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お茶会

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 ユーゴ殿下の突撃訪問から三日後、王宮から書状が届いた。
 お父様はまた泡を吹きそうになっていたけど、お母様は口元を綻ばせて書状を渡してくださった。
 それは王妃様からのお茶のお誘いで、前回のお茶会に参加できなかった令息と令嬢を招待しているようだった。通常ならば、別の機会が与えられることはない。きっとユーゴ殿下が王妃様に取りなして下さったのね。王妃様は優しい方で王宮の人々に慕われていて、ユーゴ殿下とも友好的な関係のようだし。ユーゴ殿下もマルゴ妃よりも尊敬している感じだったものね。

「新調したドレスの出番が回ってきたわ。さあ、マノン。私と礼儀作法の復習よ」

 お母様がものすごい張り切っている。 
 十二歳はまだ子どもとされ、お茶会は父親か母親の同伴が普通。
 だからお母様も同伴。それは張り切ってしまいますよね。お母様、華やかなこと大好きだもの。
 私は憂鬱。だけど、やらなければ!
 二度と人を殺さないように、殺されないように、頑張るわ。

 ☆

 二日後、お茶会の日がやってきた。
 王宮の入り口で馬車を降りて、侍女に案内されるまま美しい庭園を抜け、東屋(あずやま)へ。
 真っ白なテーブルと椅子が置いてあって、美味しそうなお菓子たち!
 と、王妃様、アダン殿下とユーゴ殿下。
 王妃様は黒髪に紫色の瞳の美しい方で、アダン殿下は目の色以外は王妃様にそっくり。お菓子に気を取られそうだった私も久々?に見たアダン殿下の美しさにクラクラしそうだった。でもそれだけだった。
 殿下は私より一つ年上、ユーゴ殿下と私は同じ年。
 そうだから、アダン殿下は現在十三歳のはず。少年らしさが残っていて、まだ可愛らしい印象。王妃様がお亡くなりになって、アダン殿下は変わられた。陰鬱な美しさが加わり、危うい色気が漂うようになったよね。あ、でも今考えたら不健康な美しさだわ。
 アダン殿下のことは、本当にユーゴ殿下を殺してしまうくらい好きだった。けれどもおかしなくらい今は落ち着いている。美しいとは思うけど、それだけ。ちょっと不思議な感じだわ。

「マノン」

 底冷えするような声で名を呼ばれ、私はうっかり挨拶をし忘れていたことに気がつく。
 怖い、お母様。
 まだ十二歳だから大目にみてください。
 視界の隅でユーゴ殿下が笑っている姿が見えて、確認したかったけどそんな余裕はなく、すぐに挨拶をする。

「王妃陛下、アダン殿下、ユーゴ殿下。マノン・サザリアです。前回は参加出来ず申し訳ありませんでした。再びこのような機会を与えて下さりありがとうございます」

 王族向けなので、いつもより腰を落としてしっかり礼をする。
 横目で母を見ると怖い顔ではなくなっていたので、挨拶は合格。多分。
 ユーゴ殿下は……確認しようとしたら王妃様から声をかけられた。

「サザリア伯爵夫人、マノン。きてくださって嬉しいわ。どうぞ、こちらへ」

 王妃様は人好きする笑みを浮かべ、空いている席を指す。私たちはどうやら最後の招待客のようだった。
 侍女が動き、椅子を引いて、私とお母様は座った。
 そこで私は招待客の顔をざっと確認する。
 私以外では招待客は三人。保護者を入れると六人ね。今の人生では初めて会う方ばかりね。一度目の人生では、因縁のある方が一人。あとはぼんやりしてるわ。
 因縁の令嬢、それはアダン殿下の婚約者のヴァラリー・レザンド侯爵令嬢。金色の髪に青い瞳の天使のような姿をしているけど、きっつい性格しているのよね。どうしてアダン殿下が彼女を選んだのか、身分だけなんでしょうね。アダン殿下は王妃様が亡くなって変わってしまったから。
 だめだめ、今は違うの。新しい人生なんだから。 
 あと二人は……、令嬢はわからないわ。あとの一人の令息は、誰かしら?わからないということは一度目の人生でもあったことがない方々ね。あ、でも令息のお母様の顔をどこかで……

