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夕方だ(5)
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目を開いた時、足の裏で土が滑った感じがした。で、気づいたら思いっきり転んでいた。
「痛~い」
お尻のところがめちゃくちゃ痛い。あーもー!
「一花! 大丈夫ですか?」
榛瑠が慌ててやってくる。
「大丈夫だけど、いった~い」
「……とりあえず、パンツ見えてますけどね」
そう言って榛瑠がめくれていたスカートを直してくれた。
私は慌てて上体を起こしてスカートを押さえる。うわあ~、もう最悪!
「立てますか?」
手をとって立ち上がる。なんかちょっと声が冷たい気がするのは気のせいかな?
「怪我は? 擦りむいたりしてない?」
それでも榛瑠はあちこち私の体を心配してくれる。
「平気と思う。お尻打っただけ。スカートの後ろ破れたりしてない?」
服は大丈夫だった。ついた砂を払って落ち着いたとき、彼の冷たい視線に気がついた。
私は引きつった顔でわざとらしく笑ってみせた。
「まったく……」
「ごめん、でもわざとじゃなくて……」
「わざとだったら困るでしょう。妙齢の女性なんですから。それでなくても、時々あなたが良家のお嬢様だってことを忘れているんじゃないかと思いますよ」
「だって……」
たまたま転んじゃったんだもん。痛い思いしたの私なんだから怒らなくてもいいのに。
「手をとってあげなかった私もまずかったですが、それにしても誰かが見てたら、ですよ」
そこまでパンツ見えてましたか。あーもーどっかに隠れたいよ。
榛瑠がため息をつく。えっとえっと。
「ごめんなさい。あの、怒らないで?」
「怒ってるわけじゃないですけどね。なかなかの絵面だったもので」
なんか笑うしかないかも。
「あの、忘れて?」
「百年先まで覚えてますよ」
「あー、百年の恋も冷めるって?」
軽口のつもりだったのに、自分で言って自分で傷ついた。冗談にならない。
思わず手で顔を覆う。と、そのまま抱き上げられて肩に担がれた。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ」
「あなたを歩かせる方が危ないです」
そう言ってそのまま下っていく。ちょっと、怖いし!って、意外にこの人平気そうだ。
「暴れたら今度は俺が転ぶからね」
若干の不機嫌さが滲み出た声で言われる。
「大人しくするから!」
だから機嫌なおしてよ。私が転びやすいのは昔からだよ、知ってるでしょ? そう、子供の時から。
「……ねえ、あと何回なら平気?」
「何がですか?」
「失敗するの。百年の恋はともかく、あと何回くらいなら我慢してくれる?」
自分で聞いててなんか泣きそうだった。あとどのくらい我慢してもらえるのかしら。いつか冷められちゃうのかな。
「……今までどれくらいあったのかもわからないのに、そんなこと聞きますか?だいたい、私がオムツだって替えてたのに」
「それはそうだけど……」
オムツも……え? あれ?
「ちょっと待って、私、あなたが来た時5歳よ!オムツ外れてた!」
榛瑠は声を出して笑った。
「もう! こっちがはっきり覚えてないからって、あることないこと言わないで!」
「オムツはともかく、似たようなものですよ。百年分なんてとっくに冷めてます」
「ひどい……」
目元がちょっとあつくなる。たしかに迷惑いっぱいかけてきたけど、ひどい。お互い様じゃない。
「だからってどうだって言うんですか?」
榛瑠が私を下ろした。下り坂はだいぶなだらかになっていた。
私は手すりを背にうつむいて立った。
「どうって……」
彼が私の顎を持ち上げた。
「百年ごとき冷めようが痛くもかゆくもない、それくらい。あんまり人を馬鹿にするなよ」
彼の顔が近づいてくる。
視界の端に人影がうつった。なんとなくこちらを見ているのがわかる。
でも、関係ない。あなたの言ったとおりね。それよりこっちの方が大事。
優しく榛瑠は私にキスをする。今度はさっきと違う涙がにじむ。
私の大事な大事な金色の人。
唇を離すと、榛瑠は微笑みながら私に言った。
「でも、できれば私の心臓が凍らない程度の失敗にしておいてくださいね」
「いじわる」
私は口を尖らせた。
「どっちがですか」
「なんでよ?私は何にもしてないよ」
「自覚がない分、あなたの方がタチが悪いです」
「えー、なんで⁈」
榛瑠は笑って答えなかった。
日がだいぶ落ちてきていて、あたりをオレンジに染めていく。その中に私たちもいた。
そして彼の片手に私の片手が包まれたまま、残りの坂道を夕方の赤い陽を感じながら下っていった。
「痛~い」
お尻のところがめちゃくちゃ痛い。あーもー!
「一花! 大丈夫ですか?」
榛瑠が慌ててやってくる。
「大丈夫だけど、いった~い」
「……とりあえず、パンツ見えてますけどね」
そう言って榛瑠がめくれていたスカートを直してくれた。
私は慌てて上体を起こしてスカートを押さえる。うわあ~、もう最悪!
「立てますか?」
手をとって立ち上がる。なんかちょっと声が冷たい気がするのは気のせいかな?
「怪我は? 擦りむいたりしてない?」
それでも榛瑠はあちこち私の体を心配してくれる。
「平気と思う。お尻打っただけ。スカートの後ろ破れたりしてない?」
服は大丈夫だった。ついた砂を払って落ち着いたとき、彼の冷たい視線に気がついた。
私は引きつった顔でわざとらしく笑ってみせた。
「まったく……」
「ごめん、でもわざとじゃなくて……」
「わざとだったら困るでしょう。妙齢の女性なんですから。それでなくても、時々あなたが良家のお嬢様だってことを忘れているんじゃないかと思いますよ」
「だって……」
たまたま転んじゃったんだもん。痛い思いしたの私なんだから怒らなくてもいいのに。
「手をとってあげなかった私もまずかったですが、それにしても誰かが見てたら、ですよ」
そこまでパンツ見えてましたか。あーもーどっかに隠れたいよ。
榛瑠がため息をつく。えっとえっと。
「ごめんなさい。あの、怒らないで?」
「怒ってるわけじゃないですけどね。なかなかの絵面だったもので」
なんか笑うしかないかも。
「あの、忘れて?」
「百年先まで覚えてますよ」
「あー、百年の恋も冷めるって?」
軽口のつもりだったのに、自分で言って自分で傷ついた。冗談にならない。
思わず手で顔を覆う。と、そのまま抱き上げられて肩に担がれた。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ」
「あなたを歩かせる方が危ないです」
そう言ってそのまま下っていく。ちょっと、怖いし!って、意外にこの人平気そうだ。
「暴れたら今度は俺が転ぶからね」
若干の不機嫌さが滲み出た声で言われる。
「大人しくするから!」
だから機嫌なおしてよ。私が転びやすいのは昔からだよ、知ってるでしょ? そう、子供の時から。
「……ねえ、あと何回なら平気?」
「何がですか?」
「失敗するの。百年の恋はともかく、あと何回くらいなら我慢してくれる?」
自分で聞いててなんか泣きそうだった。あとどのくらい我慢してもらえるのかしら。いつか冷められちゃうのかな。
「……今までどれくらいあったのかもわからないのに、そんなこと聞きますか?だいたい、私がオムツだって替えてたのに」
「それはそうだけど……」
オムツも……え? あれ?
「ちょっと待って、私、あなたが来た時5歳よ!オムツ外れてた!」
榛瑠は声を出して笑った。
「もう! こっちがはっきり覚えてないからって、あることないこと言わないで!」
「オムツはともかく、似たようなものですよ。百年分なんてとっくに冷めてます」
「ひどい……」
目元がちょっとあつくなる。たしかに迷惑いっぱいかけてきたけど、ひどい。お互い様じゃない。
「だからってどうだって言うんですか?」
榛瑠が私を下ろした。下り坂はだいぶなだらかになっていた。
私は手すりを背にうつむいて立った。
「どうって……」
彼が私の顎を持ち上げた。
「百年ごとき冷めようが痛くもかゆくもない、それくらい。あんまり人を馬鹿にするなよ」
彼の顔が近づいてくる。
視界の端に人影がうつった。なんとなくこちらを見ているのがわかる。
でも、関係ない。あなたの言ったとおりね。それよりこっちの方が大事。
優しく榛瑠は私にキスをする。今度はさっきと違う涙がにじむ。
私の大事な大事な金色の人。
唇を離すと、榛瑠は微笑みながら私に言った。
「でも、できれば私の心臓が凍らない程度の失敗にしておいてくださいね」
「いじわる」
私は口を尖らせた。
「どっちがですか」
「なんでよ?私は何にもしてないよ」
「自覚がない分、あなたの方がタチが悪いです」
「えー、なんで⁈」
榛瑠は笑って答えなかった。
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