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何も覚えていないのだが

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 そうそう文官王子の話もしておこうか。

 あれは確か作戦を失敗した日から三日後のこと。

 早朝からはじまって、朝昼夕夜、夜半、また翌日も、翌々日も……と立ち上がれる限り手合わせを続けていたら。

 ん?立ち上がれるとはなんだって?
 マイクが立ち上がれない状態で手合わせをしたって少しも面白くはないだろうよ。
 だから三日間の途中にも抜けがあるんだ。

 それで三日のうちに手合わせを何度か見学していた文官王子は、労いの言葉を掛けてくれたあとにこう言った。

「もういいよ。ありのままで」

 うっひょーと喜んだ私は、有難くそうさせて貰ったよな!

 そんな素晴らしい言葉を掛けてくれた文官王子であったが、あの日はやたら青白い顔を見せていた。
 おそらく一人でこっそりと悪いものでも食べたのだと思うぞ。
 そのために護衛騎士を側から外したと思えば、意外とやる男だろう?

 マイクよりはお喋りじゃなかった王子は、食い意地の張った王子だったのだ。
 そうして僅かばかりに見直した文官王子に、せっかくだからと手合わせに誘ってみたのだが。
 
 忙しいからと即断られた。その後もずっとだ。
 残念極まりない。
 
 少しは鍛えていそうなのもあったが、私が誘ったのは文官王子が王子様だからに違いない。
 王子様と手合わせ出来る機会なんて人生でそうないことだろう?
 一度くらいは経験しておいてもいいと思ったんだがな。

 そんな文官王子との付き合いも今日までになる。
 姉が次の辺境伯として認められたのだから、もう文官王子の仕事も仕舞いだ。

 
 お?やっと王様の話が終わりそうだぞ。
 姉の名が呼ばれ、姉は足早に段を駆け上がっていった。

 おぅ、やはりそうか。
 足取りから、その機嫌が窺えるぞ。

 王様の話は長過ぎたよな?

 すぐに王様の前に辿り着いた姉は、素早い動きで王様の手から書状を受け取った。


 よし。これで終わりだな!
 騎士団へ行くぞー!


 ん?なんだ?
 王様が手招きすると、文官王子まで段を上り始めた。
 
 追い掛けた方がいいのか?
 隣のマイクが首を振って、私を止めた。

 なんだか妙な胸騒ぎがするな。
 これは……襲撃の予兆か?

 曲者はどこに──


「ここに新たなる若き北の辺境伯と我が四番目の息子ジェイコブ・レオ・サンダー・ジョシュア・アラン・マイ─────の婚約を発表する」


 なんだとぉ!!!!!!!


 そこからの記憶がない。
 もちろん王子の長過ぎる名前は忘れた。





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