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28話
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3月某日。
中学校の進路指導室前には、重苦しい緊張感が漂っていた。
今日は、高校入試の合否結果が、担任から個別に伝えられる日だ。
「……次、深澄」
「はい」
名前を呼ばれ、俺は重い扉を開けた。
中には、担任の教師が眉間に皺を寄せて座っていた。手元には一枚の通知書がある。
「深澄……お前な」
「はい」
「……正直、信じられん。まさか、あの点数で合格するとは」
先生は呆れたように息を吐き、そしてニヤリと笑った。
「合格だ、おめでとう。地域トップの進学校に滑り込みセーフだぞ」
「……ありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
内心では『計算通り』と舌を出しているが、表面上は『奇跡に感謝する謙虚な生徒』を演じる。
教室に戻ると、それぞれの結果を手にした生徒たちが一喜一憂していた。
小日向くるみは、当然のように涼しい顔で座っている。
「ま、余裕だし?」と取り巻きに話しているが、その目は既に高校生活での女王君臨を夢見ているようだった。
桐島玲奈は、通知書を胸に抱きしめ、震えるほどの安堵の表情を浮かべていた。
「受かった……これで、あの悪魔から逃げられる」
そう呟いているのが聞こえてきそうだ。
そして、廊下の隅。
ミナとアイリが、抱き合って泣いていた。
「うぅ……受かったよぉ……」
「私たち、透くんと同じ高校に……!」
彼女たちもまた、俺が叩き込んだ予想問題のおかげで、奇跡的な合格を果たしていた。
俺は二人に目配せをした。
『ここで騒ぐな』『他の奴らに知られる前に帰るぞ』。
二人はコクりと頷き、涙を拭って俺の後についてきた。
誰にも気づかれないように、俺たちは影のように校舎を後にした。
~~~~~~~~~~~~
「ただいま!」
「お邪魔します……!」
俺たちが家に駆け込むと、リビングで待機していた両親が飛び出してきた。
「どうだった!? 透、結果は!?」
「受かったよ。……三人とも、合格だ」
俺が通知書を見せると、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が上がった。
「やったああああ!!」
「凄いわ透! ミナちゃんもアイリちゃんも、本当におめでとう!」
父さんはガッツポーズをし、母さんは俺たち三人まとめて抱きしめた。
ミナとアイリは再び感極まって泣き出し、家の中はお祭り騒ぎになった。
「今日は祝いだ! 何でも好きなものを食わせてやる!」
「出前を取りましょう! お寿司にピザに、中華も頼んじゃうわよ!」
両親は次々と電話をかけ、テーブルの上には豪華な食事が所狭しと並べられた。
特上の寿司桶、Lサイズのピザ、エビチリに酢豚。
それは、ごく普通の家庭の、ごく普通の幸せな合格祝いの光景だった。
「美味しい……こんな美味しいお寿司、初めて……」
「幸せ……透くん、おめでとう……」
ミナとアイリは、口いっぱいに頬張りながら、幸せそうに笑い合った。
その笑顔には、かつての陰りはない。
ただ、大好きな人と一緒にいられる喜びだけが溢れていた。
~~~~~~~~~~~~
宴のあと。
満腹になったミナとアイリは、緊張の糸が切れたのか、リビングのソファで寄り添うように眠ってしまった。
スースーと規則正しい寝息を立てるその姿は、無防備な小動物のようだ。
俺と母さんは、テーブルの片付けをしながら、その寝顔を眺めていた。
父さんは書斎で仕事の電話をしている。
「……可愛い寝顔ね」
母さんが、慈愛に満ちた声で呟いた。
そして、ふと俺の方を向き、真剣な眼差しで問いかけた。
「ねえ、透」
「ん?」
「あなたにとって、あの子たちはどういう存在なの?」
その質問に、俺の手が止まる。
どういう存在か。
俺の復讐のための道具。
使い捨ての駒。
俺に依存し、俺のために汚れ仕事をする奴隷。
だが、そんな本音を口にするわけにはいかない。
俺は眠る二人を見つめ、静かに答えた。
「……放っておけない二人、かな」
それは、嘘ではなかった。
彼女たちは俺がいなければ生きていけない体に作り変えてしまった。だから、最後まで管理し、使い潰す責任がある。
そういう意味での『放っておけない』だ。
しかし、母さんはその言葉を、全く別の意味で受け取ったようだった。
「そう……放っておけない、か」
母さんは自分の中で勝手に納得し、嬉しそうに口元をほころばせた。
『守ってあげたい大切な存在』。そう解釈したのだろう。
「ふふっ。透も、いつの間にか男の顔になったわね」
「……買い被りすぎだよ」
俺は肩をすくめた。
母さんは「いいのよ、それで」と笑い、ミナとアイリの肩にブランケットを掛けた。
穏やかな夜。
だが、この平穏は長くは続かない。
春になれば、俺たちはあの高校へ行く。
そこには、玲奈が、くるみが、そして天堂真理愛が待っている。
