愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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悪夢

自分の意志で

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(……なに?)

箱を傾けてみると、カタリと硬質な音が聞こえてくる。どこからどう見ても、どう聞いても、中に入っているのは花ではない……と断言出来る。

ということは、まさかガブリエルからの贈り物ではないのだろうか。

(……でも、確かにガブリエルからだと言っていたわ)

扉越しに聞こえてきたメイドの言葉を聞き間違えた覚えはない。

そうしてしばらくその箱を見つめていたが、こんな風に頭で考えていたって、中身が透けて見えてくるわけもない。

ロメリアは、小さな箱を緊張しながら持ち上げて、ゆっくりと寝台に戻った。箱にかけられた可愛らしいリボンを見ていると、余計にガブリエルからの贈り物だとは思えず、疑いから箱をつついてしまう。

(とりあえず……開けてみようかしら)

指先が、箱に触れた。

その瞬間。

「……っ!」

箱にかけた手が、ぶるりと震えた。

先程持ち上げた時には感じられなかった感覚。本能的な恐怖に似た何かが指先を突き抜けていく。まるで、開けてはならないとでも言うかのように。

(……開けないほうがいいのかしら)

直感的なものに身を任せた方がいいのか。
それとも、抗うのがいいのか。

どうしたらいいのか、分からない時。

こういう時、前世ではいつも自分のしたいほうを選んできた。それは自分の決断に根拠のない自信があったからだし、向こう見ずなことをすることに対しての恐怖が一切なかったから。

だけど今は違う。

一歩間違えれば、自分の運命は、自分のものではなくなる。

物語の道筋を一直線に辿るしかなくなるのだ。

それだけは、嫌だった。
抗おうと決断出来たわけではないけれど。
それでも、1つ1つの行動を吟味する努力だけはしなければならない。
そのように、弁えている。

「……」

ロメリアは、その箱をまた改めて眺めた。本能的に感じた恐怖は自分を守るためのものか。それとも、物語の道筋を辿らせるためのものか。あるいは、その逆か。

考えれば考えるほど、分からなくなってくる。

例えば風が吹いたとして、それを神の意志だと考えるのは簡単だ。
けれど、その意図までは分からない。
それは何を運ぶ風で、何を求めて吹く風なのか。
そんなものは、考えたって分かるはずはないのだ。

それならば。

ロメリアは小さな箱のリボンを解いた。

今は、考えることをやめること。

物語のロメリアではなく、自分自身の意志で決める。

それが己の出来る最善の行動だ、と結論づける。

若草色のリボンはするりするりと、まるで意思を持つかのようにほどけていく。

完全に解けたところを見届けて、ロメリアは恐る恐る蓋を開けた。

「……っ……これは……」
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