愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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目覚めて

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運命というものが、どれほど大きいものなのかは分からない。いっそこの足元に広がる暗闇に堕ちた方がまだマシなのかもしれない。白を選んだ場合、黒を選ぶよりもっとひどい結末が待ち受けているかもしれない。

運命の大きさが分からないのに、運命に負けないと強く言い切ることが今のロメリアには出来なかった。

だが、それでも足は白く輝く場所へ向かう。

それはただ一心にもう一度ガブリエルに会いたいという強い思いからなのかもしれないし、あるいはロメリアが単に黒より白の方が好きだからかもしれない。

白い輝きはますます強くなっていく。遠近も分からなかったはずなのに、ロメリアが近づくごとに、白い世界はロメリアと距離を縮め、黒い世界の広がる足元は離れていく。あと一歩踏み込めば元の世界に戻れる。直感で感じた途端、ロメリアの足は止まった。

(……大丈夫。私が物語のロメリアのように振舞わなければいいだけなのだから)

自分にそう言い聞かせて、ぎゅっと自らの手を握る。身体の温度は既に戻っていた。身体の感覚も現実世界に近い感覚に戻ってきている。大きく息を吸って、ロメリアはもう一歩を踏み出した。

途端、白い世界は強い吸引力でもってロメリアの身体を覆い、彼女の視界を開かせた。

「……ロメリア!」

叫ぶのは、母の声だった。もちろん前世の母ではなく、今世の母だ。

「おお、ロメリア!良かった、良かった!すぐに医者を呼ぶから待っていなさい」

ボロボロと涙を零す父は、傍に控えていたメイドや執事達に医者を呼ぶように命じる。

「ロメリア……良かった。お前が無事で……もしかしたらお前の意識が戻らないかもしれないと言われた時にはもう……心臓が止まったのかと思ったよ」
「本当に。ロメリア……愛しい娘。戻って来てくれて本当に良かったわ」

おいおいと泣く父と母の姿にロメリアは、自分の選択が少なくとも今世で溺愛してくれている人達の喜びに繋がったのだから良かったと、嬉しくなる。例え過酷な運命が待ち構えていようとも、少なくとも自分には無償の愛を捧げてくれる味方がいるのだから、と弱った心が慰められた。

「お父様、お母様……こんなにやつれられて……ごめんなさい、心配かけて」
「何を言うんだ。お前が謝ることなんて何もないんだよ」

優しい言葉。優しく頭を撫でられて、それが何故かとても嬉しくて涙を零すと、父と母が心配でオロオロとし始める。泣いたら2人に心配を掛けてしまう、そう分かっているのに涙はしばらく止まってくれなかった。

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