俺は眠る二人の手駒を見下ろしながら、来るべき高校生活(復讐劇)の幕開けを静かに待った。
中学校の進路指導室前には、重苦しい緊張感が漂っていた。
今日は、高校入試の合否結果が、担任から個別に伝えられる日だ。
「……次、深澄」
「はい」
名前を呼ばれ、俺は重い扉を開けた。
中には、担任の教師が眉間に皺を寄せて座っていた。手元には一枚の通知書がある。
「深澄……お前な」
「はい」
「……正直、信じられん。まさか、あの点数で合格するとは」
先生は呆れたように息を吐き、そしてニヤリと笑った。
「合格だ、おめでとう。地域トップの進学校に滑り込みセーフだぞ」
「……ありがとうございます」
俺は深く頭を下げた。
内心では『計算通り』と舌を出しているが、表面上は『奇跡に感謝する謙虚な生徒』を演じる。
教室に戻ると、それぞれの結果を手にした生徒たちが一喜一憂していた。
小日向くるみは、当然のように涼しい顔で座っている。
「ま、余裕だし?」と取り巻きに話しているが、その目は既に高校生活での女王君臨を夢見ているようだった。
桐島玲奈は、通知書を胸に抱きしめ、震えるほどの安堵の表情を浮かべていた。
「受かった……これで、あの悪魔から逃げられる」
そう呟いているのが聞こえてきそうだ。
そして、廊下の隅。
ミナとアイリが、抱き合って泣いていた。
「うぅ……受かったよぉ……」
「私たち、透くんと同じ高校に……!」
彼女たちもまた、俺が叩き込んだ予想問題のおかげで、奇跡的な合格を果たしていた。
俺は二人に目配せをした。
『ここで騒ぐな』『他の奴らに知られる前に帰るぞ』。
二人はコクりと頷き、涙を拭って俺の後についてきた。
誰にも気づかれないように、俺たちは影のように校舎を後にした。
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「ただいま!」
「お邪魔します……!」
俺たちが家に駆け込むと、リビングで待機していた両親が飛び出してきた。
「どうだった!? 透、結果は!?」
「受かったよ。……三人とも、合格だ」
俺が通知書を見せると、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が上がった。
「やったああああ!!」
「凄いわ透! ミナちゃんもアイリちゃんも、本当におめでとう!」
父さんはガッツポーズをし、母さんは俺たち三人まとめて抱きしめた。
ミナとアイリは再び感極まって泣き出し、家の中はお祭り騒ぎになった。
「今日は祝いだ! 何でも好きなものを食わせてやる!」
「出前を取りましょう! お寿司にピザに、中華も頼んじゃうわよ!」
両親は次々と電話をかけ、テーブルの上には豪華な食事が所狭しと並べられた。
特上の寿司桶、Lサイズのピザ、エビチリに酢豚。
それは、ごく普通の家庭の、ごく普通の幸せな合格祝いの光景だった。
「美味しい……こんな美味しいお寿司、初めて……」
「幸せ……透くん、おめでとう……」
ミナとアイリは、口いっぱいに頬張りながら、幸せそうに笑い合った。
その笑顔には、かつての陰りはない。
ただ、大好きな人と一緒にいられる喜びだけが溢れていた。
~~~~~~~~~~~~
宴のあと。
満腹になったミナとアイリは、緊張の糸が切れたのか、リビングのソファで寄り添うように眠ってしまった。
スースーと規則正しい寝息を立てるその姿は、無防備な小動物のようだ。
俺と母さんは、テーブルの片付けをしながら、その寝顔を眺めていた。
父さんは書斎で仕事の電話をしている。
「……可愛い寝顔ね」
母さんが、慈愛に満ちた声で呟いた。
そして、ふと俺の方を向き、真剣な眼差しで問いかけた。
「ねえ、透」
「ん?」
「あなたにとって、あの子たちはどういう存在なの?」
その質問に、俺の手が止まる。
どういう存在か。
俺の復讐のための道具。
使い捨ての駒。
俺に依存し、俺のために汚れ仕事をする奴隷。
だが、そんな本音を口にするわけにはいかない。
俺は眠る二人を見つめ、静かに答えた。
「……放っておけない二人、かな」
それは、嘘ではなかった。
彼女たちは俺がいなければ生きていけない体に作り変えてしまった。だから、最後まで管理し、使い潰す責任がある。
そういう意味での『放っておけない』だ。
しかし、母さんはその言葉を、全く別の意味で受け取ったようだった。
「そう……放っておけない、か」
母さんは自分の中で勝手に納得し、嬉しそうに口元をほころばせた。
『守ってあげたい大切な存在』。そう解釈したのだろう。
「ふふっ。透も、いつの間にか男の顔になったわね」
「……買い被りすぎだよ」
俺は肩をすくめた。
母さんは「いいのよ、それで」と笑い、ミナとアイリの肩にブランケットを掛けた。
穏やかな夜。
だが、この平穏は長くは続かない。
春になれば、俺たちはあの高校へ行く。
そこには、玲奈が、くるみが、そして天堂真理愛が待っている。
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