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第2章 無人島の日々

13・苦い味、甘い味

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 トモヒロをモンスターから助け出し、貝殻2枚と食料をゲット。
 本能的な行動をしてくれたおかげで得したな。
 この食料に関したら絶対に、絶対にケイトに任せておいしく食べるとしよう。

 そうだ、美味しくといえば塩はどうなっているだろう。
 かまどに乗せてある貝殻の中を覗くと、海水の量はだいぶ減っていて片栗粉を水で溶いたように白くてドロドロの状態になっていた。
 うん、この状態なら海水を継ぎ足してもいいだろう。

「海水、だいぶ減っとるなぁ~。てか、白いしもうこれって塩になってるんちゃうん? ちょっと味見してみてもええ?」

 ユキネさんは枝を拾って、煮ている海水につけた。

「え? あっ! ちょっと待っ――」

 そして口元へと持っていった。

「ペロッ……――っ!! うげ! にっが!!」

 海水を舐めた瞬間、ユキネさんの顔が苦虫をかみつぶしたように歪んだ。
 そりゃそうだ……白色でも塩とは程遠い物だからな。

「ぺっぺっ! ……なんやのこれ! 全然塩とちゃうやん」

「海水は塩以外に、様々な成分が含まれているんです。それを取り除かないと塩は出来ないんですよ」

「うえぇ……そうなん? もっと早く言うてよ……あううう……口の中がまだ苦い……」

 止める暇なんて全くなかったんですが……。

「でぇ? その様々な成分ってぇどうやって取り除くのぉ?」

 実はそこがちょっと不安だったりする。
 俺の見た動画だと、大抵はコーヒーフィルターを使って海水をろ過していたんだよな。
 けど、無人島どころかこの世界にそんな物はない。

「えと、このハンカチを使って海水を濾します」

 だから俺のハンカチでやるしかない。

「それでぇ出来るのぉ?」

「……出来る……と思います……」

 タブンだけど……。



 煮て、継ぎ足して、煮て、継ぎ足してを繰り返し。
 そろそろいい具合じゃないだろうか。

「じゃあ、濾す作業に入りますね」

 貝殻をかまどから上げて、煮詰まった海水を広げたハンカチの上にゆっくりと流し込んで、もう1枚の貝殻の中へと移す。
 火傷をしない様に気を付けて……。

「あつつっ」

 移し終えたら貝殻をかまどの上に置いてまた煮詰める。
 で、塩の結晶が出てきたら焦げない様に混ぜながら水分を飛ばしていく。

「後はこれを葉っぱの上に広げて置いて、乾燥させれば塩の完成です」

「お~確かに塩っぽいけど……大丈夫? 苦くない?」

「だ、大丈夫ですよ」

 うまく濾せてればの話になるけどな……。
 まぁ失敗したらしたでやり方を変えるだけだ。
 さて、次は一番心配な炭の方を確認しにいくか。



 泥の山に戻ると、山は崩れ落ちず形が保たれていた。
 良かったー崩れ落ちてたら失敗が確定だったからな。

 でだ、出来上がりの目安としては泥の山が冷めきっている事なんだけど……手のひらを山につけても全然熱くない。なら完成しているかな……?
 俺は不安を持ちつつ泥の山を崩し始めた。

「……おおっ……」

 泥の山を崩すと真っ黒になった薪が出てきた。
 恐る恐る一番上にあった1本を手に取り、折ってみるとパキっと小気味よい乾いた音が鳴った。
 断面も真っ黒、これは成功と言えるな。
 まだ一部完全に炭になってないのもあるけど、これはまた炭を作る時に入れればいいから問題は無い。

