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その2 地下の部屋
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ガチャリと重たい音がした。
風除室のような狭いスペースの前には、すぐにまた扉があった。ドアノブを回して扉を開けると中には大きなベッドがあってレクサーニア公爵らしき人が半身を起こしてたたずんでいた。
清潔にしているようだが、目の下には大きな隈があり、かなりやつれているようだ。細くて弱々しい感じがする。
年は40歳位と聞いていたがその割にはずいぶん老けて見える。幼い頃から病に侵されていたせいもあるだろう。
「失礼いたします」
俺達はお辞儀をしてそっと中に入った。
「ゴラン子爵から依頼を受けました、エアシルと申します」
「ええ、ヨーゼルから手紙を貰いました。こんな遠いところまでよく来てくれましたね。こんな姿で失礼……ゴホゴホ」
苦しそうに咳き込む公爵。かなり衰弱しているようだ。
「いえ。では、すぐに治療をさせていただきますね」
アルフィーが見かねて心配そうに近寄った。
「ゴホゴホ、ありがとう……頼みます」
涙目になりながら咳をしている。もう話すのも苦しそうな状態だ。
「はい。では、エルさん」
アルフィーが金色の瞳で俺を見る。うなずいてその肩にそっと手を置いた。
――ジャンと音がして、アルフィーが聖魔のローブ、スーツセットになり、聖魔の杖を右手に持った。
「おおっ」
急にフル装備に変わった事に、公爵が驚いて声をあげた。
「天使の翼!」
アルフィーが呪文を唱えると、体が光輝き背中に白い翼が四枚現れて、頭に光の輪が浮かんだ。
「おおっ天使様!」
その姿を見たレクサーニア公爵が目を見開いて驚いた。
初めて見たアルフィーの四枚の羽に俺達もビックリする。
「アル! 四枚も翼が生えたぞ」
「あっ本当ですね! 何か力が増えた感じはしてましたので……不思議だけど何だか嬉しいです」
増えた背中の羽を見て喜ぶアルフィー。
「ああ、アルフィー様。お懐かしいお姿ですの。主様、オルも早くあの姿に戻りたいんですの」
オルフィーが俺を見つめてしなだれかかるように甘えて来た。
気持ちは分かるがまぁ待ちなさい。
「では、力も溢れてきてるのでいっちゃいますね。究極状態回復! おまけに特別回復呪文大!」
アルフィーがまるで舞い踊るようにポーズを取りながら呪文を唱えた。
滑らかで美しい動きだ。
そしてその手と杖が今まで以上にまぶしく光り輝くと、杖先から放たれた二つの光がレクサーニア公爵の体を癒すように包みこんだ。
すると見る見るうちに顔色が良くなり、まるで体も一回り大きくなったかのように生気がみなぎっていく。
「おおお!! なんと……こんな……力が、力が溢れてくる」
信じられないといった表情をしたレクサーニア公爵が自分の手のひらを確かめるように見ている。
何度が握ぎってうんうん、うなずくと、ガバッと力強く布団をめくり上げ、そのままベッドから飛び起きた。
そして足の感触を確かめるように立ってしゃがんで飛び跳ねる。
まるで別人のような身軽さだ。
「すごい……体が軽い。肺も呼吸も苦しくないぞ! ああ、なんて素晴らしい気分だろう。この暗い部屋が輝いて見える……ああ、天使様。本当にありがとうございました。ヨーゼルの手紙の通りでした……ううっ……」
公爵の瞳から溢れ出るように涙が流れると、泣いたまましばらくうずくまっていた。
アルフィーが嬉しそうに微笑んでいる。
治って良かったな。
アルフィーの凄い魔法に俺もシルフィーも感動していた。
「本当に夢のようです。ありがとうございました」
しばらくして落ち着いた後、明らかに顔色が良くなったレクサーニア公爵がアルフィーにお礼を言った。
「元気になったようで良かったです。これで外に出られますね」
アルフィーも優しく微笑んだ。
もうこんな地下に閉じこもっている必要は無いのだ。
「ええ、まさか私にこんな日が来るなんて思ってもいませんでした。これからは自由にいろんな世界を見て回りたいですね」
嬉しそうな感情が溢れている。
「ええ、自由に旅をなさってください」
「はい。皆様、本当にありがとうございました」
深々と礼をする。
満面の笑みを浮かべる公爵をみて、俺達も幸せな気分になった。
元気になって良かったな。では兵を呼んで上に上がろう。
「シル、呼び鈴を鳴らしてくれ」
「うん、そうね」
シルフィーが呼び鈴を鳴らした。
チリンチリン。
「……」
しかし誰もこない。
あれっ? こないな。
もう一度鳴らす。
チリンチリン。
「……」
やっぱり誰も来てくれない。
「あれっ? こないわね」
シルフィーが首をかしげる。
「どうしたんでしょうね」
「もしかして閉じ込められた!?」
まさか、謀られたか!?
