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その2 襲撃

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 落ち着いたところでジヤスに尋ねる。

「ジヤス。さっきの飛行船団は町を襲うのか? 町の人は大丈夫なのか」

「いえ。あれは城を襲うのです。町は別でございます」

「そうか。では町の人は無事なのか」

「はい」

 それを聞いてほっとした。

 お互いの城の兵同士で争うと言う事なら、領主の好きにすればいい。

 俺達には関係のない話だ。わざわざ他国の事に首を突っ込むつもりはない。


 最初は玄武山の狩場に行こうと考えていたのだが、戦となればそれどころでは無いだろう。

 このまま飛行船で西の果ての場所まで行き、そこから海を渡ってトルメテリス帝国に渡る事にした。

 飛行船に乗り込み、サイファー城から外に出ようとした瞬間。

「なんか、来てる!」

 シルフィーが顔色を変えて叫んだ。

『主よ、攻撃されるぞ』

 サイファーも警戒を促した。

 飛行船団に見つかったか?


「距離は!?」

「あと五十メートル!」

「じゃあ、急いでここから出るぞ」

「はい!」

 アルフィーが操縦し、サイファー城から急いで出た。

 空には飛行船団が見えた。

 上から爆撃されそうだ。


 急いで窓から槍を出して、サイファー城を回収した。

―――ドカーンッ! ドゴンドゴゴゴゴゴゴン!


 ものすごい爆音と共にサイファー城のあった場所が爆撃された。

 煙がもうもうと立ち込める。

 改めてみた外の空にはさっきよりも大きな飛行船の大群で埋まっていた。


「あれは! クロの軍団です! 敵城だと思われたかもしれません」

 ジヤスが外を見て驚いた。

「よし、とにかく逃げよう」


 巻き込まれる訳には行かないので低空飛行のまま、全速力で逆方向に逃げだした。

 敵の飛行船もでかすぎて急には反転できないだろう。


 もしかしたら土煙でこちらは見えないかもしれない。

 見つからないよう地を這うようにその場から急激に距離を取った。

 しばらく飛んでいたが、特に追っては来なかったようだ。


「危なかったな」

 どうやら逃げ切ったようだ。

 小さすぎて気づかれなかったかもしれない。


「いきなり攻撃してくるなんてひどいですの」

「そうよ。敵でもないのに」

 オルフィーとシルフィーがぷんすか怒る。

『主もやったじゃないか…… そもそも城なら、あの程度の攻撃などはどうってことない』

 サイファーがじと目で言う。

 全くそうですね。

 俺達もサイファー城に奇襲したのだ。しかもいきなり穴に落とした上にボコボコにしたのだ。

 それでも無傷だったのであれくらいの攻撃ならヘでもないだろう。


 俺もそう思いました。すいません。


「でもまさか、クロ一族の軍団がわざわざトウホウまでやって来るとは……今回は本気でトウホウを落とす気なのか」

 この国の中央辺りの勢力であるクロ一族が東側まで統一するために軍を起こしているそうだ。

 やはり急いでこの国を出たほうがいいだろう。


「俺達は政治に関係ないからな。このまま西へ向かい、国を出て海を渡ろう」

「そうですね。ではこのまま、飛んで西の端まで行きましょうか」

 アルフィーに操縦を任せたまま、ジヤスと場所を確認する。


「ジヤス。この地図を見てくれ」

 怪屋さんから貰った地図と世界地図をその場に広げた。

「ほう、これは良い地図ですな」

 おそらく初めて見ただろう、ジヤスが感心する。


「俺達はこのハテル大陸から来たんだ。地図で言うとまっすぐ西に向かって来たつもりだが、大分南に流されているようだ。そしてこのジャポニの国の北東に今いるはずだ。合ってるな?」

「そうですな。拙者も世界地図というのは、初めて拝見いたしました。やはり世界は広いですな……おっと、失礼。殿の申される通り、今の位置は問題ありませぬ」

 ジヤスが地図を見て興味深々になっているようだ。


「ハテル大陸の端からここまで海を渡るのにおよそ三日で来ているんだ」

「この距離を三日でですか。小さくとも凄い飛行船ですな」

 とはいえスピードはそう出るわけではない。だがおよそ時速60kmで進めれば24時間で1440kmも移動できるのだ。直線距離でいえば4500km程というのは相当な距離だろう。


「この飛行船はサイファーが寝ずに操縦してくれれば、これからもそれくらいは進める計算だ。一日飛べばおそらく西端まで着けるだろう。ただこの国には結界石があるはずだ。端近くまで到達したら人気のない場所に移動して北上し結界石だけは、アルフィーと二人で越えようと思う」

「そうですね。結界石だけ越えたら、また飛行船と出せばいいですもんね。そう考えたら、世界もそんなに広くないですね」

 地図を確認しながらアルフィーも賛同する。


「そうね。いいと思うわ、エル。そうしましょう」

「攻撃されたのはシャクですの。でも主様が気にしてないならオルは別にいいんですの」

「ウルは……この子がいればなんでも良いです」

 ウルフィーが愛おしそうに白子を抱えて撫でている。

 相当気に入ったようだ。


「拙者もそれで良いでござる。地図を見たら余計に世界をもっと見てみたくなりました」

「よし、じゃあ。そうしよう」

 これで方針は決まったな。


 一応説明してジヤスを回収すると、

 操縦はサイファーに任せて嫁と俺だけになった。

 さあ、では嫁とイチャイチャしようかな。



 そう思ったその瞬間。



 突然目の前が真っ暗になった。
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