「完成です。炭になっている物を籠の中に入れちゃいましょう」

 ベルルさんの作った籠に炭を入れていき、俺は下に溜った灰を貝殻の中へと入れた。

「? アンちゃん、灰を集めてどうするのぉ?」

「この灰も使えるんですよ」

「え? 何に使うん?」

「洗剤の代わりになるんです」

「お嬢様、それは本当ですか?」

「これもやったことはないけど、江戸……じゃなくて、ドーガの冒険記に書いてあったのよ」

 正確には江戸時代、灰から作った灰水を使って洗濯していたらしい。
 だから灰水に洗剤の効果はあるはずだ。

「なるほど……ドーガ……すごい冒険家ですね」

「そ、そうね……」

 架空の人物の評価が上がっていく。
 ケイトが無人島から出たら、ドーガの冒険記を探そうとしなければいいが……まぁその時はその時でまた誤魔化せばいいか。
 灰を入れた貝殻の中に水を入れてかき混ぜる。
 後は1晩置いておいて灰が沈殿すれば灰水の完成だ。

「……ん? わっ! ハチや!」

 ユキネさんがトモヒロの陰に隠れた。
 見た目はアシナガバチぽいが、アゲハチョウのみたいな色鮮やかな羽になっている。
 という事は、チョウバチか。
 現実世界で言うところのミツバチの様なものだ。
 にしても、一瞬で逃げるところを見るとユキネさんってハチが苦手なのかな。

「チョウバチですね。じっとしていれば襲われる心配はありませんよ」

 とはいえ、逃げる選択肢はあっている。
 こっちの世界のハチも刺されると命の危険があるからな。
 そう考えるとチョウバチの駆除をした方がいいか……あ、そっか。

「ケイト、あのチョウバチを見失わない様に追ってくれる?」

「はい、わかりました」

 どの世界のハチも巣は存在するし蜜もため込む、つまりハチミツが取れるわけだ。
 無人島で糖分が取れるのはかなりデカイ。
 チョウバチの駆除もかねてぜひとも欲しいところだ。



「あの木の枝に巣がありますね」

 太い枝と幹の間にバスケットボールくらいの大きさがありそうな巣がくっ付いていた。

「ほえ~結構大きいな~」
 
 拠点の場所からそう遠くない場所に大きな巣か。
 やっぱり今駆除をしておいた方がいいな。

 俺はゆっくりと静かに巣の下まで移動して、焚き火の準備を始めた。
 ここでユキネさんが採って来たキノコが役に立つとは思いもしなかったな。
 赤くてまだら模様のは神経麻痺、濃い紫色は見たまんま毒性が強いキノコだ。
 これを焚き火の中へ入れて、毒性のある煙で巣を燻す作戦だ。
 こうすればチョウバチ達は弱るはず。
 焚き火に火を付けキノコを投げ入れた後、俺は急ぎ足でその場を離れた。

 予想通り、煙が巣を覆うと大量のチョウバチが巣から出てきた。
 毒性の煙の効果のおかげで動きが鈍いし、一部は地面に落ちて来ている。
 作戦は成功の様だ。

 しばらく様子を見ていると、飛んでいるチョウバチも煙の量も減って来た。
 あの状態ならもう近寄っても大丈夫だろう。
 でも、念には念をだ。

「トモヒロ、お願い」

『ウホッ!』

 俺はトモヒロを巣の除去を任せる事にした。
 背が高いし、剛毛でチョウバチに刺されにくいからだ。

『ウホッ』

 トモヒロは難なく木から巣を取り外した。
 すると、残って辺りを飛んでいたチョウバチは散り散りに飛んで行った。

「ようやった! トモヒロ、それをこっちに!」

『……』

 トモヒロが手に持っているハチの巣をジッと見つめている。
 一体なにをして……ハッ! まさかっ!

「トモヒロ! お前――」

 俺は嫌な予感がして、慌てて飛び出した。

『アーン……バクッ』

「「「「ああああああああああああ!!」」」」

 が、遅かった。
 トモヒロが蜂の巣にかぶりついた。

『ムチャムチャ……ウホホー!!』

 甘くておいしかったのだろう。
 トモヒロは咀嚼をしながら満面の笑みを浮かべた。

「ト~モ~ヒ~ロ~ちゃ~ん~」

「――っ!」

 殺気を感じ、後ろを振り向くと鬼化をしたベルルさんの姿があった。
 昨日より目を見開き血走っているところを見るにハチミツを楽しみにしていたのだろ。
 ベルルさんのお説教は1時間以上続き、その間トモヒロはずっと正座をさせられる羽目になってしまうのだった。
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