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魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約

魔王の娘 と 休戦締約と同盟条約 6

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「魔王陛下の指示の許、我ら魔族の国から、次期魔王であるエディーリン・アザレリア・フォン・ナナレイア姫を差し出します。
我々が本気であることを、姫様が示してくださいます」

「お待ちいただきたい」
 
 
 
エディーリン姫が言い、ヨルガが言った後、手をあげて声をあげたのは黒髪のアミール国王だった。
 
 
 
「次期魔王を差し出す?
それでは魔族の国の次の王はどうなるのです?」
 
「御心配なく。
私達は“人間と魔族の休戦締約と同盟条約”を結びに来ました。
コレが結ばれ、人間の貴方達に心から信じて貰えたら、然るべき時に私は国に戻り次の魔王となり、人間と恒久なる平和の為に尽力していきます。

ソノ為に、“人間と魔族の休戦締約と同盟条約”が結ばれるまでの間、貴方達人間の世界で、人間族のことについて学ばせていただきたい。
勿論希望されるなら我が魔族の国にもこれからいらしてくださって問題ありません」

「無防備に見えますな」


「私達が変わろうとしている証明ですわ」
 
 
 
アミール国王の問いの後、エディーリン姫が答え、ソレにカレイディル帝国皇帝が口を開くと、エディーリン姫は真っすぐな眼差しで前を向いて答えた。
ソレにどの国の王も黙る。
 
 
 
「…良いでしょう」
 
 
 
長い長い沈黙の果て、口を開いたのはクリステン卿だった。
 
 
 
「この件、“人間と魔族の休戦締約と同盟条約”については大教会と西洋五大国が深く考え、答えを出させていただきます。
ただ、これまでの歴史もあり、貴方達との間には深い溝も在る。
答えを出すまでには時間がかかります」

「承知の上でございます。
良き答えが来ることをお待ちしております。
我々お付きの者は帰りますが、姫様はコノ件の為差し出させていただきます。
そちらは問題ございませんでしょうか?」

「貴重な、加えて大事な話です。
丁重に人間界でお預かりいたします。
同時に、彼女の様子も見て検討させていただきます。
西洋五大国各国王方もそれでよろしいですね?」
 
 
 
クリステン卿が言い、ヨルガが言い、クリステン卿が言うと、西洋五大国の各国王達は頷いた。
だが唯一エンテイラー国王は魔族の姫を睨みながらしぶしぶといった感じだった。
 
 
 
「カアー!カアー!
ディプ、姫様と一緒に残る!姫様と一緒に残る!」
 
「これ、ディプスクロス、わがままを言うでない。
残れるのは姫様だけだ」

「カアー!姫様!ヨルガああ言ってるけどディプは姫様と一緒に居る!居る!」

「先程から騒がしい烏だ。
魔族の国の烏は皆喋るのか」

「いいえ、喋る烏はコノ子だけよ。
不思議とコノ子、ディプスクロスは言語を覚えましたの」

「ふん、化け物め」

「カアー!」
 
 
 
ヨルガ達が退散しようとすると、エディーリンの肩に乗っていた赤い目の烏がしゃべり出した。
ソレにヨルガは止めるも、烏──ディプスクロスは言うことをきこうとしない。
そんな中、エンテイラー国王が不満気満々にディプスクロスを睨んで言った。
エディーリンはディプスクロスを大切そうに抱きしめると、優しく撫でながら言った。
ソレにエンテイラー国王は不満を隠すことなく言うと、ディプスクロスは怒ったように鳴いた。
 
 
 
「ふむ…、水晶を」

「ハ!」
 
 
 
クリステン卿は一連の流れを見て、顎に手を当てながら何かを考えると、側に控えていた神職者に声をかけた。
神職者が上の階から降りてきて、大きな水晶を抱えて地に下ろした。
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