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第64話 榊教授
しおりを挟む結局岩崎は小一時間、僕の部屋に居座った。根掘り葉掘り聞かれたが、核心に迫られることなく難は逃れた。今、あいつがやってるバイト先を紹介してもらうことにして、ようやく帰ってもらった。
城南邸はいつも快適な室温。しかも移動はほとんど車だった。いつの間にか真夏だったんだな。
僕はTシャツとハーフパンツ(もちろん高校体育着)で夏を感じている。てか地獄。
岩崎に教えてもらったのは塾の講師だ。オンライン授業の講師にちょうど空きがあって潜り込めた。
バイトの時は涼しい部屋でいられるのだが、毎日というわけじゃない。僕は閉館まで大学の図書室を使うことにした。そこは盆と正月以外は学生に開放してくれてるんだ。ありがたいことだよ。
晄矢さんの元から飛び出して、一週間が経ってる。時々晄矢さんからメールが来る。もちろん無視はしてないよ。
最初はあんな言い方して悪かったみたいな感じだったけど、いつしか挨拶程度になってた。だから、僕も普通に『元気だよ』とか、『バイト決まったよ』とか返してる。そのうちなくなるんじゃないかな。そうなって欲しい……多分。
「あ、そこの君ー! 相模原君!?」
炎天下、日陰を探しながらキャンパスを歩いている僕に、上の方から声がかかった。何事と思い、建屋の方を見上げる。太陽が窓ガラスに反射して視点が定まらない。
「こっちだよ」
「あっ!」
二階の窓が一つ開けられ、そこから白髪交じりの頭が覗いている。黒ぶちメガネの中年男性、榊教授だった。
「いやあ、明日から旅行に行くつもりなんだけど、パスポート、大学に忘れててね」
この四階建ての新しい建物は、文系の教授や助教授たちの部屋とゼミ室が入っていた。僕は教授に手招きされ、部屋にお邪魔することになった。
週にひとコマ講義を受けているが、個人的に話をするのは初めてだ。
「そしたら、なんか気になるものばかり出てきて」
教授の個室は思った以上に広く、パソコンのモニターが複数台が置かれた大きな事務机に応接セット、奥にミニキッチンまであった。
ソファーの前のテーブルにはなにかの資料が山になり少し崩れている。
「あの、榊教授……。遅くなりましたが、城南弁護士のお仕事の件、ありがとうございました」
僕はバイトを斡旋してもらったにも関わらず、一度もお礼を言ったことがなかった。今更だけど頭を下げた。
「ああ、そうそう。それが聞きたかったんだ。君、あそこで何させられてた? やばいことはなかったか、心配だったんだよっ」
え……それって……まさか教授、僕のバイトの内容、全部知ってたってことですか!?
僕は開いた口が塞がらないていで、唖然と突っ立っていた。
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