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夕方だ(2)
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「そうかなあ、だっていろいろお世話になってるし。いい人だし」
「私のほうがよっぽどあなたのお世話していると思いますけど」
それは、そうよね。
「えーと、ありがとうございます」
「言葉ではなく行動で示して下さい」
「えー」
何すればいいのかな。けっこう、自分では好きな気持ちがダダ漏れしちゃっててヤバイって思ってるくらいなのに。
職場で二人のこと隠してるのに、つい目が追ったり、赤面しちゃって困ってるのに。
付き合って収まるどころかひどくなっている気がする。一人で一方的にだけど。何やってるんだか、私。
「例えばどうすればいいの? 料理は習いに行くよ?」
「それは好きにしてくれればいいですが……。例えば、もうすこし積極的になってくれるとか、サービス精神をもってくれるとか、ですかね」
……ちょっと、なんの話? イヤイヤ、突っ込むのはやめよう。絶対、ろくなことにならない。無視。
窓の外をみると、建物の合間からきらきらと光るものが見えた気がした。
「え、あれ、海?」
声が知らずに弾む。うわあ、すっごく久しぶり! 嬉しい!
着いたところは灯台がある岬だった。小高い丘がすぐで遊歩道が整備されていた。
その隙間を縫うように海辺に下りれるところもあって、その近くの駐車場に車を停める。
榛瑠が襟のついたジャケットを手に取る。
「こっちの方が好き、こっち着て」
そう言って私はもう一枚あったカーディガンを彼に渡した。
「お嬢様は? 寒くないですか? 貸さなくて大丈夫?」
「平気です」
ちゃんと着てますもの。
榛瑠は車をおりるとカーディガンを羽織る。赤にオレンジがかかったような色の、ざっくりしたそれは、風に揺れる彼の金色の髪に映えて、とても綺麗だと思う。
男の人にキレイはへんかな。でも、彼はときどき、綺麗だ。
海からの潮風をうけながら、すこし海岸線を歩くことにした。
榛瑠と手を繋いで、足元が悪いので半歩遅れがちについていく。
ときどき彼が止まって待ってくれる。微笑んでくれながら。
多分、私もそんな顔をしていると思う。
春先で肌寒かったが、ちらほら人はいて、やっぱりカップルが多い。
たまに、こちらを見ている人に気づく。もちろん私じゃなくて榛瑠を見ているのだ。
女の子同士で来ていたりするグループだと露骨にわかる。
榛瑠は気にするそぶりもない。
やがて小高い崖につづく上りの遊歩道に行き着いた。ここまできている人は見当たらない。
「のぼってみますか?足元悪いしやめておく?」
私のこの日の靴はヒールのあるパンプスだった。
でも、躊躇なく答えた。
「のぼります。当然」
高い所好きなんだもん。榛瑠は答えをわかっていたかのように微笑む。
「私のほうがよっぽどあなたのお世話していると思いますけど」
それは、そうよね。
「えーと、ありがとうございます」
「言葉ではなく行動で示して下さい」
「えー」
何すればいいのかな。けっこう、自分では好きな気持ちがダダ漏れしちゃっててヤバイって思ってるくらいなのに。
職場で二人のこと隠してるのに、つい目が追ったり、赤面しちゃって困ってるのに。
付き合って収まるどころかひどくなっている気がする。一人で一方的にだけど。何やってるんだか、私。
「例えばどうすればいいの? 料理は習いに行くよ?」
「それは好きにしてくれればいいですが……。例えば、もうすこし積極的になってくれるとか、サービス精神をもってくれるとか、ですかね」
……ちょっと、なんの話? イヤイヤ、突っ込むのはやめよう。絶対、ろくなことにならない。無視。
窓の外をみると、建物の合間からきらきらと光るものが見えた気がした。
「え、あれ、海?」
声が知らずに弾む。うわあ、すっごく久しぶり! 嬉しい!
着いたところは灯台がある岬だった。小高い丘がすぐで遊歩道が整備されていた。
その隙間を縫うように海辺に下りれるところもあって、その近くの駐車場に車を停める。
榛瑠が襟のついたジャケットを手に取る。
「こっちの方が好き、こっち着て」
そう言って私はもう一枚あったカーディガンを彼に渡した。
「お嬢様は? 寒くないですか? 貸さなくて大丈夫?」
「平気です」
ちゃんと着てますもの。
榛瑠は車をおりるとカーディガンを羽織る。赤にオレンジがかかったような色の、ざっくりしたそれは、風に揺れる彼の金色の髪に映えて、とても綺麗だと思う。
男の人にキレイはへんかな。でも、彼はときどき、綺麗だ。
海からの潮風をうけながら、すこし海岸線を歩くことにした。
榛瑠と手を繋いで、足元が悪いので半歩遅れがちについていく。
ときどき彼が止まって待ってくれる。微笑んでくれながら。
多分、私もそんな顔をしていると思う。
春先で肌寒かったが、ちらほら人はいて、やっぱりカップルが多い。
たまに、こちらを見ている人に気づく。もちろん私じゃなくて榛瑠を見ているのだ。
女の子同士で来ていたりするグループだと露骨にわかる。
榛瑠は気にするそぶりもない。
やがて小高い崖につづく上りの遊歩道に行き着いた。ここまできている人は見当たらない。
「のぼってみますか?足元悪いしやめておく?」
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でも、躊躇なく答えた。
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