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27話
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リビングには、穏やかな時間が流れていた。
母さんが淹れてくれたお茶の香りが漂う中、父さんがふとスケジュール帳を確認しながら言った。
「そうだな……今回の滞在は、一週間くらいになりそうだ」
「えっ、そんなに短いの?」
「ああ。またすぐにロンドンへ飛ばなきゃいけないんだ。すまないな、透」
父さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
一週間…短い。
だが、俺にとっては十分だ。彼らが日本にいる間に、済ませておかなければならないことがある。
「せっかくだから、今日はミナちゃんとアイリちゃんも夕飯食べていきなさいよ。久しぶりに腕を振るうわ!」
「えっ、いいんですか!?」
「やったぁ……おばさんのご飯!」
母さんの提案に、ミナとアイリが目を輝かせた。
俺の両親に対する彼女たちの態度は、まるで本当の家族のように無邪気だ。俺の前で見せる『奴隷』の顔とは違う、年相応の少女の顔。
それを引き出せる両親の存在感に、俺は改めて感心した。
~~~~~~~~~~~
夕食は、すき焼きだった。
鍋を囲み、湯気が立ち上る中、俺たちは他愛のない話に花を咲かせた。
そんな中、俺はタイミングを見計らって切り出した。
「父さん。高校生になったら、自分名義の口座を作りたいんだ」
「ん? 口座か。お小遣いの管理か?」
「うん。あと、将来のために少し投資の勉強もしてみたいと思って」
投資。中学生が言うには生意気かもしれないが、父さんは金融関係の仕事もしている。むしろ好意的に受け取るはずだ。
案の定、父さんは興味深そうに頷いた。
「いい心がけだ。若いうちから金の流れを知るのは悪くない」
「でも、未成年だし手続きが面倒だろ? 父さんがいる間にやっておきたいんだ」
「分かった。透が受ける高校の近くに、使い勝手のいい銀行の支店があるはずだ。明日、そこで手続きできるように手配しておくよ」
「ありがとう、助かるよ」
これで第一関門は突破だ。
この口座があれば、俺は『未来の知識』を使って資金を増やせる。
結衣を買い取るための身代金も、復讐のための活動資金も、全てここから生まれることになる。
~~~~~~~~~~~
楽しい夕食が終わり、夜の9時を回った頃。
ミナとアイリは、名残惜しそうにしながらも帰っていった。
「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」
「また遊びに来てね」
「はい! お邪魔しました!」
玄関で見送り、ドアが閉まる。
二人の気配が遠ざかると、家の中には再び静寂が戻った。
俺がリビングに戻ろうとした時だった。
「透。ちょっと座りなさい」
父さんの声色が、さっきまでの優しいものとは違っていた。
リビングに戻ると、父さんと母さんが、真剣な眼差しで俺を見ていた。
「……何?」
「あの子たちのことだ」
父さんが静かに切り出した。
「透。ミナちゃんとアイリちゃん……あの子たち、本当は『ただの友達』じゃないだろう?」
心臓がドクリと跳ねた。
バレたのか?
俺が彼女たちを洗脳し、支配していることが?
「父さんと母さんはな、仕事柄、世界中の色々な場所へ行く。先進国の華やかな場所だけじゃない。貧困にあえぐ地域や、紛争があった場所にも行ったことがある」
「そこで、たくさんの『目』を見てきたわ」
母さんが続ける。
「何かに怯えている目。誰かに縋らないと生きていけない目。……そして、特定の誰かを『神様』のように崇拝している目」
二人の言葉には、経験に裏打ちされた重みがあった。
彼らは見てきたのだ。極限状態の人間の心理や、歪んだ依存関係を。
だからこそ、ミナとアイリが俺に向ける視線の『異常性』に気づいてしまったのだ。
「あの子たち、透のことを見る目が普通じゃなかった。あれは、恋とか憧れなんて生易しいものじゃない。もっと切迫した……『依存』に見えた」
「透。隠さずに言いなさい。あの子たちと、本当はどういう関係なんだ?」
逃げ場はない。
適当な嘘をついても、この二人には見透かされる。
俺は観念したように息を吐き、少しだけ俯いた。
「……さすがだね。敵わないな」
俺は、「隠し事がバレた息子」の顔を作った。
そして、用意していた『最も真実に近い嘘』を口にした。
「実は……二人は、学校で酷いイジメを受けていたんだ」
「イジメ……?」
「ああ。クラスの女子グループから無視されたり、悪い噂を流されたりして……本当に孤立していた。誰にも頼れなくて、精神的に追い詰められていたんだ」
これは事実だ。俺がそう仕向けたのだが。
「俺は、それを見過ごせなくて手を差し伸べた。話を聞いて、そばにいてやっただけだ。でも、二人にとってはそれが唯一の救いだったみたいで……」
