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第4章
第167話 ポタージュスープと黒猫
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「いいにおい。ねこしゃんしゅごいね~!」
「できたぁ!?ぼくおなかちゅいた~」
「たべりゅぅ~!」
うわぁちっちゃい、かわい~! と思って見ていると、リリーが名前を教えてくれた。
このほとんど同じ顔をした小さな三つ子は、ミミとナナとココ。檸檬色のふわふわ髪で、ぱっちりなおめめはみんなそっくりだけど、目の色が少しずつ違う。ミミが緑で、ナナが赤、ココは茶色い目をしている。リリーには他に二人の弟と3歳年上の兄がいるらしいけれど、まだ寝ているみたい。
「待ってね。お皿に盛ったら出来上がりだから」
さっき洗ったお皿に一人分ずつ盛っていく。それにスープを添えてできあがり。
「もうたべてい?」
と聞くからどうぞ、と答えると三人は、子ども用のナイフとフォークを頑張って動かして食べ始めた。
(はぁ、かわいいな。初めて会った時のユジンみたい)
小さなお口でもぐもぐ食べる姿をうっとりと見ていると、
「キルナ様ぁ~僕らの分はまだですかぁ?もぅ、僕、お腹が空きすぎて……死にそうなんですぅ」
とリリーが腹ぺこアピールをしてくる。あ、そうだった。と、急いで彼らの分も用意した。ガレットとポタージュだけじゃ足りないかも、と思ってひき肉入りのオムレツも付けて。
「はい、これがリリー、これがギア、これがクライスね」
と渡していくと、みんな嬉しそうに受け取り、食べ始める。と思いきや、クライスの手が止まっている?
「キルナの作った朝ごはん……」
と呟いてなかなか食べない。やっぱり僕が作ったご飯なんて食べたくないのかな。
「いらないなら…」
食べなくていいよ、と言おうとしたら、はっと僕に気づいたクライスが、急いで、でも優雅な手つきでオムレツを口に運んだ。
「どう…かな」
ずっと一緒にいたけれど、クライスに僕が作ったものを食べさせるのは初めてだ。手作り紅茶は喜んでくれたけど……、完全に前世のレシピで作った料理は彼の口に合うのだろうか。
(おいしくない、って言われたら僕が食べよう)
でもそんな心配とは裏腹に、彼は一口食べた瞬間、うまい! と口元を綻ばせた。
(ふふっ、こんなに美味しそうに食べてくれるなんて。よかった!)
「キルナ様、これはなんという料理ですか? 初めて食べたのですが、めちゃくちゃうまいです」
「それはガレットっていうの。簡単だし気に入ってくれたのならまた作るよ」
言われてみれば、ベンスのメニューでも見たことがない。この世界にはない料理なのかも。それにしてもギア、食べるスピードがとんでもなく早い。もっとたくさん作った方がよかったかな?
「キルナ様ってほんと料理上手ですね~。慣れてないキッチンって火加減とか難しくなかったですか? 魔石式キッチン、使うのははじめてでしょ?」
リリーがもぐもぐと食べながら聞いてくる。
「料理、褒めてくれてありがと。でも正直言うと、スープと簡単な卵料理くらいしかできないの。ちゃんとベンスに習いたいのだけどなかなか時間がなくて。キッチンはとっても使いやすかったよ。なんといっても魔力なしで使えるのがすごい! こんな便利なものがあるんだね」
「魔法学園や貴族の家のキッチンは使用者の魔力で動く魔力式が多いんですけど、うちみたいな底辺貴族や平民には普通魔力なんてほどんどありませんから、こういった魔石式のキッチンを使うことが多いんです」
「へぇ、そうなんだ。僕はこっちの方が誰でも使えて便利だと思うけど……」
「ただ魔石は中の魔力がなくなると一々補充しないといけないので面倒臭いし、火力、水力も弱い。冷却の力も弱いから食材が日持ちしないという欠点があるんですよ」
「なるほど」
さすが賢いリリーの説明はわかりやすい。庶民はどうやって生活してるのか疑問だったけど、この世界には魔石っていう充電式の電池みたいなものがあるから魔道具が全く使えないわけじゃないんだね。
多少欠点はあるみたいだけど、これを使えば僕も平民として生きていけそう。(火打ち石や井戸の使い方を覚えなくて済みそうだ)
「それにしても、ギア様、目の下に酷いクマができていますよぉ。寝不足ですかぁ? あ、もしかして~昨晩お隣が騒がしくて!?」
あれ? さっきまで賢いモードだったリリーが急にちょっとやんちゃな小悪魔モードになっている。しかも、え、ギアの目の下にクマって? お隣が騒がしいって、僕たちのこと?
