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18話
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カラオケボックスを出ると、外はすっかり夜の帳が下りていた。
駅前のネオンが、アスファルトの水たまりに毒々しい色を映している。
「あー、楽しかった! 透くんの話してると時間経つの早いね」
「ねー。もっと話したかったなぁ」
ミナとアイリは、まるでアイドルのライブ帰りかのような高揚した顔で歩いている。
その後ろを、桐島玲奈は深いため息をつきながらついていった。
「……あんたたち、本当に頭おかしいわよ」
「えー? 玲奈だって最後までいたじゃん」
「私は、あんたたちが変なことしないように監視してただけ」
玲奈の強がりを、二人はニヤニヤと見透かしたよ
うに笑い合った。
かつてなら、カースト上位の玲奈が睨めば、ミナたちは怯えて縮こまっていたはずだ。
だが、今は違う。ここには上下関係などない。あるのは『透に飼われている』という対等な立場だけ。
「ねえ、玲奈」
並んで歩いていたミナが、不意に真面目な顔で切り出した。
「高校、どうするの?」
玲奈の足が一瞬、止まりかけた。
進路。それは受験生である彼女たちにとって、目前に迫った現実だ。
玲奈の成績は学年でもトップクラスだ。この地域で一番の進学校を狙えるだけの実力がある。
(……透は、バカだもの)
玲奈は心の中で計算した。
深澄透の成績は、いつも平均点ギリギリだ。
授業中も寝ていることが多いし、テストの点数もパッとしない。
あいつの今の学力なら、行ける高校は限られている。底辺校か、せいぜい中堅校が関の山だろう。
なら――私が『地域トップの進学校』に行けば?
いくら透が私を脅しても、いくら写真をネタに命令しても、学力という壁だけは超えられない。
入試に落ちれば、あいつは私と同じ高校には来れないのだ。
物理的に距離が離れれば、監視の目も緩む。新しい高校で新しい人間関係を作れば、あいつの支配から逃れられるかもしれない。
「……まだ、考えてる途中よ」
玲奈は平静を装って嘘をついた。
「透と同じところを受けるつもり?」
「さあね。まあ、あいつに脅されたら考えなきゃいけないかもね」
ここで『私は進学校に行く』と言ってしまえば、透に告げ口されるかもしれない。
そうすれば、透は『レベルを落として俺と同じ高校に来い』と命令してくるだろう。
だから、ギリギリまで隠し通す。
願書を出す直前で、誰にも邪魔されない場所に逃げ込むのだ。
(これがあいつから逃れる、唯一のチャンス……)
玲奈はポケットの中で拳を握りしめ、希望という名の蜘蛛の糸に縋り付いていた。
「ふーん、そっか」
「私は透くんと一緒ならどこでもいいやー」
「うん、ずっと一緒がいいよね」
二人の能天気な声を背に、玲奈は暗い夜空を見上げた。
――勝った。
玲奈は密かに勝利を確信していた。
あいつは私の学力を知らない。
私が本気で勉強すれば、あいつの手の届かない場所へ行ける。
そう信じていた。
~~~~~~~~~~~~~
だが、玲奈は知らなかった。
これこそが、最大の誤算であることを。
彼女が目指しているその『地域トップの進学校』。
そここそが、深澄透が最初から狙い定めている標的だということを。
透は、一度目の人生でもその高校に通っていたのだ。
当時の透は、確かに凡人だった。
だが、『憧れのくるみと同じ高校に行きたい』という一途で惨めな執念だけで、死に物狂いで勉強し、ギリギリの成績で滑り込んだのだ。
しかし、入学後の彼は悲惨だった。
周りは天才や秀才ばかり。必死で入ったものの、透は常に学年最下位を彷徨うことになった。
そして、そこで出会ってしまったのだ。
圧倒的な美貌と才能を持つ、学園の女王・天堂真理愛に。
『顔だけはいいけど、頭は空っぽね』
そう見下され、彼女の引き立て役として利用されるには、『偏差値の高い学校にいる落ちこぼれ』という立場はあまりに都合が良すぎた。
だが、二度目は違う。
今の透は、わざと平均点を取って爪を隠しているだけだ。
彼の中には、一度目の人生で叩き込んだ受験知識と、復讐のために磨き上げた大学レベルの教養がある。
玲奈が必死に目指すその『頂』は、透にとっては散歩道のようなもの。
さらに、成績優秀なくるみも、当然のようにそこを目指している。
そしてミナとアイリも、透が裏で手を回して(あるいは猛勉強を強制して)、何としてでも定員割れやスポーツ推薦などの枠を使ってねじ込んでくるだろう。
玲奈が『逃げ場所』と思って選んだその場所は、逃げ場所どころか、『主要キャストが全員集結する地獄の特設リング』だったのだ。
そうとは知らず、玲奈は『あいつと離れられる』という甘い夢を見ながら、少しだけ足取りを軽くして帰路についた。
