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騎士団での訓練を始めてから早くも1週間程が経った。
今は朝礼中で、レイが団員たちに連絡事項を伝えている。

「──それから、今日はエリクが体調不良で休みだ」

エリクが体調不良…。
確かに今朝は姿を見ないと思っていたけど、大丈夫かな?

「ロジャー、エリクに代わってナオのことを頼む」
「はい」
「それでは、解散」



俺は魔術師たちが使うホールに移動する途中、ロジャーにエリクのことを聞いてみた。

「ロジャー、エリク大丈夫かな?」
「あー心配いらねぇよ。多分アレだから数日したら出てくる」
「アレ?」
「ん?あぁ、ナオは人間だから知らねぇのか」

人間だから知らない?何だ?

ロジャーが俺に顔を近付けて来て、こそこそと小声で話す。

「アレってのは、あんまり大きい声で言えねぇんだが、その……発情期のこと、だ」
「は、発じょぅ、むぐっ!」
「ばっか!声がデケェ!!」

慌てたロジャーが俺の口を塞ぎ、シーと人差し指を立てるジェスチャーをする。
ロジャーの手は大きいので鼻も一緒に塞がれて息が苦しい。
俺は、早く離してほしくて激しく頷く。
俺の必死な様子にロジャーは慌てて手を離した。

「すまねぇ、でも獣人にとっては結構デリケートな話なんだ」
「はぁ、はぁ、俺こそ、ごめん」

周囲を見渡し、他の獣人と距離があることを確認するとロジャーが話を続ける。

「獣人には月に一回発情期が来る。薬で症状を抑えることも出来るから、普通に仕事や学校に行ける奴もいる。反対に、薬でも抑えられないくらい強い症状が出る奴もいるんだ。兎の獣人は症状が強い奴が多いからな、エリクも多分そうだ」
「なるほど、」
「大抵の奴に来ることだから発情期の事はみんな知ってる。だけど、大っぴらにしたがる奴はなかなかいなんだ」
「そう、なんだ」

大抵のって事は多分レイにも来るってことだよね?
俺がレイと出会ってから1か月以上経つはずだけど、全然気が付かなかった。

そんな事を考えているとホールに着き、再び小声に戻ってロジャーが言う。

「ナオ、発情期について他にも気になることがあるかも知れねぇが、俺には聞かないでくれ。…団長に何言われるか分かんねぇ」

下まぶたを持ち上げるようにして苦い顔をした。

「分かった。色々教えてくれてありがと」

俺も釣られて苦笑いをし、この話はお仕舞いになった。







終業の時間になり、レイが見回りにやって来る。

「あれ?もうそんな時間?」

今日は時間が経つのが早く感じる。
切り替えて、集中したつもりだったけど頭のどこかで発情期の事を考えてしまっていたからかな。

レイが団員たちに終業を知らせ、俺も片付けを始める。
すると、ロジャーが寄って来た。

「ナオ、くれぐれも俺が話したって事は団長に言わないでくれよ!」

小声でそれだけ言うと、そそくさと自分の片付けに戻る。





片付けが終わると、いつも通り執務室へ行きレイの仕事が終わるまでソファーで待つ。

待っている間もやっぱり考えてしまう。
レイの発情期が来ていたのか気になるのだ。
俺がこの世界に来てから、殆んど毎晩魔術制御の訓練をレイとしていた。
レイの症状が強くないとしても、全く分からないなんて事があるのだろうか?

……レイの仕事が終わったら聞こう。
あまり聞かない方が良い話なのかもしれないけど、気になって訓練に集中出来ないのは良くない。

俺はそう決心してレイの仕事が終わるのを待った。
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