おやすみ、お嬢様 〜Good night, my lady〜

藤野ひま

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昼ですね(7)

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下から見上げながら思う。彼の方がよっぽどケモノっぽい。榛瑠が猫だったらどんなかしら。間違いなく美猫ね。

白くて、敏捷で、しっぽはぴんっと長くて。ツヤツヤのシルクみたいな毛並みで。目はゴールデンアイ。近寄るとしっぽ立てて離れていくの。でも不意にやってきて喉ならしたり、可愛い格好で寝てたりするの。それで、機嫌がいいとさわらしてくれるの。

私は思わず顔を両手で覆ってしまう。だって。自分で想像しといてなんだけど、めちゃくちゃ可愛いんだもん。そんないたら絶対飼う。もう、絶対お家連れて帰るよ。

私は指の間から上を見る。あ、いたんだった。リアル人間バージョン。

人間版が私を見た。

「どうしたんです? 今度は何を思いついたんですか。忙しい人だな」

そう言って私の手をどかそうとする。私は抵抗した。

「にゃーっ」

榛瑠がちょっと呆れた顔をした。

「あ、そうだ」私は起き上がって言った。「ねえねえ、榛瑠がにゃあって言ってみて」

「なんで?」

「いいから」

彼は形のいい眉を寄せながらも言ってくれた。でも。

「思ったより可愛くない。つまんない」

「可愛かったらどうなんですか」

「えっ」 どうって言われると……「えっと、撫でてあげる」

ふーん、と言って榛瑠は私に近づいてきて、にゃあ、と言った。ちょっと可愛かったので金色の毛を撫でてあげた。

そしたら、その猫、じゃない、彼が、私の耳もとを優しく舐めた。

あれ?

耳を舌先で舐められる。動けないでいるとそのまま首筋にもキスされた。

気づくと抱きしめられてる。それから唇にキス……じゃなくて舐められた。にゃあーー!

「ちょっ、ちょっと待って。仕事おわったの?!」

「メールの返信待ち」

そう、低い声でいうと、今度は私の鼻先を舐めた。

「ふにゃあっ」って思わず言ってしまった。やだ、もう。

榛瑠がふっと笑った。

「もっと、ないていいよ?」

よくないよ! 押し返そうとした手を取られる。

……指舐めないで! 抵抗も無駄だった。金の瞳でじっと見られる。頭おかしくなりそう。

その時、メールの着信を知らせる音がした。榛瑠がちらっとそちらを見る。

私はほっとした。と思ったら、頬を両手で挟まれてキスされた。

唇に、対人用の、キス。

やっと離してくれた時、榛瑠が私を見ながら言った。

「やっぱり自分の会社売っちゃおうかな」

「……! いいから、今はメール返して」

頼むから離れて! 

榛瑠がいつもの表情でpcの画面と向き合う横で、私はクッションに顔を埋めてぎゅっと抱えた。

もう、ほんとに、ほんとに、油断も隙もない。

わがまま猫なんかより、もっとワガママでもっとどうしようもなくて、もっと……!

なによ、私の世話係だったはずなのに。

飼いならせたことなんか一度もない。いつだって振り回されて心をもっていかれてしまう。

いつも、いつも。

いったい、どこまでいくのだろう。





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