おやすみ、お嬢様 〜Good night, My Lady 〜

藤野ひま

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昼ですね(2)

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「お嬢様?」

榛瑠が不思議そうに私を見る。ああ、どうしよ。言いたくない。でも、言わないと。

「あの、……ごめんなさい。ありがとう」

下を向いて小声で言った。と、榛瑠がソファの背から乗り出す形で私の頬を両手で挟んで持ち上げた。

「そういうかわいいこと言ってると、私に食べられますよ?」

にっこり笑った彼の顔が間近にせまって、おもわず身をひく。

「それいらないから! ごはん食べる!」

榛瑠が笑いながらキッチンに入っていく。まったくもう、油断も隙もない。

オープンキッチンのカウンターの向こう側の彼を見ながら、私はソファの上に足を伸ばした。

彼は手際よく動いている。私はそのまま膝を抱えた。

こういう時って、一般的には、たぶん、 彼女のほうがキッチンに立つのよね。榛瑠は気にならないのかな。いいのかな。本当は嫌だって……思われたら嫌だな。

「あのね、榛瑠」

「はい?」

「あのね、この前気づいたんだけど。私ね、今まで一度もお米をといだことないの」

「ああ、そうですか」

食事の準備の手を止めることなく、榛瑠はなんの驚きも興味もないかんじの返事をした。

「それでね、厨房行ってさせてもらったの。いま、厨房担当してくれてる人知ってたっけ?」

「割と年配の女性でしたよね」

「そう、すごく元気な人でご飯も美味しいの。一度食べにおいでよ。でね、それでね、その人にね、彼ができてもおにぎりの一つも作れませんよって言われて」

榛瑠は軽く笑う。

「その通りです、でも彼氏が料理けっこう上手なんですって言ったら、……ねえ、聞いてる?」

「聞いてますよ」

「では、次からはその方に教わってくださいって言われたの。どう思う?」

「どうって……」パンにバターを塗りながら彼が答える。「それが私のことでしたら、お断りしますけど?」

私は返答することがとっさにできなかった。

「え? どうして?」

「あなた不器用だし、はっきり言って面倒くさいですから」

「……ひどい。私がごはんも炊けないままだったらどうするのよ」

「どうもしません」

「私のおにぎり食べられないよ」

「かまいません」

「……榛瑠は平気なの? 私が言うことじゃないけど、彼女にご飯とか作ってもらいたくない?」

「別に。あればいただきますけど。もともと自分の食にはそこまで興味はないんです。知ってるでしょう?」

知ってる。彼は自分のためには料理らしい料理はほとんどしない。時間がないせいもあるけど、体の管理が最優先の食事をしている、だけだ。プロテイン飲んだりとか。

「でもさあ……」
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