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一章
七話:穏やかな寝息
しおりを挟む耳元でグレアの寝息が聞こえる。
穏やか且つ優しいその音に、俺もつられて段々眠く――なる筈もなく。この俺『ジーク』は今、とてもとても焦っていた。
(やばいやばい、やばいって……何時までココに閉じ込められるんだ俺は!!)
この国の次期当主『グレア』に、突然王宮へ連れられて来て早数日。
あれから一体どれ程の時間が経過したのか――日を追うごとに焦りが募り、精神状態は最悪だ。グレアの前では何とか『いつも通り』に振る舞ってはいるが、ソレもいつ爆発するか分からない。
現在俺が居るのは、王宮の七階。部屋の内観はシンプルだが整っており、シャワーやトイレ、ベッドなどがある。グレアの部下『ロン』曰く、ここは普段からグレアが寝室として使用している部屋らしい。
(さっさとココから逃げて……兄貴に会わないと)
兄貴に帽子を届けるべく外出し、こんな事態になってしまった。優しい兄貴のことだ。きっと今頃、居なくなった俺を心配して『あちこち』探し回ってるに違いない。一刻も早く戻るためにも、とにかく今は『ココから逃げ出す方法』を探さないと。
後ろで眠るグレアを他所に、俺は必死に思考を凝らす。
(寝てるところを襲っても……もしバレたら、何をされるか分かったもんじゃない)
俺はぎゅっと目を瞑ると、これまでの生活で『分かったこと』を振り返る事にした。
まずは『グレアが俺に会いに来るタイミング』から。
アイツは、俺を部屋に閉じ込めるイカれた男だが、一応この国の次期当主だ。普段は仕事に追われているのだろう。グレアが俺に会いに来るのは、決まって『食事と寝るとき』の数回だけだ。それ以外は、グレアの部下である『ロン』が様子を見にやってくるが……タイミングが合えば、部屋から抜け出すのはまず可能だろう。
しかし、問題はこれだけじゃあない。
もう一つ分かったのは『王宮の中にはいろんな人がいる』ということだ。これはロンに教えてもらった話だが……王宮内はとても広く『剣を持った危ない大男』や『食料を巧みに操れる凄腕の魔女』や『大量の書類に襲われるヒト』など、様々な人物が居るという。
「外は危険なので、出ない方が身のためですよ」とにっこり笑うロンの姿は、グレアの不気味な笑顔と比べて、何十倍も優しそうに見えた。だからきっと、ロンの言ってることは本当だと思う。
(グレアやロン、それから……外にいる奴らにも、見つからないようにしないと)
頭の中が整理できても、肝心の『逃げる方法』が思い浮かばない。
夜はどんどん深みを増す。必死に思考し続けていた俺の頭は、やがて――グレアの穏やかな寝息につられるよう、ゆっくりと意識を手放した。
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