その先に待つ絶望が、どれほど深いものかも知らずに。
駅前のネオンが、アスファルトの水たまりに毒々しい色を映している。
「あー、楽しかった! 透くんの話してると時間経つの早いね」
「ねー。もっと話したかったなぁ」
ミナとアイリは、まるでアイドルのライブ帰りかのような高揚した顔で歩いている。
その後ろを、桐島玲奈は深いため息をつきながらついていった。
「……あんたたち、本当に頭おかしいわよ」
「えー? 玲奈だって最後までいたじゃん」
「私は、あんたたちが変なことしないように監視してただけ」
玲奈の強がりを、二人はニヤニヤと見透かしたよ
うに笑い合った。
かつてなら、カースト上位の玲奈が睨めば、ミナたちは怯えて縮こまっていたはずだ。
だが、今は違う。ここには上下関係などない。あるのは『透に飼われている』という対等な立場だけ。
「ねえ、玲奈」
並んで歩いていたミナが、不意に真面目な顔で切り出した。
「高校、どうするの?」
玲奈の足が一瞬、止まりかけた。
進路。それは受験生である彼女たちにとって、目前に迫った現実だ。
玲奈の成績は学年でもトップクラスだ。この地域で一番の進学校を狙えるだけの実力がある。
(……透は、バカだもの)
玲奈は心の中で計算した。
深澄透の成績は、いつも平均点ギリギリだ。
授業中も寝ていることが多いし、テストの点数もパッとしない。
あいつの今の学力なら、行ける高校は限られている。底辺校か、せいぜい中堅校が関の山だろう。
なら――私が『地域トップの進学校』に行けば?
いくら透が私を脅しても、いくら写真をネタに命令しても、学力という壁だけは超えられない。
入試に落ちれば、あいつは私と同じ高校には来れないのだ。
物理的に距離が離れれば、監視の目も緩む。新しい高校で新しい人間関係を作れば、あいつの支配から逃れられるかもしれない。
「……まだ、考えてる途中よ」
玲奈は平静を装って嘘をついた。
「透と同じところを受けるつもり?」
「さあね。まあ、あいつに脅されたら考えなきゃいけないかもね」
ここで『私は進学校に行く』と言ってしまえば、透に告げ口されるかもしれない。
そうすれば、透は『レベルを落として俺と同じ高校に来い』と命令してくるだろう。
だから、ギリギリまで隠し通す。
願書を出す直前で、誰にも邪魔されない場所に逃げ込むのだ。
(これがあいつから逃れる、唯一のチャンス……)
玲奈はポケットの中で拳を握りしめ、希望という名の蜘蛛の糸に縋り付いていた。
「ふーん、そっか」
「私は透くんと一緒ならどこでもいいやー」
「うん、ずっと一緒がいいよね」
二人の能天気な声を背に、玲奈は暗い夜空を見上げた。
――勝った。
玲奈は密かに勝利を確信していた。
あいつは私の学力を知らない。
私が本気で勉強すれば、あいつの手の届かない場所へ行ける。
そう信じていた。
~~~~~~~~~~~~~
だが、玲奈は知らなかった。
これこそが、最大の誤算であることを。
彼女が目指しているその『地域トップの進学校』。
そここそが、深澄透が最初から狙い定めている標的だということを。
透は、一度目の人生でもその高校に通っていたのだ。
当時の透は、確かに凡人だった。
だが、『憧れのくるみと同じ高校に行きたい』という一途で惨めな執念だけで、死に物狂いで勉強し、ギリギリの成績で滑り込んだのだ。
しかし、入学後の彼は悲惨だった。
周りは天才や秀才ばかり。必死で入ったものの、透は常に学年最下位を彷徨うことになった。
そして、そこで出会ってしまったのだ。
圧倒的な美貌と才能を持つ、学園の女王・天堂真理愛に。
『顔だけはいいけど、頭は空っぽね』
そう見下され、彼女の引き立て役として利用されるには、『偏差値の高い学校にいる落ちこぼれ』という立場はあまりに都合が良すぎた。
だが、二度目は違う。
今の透は、わざと平均点を取って爪を隠しているだけだ。
彼の中には、一度目の人生で叩き込んだ受験知識と、復讐のために磨き上げた大学レベルの教養がある。
玲奈が必死に目指すその『頂』は、透にとっては散歩道のようなもの。
さらに、成績優秀なくるみも、当然のようにそこを目指している。
そしてミナとアイリも、透が裏で手を回して(あるいは猛勉強を強制して)、何としてでも定員割れやスポーツ推薦などの枠を使ってねじ込んでくるだろう。
玲奈が『逃げ場所』と思って選んだその場所は、逃げ場所どころか、『主要キャストが全員集結する地獄の特設リング』だったのだ。
そうとは知らず、玲奈は『あいつと離れられる』という甘い夢を見ながら、少しだけ足取りを軽くして帰路についた。
その先に待つ絶望が、どれほど深いものかも知らずに。
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