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第23話 図星
しおりを挟む九条さんと距離的にすっごく離れてしまって、色々元気が出ない。PCに向かってもぼんやりしちゃうし、金曜日になってもジムに行くのにぐずぐずしてた。
それでも、体を動かせば少しは気が紛れるかもといつものバッグを担ぎ車に乗った。
九条さんはもう機上の人だ。空港での別れは嫌だったからか、彼から連絡があったのは出発直前だった。僕も見送りは、妙に大げさで重くなる気がしてたから助かった。
『ひと月なんてすぐだよ。真砂への思いをいっぱい溜め込んで帰るから。楽しみにしてろ』
なんて言ってた。
「おはようございますっ。あれ、鮎川さん、どうしました?」
ロッカーに荷物を置いてフロアに出ると、舞原さんが待ち構えていた。
「どうしたって、どういうこと?」
わかってるけど聞き返してやった。
「いや、そんな質問に質問ぶつけられても……あ、なんでもないなら大丈夫です」
なにが大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃない。
――――しかし……これは八つ当たりだ。舞原さん、何も悪くないのに。酷い奴だな、僕も。
「うん、さっさと始めよう」
少しだけ反省した僕は無理やり口角を上げる。そう言えば、鏡の前でやるの忘れてた。
「はいっ。じゃあ、今日はこの重さでやってみましょう」
「えええっ。またすぐドSになるんだから」
いつものリズムで掛け合いしてたら、いい感じに調子出てきた。それに一段階上げた重さでもなんとか動かせた。
気付けば通い始めて1ヶ月が過ぎてる。成長できてると思うと自信になるな。
――――九条さんに会えたことを別にしても、ここに来て良かった。舞原さんがトレーナーだったのもラッキーだったかも。
ドSな人じゃなきゃ、僕は自分にすぐ甘えていただろうし、なんだかんだ言って彼とは波長が合ってる。
「いいですね! さあ、もう1セット行きますよ」
はきはきした舞原さんの声に励まされ、僕はまたトレニンーグに勤しんだ。
仕上げのバイクに乗ってると、再び寂しさがぶり返してきた。いつもなら、隣で九条さんが漕いでいるのに……。あ、でも今日は金曜日だった。
「鮎川さん、バイク漕ぐのが御留守になってますよ」
僕の隣、火曜日なら九条さんが漕いでるバイク。そこに人影が。さらに親し気に話しかけられた。
「あ……神崎さんでしたか」
明るい髪と明るい瞳。白を基調としたウェアに身を包んだ神崎さんが僕の隣でバイクを漕ぎだした。
僕も慌てて足を動かす。そうだ。金曜日は彼の来る日だった。全然思い出さなかったや。
「ぼんやりして、どうかしたんですか?」
顔は正面に向け、神崎さんは正確なピッチでバイクを漕いでいる。
「ああ、いえ。ちょっと仕事のことで……」
海外出張中の彼氏のことを考えてるなんて言えない。
「そうですか? まるで恋人を思い煩うみたいでしたよ?」
爽やかに図星を突かれ、僕の足は再び漕ぐどころでなくなった。
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