 王妃様が挨拶をされて、アダン殿下とユーゴ殿下。
 アダン殿下は声変わりが終わっていて、最後に聞いた彼の声と同じだった。それまで彼を見て何も思わなかったのに、胸がズキズキ痛んだ。けれども今のアダン殿下は違う。そうならないように頑張らなきゃ。
 アダン殿下の挨拶が終わって、次にユーゴ殿下。

「今回は無理を言って参加させていただきました。皆さんと一緒に兄上の支えになるように頑張るつもりです」

 少し堅苦しいというか、重い挨拶で私はびっくりしてしまったけど、そう思ったのは私だけじゃないみたい。うーん。驚いただけじゃなくて、何か気まずそうな表情をしている親もいる。これは釘を刺すってことなのね。
 ユーゴ殿下。流石。
 感心している私に対して、ユーゴ殿下はちょっと呆れた顔をしていたけど、失礼だと思うわ。

「ユーゴったら。今日はお茶会でしょう?そんなに肩を張ることないのよ」
「そうだぞ」

 王妃様とアダン殿下が苦笑しながらそう言って、おかしな空気はなくなる。
 王妃様っていい人すぎて、罠とかすごい簡単にひっかかりそうよね。やっぱりあれは事故じゃなかったんじゃ?
 そんなことを思っていると、自己紹介が始まってしまった。
 最初はあの人。
 忌々しい、あ、ごめんなさい。
 ヴァラリーが甲高い声で挨拶をする。十二歳ってまだ子どもなんだけど、もうケバケバしいからすごいわ。彼女の少し長い自己紹介が終わり、次は令息。
 彼の名はマックス・キッドナン様。びっくりしてお茶をこぼすかと思ったわ。キッドナン伯爵夫人も余り表に出てこない方だからすっかり顔を忘れていたわ。
 私の記憶のマックス様は、ユーゴ殿下派だったわね。でもこれもそう見えたけど、実際はアダン殿下派だったのよね。ユーゴ殿下の毒殺の際に手を貸したのが彼だもの。
 こんな風に影が薄くて、風が吹けば飛ばされそうな十二歳だとは知らなかったわ。私が会ったのは十五歳の彼。結構筋肉質だった気がする。ああ、よく見れば顔は一緒だわ。
 思わず横目でユーゴ殿下を見ると、私の視線に気がついたみたいで一瞬笑っていた。
 っていうかこの状況で笑える彼がすごいわ。前の人生で彼を殺した私とその幇助役が側にいるのに。
 ユーゴ殿下のことはやっぱり理解できないわ。いえ、私が馬鹿とかそういう問題ではないと思うのよ。

 次は影の薄い令嬢。よく見たら可愛い顔をしているのだけど、ヴァラリーの存在が激しくて霞んでるわ。私もそうかもしれないけどね!私もユーゴ殿下と同じで目立たない外見しているのよ。茶色の髪に茶色の目だし。
 あ、彼女のこと。彼女の名前はカリーナ・ウェル伯爵令嬢。赤毛に緑色の瞳で綺麗なのに、印象が薄く見える。きっと仕草のせいかしら?ウェル家の人なのね。うちと同じで政治には無関心なのよね。彼女のお母様もそうみたい。私のお母様と違って、地味なドレスを着て、空気と化しているわ。
 次に私。 
 きてしまったわ。

「マノン・サザリアです。よろしくお願いします」

 ……あれ、名乗るだけになってしまった。
 一瞬それだけって間があったけど、すぐに王妃様が取りなしてくれた。
 挨拶って苦手。お母様はちょっと怒ってるみたい。
 だって、趣味とかないんですもの。
 手芸とでも言えばよかったかしら。趣味ではないけど、できるから。
 しばらく親たちの会話が続き、子どもたちだけで遊んでくださいとばかり場所が設けられた。
 十二歳って難しい年頃なのよね。
 もうお人形で遊ぶ年でもないし、玩具もね。
 結局、お茶会の延長で、椅子に座ってお話しすることになった。
 張り切っていたのはやっぱりヴァラリー。アダン殿下の隣に座って、やたら話しかけている。私たちのことは無視。
 アダン殿下も苦笑しているし、なんだか妙な雰囲気になってしまったわ。
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