14 / 20
夕方だ(5)
しおりを挟む
目を開いた時、足の裏で土が滑った感じがした。で、気づいたら思いっきり転んでいた。
「痛~い」
お尻のところがめちゃくちゃ痛い。あーもー!
「一花! 大丈夫ですか?」
榛瑠が慌ててやってくる。
「大丈夫だけど、いった~い」
「……とりあえず、パンツ見えてますけどね」
そう言って榛瑠がめくれていたスカートを直してくれた。
私は慌てて上体を起こしてスカートを押さえる。うわあ~、もう最悪!
「立てますか?」
手をとって立ち上がる。なんかちょっと声が冷たい気がするのは気のせいかな?
「怪我は? 擦りむいたりしてない?」
それでも榛瑠はあちこち私の体を心配してくれる。
「平気と思う。お尻打っただけ。スカートの後ろ破れたりしてない?」
服は大丈夫だった。ついた砂を払って落ち着いたとき、彼の冷たい視線に気がついた。
私は引きつった顔でわざとらしく笑ってみせた。
「まったく……」
「ごめん、でもわざとじゃなくて……」
「わざとだったら困るでしょう。妙齢の女性なんですから。それでなくても、時々あなたが良家のお嬢様だってことを忘れているんじゃないかと思いますよ」
「だって……」
たまたま転んじゃったんだもん。痛い思いしたの私なんだから怒らなくてもいいのに。
「手をとってあげなかった私もまずかったですが、それにしても誰かが見てたら、ですよ」
そこまでパンツ見えてましたか。あーもーどっかに隠れたいよ。
榛瑠がため息をつく。えっとえっと。
「ごめんなさい。あの、怒らないで?」
「怒ってるわけじゃないですけどね。なかなかの絵面だったもので」
なんか笑うしかないかも。
「あの、忘れて?」
「百年先まで覚えてますよ」
「あー、百年の恋も冷めるって?」
軽口のつもりだったのに、自分で言って自分で傷ついた。冗談にならない。
思わず手で顔を覆う。と、そのまま抱き上げられて肩に担がれた。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ」
「あなたを歩かせる方が危ないです」
そう言ってそのまま下っていく。ちょっと、怖いし!って、意外にこの人平気そうだ。
「暴れたら今度は俺が転ぶからね」
若干の不機嫌さが滲み出た声で言われる。
「大人しくするから!」
だから機嫌なおしてよ。私が転びやすいのは昔からだよ、知ってるでしょ? そう、子供の時から。
「……ねえ、あと何回なら平気?」
「何がですか?」
「失敗するの。百年の恋はともかく、あと何回くらいなら我慢してくれる?」
自分で聞いててなんか泣きそうだった。あとどのくらい我慢してもらえるのかしら。いつか冷められちゃうのかな。
「……今までどれくらいあったのかもわからないのに、そんなこと聞きますか?だいたい、私がオムツだって替えてたのに」
「それはそうだけど……」
オムツも……え? あれ?
「ちょっと待って、私、あなたが来た時5歳よ!オムツ外れてた!」
榛瑠は声を出して笑った。
「もう! こっちがはっきり覚えてないからって、あることないこと言わないで!」
「オムツはともかく、似たようなものですよ。百年分なんてとっくに冷めてます」
「ひどい……」
目元がちょっとあつくなる。たしかに迷惑いっぱいかけてきたけど、ひどい。お互い様じゃない。
「だからってどうだって言うんですか?」
榛瑠が私を下ろした。下り坂はだいぶなだらかになっていた。
私は手すりを背にうつむいて立った。
「どうって……」
彼が私の顎を持ち上げた。
「百年ごとき冷めようが痛くもかゆくもない、それくらい。あんまり人を馬鹿にするなよ」
彼の顔が近づいてくる。
視界の端に人影がうつった。なんとなくこちらを見ているのがわかる。
でも、関係ない。あなたの言ったとおりね。それよりこっちの方が大事。
優しく榛瑠は私にキスをする。今度はさっきと違う涙がにじむ。
私の大事な大事な金色の人。
唇を離すと、榛瑠は微笑みながら私に言った。
「でも、できれば私の心臓が凍らない程度の失敗にしておいてくださいね」
「いじわる」
私は口を尖らせた。
「どっちがですか」
「なんでよ?私は何にもしてないよ」
「自覚がない分、あなたの方がタチが悪いです」
「えー、なんで⁈」
榛瑠は笑って答えなかった。
日がだいぶ落ちてきていて、あたりをオレンジに染めていく。その中に私たちもいた。
そして彼の片手に私の片手が包まれたまま、残りの坂道を夕方の赤い陽を感じながら下っていった。
「痛~い」
お尻のところがめちゃくちゃ痛い。あーもー!
