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番外編②-2 双子7歳 双子は悪戯ざかり(アーク視点)

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「「おはよう、アーク兄さま」」
「おはようございます。アーク兄さま」
「おはようごじゃいましゅ。アーク兄ちゃま」

 子供たちの挨拶が可愛い。
 翌日、アルファント陛下とリーナ、その子供たちと一緒に朝ご飯を食べる。陛下とリーナの子供は5人もいる。
 長男のアクティース11歳、次男のルクスと長女のリィールウが7歳、次女のルーナが3歳、3男のヴェントウスがもうすぐ1歳になる。
 子沢山である。日本だと子育てに追われて大変だったと思うけど、幸いな事に王宮は人手が沢山あるので助かっているとリーナが言っていた。

 朝食は見事に和食だった。龍の国ではまだ和食は食べられないのでこの献立は嬉しい。ご飯にお味噌汁、魚の干物に切り干し大根の煮物、だし巻き卵にお漬物に海苔。色とりどりの野菜サラダにポテトサラダ。ハムとウインナーはあるけど納豆はなかった。

「美味いな。リーナの作る朝食は本当に美味しい」
「ごめんね、お兄様。朝食は王宮の料理長が作っているのよ。料理長は本当に腕をあげて和食もプロフェッショナルになってきたわ」
「王宮食堂の料理人も熱心だからかなり美味しいモノが食べられるようになったぞ。いつでもウドンやカレーが食える。リーナの作るものには負けるけど、日本のカレーに近づいてきていると思う」
「カレーはブラックさんが凄く熱心にスパイスを探してきたから」
「へぇ、じゃぁ、後で食べてみよう」

 王宮の食堂でも普通に和食が食べられるようになったのは嬉しい。もっとも、リーナの『液体の加護』から生まれる出し汁を使っているので、王族の食事はとても美味しい。
 陛下とリーナの尽力により、この国の食料事情は物凄く好転した。元勇者と元魔王のブラックさんとグリーンさんも冒険者を続けながらも食の改善に協力して、今やこの国はよくぞここまで、というほど国の中に和食が広がっている。
 稲作は北の気候に良く合ったらしくて、お米も餅米も毎年豊作で国民も主食はパンとお米が今や半々ぐらいである。

 俺の『パンの木の加護』も20歳までにかなりレベルが上がったおかげで日本のパン屋で売っていたパンは殆ど出せる。
 とは言っても、出せるのは俺が食べた事のあるパンだけ。リーナが言う横文字の変わったパンとかは聞いた事もないし、出せない。
 パンも色んな種類があって多分、名前と味が一致するのが大事なんだと思う。

 リーナが「お店のシュトーレンとか、各種のパンが出せないのは残念だけど、お兄様の高校の購買が美味しいパン屋さんだったのは本当にラッキーなことだったわ」と言う。
 もっとも、この国のパンのレベルも上がって、食パンやロールパン、フランスパンなども食べられるようになった。
 クロワッサンや菓子パンはまだ高級パンの括りに入るみたいだけど。
 俺のパンも需要がなくなり、提供するのは陛下とその側近、リーナに王族たちぐらいになった。それと王宮のパン職人が研究の為にパンの木になるパンを求めてくる。
 リーナと陛下は「やっぱりアークのパンは格別に美味しい」と言ってくれるので王宮のパンは絶やさないようにしている。

「アーク兄さま、今日は遊んでくれるんだよね」
「わーい。今日は遊ぶぞ」
「あちょびたい」

 子供たちがワクワクした顔で見てくる。

「そうね。今日は森でバーベキューをしましょうか」
「家族でバーベキューか。それもいいなぁ」
「陛下はお仕事でしょう」
「リーナ……」
「毎日、お仕事お疲れ様です」

 アルファント陛下は一緒にバーベキューに行きたかったみたいだけれど、リーナにすげなくされてガッカリしていた。
 一番小さい3男のヴェントウスだけを王宮に残して子供たちと俺とリーナ、それに護衛を引き連れて元アプリコット辺境伯領の森に行った。

 今は俺のクランベリー公爵領になっているけど、公爵領はこの森と魔王のダンジョンだけ。魔王のダンジョンは氷の魔女で栓をしているけど、人ひとりが通れるくらいの裂け目は開いていて、普段は氷で覆っているけど、完全に塞ぐと出入りができなくなる可能性があるので、少し風穴が開いている。そこから時々小さな魔物が入ってくる時があるので、いつも警備の騎士と兵士がダンジョンの入り口と最奥の広間に詰めている。

 双子に「魔法はきちんと使い方のお勉強をしてから、大人の見ている所でしか使ってはいけない」とリーナと陛下が言って聞かせたら「はーい」と、とてもいい返事をしていた。
 リナがこっそりと

「虹は魔法じゃないよね」
「魔法の仲間だから使い方を一緒にお勉強しよう。後からまた虹を見せてくれる?」
「うん、いいよ。後から見せてあげる」

 嬉しそうにしているけど、大丈夫だろうか。不安だ。

 森で採取をしてバーベキューの用意をしていると警備の騎士からご連絡鳥が飛んできた。

「魔王のダンジョンですが、魔女の顔が変化しています。見てもらえますか」

 あわてて、最奥の広間に行ってみると確かに魔女の顔、茶ピンクの顔が変わっていた。前はちょっと酷い顔つきのまま固められていたのに、今はムッと口を歪めた不機嫌そうな顔になっている。最近は顔を見る事もないので全然気がつかなかった。

「どうして、顔が変わっているんだ? 何時からだ?」
「すみません。顔つき、というかそこに氷像があるとは認識していたんですが、顔までは見ていなかったんです。何気なく顔を見たら変わっていたのに驚いて」
「変ですよね」
「うーん。どうしてなんだろう?」
「それ、僕がしたんだ」

 下から可愛い声がした。いつの間にか双子の片割れルクスが側にいた。

「なんかね、酷い顔だったから、顔だけ溶かしてあげたらすっごい文句言われたからまた凍らせておいた」
「前にアーク兄さま、追っかけてたらここに来て、何だろうと思って触ってみたら冷たかったの」

 どうやら、この二人は俺が龍の国に行くときにストーカーをして此処迄きたらしい。よくよく聞いてみるとリルの虹でここまで来て、ルクスの魔法で溶かして、また、固めたらしい。
 ストーカー行為に全然、気がつかなかった……。

 自重しない子供の魔法使いって怖い。
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