「え、あ、いや、まあ……」
ギアは真っ赤になって恥ずかしそうに俯いてしまった。この反応……も、もしや!?
(まさか夢じゃなかった!? ギア……聞いてたの? 僕のあの恥ずかしい声を全部?)
昨日の夜……僕……たしか、イッちゃう~って……思いっきり喘いでた…よね。
「んにゃあああああ!!!」
恥ずかしさのあまり叫んでしまう僕を見てニヤッと口角を上げるリリー。
「あ~あ、失敗しました! 僕もキルナ様たちの隣の部屋で寝たらよかったぁ。そしたらニャーニャーってかわいい鳴き声が聞けたのに! 残念ですぅ」
「おい、リリー、あまり言うとキルナが恥ずかしがるからやめろ。あとギア、お前はもうちょっと感情を隠す訓練をしろ。キルナ、来い。まだ朝食を食べていないだろう? いつもみたいに食べさせてやるから」
(って!! こんな状況で、クライスは何言ってるの? もう僕病人じゃないし、食べさせてもらうとかそんな恥ずかしいことできるはずないでしょ)
でも僕の心の叫びは彼には全然届かない。
ずるずると腰を引き寄せられて力技で膝に乗っけられ、「もうもうもう、離してったら!!」と僕はじたばたと暴れた。
「三つ子が見てるでしょ!」と注意しようと思ったら、彼らは「よいちょっ」と言いながらスープ皿にポタージュを上手によそってクライスに渡していた。小さいのにとっても気が利く……。
「ど~じょ」
「ねこしゃんも、ちゃんとごはんたべてね」
「もっとおおきくなってね」
「ほら、キルナが細くて軽すぎるから子ども達も心配している。たっぷり食え」
うっ……そう言われると断れない……。僕が食べることを期待しているキラキラのおめめが見つめる中、仕方なくあ~んと口を開け、スープを頂くことにした。
「ねこしゃんおいしぃ?」
コテンと首を傾ける彼らは天使にしか見えない。でも、これだけは言っておかないと。
「あのね、ねこしゃんじゃなくて、キルナと呼んで!」
「できたぁ!?ぼくおなかちゅいた~」
「たべりゅぅ~!」
うわぁちっちゃい、かわい~! と思って見ていると、リリーが名前を教えてくれた。
このほとんど同じ顔をした小さな三つ子は、ミミとナナとココ。檸檬色のふわふわ髪で、ぱっちりなおめめはみんなそっくりだけど、目の色が少しずつ違う。ミミが緑で、ナナが赤、ココは茶色い目をしている。リリーには他に二人の弟と3歳年上の兄がいるらしいけれど、まだ寝ているみたい。
「待ってね。お皿に盛ったら出来上がりだから」
さっき洗ったお皿に一人分ずつ盛っていく。それにスープを添えてできあがり。
「もうたべてい?」
と聞くからどうぞ、と答えると三人は、子ども用のナイフとフォークを頑張って動かして食べ始めた。
(はぁ、かわいいな。初めて会った時のユジンみたい)
小さなお口でもぐもぐ食べる姿をうっとりと見ていると、
「キルナ様ぁ~僕らの分はまだですかぁ?もぅ、僕、お腹が空きすぎて……死にそうなんですぅ」
とリリーが腹ぺこアピールをしてくる。あ、そうだった。と、急いで彼らの分も用意した。ガレットとポタージュだけじゃ足りないかも、と思ってひき肉入りのオムレツも付けて。
「はい、これがリリー、これがギア、これがクライスね」
と渡していくと、みんな嬉しそうに受け取り、食べ始める。と思いきや、クライスの手が止まっている?
「キルナの作った朝ごはん……」
と呟いてなかなか食べない。やっぱり僕が作ったご飯なんて食べたくないのかな。
「いらないなら…」
食べなくていいよ、と言おうとしたら、はっと僕に気づいたクライスが、急いで、でも優雅な手つきでオムレツを口に運んだ。
「どう…かな」
ずっと一緒にいたけれど、クライスに僕が作ったものを食べさせるのは初めてだ。手作り紅茶は喜んでくれたけど……、完全に前世のレシピで作った料理は彼の口に合うのだろうか。
(おいしくない、って言われたら僕が食べよう)
でもそんな心配とは裏腹に、彼は一口食べた瞬間、うまい! と口元を綻ばせた。
(ふふっ、こんなに美味しそうに食べてくれるなんて。よかった!)