「だから、あんなに透に執着していたのか……」
父さんが納得したように呟く。
虐げられた人間が、救世主に過剰に依存する。その心理メカニズムなら、両親も理解できるはずだ。
「でも、どうしてそれを隠していたの?」
「二人のためだよ」
俺は真剣な目で母さんを見た。
「もし、俺と仲良くしていることがバレたら、今度は俺まで標的にされるかもしれない。二人はそれを一番恐れてるんだ。『透くんに迷惑はかけられない』って」
「……なんて健気な子たちなの」
「それに、もうすぐ高校入試だったから。学校や親に知られて大ごとになったら、受験どころじゃなくなる。だから、高校に合格して環境が変わるまでは、こうして隠れて会うことにしたんだ」
完璧なロジックだ。
『異常な依存』の理由を『過酷なイジメ』にすり替え、『秘密にしている理由』を『二人を守るため』という美談にした。
両親は、深く息を吐き出し、そして優しく微笑んだ。
「そうか……。透、お前は本当に優しい子だな」
「疑って悪かったわ。あの子たちを守るために、必死だったのね」
父さんと母さんの目には、涙すら浮かんでいる。
彼らは納得しただけでなく、息子への評価をさらに高めたようだ。
『傷ついた少女たちを陰ながら支えるヒーロー』。それが、今の俺の姿だ。
「高校に行けば、環境も変わる。あの子たちもきっと立ち直れるはずだ」
「ええ。透、あの子たちのこと、これからも支えてあげてね」
「……うん、分かってるよ」
俺は力強く頷いた。
支える? ああ、もちろん。
彼女たちが骨の髄まで俺に依存し、二度と自分の足で歩けなくなるまで、徹底的に支えて(支配して)やるさ。
両親の鋭い洞察を逆手に取り、俺はさらに強固な信頼を勝ち取った。
これで、この家でのミナとアイリの立場は盤石だ。
俺は安堵の息を漏らしながら、残った冷めたお茶を飲み干した。
その味は、勝利の美酒のように甘かった。
母さんが淹れてくれたお茶の香りが漂う中、父さんがふとスケジュール帳を確認しながら言った。
「そうだな……今回の滞在は、一週間くらいになりそうだ」
「えっ、そんなに短いの?」
「ああ。またすぐにロンドンへ飛ばなきゃいけないんだ。すまないな、透」
父さんは申し訳なさそうに眉を下げた。
一週間…短い。
だが、俺にとっては十分だ。彼らが日本にいる間に、済ませておかなければならないことがある。
「せっかくだから、今日はミナちゃんとアイリちゃんも夕飯食べていきなさいよ。久しぶりに腕を振るうわ!」
「えっ、いいんですか!?」
「やったぁ……おばさんのご飯!」
母さんの提案に、ミナとアイリが目を輝かせた。
俺の両親に対する彼女たちの態度は、まるで本当の家族のように無邪気だ。俺の前で見せる『奴隷』の顔とは違う、年相応の少女の顔。
それを引き出せる両親の存在感に、俺は改めて感心した。
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夕食は、すき焼きだった。
鍋を囲み、湯気が立ち上る中、俺たちは他愛のない話に花を咲かせた。
そんな中、俺はタイミングを見計らって切り出した。
「父さん。高校生になったら、自分名義の口座を作りたいんだ」
「ん? 口座か。お小遣いの管理か?」
「うん。あと、将来のために少し投資の勉強もしてみたいと思って」
投資。中学生が言うには生意気かもしれないが、父さんは金融関係の仕事もしている。むしろ好意的に受け取るはずだ。
案の定、父さんは興味深そうに頷いた。
「いい心がけだ。若いうちから金の流れを知るのは悪くない」
「でも、未成年だし手続きが面倒だろ? 父さんがいる間にやっておきたいんだ」
「分かった。透が受ける高校の近くに、使い勝手のいい銀行の支店があるはずだ。明日、そこで手続きできるように手配しておくよ」
「ありがとう、助かるよ」
これで第一関門は突破だ。
この口座があれば、俺は『未来の知識』を使って資金を増やせる。
結衣を買い取るための身代金も、復讐のための活動資金も、全てここから生まれることになる。
~~~~~~~~~~~
楽しい夕食が終わり、夜の9時を回った頃。
ミナとアイリは、名残惜しそうにしながらも帰っていった。
「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」
「また遊びに来てね」
「はい! お邪魔しました!」
玄関で見送り、ドアが閉まる。
二人の気配が遠ざかると、家の中には再び静寂が戻った。
俺がリビングに戻ろうとした時だった。
「透。ちょっと座りなさい」
父さんの声色が、さっきまでの優しいものとは違っていた。
リビングに戻ると、父さんと母さんが、真剣な眼差しで俺を見ていた。
「……何?」
「あの子たちのことだ」
父さんが静かに切り出した。
「透。ミナちゃんとアイリちゃん……あの子たち、本当は『ただの友達』じゃないだろう?」
心臓がドクリと跳ねた。
バレたのか?
俺が彼女たちを洗脳し、支配していることが?
「父さんと母さんはな、仕事柄、世界中の色々な場所へ行く。先進国の華やかな場所だけじゃない。貧困にあえぐ地域や、紛争があった場所にも行ったことがある」
「そこで、たくさんの『目』を見てきたわ」
母さんが続ける。
「何かに怯えている目。誰かに縋らないと生きていけない目。……そして、特定の誰かを『神様』のように崇拝している目」
二人の言葉には、経験に裏打ちされた重みがあった。
彼らは見てきたのだ。極限状態の人間の心理や、歪んだ依存関係を。
だからこそ、ミナとアイリが俺に向ける視線の『異常性』に気づいてしまったのだ。
「あの子たち、透のことを見る目が普通じゃなかった。あれは、恋とか憧れなんて生易しいものじゃない。もっと切迫した……『依存』に見えた」
「透。隠さずに言いなさい。あの子たちと、本当はどういう関係なんだ?」
逃げ場はない。
適当な嘘をついても、この二人には見透かされる。
俺は観念したように息を吐き、少しだけ俯いた。
「……さすがだね。敵わないな」
俺は、「隠し事がバレた息子」の顔を作った。
そして、用意していた『最も真実に近い嘘』を口にした。
「実は……二人は、学校で酷いイジメを受けていたんだ」
「イジメ……?」
「ああ。クラスの女子グループから無視されたり、悪い噂を流されたりして……本当に孤立していた。誰にも頼れなくて、精神的に追い詰められていたんだ」
これは事実だ。俺がそう仕向けたのだが。
「俺は、それを見過ごせなくて手を差し伸べた。話を聞いて、そばにいてやっただけだ。でも、二人にとってはそれが唯一の救いだったみたいで……」
「だから、あんなに透に執着していたのか……」
父さんが納得したように呟く。
虐げられた人間が、救世主に過剰に依存する。その心理メカニズムなら、両親も理解できるはずだ。
「でも、どうしてそれを隠していたの?」
「二人のためだよ」
俺は真剣な目で母さんを見た。
「もし、俺と仲良くしていることがバレたら、今度は俺まで標的にされるかもしれない。二人はそれを一番恐れてるんだ。『透くんに迷惑はかけられない』って」
「……なんて健気な子たちなの」
「それに、もうすぐ高校入試だったから。学校や親に知られて大ごとになったら、受験どころじゃなくなる。だから、高校に合格して環境が変わるまでは、こうして隠れて会うことにしたんだ」
完璧なロジックだ。
『異常な依存』の理由を『過酷なイジメ』にすり替え、『秘密にしている理由』を『二人を守るため』という美談にした。
両親は、深く息を吐き出し、そして優しく微笑んだ。
「そうか……。透、お前は本当に優しい子だな」
「疑って悪かったわ。あの子たちを守るために、必死だったのね」
父さんと母さんの目には、涙すら浮かんでいる。
彼らは納得しただけでなく、息子への評価をさらに高めたようだ。
『傷ついた少女たちを陰ながら支えるヒーロー』。それが、今の俺の姿だ。
「高校に行けば、環境も変わる。あの子たちもきっと立ち直れるはずだ」
「ええ。透、あの子たちのこと、これからも支えてあげてね」
「……うん、分かってるよ」
俺は力強く頷いた。
支える? ああ、もちろん。
彼女たちが骨の髄まで俺に依存し、二度と自分の足で歩けなくなるまで、徹底的に支えて(支配して)やるさ。
両親の鋭い洞察を逆手に取り、俺はさらに強固な信頼を勝ち取った。
これで、この家でのミナとアイリの立場は盤石だ。
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