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一章
三十四話:魔法使い2
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突然現れた男『シア・ジャック』の青い瞳は、強い復讐心に囚われていた。だからだろうか……目的のために手段を択ばない無謀な姿は、ノルの心を動かした。
――面白そうだな、と思い遊び半分で無理やり酒を飲ませてみると、男はすぐに酔い潰れてしまった。
(お酒は苦手だったのかな、顔が真っ赤だ)
「ポチ、水を飲もう。歓迎会はおわりだよ」
「……ん、んんっ」
ソファに凭れ掛かった状態で、シアは適当に相槌を打っていた。ノルは欠伸をするキルに「あとは任せて」と自室に返し、酔っ払いに水を渡した。その時だった。
「……一緒に寝よう」
目前から伸びてきた腕に、ノルの身体は有無を言わせず抱きしめられてしまう。
「んーポチ、水を飲もうか」
「兄ちゃんが居るからもう大丈夫だ……こわくないからな」
シアはそういって少し微笑むと、ノルの頭をやさしく撫でて来た。一体だれと間違えているのか――と言っても、所詮は酔っ払いだ。力ずくで離れることなど造作もない。だがノルは、抵抗しようとはしなかった。ただ目を丸くさせ、黙ってシアを見上げている。
「もう離さないからな、兄ちゃんと一緒にいよう」
「……ポチは、弟が居るのかな」
「ずっとずっと、いっしょだ」
抱きしめる力が強くなる。幻覚でも見ているのだろう。誰かに抱きしめられ、且つそれを不快に思わなかったのは初めてだった。
暖かな体温に身を委ねながら、ノルは遠い目をする。
「弟なんて、嫌な存在だよ」
勝手に口から飛び出した言葉に、思わず目を見開いた。無意識だった。自分は酔っ払い相手に何を言っているのだろう。突然込み上げて来た呆れを理由に、ノルはシアから離れようとした。
しかし――
「そっか、今まで我慢してたんだな」
耳元で聞こえた優しい声に、動きを止める。酔っていて不鮮明な意識にも拘わらず、シアは突然ノルの頭を撫でて来た。
「これからは一人じゃないぞ」
相手は酔っている、正気じゃない。そんなことは分かり切っていた。
でも、それでも――まるで自分の為だけに発せられたような、お世辞でも皮肉でもない純粋な言葉は、ノルの心を温かくしてくれた。
「ポチは……魔法使いみたいだね」
当然、相手には届かない。
きっと朝になれば、この会話も忘れてしまうのだろう。
(それでも、今だけ――)
ノルは小さく息を吐くと、自分を宥める酔っ払いを、強く強く、抱きしめ返した。
――面白そうだな、と思い遊び半分で無理やり酒を飲ませてみると、男はすぐに酔い潰れてしまった。
(お酒は苦手だったのかな、顔が真っ赤だ)
「ポチ、水を飲もう。歓迎会はおわりだよ」
「……ん、んんっ」
ソファに凭れ掛かった状態で、シアは適当に相槌を打っていた。ノルは欠伸をするキルに「あとは任せて」と自室に返し、酔っ払いに水を渡した。その時だった。
「……一緒に寝よう」
目前から伸びてきた腕に、ノルの身体は有無を言わせず抱きしめられてしまう。
「んーポチ、水を飲もうか」
「兄ちゃんが居るからもう大丈夫だ……こわくないからな」
シアはそういって少し微笑むと、ノルの頭をやさしく撫でて来た。一体だれと間違えているのか――と言っても、所詮は酔っ払いだ。力ずくで離れることなど造作もない。だがノルは、抵抗しようとはしなかった。ただ目を丸くさせ、黙ってシアを見上げている。
「もう離さないからな、兄ちゃんと一緒にいよう」
「……ポチは、弟が居るのかな」
「ずっとずっと、いっしょだ」
抱きしめる力が強くなる。幻覚でも見ているのだろう。誰かに抱きしめられ、且つそれを不快に思わなかったのは初めてだった。
暖かな体温に身を委ねながら、ノルは遠い目をする。
「弟なんて、嫌な存在だよ」
勝手に口から飛び出した言葉に、思わず目を見開いた。無意識だった。自分は酔っ払い相手に何を言っているのだろう。突然込み上げて来た呆れを理由に、ノルはシアから離れようとした。
しかし――
「そっか、今まで我慢してたんだな」
耳元で聞こえた優しい声に、動きを止める。酔っていて不鮮明な意識にも拘わらず、シアは突然ノルの頭を撫でて来た。
「これからは一人じゃないぞ」
相手は酔っている、正気じゃない。そんなことは分かり切っていた。
でも、それでも――まるで自分の為だけに発せられたような、お世辞でも皮肉でもない純粋な言葉は、ノルの心を温かくしてくれた。
「ポチは……魔法使いみたいだね」
当然、相手には届かない。
きっと朝になれば、この会話も忘れてしまうのだろう。
(それでも、今だけ――)
ノルは小さく息を吐くと、自分を宥める酔っ払いを、強く強く、抱きしめ返した。
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