「一花! 大丈夫ですか?」
榛瑠が慌ててやってくる。
「大丈夫だけど、いった~い」
「……とりあえず、パンツ見えてますけどね」
そう言って榛瑠がめくれていたスカートを直してくれた。
私は慌てて上体を起こしてスカートを押さえる。うわあ~、もう最悪!
「立てますか?」
手をとって立ち上がる。なんかちょっと声が冷たい気がするのは気のせいかな?
「怪我は? 擦りむいたりしてない?」
それでも榛瑠はあちこち私の体を心配してくれる。
「平気と思う。お尻打っただけ。スカートの後ろ破れたりしてない?」
服は大丈夫だった。ついた砂を払って落ち着いたとき、彼の冷たい視線に気がついた。
私は引きつった顔でわざとらしく笑ってみせた。
「まったく……」
「ごめん、でもわざとじゃなくて……」
「わざとだったら困るでしょう。妙齢の女性なんですから。それでなくても、時々あなたが良家のお嬢様だってことを忘れているんじゃないかと思いますよ」
「だって……」
たまたま転んじゃったんだもん。痛い思いしたの私なんだから怒らなくてもいいのに。
「手をとってあげなかった私もまずかったですが、それにしても誰かが見てたら、ですよ」
そこまでパンツ見えてましたか。あーもーどっかに隠れたいよ。
榛瑠がため息をつく。えっとえっと。
「ごめんなさい。あの、怒らないで?」
「怒ってるわけじゃないですけどね。なかなかの絵面だったもので」
なんか笑うしかないかも。
「あの、忘れて?」
「百年先まで覚えてますよ」
「あー、百年の恋も冷めるって?」
軽口のつもりだったのに、自分で言って自分で傷ついた。冗談にならない。
思わず手で顔を覆う。と、そのまま抱き上げられて肩に担がれた。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ」
「あなたを歩かせる方が危ないです」
そう言ってそのまま下っていく。ちょっと、怖いし!って、意外にこの人平気そうだ。
「暴れたら今度は俺が転ぶからね」
若干の不機嫌さが滲み出た声で言われる。
「大人しくするから!」
だから機嫌なおしてよ。私が転びやすいのは昔からだよ、知ってるでしょ? そう、子供の時から。
「……ねえ、あと何回なら平気?」
「何がですか?」
「失敗するの。百年の恋はともかく、あと何回くらいなら我慢してくれる?」
自分で聞いててなんか泣きそうだった。あとどのくらい我慢してもらえるのかしら。いつか冷められちゃうのかな。
「……今までどれくらいあったのかもわからないのに、そんなこと聞きますか?だいたい、私がオムツだって替えてたのに」
「それはそうだけど……」
オムツも……え? あれ?
「ちょっと待って、私、あなたが来た時5歳よ!オムツ外れてた!」
榛瑠は声を出して笑った。
「もう! こっちがはっきり覚えてないからって、あることないこと言わないで!」
「オムツはともかく、似たようなものですよ。百年分なんてとっくに冷めてます」
「ひどい……」
目元がちょっとあつくなる。たしかに迷惑いっぱいかけてきたけど、ひどい。お互い様じゃない。
「だからってどうだって言うんですか?」
榛瑠が私を下ろした。下り坂はだいぶなだらかになっていた。
私は手すりを背にうつむいて立った。
「どうって……」
彼が私の顎を持ち上げた。
「百年ごとき冷めようが痛くもかゆくもない、それくらい。あんまり人を馬鹿にするなよ」
彼の顔が近づいてくる。
視界の端に人影がうつった。なんとなくこちらを見ているのがわかる。
でも、関係ない。あなたの言ったとおりね。それよりこっちの方が大事。
優しく榛瑠は私にキスをする。今度はさっきと違う涙がにじむ。
私の大事な大事な金色の人。
唇を離すと、榛瑠は微笑みながら私に言った。
「でも、できれば私の心臓が凍らない程度の失敗にしておいてくださいね」
「いじわる」
私は口を尖らせた。
「どっちがですか」
「なんでよ?私は何にもしてないよ」
「自覚がない分、あなたの方がタチが悪いです」
「えー、なんで⁈」
榛瑠は笑って答えなかった。
日がだいぶ落ちてきていて、あたりをオレンジに染めていく。その中に私たちもいた。
そして彼の片手に私の片手が包まれたまま、残りの坂道を夕方の赤い陽を感じながら下っていった。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました
せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる