タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

文字の大きさ
26 / 36

26話

しおりを挟む
​ ミナとアイリが落ち着きを取り戻し、リビングの空気が温まってきた頃。

 俺は、カップの縁を指でなぞりながら、もう一つの『報告』を切り出した。

​「父さん、母さん。実は、受験した高校のことなんだけど」

「ん? ああ、そういえば聞いてなかったな。どこを受けたんだ? やっぱり、今の成績で行けそうな私立か?」

​ 父さんが煎餅を齧りながら気楽に聞いてくる。
 俺の成績は今まで通り『中の下』だと思われている。当然の反応だ。

​「いや……実は、地域トップの進学校を受けたんだ」

「……ぶっ!」

​ 父さんがお茶を吹き出しそうになり、母さんが目を丸くした。

​「と、透!? あなた正気? あそこは偏差値70超えの超難関校よ?」

「今のあなたの成績じゃ、記念受験にしかならないんじゃ……」

​ 二人の反応は予想通りだ。

 俺は苦笑しながら、少し身を乗り出した。

​「分かってる。だから、この冬は死ぬ気で勉強したんだ。ミナとアイリにも手伝ってもらって、過去問を徹底的に分析した。……ギリギリだけど、手応えはある」

「ええっ……本当に?」

「うん。ちなみに、ミナとアイリも同じところを受けたよ」

​ 俺が二人に視線を向けると、ミナとアイリは少し照れくさそうに、でも誇らしげに胸を張った。
 
「はい! 透くんと一緒に頑張りました!」

「私たち、透くんについても行くって決めたんです!」

​ その真剣な眼差しに、両親は顔を見合わせ、やがて感心したように息を吐いた。

​「そうか……。友達と一緒に高め合うなんて、青春だなぁ」

「ええ、そうね。結果はどうあれ、挑戦することは大事だわ。……見直したわよ、透」
​ 両親は納得してくれたようだ。

 『無謀な挑戦』であっても、若者の熱意として受け取ってくれた。

​ すると、母さんがふと思い出したように手を打った。

​「そういえば! 進学校を受けるってことは……あの子も一緒よね?」

「え?」

「ほら、お隣のくるみちゃんよ!」

​ その名前が出た瞬間。

 部屋の空気が、ピキリと凍りついた。

​「くるみちゃん、小さい頃から賢かったものねぇ。あの子なら余裕で合格でしょうけど」

「ああ、くるみちゃんか。昔から透の面倒をよく見てくれてたし、いい子だよなぁ。透、最近くるみちゃんとはどうなんだ? 仲良くやってるのか?」

​ 父さんと母さんは、ニコニコしながら尋ねてくる。

 彼らの中の小日向くるみは、『透の幼馴染で、成績優秀で、誰にでも優しい天使のような女の子』のままだ。

 彼女が裏で何をしているか、どれほど多くの人間を傷つけ、人生を狂わせてきたかなど、微塵も疑っていない。

​「…………」
「…………」

​ 俺の隣で、ミナとアイリの表情が一瞬にして曇った。

 笑顔が引きつり、目には隠しきれない嫌悪と憎悪が宿る。

 彼女たちにとって、くるみは自分たちを利用し、ゴミのように捨てようとした元凶だ。

 『いい子』なんて言葉を聞くだけで、反吐が出るほどの拒絶反応を示している。

​ まずい。

 このままでは、二人が感情を爆発させてしまうかもしれない。

​ 俺はテーブルの下で、そっと手を伸ばした。

 そして、ミナとアイリの太ももを、強めに握りしめた。

​「ッ……!?」
「んっ……」
​ 二人の体がビクッと震える。

 俺は表面上は笑顔のまま、テーブルの下の手指に力を込めた。

 『落ち着け』『顔に出すな』『俺に任せろ』。

 その感触と言外の命令に、二人はハッと我に返り、必死に表情を作り直した。

 俺の手に縋るように、二人の手が俺の手の甲に重ねられる。震えは、すぐに止まった。

​ 俺は視線を両親に戻し、心の中で自問自答した。
​(……言うべきか?)

​ 今、ここで全てをぶちまけることもできる。

 くるみの本性を。

 あいつが俺にしてきたこと。ミナとアイリを道具として使い捨てたこと。

 裏掲示板での書き込み、万引きの強要、数々の陰湿なイジメ。

​ 証拠はある。結衣が集めたデータを見せれば、両親は信じるだろう。

 そうすれば、両親は激怒し、くるみの家に怒鳴り込むかもしれない。学校に訴えるかもしれない。
​ ……だが、それで何になる?

​ 両親は年に数ヶ月しか帰ってこない。

 俺を守りたくても、物理的にそばにいられないのだ。

 真実を知れば、二人は出張先で毎日不安に苛まれることになるだろう。『息子が虐げられているのではないか』と、仕事も手につかなくなるかもしれない。

 あるいは、無理に仕事を辞めて帰ってくるかもしれない。
​(……それは違う)

​ 俺の復讐は、俺自身の手で完遂しなければ意味がない。

 両親を巻き込み、彼らの人生まで狂わせるわけにはいかないのだ。

 前回の人生で、あんなに心配をかけて死なせてしまった二人だ。

 今回の人生では、最後まで『自慢の息子』であり続けたい。

​ たとえそれが、嘘で塗り固められた平和だとしても。
​ 俺は結論を出した。

 『伝えない』。

 くるみという悪魔の存在は、俺の腹の中だけに収めておく。

​「……うん、くるみも元気だよ」

​ 俺は完璧な『幼馴染』の顔で微笑んだ。

​「あいつも生徒会長として忙しそうだったけど、受験勉強も頑張ってたみたいだ。相変わらず人気者で、みんなの中心にいるよ」

​「そう! よかったわぁ。あの子がいるなら、高校生活も安心ね」

「ああ、透のことをよろしく頼んでおかないとな」
​ 両親は、心底安心したように顔をほころばせた。

 その笑顔を見て、俺は胸の奥が少しだけ痛んだが、同時にこれでいいのだと確信した。

​ 机の下で、ミナとアイリが俺の手をギュッと握り返してくる。

 彼女たちも理解したのだ。俺がなぜ嘘をついたのかを。

​ 父さんと母さんには、綺麗な世界だけを見ていてほしい。

 泥を被り、血を流すのは、俺たち子供だけで十分だ。

​「さ、お茶のおかわり淹れるわね」
​ 母さんが立ち上がる。

 リビングには再び、穏やかで偽りのない家族の時間が戻ってきた。

 俺はその温もりを守るためなら、いくらでも嘘つきになろうと誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...