タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

文字の大きさ
27 / 36

27話

しおりを挟む
リビングには、穏やかな時間が流れていた。

 母さんが淹れてくれたお茶の香りが漂う中、父さんがふとスケジュール帳を確認しながら言った。

​「そうだな……今回の滞在は、一週間くらいになりそうだ」

「えっ、そんなに短いの?」

「ああ。またすぐにロンドンへ飛ばなきゃいけないんだ。すまないな、透」

​ 父さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
 一週間…短い。

 だが、俺にとっては十分だ。彼らが日本にいる間に、済ませておかなければならないことがある。

​「せっかくだから、今日はミナちゃんとアイリちゃんも夕飯食べていきなさいよ。久しぶりに腕を振るうわ!」

「えっ、いいんですか!?」

「やったぁ……おばさんのご飯!」

​ 母さんの提案に、ミナとアイリが目を輝かせた。
 俺の両親に対する彼女たちの態度は、まるで本当の家族のように無邪気だ。俺の前で見せる『奴隷』の顔とは違う、年相応の少女の顔。
 それを引き出せる両親の存在感に、俺は改めて感心した。

​          

~~~~~~~~~~~


​ 夕食は、すき焼きだった。

 鍋を囲み、湯気が立ち上る中、俺たちは他愛のない話に花を咲かせた。

 そんな中、俺はタイミングを見計らって切り出した。

​「父さん。高校生になったら、自分名義の口座を作りたいんだ」

「ん? 口座か。お小遣いの管理か?」

「うん。あと、将来のために少し投資の勉強もしてみたいと思って」

​ 投資。中学生が言うには生意気かもしれないが、父さんは金融関係の仕事もしている。むしろ好意的に受け取るはずだ。

 案の定、父さんは興味深そうに頷いた。

​「いい心がけだ。若いうちから金の流れを知るのは悪くない」

「でも、未成年だし手続きが面倒だろ? 父さんがいる間にやっておきたいんだ」

「分かった。透が受ける高校の近くに、使い勝手のいい銀行の支店があるはずだ。明日、そこで手続きできるように手配しておくよ」

「ありがとう、助かるよ」
​ これで第一関門は突破だ。

 この口座があれば、俺は『未来の知識』を使って資金を増やせる。

 結衣を買い取るための身代金も、復讐のための活動資金も、全てここから生まれることになる。
​          



~~~~~~~~~~~

​ 楽しい夕食が終わり、夜の9時を回った頃。
 ミナとアイリは、名残惜しそうにしながらも帰っていった。

​「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」

「また遊びに来てね」

「はい! お邪魔しました!」
​ 玄関で見送り、ドアが閉まる。

 二人の気配が遠ざかると、家の中には再び静寂が戻った。

​ 俺がリビングに戻ろうとした時だった。
​「透。ちょっと座りなさい」

​ 父さんの声色が、さっきまでの優しいものとは違っていた。

 リビングに戻ると、父さんと母さんが、真剣な眼差しで俺を見ていた。

​「……何?」

「あの子たちのことだ」

​ 父さんが静かに切り出した。

​「透。ミナちゃんとアイリちゃん……あの子たち、本当は『ただの友達』じゃないだろう?」

​ 心臓がドクリと跳ねた。
 バレたのか?

 俺が彼女たちを洗脳し、支配していることが?

​「父さんと母さんはな、仕事柄、世界中の色々な場所へ行く。先進国の華やかな場所だけじゃない。貧困にあえぐ地域や、紛争があった場所にも行ったことがある」

「そこで、たくさんの『目』を見てきたわ」
​ 母さんが続ける。

​「何かに怯えている目。誰かに縋らないと生きていけない目。……そして、特定の誰かを『神様』のように崇拝している目」

​ 二人の言葉には、経験に裏打ちされた重みがあった。

 彼らは見てきたのだ。極限状態の人間の心理や、歪んだ依存関係を。

 だからこそ、ミナとアイリが俺に向ける視線の『異常性』に気づいてしまったのだ。

​「あの子たち、透のことを見る目が普通じゃなかった。あれは、恋とか憧れなんて生易しいものじゃない。もっと切迫した……『依存』に見えた」

「透。隠さずに言いなさい。あの子たちと、本当はどういう関係なんだ?」
​ 逃げ場はない。

 適当な嘘をついても、この二人には見透かされる。

 俺は観念したように息を吐き、少しだけ俯いた。

​「……さすがだね。敵わないな」

​ 俺は、「隠し事がバレた息子」の顔を作った。

 そして、用意していた『最も真実に近い嘘』を口にした。

​「実は……二人は、学校で酷いイジメを受けていたんだ」

「イジメ……?」

「ああ。クラスの女子グループから無視されたり、悪い噂を流されたりして……本当に孤立していた。誰にも頼れなくて、精神的に追い詰められていたんだ」

​ これは事実だ。俺がそう仕向けたのだが。

​「俺は、それを見過ごせなくて手を差し伸べた。話を聞いて、そばにいてやっただけだ。でも、二人にとってはそれが唯一の救いだったみたいで……」

​「だから、あんなに透に執着していたのか……」

​ 父さんが納得したように呟く。

 虐げられた人間が、救世主に過剰に依存する。その心理メカニズムなら、両親も理解できるはずだ。
​「でも、どうしてそれを隠していたの?」

「二人のためだよ」
​ 俺は真剣な目で母さんを見た。

​「もし、俺と仲良くしていることがバレたら、今度は俺まで標的にされるかもしれない。二人はそれを一番恐れてるんだ。『透くんに迷惑はかけられない』って」

「……なんて健気な子たちなの」

「それに、もうすぐ高校入試だったから。学校や親に知られて大ごとになったら、受験どころじゃなくなる。だから、高校に合格して環境が変わるまでは、こうして隠れて会うことにしたんだ」

​ 完璧なロジックだ。

 『異常な依存』の理由を『過酷なイジメ』にすり替え、『秘密にしている理由』を『二人を守るため』という美談にした。

​ 両親は、深く息を吐き出し、そして優しく微笑んだ。

​「そうか……。透、お前は本当に優しい子だな」

「疑って悪かったわ。あの子たちを守るために、必死だったのね」

​ 父さんと母さんの目には、涙すら浮かんでいる。
 彼らは納得しただけでなく、息子への評価をさらに高めたようだ。

 『傷ついた少女たちを陰ながら支えるヒーロー』。それが、今の俺の姿だ。

​「高校に行けば、環境も変わる。あの子たちもきっと立ち直れるはずだ」

「ええ。透、あの子たちのこと、これからも支えてあげてね」

​「……うん、分かってるよ」

​ 俺は力強く頷いた。

 支える? ああ、もちろん。

 彼女たちが骨の髄まで俺に依存し、二度と自分の足で歩けなくなるまで、徹底的に支えて(支配して)やるさ。

​ 両親の鋭い洞察を逆手に取り、俺はさらに強固な信頼を勝ち取った。

 これで、この家でのミナとアイリの立場は盤石だ。

​ 俺は安堵の息を漏らしながら、残った冷めたお茶を飲み干した。

 その味は、勝利の美酒のように甘かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...