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一章
三十三話:準備はいいかい
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王宮の最上階にて。
入り口には、武器を持った『門番』と思しき二人の大男が血だらけの状態で倒れ込んでいた。
ノルは血の付いた頬を手で拭うと、早速室内を見渡し始める。
すると直後、長い廊下を渡った末にある部屋の中で、誰かの動く音が響いた。
「やあキル。その様子だと、仕事は果たしたようだね」
ノルは背後からの足音に気が付くと、振り向くことなく呟いた。
「っす。警備隊なら全員片付けました」
紅の瞳が、漸く男を視界に入れる。
人気を失ったソコは、二人だけの空間に包まれている。相も変わらず返り血まみれのキルを前に、ノルは「わあ」と穏やかな笑みを零した。
「んーそれにしては、物足りない表情だね」
「弱いやつばっかりで手応え無かったんで。『アイツ』もいなかったし」
「ああ、ロンのことかい? 警備の中に居なかったのなら、きっと客の誘導でもしているんだろう。グレアが指示しそうな役回りだ」
ノルは机の引き出しから『怪しげな鍵』を取り出すと、それを片手に部屋から出て来た。
「警備がたった一人の男を相手に全滅するなんて……これで王宮のイメージは、幾分か下がっただろうね。もちろん、信用も」
「つか、簡単に侵入を許す時点でアホすよ。攻め放題とかマジで笑えねえ。ノルさんが当主になればもっと……」
そこまで言って、キルは口を噤んだ。
青い瞳が、ただ静かにノルを見ている。何のためにここへ来たのか――それを分かっているからこそ、キルは言葉を飲み込んだのだ。
「……で、他の奴らは?」
「予定通り、ウィンには『仕事』を。その他は『研究室』へ向かったよ」
「ああ、暗殺計画の」
「うん。今回は、あくまで『王宮の印象下げ』と『暗殺に向けての準備』だからね。お散歩気分で楽しいよ」
呑気に笑うノルを前に、キルは「そすか」と淡々と返す。紅の瞳を光らせて、ノルは手中の鍵を握り締めた。
「僕らは今から『資料庫』へ向かうよ。準備はいいかい、キル」
「うーす」
資料庫には、王宮が管理する『ありとあらゆる情報』がある。市民には流せないような機密情報は勿論、次期当主を不利にする物も。
「この鍵を使えば、資料庫で厳重管理されている『過去の記録』を見ることが出来る。ポチの様子も心配だし、少し急ごうか」
ノルはそういって歩き出す。冷静沈着な男の後姿はとても楽しそうに見えた。
「すげえ気に入ってんすね。あの雑用のこと」
「それはキルも同じだろう。僕らを前にしても怖気づかない一般市民なんて、きっと彼くらいだよ」
「まあ、たしかに」
後に続くよう、キルも歩を進める。目的地へ向かう途中。ノルは小さく笑みを浮かべると、過去の出来事を思い出していた。
入り口には、武器を持った『門番』と思しき二人の大男が血だらけの状態で倒れ込んでいた。
ノルは血の付いた頬を手で拭うと、早速室内を見渡し始める。
すると直後、長い廊下を渡った末にある部屋の中で、誰かの動く音が響いた。
「やあキル。その様子だと、仕事は果たしたようだね」
ノルは背後からの足音に気が付くと、振り向くことなく呟いた。
「っす。警備隊なら全員片付けました」
紅の瞳が、漸く男を視界に入れる。
人気を失ったソコは、二人だけの空間に包まれている。相も変わらず返り血まみれのキルを前に、ノルは「わあ」と穏やかな笑みを零した。
「んーそれにしては、物足りない表情だね」
「弱いやつばっかりで手応え無かったんで。『アイツ』もいなかったし」
「ああ、ロンのことかい? 警備の中に居なかったのなら、きっと客の誘導でもしているんだろう。グレアが指示しそうな役回りだ」
ノルは机の引き出しから『怪しげな鍵』を取り出すと、それを片手に部屋から出て来た。
「警備がたった一人の男を相手に全滅するなんて……これで王宮のイメージは、幾分か下がっただろうね。もちろん、信用も」
「つか、簡単に侵入を許す時点でアホすよ。攻め放題とかマジで笑えねえ。ノルさんが当主になればもっと……」
そこまで言って、キルは口を噤んだ。
青い瞳が、ただ静かにノルを見ている。何のためにここへ来たのか――それを分かっているからこそ、キルは言葉を飲み込んだのだ。
「……で、他の奴らは?」
「予定通り、ウィンには『仕事』を。その他は『研究室』へ向かったよ」
「ああ、暗殺計画の」
「うん。今回は、あくまで『王宮の印象下げ』と『暗殺に向けての準備』だからね。お散歩気分で楽しいよ」
呑気に笑うノルを前に、キルは「そすか」と淡々と返す。紅の瞳を光らせて、ノルは手中の鍵を握り締めた。
「僕らは今から『資料庫』へ向かうよ。準備はいいかい、キル」
「うーす」
資料庫には、王宮が管理する『ありとあらゆる情報』がある。市民には流せないような機密情報は勿論、次期当主を不利にする物も。
「この鍵を使えば、資料庫で厳重管理されている『過去の記録』を見ることが出来る。ポチの様子も心配だし、少し急ごうか」
ノルはそういって歩き出す。冷静沈着な男の後姿はとても楽しそうに見えた。
「すげえ気に入ってんすね。あの雑用のこと」
「それはキルも同じだろう。僕らを前にしても怖気づかない一般市民なんて、きっと彼くらいだよ」
「まあ、たしかに」
後に続くよう、キルも歩を進める。目的地へ向かう途中。ノルは小さく笑みを浮かべると、過去の出来事を思い出していた。
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