50 / 79
悪夢
自分の意志で
しおりを挟む(……なに?)
箱を傾けてみると、カタリと硬質な音が聞こえてくる。どこからどう見ても、どう聞いても、中に入っているのは花ではない……と断言出来る。
ということは、まさかガブリエルからの贈り物ではないのだろうか。
(……でも、確かにガブリエルからだと言っていたわ)
扉越しに聞こえてきたメイドの言葉を聞き間違えた覚えはない。
そうしてしばらくその箱を見つめていたが、こんな風に頭で考えていたって、中身が透けて見えてくるわけもない。
ロメリアは、小さな箱を緊張しながら持ち上げて、ゆっくりと寝台に戻った。箱にかけられた可愛らしいリボンを見ていると、余計にガブリエルからの贈り物だとは思えず、疑いから箱をつついてしまう。
(とりあえず……開けてみようかしら)
指先が、箱に触れた。
その瞬間。
「……っ!」
箱にかけた手が、ぶるりと震えた。
先程持ち上げた時には感じられなかった感覚。本能的な恐怖に似た何かが指先を突き抜けていく。まるで、開けてはならないとでも言うかのように。
(……開けないほうがいいのかしら)
直感的なものに身を任せた方がいいのか。
それとも、抗うのがいいのか。
どうしたらいいのか、分からない時。
こういう時、前世ではいつも自分のしたいほうを選んできた。それは自分の決断に根拠のない自信があったからだし、向こう見ずなことをすることに対しての恐怖が一切なかったから。
だけど今は違う。
一歩間違えれば、自分の運命は、自分のものではなくなる。
物語の道筋を一直線に辿るしかなくなるのだ。
それだけは、嫌だった。
抗おうと決断出来たわけではないけれど。
それでも、1つ1つの行動を吟味する努力だけはしなければならない。
そのように、弁えている。
「……」
ロメリアは、その箱をまた改めて眺めた。本能的に感じた恐怖は自分を守るためのものか。それとも、物語の道筋を辿らせるためのものか。あるいは、その逆か。
考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
例えば風が吹いたとして、それを神の意志だと考えるのは簡単だ。
けれど、その意図までは分からない。
それは何を運ぶ風で、何を求めて吹く風なのか。
そんなものは、考えたって分かるはずはないのだ。
それならば。
ロメリアは小さな箱のリボンを解いた。
今は、考えることをやめること。
物語のロメリアではなく、自分自身の意志で決める。
それが己の出来る最善の行動だ、と結論づける。
若草色のリボンはするりするりと、まるで意思を持つかのようにほどけていく。
完全に解けたところを見届けて、ロメリアは恐る恐る蓋を開けた。
「……っ……これは……」
203
あなたにおすすめの小説
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう
凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。
私は、恋に夢中で何も見えていなかった。
だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か
なかったの。
※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。
2022/9/5
隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。
お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる