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第100話 事の顛末 その2
しおりを挟む両親と再会できた日の夜。晄矢さんは再び夜の高速を走り、東京に戻らなければならなくなった。
突発的な出来事で休んだのだ。山のような仕事が待っている。
「ご両親が駆け込んだ場所は愛知県の警察署だったんだ。だからその時、俺はなにも知らなかった」
夕食後、僕は晄矢さんの車の中にいた。東京に帰る前に、どうしても聞きたかったんだ。晄矢さんが隠していたこと全部を。
「最初にご両親を助けたのは俺の大学時代の親友でね。名古屋で弁護士をしてたんだ。涼が目指すような地域密着型の弁護士だよ。
日本には、海外の『証人保護プログラム』のようなシステムはないだろう? ご両親を組織からかくまって守るには、民間の手にゆだねるしかない。奴はそういう民間組織に参画してたんだな」
いつか、大学の講義で聴いた『証人保護プログラム』。僕はどこかで、両親はもう生きていないかもしれないと思っていた。生きていれば、一度でも僕に会いに来てくれるんじゃないかと。
もし日本にこのシステムがあれば、一縷の望みをかけられたけど。
「ご両親とおばあさんの連絡は俺の親友やその仲間を介して行われてた。直接は危険と考えてたんだ。まして不用意に会いに行けば、身元がばれてまた組織に追われる危険がある。だから、ずっと音信不通を貫いていたんだ」
――――そうか……じゃあ、ばあちゃんは両親が無事に生きてることだけはわかってたんだ。
「涼が大学生になったとき、親友が俺に頼んできた。おまえの監視……と言ったら聞こえが悪いな。組織の人間が接触しないように気を付けてほしいって。
当初の詐欺グループもまだ名を変え姿を変え生き延びてる。東京は連中の狩場だ。用心に越したことはない」
「じゃ、じゃあ、晄矢さんは僕を1年生の頃から知ってたってこと?」
「そ。遠くから……ではないな。割と近くから見守ってた」
「うそ……全く気が付かなかった……」
「ははっ。そりゃ当たり前だ。気づかれるほどドジじゃない。俺も、俺の調査員も」
晄矢さんはこれをきっかけに、その証人保護の民間組織『守りの家』のアドバイザー弁護士になった。名古屋にしょっちゅう行ってたのは、その関係もあったようだ。
この業務は城南法律事務所とは無関係だったので、連絡係を立花さんが担っていた。だからばあちゃんは、立花さんの携帯番号を緊急連絡先の一つにしてたんだ。
『守りの家』は、保護対象の人々を守るため、接触を最小限にする。だから、晄矢さんはばあちゃんとは直接会ったことはない。尤も、今まで立花さんから連絡がくることはなかったみたい。僕の日常は、自ら電話してたからね。
晄矢さんは輝矢さんには相談してたんだ。だから僕や両親のことも知ってた彼は、僕が弟の同棲相手になったとき相当驚いた。なるほどね、色々思い当たるよ。
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