タイムリープした俺には逆らえない〜未来の知識で嗜む復讐のカルテ〜

刹那冥夜

文字の大きさ
28 / 36

28話

しおりを挟む
​ 3月某日。

 中学校の進路指導室前には、重苦しい緊張感が漂っていた。

 今日は、高校入試の合否結果が、担任から個別に伝えられる日だ。

​「……次、深澄」

「はい」

​ 名前を呼ばれ、俺は重い扉を開けた。

 中には、担任の教師が眉間に皺を寄せて座っていた。手元には一枚の通知書がある。

​「深澄……お前な」

「はい」

「……正直、信じられん。まさか、あの点数で合格するとは」

​ 先生は呆れたように息を吐き、そしてニヤリと笑った。

​「合格だ、おめでとう。地域トップの進学校に滑り込みセーフだぞ」

「……ありがとうございます」

​ 俺は深く頭を下げた。

 内心では『計算通り』と舌を出しているが、表面上は『奇跡に感謝する謙虚な生徒』を演じる。

​ 教室に戻ると、それぞれの結果を手にした生徒たちが一喜一憂していた。

​ 小日向くるみは、当然のように涼しい顔で座っている。

 「ま、余裕だし?」と取り巻きに話しているが、その目は既に高校生活での女王君臨を夢見ているようだった。

​ 桐島玲奈は、通知書を胸に抱きしめ、震えるほどの安堵の表情を浮かべていた。

 「受かった……これで、あの悪魔から逃げられる」

 そう呟いているのが聞こえてきそうだ。
​ そして、廊下の隅。
 ミナとアイリが、抱き合って泣いていた。

​「うぅ……受かったよぉ……」

「私たち、透くんと同じ高校に……!」

​ 彼女たちもまた、俺が叩き込んだ予想問題のおかげで、奇跡的な合格を果たしていた。

​ 俺は二人に目配せをした。
 『ここで騒ぐな』『他の奴らに知られる前に帰るぞ』。

 二人はコクりと頷き、涙を拭って俺の後についてきた。

 誰にも気づかれないように、俺たちは影のように校舎を後にした。
​          


~~~~~~~~~~~~

​ 「ただいま!」

 「お邪魔します……!」

​ 俺たちが家に駆け込むと、リビングで待機していた両親が飛び出してきた。

​「どうだった!? 透、結果は!?」

「受かったよ。……三人とも、合格だ」

​ 俺が通知書を見せると、一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が上がった。

​「やったああああ!!」

「凄いわ透! ミナちゃんもアイリちゃんも、本当におめでとう!」

​ 父さんはガッツポーズをし、母さんは俺たち三人まとめて抱きしめた。

 ミナとアイリは再び感極まって泣き出し、家の中はお祭り騒ぎになった。

​「今日は祝いだ! 何でも好きなものを食わせてやる!」

「出前を取りましょう! お寿司にピザに、中華も頼んじゃうわよ!」

​ 両親は次々と電話をかけ、テーブルの上には豪華な食事が所狭しと並べられた。

 特上の寿司桶、Lサイズのピザ、エビチリに酢豚。

 それは、ごく普通の家庭の、ごく普通の幸せな合格祝いの光景だった。

​「美味しい……こんな美味しいお寿司、初めて……」
「幸せ……透くん、おめでとう……」

​ ミナとアイリは、口いっぱいに頬張りながら、幸せそうに笑い合った。

 その笑顔には、かつての陰りはない。

 ただ、大好きな人と一緒にいられる喜びだけが溢れていた。
​          


~~~~~~~~~~~~

​ 宴のあと。
 満腹になったミナとアイリは、緊張の糸が切れたのか、リビングのソファで寄り添うように眠ってしまった。

 スースーと規則正しい寝息を立てるその姿は、無防備な小動物のようだ。

​ 俺と母さんは、テーブルの片付けをしながら、その寝顔を眺めていた。

 父さんは書斎で仕事の電話をしている。
​「……可愛い寝顔ね」

​ 母さんが、慈愛に満ちた声で呟いた。

 そして、ふと俺の方を向き、真剣な眼差しで問いかけた。

​「ねえ、透」

「ん?」

「あなたにとって、あの子たちはどういう存在なの?」
​ その質問に、俺の手が止まる。
 どういう存在か。
 
 俺の復讐のための道具。
 使い捨ての駒。
 俺に依存し、俺のために汚れ仕事をする奴隷。
​ だが、そんな本音を口にするわけにはいかない。
 俺は眠る二人を見つめ、静かに答えた。

​「……放っておけない二人、かな」
​ それは、嘘ではなかった。

 彼女たちは俺がいなければ生きていけない体に作り変えてしまった。だから、最後まで管理し、使い潰す責任がある。

 そういう意味での『放っておけない』だ。
​ しかし、母さんはその言葉を、全く別の意味で受け取ったようだった。

​「そう……放っておけない、か」

​ 母さんは自分の中で勝手に納得し、嬉しそうに口元をほころばせた。

 『守ってあげたい大切な存在』。そう解釈したのだろう。

​「ふふっ。透も、いつの間にか男の顔になったわね」

「……買い被りすぎだよ」

​ 俺は肩をすくめた。

 母さんは「いいのよ、それで」と笑い、ミナとアイリの肩にブランケットを掛けた。

​ 穏やかな夜。
 だが、この平穏は長くは続かない。

 春になれば、俺たちはあの高校へ行く。
 そこには、玲奈が、くるみが、そして天堂真理愛が待っている。

​ 俺は眠る二人の手駒を見下ろしながら、来るべき高校生活(復讐劇)の幕開けを静かに待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...