ふいに不安が押し寄せてきた。
もしや、王の派閥が兄を……。
そう言えば付いて来た兵士も異様に多かったし、不自然だった気がするぞ。
皆も急に不安な顔になる。
もしかして……。
もしかして……。
はっ。
さっきの霧吹きも何か怪しいな。
そう言えばなんか眠たいような気もしてきた。
一発盛られたか!?
まずい。
これはまずいぞ。
「ははは。内扉を開けてから鳴らすんですよ」
レクサール公爵が扉を開けて呼び鈴を鳴らした。
「あっそっか。それもそうね」
シルフィーが恥ずかしそうに舌を出す。
ガチャリと音がして扉が開いた。
いかつい騎士が扉からニュっと顔を出す。
その騎士が、にこやかに立っている公爵を見て硬直した。
そして目を大きく見開くと、下から上までじっくりと確認する。公爵と見つめ合うといかつい顔が破顔した。
「でっ殿下!」
「おおっシュウマン! はははっ見てくれこの通りだ」
「なんと……私は夢を見ているのではないでしょうか」
いかつい騎士の瞳からは大筋の涙がこぼれていた。
「ああ、私もそんな気持ちだ」
騎士と公爵はガバッと抱き合い、お互いの背中を叩いて泣いていた。
ふふふ。
眠いのはやりすぎなのかもしれない。
風除室のような狭いスペースの前には、すぐにまた扉があった。ドアノブを回して扉を開けると中には大きなベッドがあってレクサーニア公爵らしき人が半身を起こしてたたずんでいた。
清潔にしているようだが、目の下には大きな隈があり、かなりやつれているようだ。細くて弱々しい感じがする。
年は40歳位と聞いていたがその割にはずいぶん老けて見える。幼い頃から病に侵されていたせいもあるだろう。
「失礼いたします」
俺達はお辞儀をしてそっと中に入った。
「ゴラン子爵から依頼を受けました、エアシルと申します」
「ええ、ヨーゼルから手紙を貰いました。こんな遠いところまでよく来てくれましたね。こんな姿で失礼……ゴホゴホ」
苦しそうに咳き込む公爵。かなり衰弱しているようだ。
「いえ。では、すぐに治療をさせていただきますね」
アルフィーが見かねて心配そうに近寄った。
「ゴホゴホ、ありがとう……頼みます」
涙目になりながら咳をしている。もう話すのも苦しそうな状態だ。
「はい。では、エルさん」
アルフィーが金色の瞳で俺を見る。うなずいてその肩にそっと手を置いた。
――ジャンと音がして、アルフィーが聖魔のローブ、スーツセットになり、聖魔の杖を右手に持った。
「おおっ」
急にフル装備に変わった事に、公爵が驚いて声をあげた。
「天使の翼!」
アルフィーが呪文を唱えると、体が光輝き背中に白い翼が四枚現れて、頭に光の輪が浮かんだ。
「おおっ天使様!」
その姿を見たレクサーニア公爵が目を見開いて驚いた。
初めて見たアルフィーの四枚の羽に俺達もビックリする。
「アル! 四枚も翼が生えたぞ」
「あっ本当ですね! 何か力が増えた感じはしてましたので……不思議だけど何だか嬉しいです」
増えた背中の羽を見て喜ぶアルフィー。
「ああ、アルフィー様。お懐かしいお姿ですの。主様、オルも早くあの姿に戻りたいんですの」
オルフィーが俺を見つめてしなだれかかるように甘えて来た。
気持ちは分かるがまぁ待ちなさい。
「では、力も溢れてきてるのでいっちゃいますね。究極状態回復! おまけに特別回復呪文大!」
アルフィーがまるで舞い踊るようにポーズを取りながら呪文を唱えた。
滑らかで美しい動きだ。
そしてその手と杖が今まで以上にまぶしく光り輝くと、杖先から放たれた二つの光がレクサーニア公爵の体を癒すように包みこんだ。