「キルナ様、これはなんという料理ですか? 初めて食べたのですが、めちゃくちゃうまいです」
「それはガレットっていうの。簡単だし気に入ってくれたのならまた作るよ」
言われてみれば、ベンスのメニューでも見たことがない。この世界にはない料理なのかも。それにしてもギア、食べるスピードがとんでもなく早い。もっとたくさん作った方がよかったかな?
「キルナ様ってほんと料理上手ですね~。慣れてないキッチンって火加減とか難しくなかったですか? 魔石式キッチン、使うのははじめてでしょ?」
リリーがもぐもぐと食べながら聞いてくる。
「料理、褒めてくれてありがと。でも正直言うと、スープと簡単な卵料理くらいしかできないの。ちゃんとベンスに習いたいのだけどなかなか時間がなくて。キッチンはとっても使いやすかったよ。なんといっても魔力なしで使えるのがすごい! こんな便利なものがあるんだね」
「魔法学園や貴族の家のキッチンは使用者の魔力で動く魔力式が多いんですけど、うちみたいな底辺貴族や平民には普通魔力なんてほどんどありませんから、こういった魔石式のキッチンを使うことが多いんです」
「へぇ、そうなんだ。僕はこっちの方が誰でも使えて便利だと思うけど……」
「ただ魔石は中の魔力がなくなると一々補充しないといけないので面倒臭いし、火力、水力も弱い。冷却の力も弱いから食材が日持ちしないという欠点があるんですよ」
「なるほど」
さすが賢いリリーの説明はわかりやすい。庶民はどうやって生活してるのか疑問だったけど、この世界には魔石っていう充電式の電池みたいなものがあるから魔道具が全く使えないわけじゃないんだね。
多少欠点はあるみたいだけど、これを使えば僕も平民として生きていけそう。(火打ち石や井戸の使い方を覚えなくて済みそうだ)
「それにしても、ギア様、目の下に酷いクマができていますよぉ。寝不足ですかぁ? あ、もしかして~昨晩お隣が騒がしくて!?」
あれ? さっきまで賢いモードだったリリーが急にちょっとやんちゃな小悪魔モードになっている。しかも、え、ギアの目の下にクマって? お隣が騒がしいって、僕たちのこと?
「え、あ、いや、まあ……」
ギアは真っ赤になって恥ずかしそうに俯いてしまった。この反応……も、もしや!?
(まさか夢じゃなかった!? ギア……聞いてたの? 僕のあの恥ずかしい声を全部?)
昨日の夜……僕……たしか、イッちゃう~って……思いっきり喘いでた…よね。
「んにゃあああああ!!!」
恥ずかしさのあまり叫んでしまう僕を見てニヤッと口角を上げるリリー。
「あ~あ、失敗しました! 僕もキルナ様たちの隣の部屋で寝たらよかったぁ。そしたらニャーニャーってかわいい鳴き声が聞けたのに! 残念ですぅ」
「おい、リリー、あまり言うとキルナが恥ずかしがるからやめろ。あとギア、お前はもうちょっと感情を隠す訓練をしろ。キルナ、来い。まだ朝食を食べていないだろう? いつもみたいに食べさせてやるから」
(って!! こんな状況で、クライスは何言ってるの? もう僕病人じゃないし、食べさせてもらうとかそんな恥ずかしいことできるはずないでしょ)
でも僕の心の叫びは彼には全然届かない。
ずるずると腰を引き寄せられて力技で膝に乗っけられ、「もうもうもう、離してったら!!」と僕はじたばたと暴れた。
「三つ子が見てるでしょ!」と注意しようと思ったら、彼らは「よいちょっ」と言いながらスープ皿にポタージュを上手によそってクライスに渡していた。小さいのにとっても気が利く……。
「ど~じょ」
「ねこしゃんも、ちゃんとごはんたべてね」
「もっとおおきくなってね」
「ほら、キルナが細くて軽すぎるから子ども達も心配している。たっぷり食え」
うっ……そう言われると断れない……。僕が食べることを期待しているキラキラのおめめが見つめる中、仕方なくあ~んと口を開け、スープを頂くことにした。
「ねこしゃんおいしぃ?」
コテンと首を傾ける彼らは天使にしか見えない。でも、これだけは言っておかないと。
「あのね、ねこしゃんじゃなくて、キルナと呼んで!」
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