」
「そうすれば、俺たちは勝てる。君が集めた情報が、いつか必ずくるみを追い詰める刃になる」
結衣の瞳に、暗い光が宿った。
学校に行かなくていい。誰にも会わなくていい。
ただ、この部屋で、あるいは誰にも知られずに、あいつらの秘密を暴けばいい。
それは、今の結衣にとって最高の『復讐』であり『生きる意味』だった。
「……やります。私、先輩の眼になります」
「ありがとう、結衣。頼りにしてるよ」
透は満足げに微笑み、結衣の頭を撫でた。
~~~~~~~~~~
帰り道。
夜風に吹かれながら、透は冷徹に計算していた。
(これでいい。結衣は完全にこちらの駒になった)
彼女には学校という枠組みは不要だ。
むしろ、社会から隔絶されている方が都合がいい。
余計な価値観に染まらず、俺のためだけに動く優秀なスパイになるからだ。
だが、問題は彼女の両親だ。
今は『不登校』で済んでいるが、いずれ高校進学の時期になれば無理やりにでも学校へ行かせようとするだろう。世間体を気にする親なら尚更だ。
(……金がいるな)
透は夜空を見上げた。
今はまだ、中学生の身分では大金を稼ぐことはできない。
だが、俺には未来の記憶がある。
数年後に高騰する株、仮想通貨、競馬の万馬券……金を生み出す情報は山ほどある。
高校生になれば、口座を作り、それらを実行に移せる。
莫大な資産を築くのに、そう時間はかからないはずだ。
(高校生になったら、結衣を買い取ろう)
その時が来たら、結衣の両親にすべてを話してやる。
娘が学校でどれほど酷いイジメを受けていたか。
教師も生徒も全員が敵で、娘の心がどれほど壊されたか。
詳細な証拠データを突きつけてやる。
その上で、一生遊んで暮らせるほどの「大金」を積むのだ。
『娘さんを預けてくれれば、一生面倒を見る。無理に学校に行かせて殺すより、その方が幸せだ』と。
金と、娘の命。その二つを天秤にかけさせれば、親は必ず口をつぐむ。
そうすれば、早川結衣は戸籍上だけの存在となり、実質的には俺だけの『私有物』となる。
「……今はまだ、雌伏の時だな」
透はポケットの中で拳を握った。
ミナ、アイリ、玲奈、そして結衣。
手駒は揃った。
あとは中学卒業までの残りの期間、くるみに気づかれないように力を蓄え、牙を研ぎ澄ますだけだ。
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