シャワールームは甘い罠(R18)番外編追加しました!

紫紺

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第68話 数の申告

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 10人に1人くらいが男性の割合。本日のサイン会に来てくれた読者様の比率だ。読者は4:6で女性のが多い感じだけど、わざわざ新人男性作家のサイン会に来るのは女性の方が多いそうだ。

『多分そうなると思います。先生のお写真、新人賞の時と単行本の著者紹介で一度だけ載せましたでしょ?』

 書店のバックヤードで小泉さんから言われていた。デビュー作の単行本のみ、宣材用で撮った写真を載せた。それ以降は止めてもらってる。正直顔を知られるのが嫌なんだ。

『あれで、先生がイケメンだって知られたので。SNSの反応からも、本日のサイン会、女性が圧倒的に多くなると思ってます』
『はあ。そうですか』

 まあ、顔だけで小説を好きになるわけじゃないだろうけれど……ちょっと複雑。

『先生には興味ないかもしれませんが、作家もビジュアルが良いに越したことはないんです。くれぐれもつまらなそうにしないでくださいね』
『な、なに言ってんですか。大切な読者様にそんな失礼なことしませんよっ』

 という会話がついさっき、バックヤードでやり取りされた。

 ――――だから、何人か混じってた男性の存在が、僕は嬉しかったんだよね。

 ニット帽の彼の番になった。彼が無言で開いた裏表紙に、僕はサインペンを構える。

「お名前を入れますよ?」

 見上げた先で、彼は首を横に振る。名前は要らないようだ。

「はい、どうぞ。今日は来てくれてありがとう」

 サインを書き、僕は再びニット帽の彼を見上げ笑顔を作る。なぜか声を出さないが、彼は嬉しそうに何度も首を縦に振っている。ちょっと犬みたいだ。

 ――――喜んでくれたみたいだし、良かった。

 それからも途切れることなくサインを続け、ようやく最後の100番目の方に到達した。腕がもう痺れて、感覚がないよ。

「お疲れさまでした。裏に食事が用意してありますから」

 今回1番の大役を果たした気分の僕は、足取りも軽くバックヤードへと向かった。



「ジムで仲良くされてる方には、もう差し上げたんですか?」

 バックヤードで美味しいお弁当(有名な焼肉屋さんの焼肉弁当だった)を頂きながら、僕らはミーティングをしてる。と言ってもこれは雑談か。

「いいえ。発売日前にはさすがに。親にはもう送りましたけど」

 僕の両親は仙台に住んでる。親父はまだ現役のサラリーマンだし、母親は公務員。バリバリの一般普通家庭だから、本来ならセレブのジムに通って九条さんや神崎さんとお知り合いになるようなことは絶対なかった。

「何冊、ですか?」

 小泉さんは僕の顔を見ず、黙々と箸を動かしながら尋ねる。何冊。つまり何人ってことだ。

「あ、あの、彼だけに配るわけじゃなくて。当然仲良くしてもらってる『友人』にも差し上げるつもりなので……」

 慌てて説明する僕。友人に配るのは本当のことだ。大学時代のサークル仲間とかだけど。

「はあ。そうですか。で?」

 それがどうした。てな空気を醸し出しながら、小泉さんは再度問う。今度は僕の顔を上目遣いして。

「ジムは……二人です」
「了解です」

 特にリアクションなく応じると、小泉さんはまた箸を動かす。なにが了解なのか。急に悪くなった居心地を感じながら、僕も黙々と箸を動かした。



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