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第百二十九話.トウホウの町 5 突然の気配

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 遊郭門をくぐってしばらく歩き、人通りが無くなった少し開けたスペースに着くとそこに飛行船を取り出した。

 いきなり現れた船にジヤスとスズがびっくりする。

「な、何ですかこれ!?」

「な!?」

「飛行船だよ。さあ、どうぞ。悪いけど急いで、とりあえず乗ってくれ」

「はっはい!」

「……これは、すごいですな。エルヴァン殿」


 町人にはあまり見られたくないので、押し込むように五人で乗り込み、ウエスに操縦を任せると、さっと浮かび上がり上昇する。

 急激に小さくなった町を見て二人が呆けた様になっていた。


「人数が増えて来たな。こうなると少し考えないとな」

「そう言って。またエルはいつも間にか回収するんだろう?」

 操縦しているウエスタンが警戒する。


「いや、今すぐにどうこうするつもりはないけど、ここじゃ狭すぎて皆にスズを紹介できないだろ。一度広い所に行って一度サイファー城を出したいな」

 俺の言葉に納得したのか、ウエスがほっとした表情になった。


「そうだな、じゃあどっか広い所に行こうか。ジヤス、近くに広い所はないか。山でもいいぞ」

「うーん、そうですな。ではあちらに」

 ジヤスの言う方向にしばらく飛ぶと、文化的なものが何もない田舎の山の奥に入っていった。


 確かに広い山だが、城が出せる平地が無いじゃないか。

 しょうがない。無ければ削るか。

「ウエス、その辺でいいや。山を削るよ」

「うん、そうするか。この辺なら誰もこないだろう」


 獣道すら無いようなその辺の山に着陸した。

 飛行船から皆で降りる。

「こんな山に降りて、どうするので?」

 不思議がる二人の目の前に、四人の嫁とオスマンを出した。

「うわっ!? ビックリしたー」

「な、何と!? 急に人が!?」


 いきなり現れた人物を見てお互いにびっくりする。

 それを見て大笑いする俺達三人。

「もう、エル。また回収したわね」

「エルさん。おいたはゆるしませんよ」

「主様! びっくりしたんですの。ここはどこですの?」

「エルヴァン様。驚かさないでくださいよ。……どこの山ですか?」


「もーエルちゃん……あれ、初めて見る子がいるー」

 一通り文句を言われてそれぞれを宥めた後。新しく加わったスズを見てガイバンに紹介を促した。

「ガイバン、ちゃんと紹介してくれ」

「はいでやんす。皆様、お騒がせしたでやんす。この度あっしガイバンはめでたく嫁を貰ったんでやんす。嫁のスズでやんす」

「はい、スズと申します。皆さま、よろしくお願いします」

「あら、可愛い。ガイバンに騙されて連れてこられたの?」

 純粋に失礼な事を言うシルフィー。

「そっそんな事はありません」


 簡単に今までの説明をしてお互いに自己紹介をした。

 山奥で立ち話もなんなので、アルフィーの補助を貰ってサクっと山を削り取り、五十メートル四方を平らにする。

 皆には見慣れた光景だが、余りの出来事にジヤスとスズが茫然とする。

 そしてサイファー城を取り出した。

「サイファー城!」

――ドーン!


 いきなり現れた巨大なピラミッドに二人の目が飛び出さんばかりに開かれた。

「……」

 呆然とする二人を引っ張るように、扉を開けて中に入ると、二人はさらに驚いた。

 城の中に自然があるのだ。知らない人は驚くだろう。


 そのまま歩いてウエオス城に行き、扉を開けて中に入る。

 驚き過ぎてスズとジヤスは頭がピヨピヨしているようだ。歩きながら仕組みを説明しているのだが、返事が上の空のように感じる。

 
 突き当りを右に曲がり広い階段を上がって王座の間に行く。

 以前の会議室の場所(左奥から二番目)をリビングにし、ようやく皆で座って落ち着いた。

 甘いものが飲みたい気分なのでイチゴミルクで一息ついた。

「落ち着いたか」


 スズとジヤスに話かける。

「はい。私は、すごい所へ来てしまったのだ。という事だけは分かります」

「せ、拙者は化かされておるのでしょうか」

「ははは。まあ、そう思うのも無理はないかな。だがこれは現実だ。俺達はハテル大陸のネイマール王国と言う国から来たんだよ」

「そーよー。ネイマールではこれは当たり前よー?」

「やめろよ、オスマン。混乱するだろ。ウソだぞ。これはエルだからだ。普通じゃないからな」

 おどけるオスマンを叱ってウエスが二人にフォローした。

「そうなんですね。何となく分かりました」

「拙者も外国から来た。のはよく分かりました」

 二人の表情を見る限り良くは分かって無いだろうが、一緒に居ればそのうち慣れてくるだろう。


「それでいい。俺達は今いる、このウエオス城と同じ形の飛行船を探しに来たんだ。念のために聞くけど見た事は無いよな?」

「はい、もちろん。知りません」

「拙者もです」

 まあ、そうだろうな。もしこんな大きな城が飛んでいれば当然噂になるはずだ。話題になっていないならやっぱりここには来ていないという事だろう。


 その時、急にベビーサイファーが慌てたように飛んできた。

『主よ、外から不穏な気配がする。この城は大丈夫だが、少し気になるのだ』

 敵襲でもあったのだろうか。俺達の奇襲をあれだけ受けて大丈夫だった城なので問題ないとは思うのだが、一応見ておくことにした。

「そうか、ではそうだな。ジヤスと俺達で見に行くか。サイファーも来てくれ。ガイバンは新婚だからゆっくりお楽しみください」

「ありがとうでやんす」


 冗談まじりに話した俺は、これから起きる出来事の重大さには全く気が付いていなかった。


 歩くのが面倒なのでリビングから出てその場に飛行船を取り出すと。

 飛行船に乗り込みウエオス城を出て、サイファー城から飛び出した。


 すると、空には大きな飛行船が数十船も飛んでいて、トウホウの町へ向かって行くのが見えたのだ。

「あれは、アカ一族とモモ一族の飛行船!? こ、これは大 戦おおいくさですぞ」

 空一面に広がる物々しい飛行船団を見てジヤスが驚きの声をあげた。
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