【完結】彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~

春風由実

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番外編

何もないところから育てたいのです!③

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 ヘンリーのすぐ側からも勢いよく息が漏れる音がした。

「ぶふっ」
「ぶっ」

 もう吹き出しているのに、ジェラルドは大真面目な顔を作り直すと、こめかみを揉みながら満面の笑顔を見せている庭師へと問い掛ける。

「昔のお前は金髪ではなかったように思うが?」

 気にする点はそこですか、主さま。
 侍従が「ぶほっ」とまた盛大に息を吐いていた。

「鬘屋でこれが今年の一番人気だと言われましてな」

「今年……毎年流行が変わるのか?」

「おしゃれに気を遣う者は皆、毎年買い替えるのだとも言っていましたな」

「おしゃれ……鬘の概念が変わったな。隠すものだと思っていたぞ」

 確かに毎年変えていたら隠せませんね。
 やっと復活した侍従はしかし会話には参加せず、想いは心の内に留めた。

「まだまだ甘っちょろいですな、主さまは。これは隠すような恥じるものではないのですぞ」

 にやりと歯を見せ笑った庭師は、一呼吸どころではなく、三つも四つも間を置いてから続きを言った。

「この輝く頭はな、まさしく男のロマン。ロマンなのだ!」

 若き主君とその侍従が、まるでいつかのセイディのように固まっていると、庭師は陽光をよく照り返す頭を振ってみた。
 この動きだけで遠くでまた誰かが倒れる。

「何を呆けた顔をしておられる。お前もだ、そこの侍従。歳を重ねた男にしか辿り着けぬ境地こそ、この見事な頭なのですぞ。それもこの完璧な輝き、生半可な者には決して辿り着けませぬ」

「なまはんか……」
「確かに毛の一本もない人は、そうそうおられないかもしれません」

 誇り高過ぎる言葉を受け入れられずまだ呆ける主君と、やたら説得力のある言葉に納得し新たな信者のように頷き始めた侍従。

「これこそ、立派に生きてきた男の証!このロマンに辿り着いてからこそが、男としての真の人生がはじまると言っても過言ではないのである。……このように、私はこの頭を誇っておりますがな」

 強い口調で語っていた庭師が、急に声色を変えてきた。
 しかし声に活力が戻るのもまた早く。

 さすがはロマンを知る男ヘンリー。

「セイディさまを困らせてしまうとなれば、このヘンリー。古びた信念など捨て去って、新たなる価値観を受け入れましょうとも!さすれば私はこの頭で、今日から流行の最先端を行きますぞ!」

「……壮大な話になってきたな?」

 何とか現実を受け止めはじめたジェラルドが呟いた。
 見事に洗脳され終えた侍従は、その傍らで深く頷く。

「ロマンを捻じ曲げるとは。さすがは庭師長、見事な忠誠心ですね」

「…………これは忠誠心か?」

 またこの現実から逃げたくなったジェラルドが、再び思想の海へと泳ぎ出しそうになっていたところに。

「そこで今日は、この金髪を被り、夢に見たセイディさまのよちよちをちょうだいしたく──」

 ジェラルドの様子などは一切気に掛けていない庭師長ヘンリーも、急に言葉を止めた。
 すぐに明るい声が庭の隅々に向けて響き渡る。

「るど、みてくだしゃい!またぴーまんがおおきくなりました!」



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