シャワールームは甘い罠(R18)番外編追加しました!

紫紺

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第34話 金髪の青年

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 もし、シリーズ化が決まったら九条さんに話そう。
 有名作家さんや売り出し中の方から見れば、些細なことかもしれない。ましてや部外者の九条さんからしたら、『そんな凄いこと?』ってきっと思うだろう。
 世間には、『芥川賞』とか『直木賞』ぐらいしか市民権がない。僕のラノベなんて文芸書と思われてないのも理解してる。

 それでも好きな人に僕の喜びを伝えたい。って思ったんだ。なのに……それが実現したというのに、僕は話せないでいる。

『今日は朝から大変だったよ』

 スマホ画面の向こうには、更に日焼けした九条さんが笑顔を見せている。日焼けは日サロなんかじゃなく、現場での仕事の証しなんだ。
 机上で仕事をする職種でも、現場で働かない奴は建築家なんて言えない。その場所の空気に触れ、材料に触れ、現場の人々と共に汗を掻いて初めてわかることもある。
 何度目かのデートの時、教えてくれたことだ。かっこよすぎるよね。

『俺が指定した木材と違うの持ってくるんだもんな。ひでえよ、首相の親戚とか知らんよ。もちろん、突っぱねたけどね』

 今日はどういうわけか、仕事の話に終始してる。だから僕のシリーズ化の話もしやすいはずなんだけど。やっぱり世界が違うっていうのか……。スケール大きすぎて。

『あ、そうだ。今、仕事してる連中と写真撮ったんだ。見るか?』
「写真? うん、見せて!」

 九条さんがパリに行ってから、向こうの写真は見せてもらったことはない。もちろん観光じゃないからエッフェル塔や凱旋門に行くわけはないんだけど(写真はもっぱら九条さんの……これはお宝)。

『はい。ダウンロードしてもいいぞ』

 建設現場での写真だ。まだ建設途上の建物の前で、数人が各々のスタイルで笑顔を見せてる。
 九条さんは真ん中にいて、ノースリーブの黒Tがめちゃくちゃカッコいい。肩や腕の引き締まった筋肉に惚れ惚れしちゃう。それに表情も凄くいいや。充実してる感が伝わってくるよ。

 ――――あれ……。

 画像に収まってるのは日本人っぽい人が二人と、現地の方らしい人が五人、全部で八人だ。
 現場のお仲間さんは、本来肉体労働する人じゃなさそう。多分九条さん同様、設計関係の方々なんだろうな。この中で一番肉体労働者っぽい体は九条さんだ。ふふ。

 ――――この人……。

 そのなかで、ある青年の姿に僕の目が釘付けになった。彼は最も九条さんの近くにいて、逞しい肩に手を置いてる。

 ――――金髪巻き毛、青い目。綺麗な……人だな。

『どう? なかなかのメンツだろ? 国際色豊かなんだ』
「あ、うん。みんな凄くいい顔してる」

 そうか、日本人ぽく見える人も日本人と違うのかも。この青い目の彼もフランス人ってわけじゃないのか。

 ――――聞きたい。この、隣にいる人はどういう人? どこの国の人?

『だろ? チームワークいいんだよ。みんな才能豊かだしな』
「そうなんだ。順調そうで良かった」

 でも、そんなこと聞けるわけもない。ただ、順調なら帰国の時期も早まるかな。それなら嬉しい限りだよ。

『まあ……な』

 え……。なんでかそこでトーンダウンした。

『真砂のほうはどう? 執筆進んでる?』
「あ、うんっ。調子いいんだ。最近……」

 トーンダウンしたのは気になったけど、いい感じに話振ってくれた。言わなきゃ。

『そうか。それなら良かった。俺がいなくて、執筆が捗るのはちょっと癪に障るけどな』
「そういうわけじゃないよっ。今の話、自分が好きだから。でさ……」
『そう? ま、仕事捗るのは何よりだよな。さて、俺、明日早いからもう寝るな。おやすみ』

 え……。もう終わり? いや、長く話はしたけれど……。

『また連絡するよ』

 九条さんはいつものウィンクと投げキッスをし、さっと画面を閉じた。光りの消えた黒い画面には、なんとも形容しがたい僕の濁った顔が映っていた。



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