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記憶3.
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朝の光を浴びながら、榛瑠はいつものようにキッチンで水を飲んだ。
結局2日寝込んだ。熱が下がって起きたばかりで、顔も浮腫んでいて表情もぼんやりしている。
窓の外の冬の早朝の空は薄く青く、週末のせいか時間のせいか、いつもより静かで澄んだ寒さが見えるようだった。
もう一度水を飲んだ。セラミックトップのキッチンカウンターにガラスのコップが置かれて、コンっと乾いた音をたてる。
そのままぼんやりと大きな窓から外を眺めた。カーテンのない高層階の窓の視界を遮るものは何もない。
榛瑠は外を見たまましばらく身じろぎもしなかったが、やがて、カウンターの淵に両手でつかまってしゃがみ込んで下を向く。
その姿勢で固まっていたかと思うと、何かを呟いて急に勢いよく立ち上がり、早足に部屋を出て行った。
一花は目を覚ますと体をおこして大きく伸びをした。
時計を見ると平日の起床時間と同じ。週末だけれどいつもの朝だ。
榛瑠は結局、先週は出社しなかった。美園さんは翌日に来たみたいだけど。
どうしてるかな、熱は下がったかしら。もう一度連絡してみよう。
そんなことを考えながら着替え終わると、朝食をとるために部屋を出た。そして、廊下の開けたところに置いてある長椅子のところまで来て足を止めた。
大きな窓からは手入れをされたいつもの庭が見える。が、長椅子の端に見慣れないものがあった。
一瞬、なにかわからなかったが、それは人の足先だった。
あわてて椅子の正面に回り込む。そこに横になっていたのは、金色の髪の人だった。
「榛瑠?」
小さい声で一花は名前を呼んだ。榛瑠は眠っているようだった。
どうしてこんなところに? 熱が下がったのかな? でも、こんな朝からどうして?
約束したから早く来てくれたのかな。
一花は心配になってそっと榛瑠の額に手をあてる。……大丈夫みたい。熱はさがったみたい、熱くない。
と、不意に榛瑠が目を開けた。
「榛瑠、おはよう。こんな時間からどうしたの? 体調はどう?」
一花は答えをもらう代わりに両腕で抱きしめられた。強く、痛いくらいに。
「え? 榛瑠?! どう……」
「ごめん」
え?
榛瑠が一花を抱きしめたまま、絞り出すような声で言った。
「ごめん。遅くなった」
一花は訳がわからなかった。遅くなったって、来るのがって事? それならそんなに……。
「ごめん。……ただいま」
ただいま、って。
……あ……。
一花の目にゆっくりと涙が滲み、体が小刻みに震えた。
記憶が戻ってる? もしかして、思い出したの?
「……は……る?」
一花を抱きしめていた腕が緩む。
榛瑠は少し困ったような、でも優しい笑顔を一花に向けた。
「ただいま戻りました、お嬢様」
「…… ! おかえりなさいっ」
一花は榛瑠の首に腕を回して抱きつく。
「一花」
優しい声とともに、一花は再び力強い腕で抱きしめられた。
結局2日寝込んだ。熱が下がって起きたばかりで、顔も浮腫んでいて表情もぼんやりしている。
窓の外の冬の早朝の空は薄く青く、週末のせいか時間のせいか、いつもより静かで澄んだ寒さが見えるようだった。
もう一度水を飲んだ。セラミックトップのキッチンカウンターにガラスのコップが置かれて、コンっと乾いた音をたてる。
そのままぼんやりと大きな窓から外を眺めた。カーテンのない高層階の窓の視界を遮るものは何もない。
榛瑠は外を見たまましばらく身じろぎもしなかったが、やがて、カウンターの淵に両手でつかまってしゃがみ込んで下を向く。
その姿勢で固まっていたかと思うと、何かを呟いて急に勢いよく立ち上がり、早足に部屋を出て行った。
一花は目を覚ますと体をおこして大きく伸びをした。
時計を見ると平日の起床時間と同じ。週末だけれどいつもの朝だ。
榛瑠は結局、先週は出社しなかった。美園さんは翌日に来たみたいだけど。
どうしてるかな、熱は下がったかしら。もう一度連絡してみよう。
そんなことを考えながら着替え終わると、朝食をとるために部屋を出た。そして、廊下の開けたところに置いてある長椅子のところまで来て足を止めた。
大きな窓からは手入れをされたいつもの庭が見える。が、長椅子の端に見慣れないものがあった。
一瞬、なにかわからなかったが、それは人の足先だった。
あわてて椅子の正面に回り込む。そこに横になっていたのは、金色の髪の人だった。
「榛瑠?」
小さい声で一花は名前を呼んだ。榛瑠は眠っているようだった。
どうしてこんなところに? 熱が下がったのかな? でも、こんな朝からどうして?
約束したから早く来てくれたのかな。
一花は心配になってそっと榛瑠の額に手をあてる。……大丈夫みたい。熱はさがったみたい、熱くない。
と、不意に榛瑠が目を開けた。
「榛瑠、おはよう。こんな時間からどうしたの? 体調はどう?」
一花は答えをもらう代わりに両腕で抱きしめられた。強く、痛いくらいに。
「え? 榛瑠?! どう……」
「ごめん」
え?
榛瑠が一花を抱きしめたまま、絞り出すような声で言った。
「ごめん。遅くなった」
一花は訳がわからなかった。遅くなったって、来るのがって事? それならそんなに……。
「ごめん。……ただいま」
ただいま、って。
……あ……。
一花の目にゆっくりと涙が滲み、体が小刻みに震えた。
記憶が戻ってる? もしかして、思い出したの?
「……は……る?」
一花を抱きしめていた腕が緩む。
榛瑠は少し困ったような、でも優しい笑顔を一花に向けた。
「ただいま戻りました、お嬢様」
「…… ! おかえりなさいっ」
一花は榛瑠の首に腕を回して抱きつく。
「一花」
優しい声とともに、一花は再び力強い腕で抱きしめられた。
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