婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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恋人期間

甘やかす

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「馬鹿ね。私に友人なんていないって言ったじゃない」

それはもう、気持ち良いほどばっさりと。

エドモンドの毒の籠もった口撃も、令嬢達の悪意も、敵味方なく全て一刀両断してしまったミレーユは「それより」と、既に誰にも興味はないようで、目の前に聳える大階段へと視線を向けた。

「こんな大階段、1人で登れないわ」

平然とそんなことを言ってのけるミレーユに、エドモンドはポカンと口を開いた。

いつも大人の余裕を漂わせている彼にしたら間抜けな顔だ。ミレーユは可笑しくなって、クスクスと少女らしく笑ってみせる。花も恥じらって顔を俯けるほどの美少女が無邪気に笑う姿はなによりも魅力的だ。

「なによ。わたくしそんな変なこと言ったの?」
「……いや、そんなことはないよ」

エドモンドが取り繕うように腕を差し出すと、ミレーユは僅かに首を傾げるだけで、なかなか歩きだそうとしない。

それを訝しんだエドモンドが「どうした?」と問いかけると、ミレーユは心底不思議だと言わんばかりに「あなたこそ、どうしたのよ」と言い放つ。

「俺の腕を取るんじゃないのかい」
「腕を取ったってこんな階段登りきれないわよ。いつもみたいに抱き上げて頂戴」
「ここでか?」
「ここ以外のどこで、抱き上げるというのよ」

エドモンドは「あちゃー」と自らの額を叩く。ミレーユと付き合い始めてからというもの、エドモンドは事あるごとに彼女を抱き上げていた。

小舟に乗る時、階段を登る時、ほんの少しの坂道を登る時。

それはもう事あるごとに。

無意識に甘やかしていたのである。

その事実をこんな公の場で思い知ることになり「このままではまずいんじゃないか」と彼は思い始めた。

このままだと、この子はいずれちょっとした段差でも抱き上げろといい始めるかもしれない。それではこの子の成長に繋がらないのでは?少しは体力をつけさせないと、健康に悪いだろう。


と、今更ながらに心配になり、見上げてくるミレーユの目を見つめ返す。

「今日は自分で歩きなさい。腕をかしてあげるから」

そうエドモンドに告げられたミレーユは、驚いて目を見開いた。

当たり前である。

今までちょっとした坂でも抱き上げてくれた男が、何故にこの大階段では抱き上げてくれないのか。

甚だ疑問に思ったミレーユは「どうして急にそんなこと言うの?」と問いかける。

エドモンドはその問いかけに対し、少し考える素振りをみせて「少しは体力もつけないと」と答えた。

そんな2人の背後に立つ令嬢たちは、そのやりとりを聞きながら唖然とする。
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