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第二十四話.イチリルの町 23 アルフィーの送別会と深夜の誓い

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「いやー、まいったまいった」

 キーリスさんが上機嫌でエールを飲む。すぐにお代わりがきた。

 冒険者ギルドの酒場(レストラン)でアルフィーの送別会が行われている。

 満員御礼だ。

 アルフィーは他のギルド員や冒険者たちに囲まれている。

 シルフィーは料理に夢中だ。

「だが、あんなべらぼうな攻撃は見たことがねえぞ」

 完全な不意打ちだ。次はないだろう。

 アイテムボックス持ち自体は、多くはないが、それなりにいるらしい。

 だが、あそこまで離れて物を出せるやつはいないそうだ。

 試してないだけかもしれないが。

「冒険者としては、喉から手がでるほど、欲しい元力がんりょくだな。まあ、金をためてマジックバックを買うのもありだが、使い勝手が違う」

 物をいっぱい入れられる魔道具マジックバックもあるのだが、定期的に魔石が必要なのと、値段が高いのでお金がかかるらしい。

 キーリスさんが上機嫌でエールを飲み干す。すぐにお代わりがきた。

「キーリスさん。元力がんりょくってなんですか。能力と違うんですか」

「なんでぇ。そんなことも知らねえのか。まぁいっか。生まれ持った能力の事だしな。後から努力して身につけたもんじゃなくて。生まれつきもった力の事だ」

 ほほぅ。確かに努力したところで、アイテムボックスが使えるようには、ならないわな。

 努力のしようがない。

 はっ!俺のおっぱいを引き寄せる力が元力がんりょくか!

「だからって、その元力がんりょくだけに頼らないで努力をしなきゃなんねぇ。お前は努力して元力がんりょくを活かしてる。いい冒険者になるぜ。アルが惚れるのも無理はねぇ」

 大笑いし、上機嫌で肩をバンバン叩かれる。

 痛い。メチャクチャ痛い。仕返しされている気がする。

 またエールを飲み干して、お代わりを要求する。すぐにきた。

「だがお前ら、すぐに他の町へ行くんじゃないだろ?」

「ええ。しばらくはここで、お金をためて、装備を整えてからですね」

「じゃあ、休みはここで訓練しろ、稽古をつけてやる」

「えっ」

 綺麗なお姉さんと裸で稽古するならともかく(どんな稽古だ)。

 こんな親父と稽古したくないぞ。

「お前、基本が全然できてないだろ。なんだあの突きは、あまりにヘボ過ぎて何かあるかと思ったくらいだ」

「それが作戦なんですよ」

「ちっ」

 あっ今、舌打ちした。悔しいんだ。悔しいんだ。くやしいのぅ。

 キーリスさんがエールを飲み干して、お代わりを要求する。すぐにきた。

「まあ、そうだろうが。それにしてもだ。基本はできてて、損はねぇ。いつでも、あんな不意打ちが通じるわけじゃねぇぞっ。おっなんだこりゃ? なんで黒パンが降ってきた……」

 通じてるじゃねえか……。

 キーリスさんが不思議そうに頭を手で払うと何か、気がついたのが、はっとした顔をしてこっちを見る。

 うっ。

 冷や汗がでるが、知らぬ存ぜぬフリをする。

 ここはポーカーフェイスだ。たまたまだ。

 たまたま天井にあった黒パンが落ちてきただけなのだ。

 そうゆう事もたまにはあるはずだ。

 でもそうだな。

 嫌だけど基本は大事だから教えてもらうか。

「そうですね。ぜひ、お願いします」

「おうっ。まかせとけ。メチャメチャにしてやる」

 目が怖い。絶対怒ってるよ。ってメチャメチャにしちゃだめじゃないか。

「メチャメチャじゃ、だめじゃないですか。やさしくお願いしますよ」

「男が細かい事気にすんじゃねえよ」

 だんだんろれつが回らなくなってきている。

「いいか。お前。アルはな、こーんな小さいときから、面倒みてるんだ。こーんな小さかったんだ…。それがあんなに乳ばっか大きくなりやがって…。あいつに武器の使い方も、解体の仕方もぜーんぶ俺が仕込んだんだ…。
それをあの…ブラック商会の野郎がアルがほしいもんだから…難癖付けて育児金をあげさせやがったもんだから、……アルが泣いてな…。あいつが売られそうになった時に、俺とイース(イースタン)が話をつけに行ってな。そんで……ここで……な…とにかく……こーんな…ちーさかった……」

 完全に酔っ払いだ。

 これはいかん。

 そうだ。そろそろシルフィーのところへいこう。

 と立ち上がろうとするが、肩をつかまれる。

「どこに行くつもりだ?」

 あかん。これだめなやつだ。

「すいません。トイレです」

「逃げるなよ?」

 ちっ。

「すぐ戻ってきますよ」

 トイレに行って戻るとキーリスさんはいびきをかいて寝ていた。

  

       ☆


   

 深夜になってしまったので、俺たち3人もギルドの寮(アルの使っていた部屋)で寝ることになった。

 4畳半くらいの小さな部屋だった。

 ベッドがあってコンパクトなクローゼットと小さな椅子があるだけだ。

「狭くてごめんなさいね」

 アルフィーが申し訳なさそうに言う。

「外で寝るよりはるかにいいさ」

「そうよ。私が床で寝るわ。エルとアルフィーさんでベッドに寝て頂戴」

「まあ、とりあえず、二人ともベッドにすわってくれ」

 アルとシルが2人並んでベッドに座った。

 俺は小さな椅子に座る。

「アル。冒険者ギルド。今日までお疲れ様でした。これからは俺たち3人。力を合わせて生きていこう。アル」

「はい」

「シル」

「うん」

「そこは、はい。だろ」

「ごめんなさい。はい」

「よろしくな」

「「よろしくお願いします」」

「では誓いの言葉だ」

 二人とも不思議な顔をする。

「今から俺が、二人に質問をする」

「「はい」」

「その言葉に賛同し、OKだと思ったら、誓います。と言ってくれ。いいか」

「「はい」」

 適当に、それらしいことを言ってみた。

「健やかなるときも、また、病めるときも、苦しいときも、悲しいときも、今の気持ちを忘れずに、お互いを信じあい、労り、慈しみ、愛して、願わくば永遠に。この3人で。楽しく、幸せに生きていく努力を……し続けることを誓いますか? アルフィー」

 途中から二人とも泣いていた。

「はい。誓います」

「シルフィー」

「はい。誓います」

「俺も誓う」

「これからよろしくな」

「「はい」」


 この夜、俺達はトリオになった。
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