すると見る見るうちに顔色が良くなり、まるで体も一回り大きくなったかのように生気がみなぎっていく。
「おおお!! なんと……こんな……力が、力が溢れてくる」
信じられないといった表情をしたレクサーニア公爵が自分の手のひらを確かめるように見ている。
何度が握ぎってうんうん、うなずくと、ガバッと力強く布団をめくり上げ、そのままベッドから飛び起きた。
そして足の感触を確かめるように立ってしゃがんで飛び跳ねる。
まるで別人のような身軽さだ。
「すごい……体が軽い。肺も呼吸も苦しくないぞ! ああ、なんて素晴らしい気分だろう。この暗い部屋が輝いて見える……ああ、天使様。本当にありがとうございました。ヨーゼルの手紙の通りでした……ううっ……」
公爵の瞳から溢れ出るように涙が流れると、泣いたまましばらくうずくまっていた。
アルフィーが嬉しそうに微笑んでいる。
治って良かったな。
アルフィーの凄い魔法に俺もシルフィーも感動していた。
「本当に夢のようです。ありがとうございました」
しばらくして落ち着いた後、明らかに顔色が良くなったレクサーニア公爵がアルフィーにお礼を言った。
「元気になったようで良かったです。これで外に出られますね」
アルフィーも優しく微笑んだ。
もうこんな地下に閉じこもっている必要は無いのだ。
「ええ、まさか私にこんな日が来るなんて思ってもいませんでした。これからは自由にいろんな世界を見て回りたいですね」
嬉しそうな感情が溢れている。
「ええ、自由に旅をなさってください」
「はい。皆様、本当にありがとうございました」
深々と礼をする。
満面の笑みを浮かべる公爵をみて、俺達も幸せな気分になった。
元気になって良かったな。では兵を呼んで上に上がろう。
「シル、呼び鈴を鳴らしてくれ」
「うん、そうね」
シルフィーが呼び鈴を鳴らした。
チリンチリン。
「……」
しかし誰もこない。
あれっ? こないな。
もう一度鳴らす。
チリンチリン。
「……」
やっぱり誰も来てくれない。
「あれっ? こないわね」
シルフィーが首をかしげる。
「どうしたんでしょうね」
「もしかして閉じ込められた!?」
まさか、謀られたか!?
ふいに不安が押し寄せてきた。
もしや、王の派閥が兄を……。
そう言えば付いて来た兵士も異様に多かったし、不自然だった気がするぞ。
皆も急に不安な顔になる。
もしかして……。
もしかして……。
はっ。
さっきの霧吹きも何か怪しいな。
そう言えばなんか眠たいような気もしてきた。
一発盛られたか!?
まずい。
これはまずいぞ。
「ははは。内扉を開けてから鳴らすんですよ」
レクサール公爵が扉を開けて呼び鈴を鳴らした。
「あっそっか。それもそうね」
シルフィーが恥ずかしそうに舌を出す。
ガチャリと音がして扉が開いた。
いかつい騎士が扉からニュっと顔を出す。
その騎士が、にこやかに立っている公爵を見て硬直した。
そして目を大きく見開くと、下から上までじっくりと確認する。公爵と見つめ合うといかつい顔が破顔した。
「でっ殿下!」
「おおっシュウマン! はははっ見てくれこの通りだ」
「なんと……私は夢を見ているのではないでしょうか」
いかつい騎士の瞳からは大筋の涙がこぼれていた。
「ああ、私もそんな気持ちだ」
騎士と公爵はガバッと抱き合い、お互いの背中を叩いて泣いていた。
ふふふ。
眠いのはやりすぎなのかもしれない。
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