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夜です(2)
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彼は考え込む風だった。でも、その答えを聞くことはなかった。ちょうどその時声をかけられたから。
「失礼します、四条様。本日はありがとうございます」
このお店のマネージャーらしい、壮年の男性だった。
「こちらこそ。急なお願いをありがとう。とてもいいお店ですね、料理も大変おいしかった」
「ご満足いただけたなら何よりでございます。当店のオーナーより、今日こちらに顔を出せなくてすまなかった、残念だと伝えて欲しいと言付かっております」
「彼も忙しいでしょうから気になさらず。とても良い時間を持てたと伝えてください」
「ありがとうございます」
私たちに一礼して去っていく男性の背中を見るともなしに見ながら榛瑠に聞いた。
「友人って、久々に会う方なの?」
「そうですね、高校卒業以来、直接は会ってないかな」
え? いつの話、それ。
「実はあんまり仲良くなかった人とか?」
「いえ、生徒会で一緒でしたし、それなりに」
「生徒会って、それって、かなり仲よかったんじゃないの? あなたって何だか時々本当に薄情よね」
それにこの人、日本出たあと私だけでなく誰にも連絡とってなかったのかもしれない。今は蒸し返したくないから聞かないけれど。
榛瑠は笑った。
「それについては反論しませんが、彼だってどっちにしろ時間があったって会いになんか来ませんよ」
榛瑠の友人関係って本当にわからない。私も友達少ないし、あんまり人のこと言えないけど。
むしろ、会わなくても友人でいられるって素敵なのかも。私にそんな人いるかしら?
ふと、いろんなことが頭をよぎって一瞬暗い気持ちになる。
と、榛瑠が私に向かって右腕を伸ばした。手には大きな苺が一粒ささったフォークを持っている。
「はい」
そう言う彼の目は笑っていた。ええ⁈ お店だよ、恥ずかしいんですけど。
躊躇する私を見て、彼は自分で苺を下半分かじると残りをまた私に向けた。って、条件悪化してませんか⁈
「早く食べないと余計恥ずかしいよ」
そう言われてしょうがないので、その半分かじられた苺を口にした。
「甘い方だけかじるのやめてよね」
「そっち、甘くなかった?」
「……甘い」
大きな赤いその苺はちゃんと甘かった。榛瑠が微笑みながら私を見ている。
ああ、また間違えちゃうところだった。今は、つまんないこと思い出したりする必要ないのに。
「お料理、全部美味しかったわ。連れて来てくれてありがとう、ご馳走さま」
支払いが済み、二人で店を出る。道路を渡るとすぐ近くに海辺へ降りる道があってちょっと歩くことにした。
道路沿いに明かりはあったが、砂浜は薄暗くて誰も居なかった。暗い海の波の音と、潮の匂いに満ちていた。
でも、少しも怖くなかった。榛瑠が店を出てからずっと手をつないでくれていた。
暗がりで彼が私を無言で引き寄せてキスをした。ほのかに苺の香りがした気がした。
「苺の件、ほんとに結構恥ずかしかったんだから。やめてよね」
「だって、テーブル越しにキスするのは、ああいった店ではやっぱりどうかと思ったものですから」
はい?
「ちょっと! それどんなお店でも絶対禁止!」
榛瑠は笑った。もう。どこまで本気なんだか。
榛瑠はもう一度私を引き寄せると、今度はぎゅっと抱きしめてくれた。
波の音が聞こえる。空には星が光っている。いつか山の上で見た美しい星々を思い出す。
それから私を包む彼の体温と規則正しい心臓の鼓動。
そんな、美しい夜だった。
「失礼します、四条様。本日はありがとうございます」
このお店のマネージャーらしい、壮年の男性だった。
「こちらこそ。急なお願いをありがとう。とてもいいお店ですね、料理も大変おいしかった」
「ご満足いただけたなら何よりでございます。当店のオーナーより、今日こちらに顔を出せなくてすまなかった、残念だと伝えて欲しいと言付かっております」
「彼も忙しいでしょうから気になさらず。とても良い時間を持てたと伝えてください」
「ありがとうございます」
私たちに一礼して去っていく男性の背中を見るともなしに見ながら榛瑠に聞いた。
「友人って、久々に会う方なの?」
「そうですね、高校卒業以来、直接は会ってないかな」
え? いつの話、それ。
「実はあんまり仲良くなかった人とか?」
「いえ、生徒会で一緒でしたし、それなりに」
「生徒会って、それって、かなり仲よかったんじゃないの? あなたって何だか時々本当に薄情よね」
それにこの人、日本出たあと私だけでなく誰にも連絡とってなかったのかもしれない。今は蒸し返したくないから聞かないけれど。
榛瑠は笑った。
「それについては反論しませんが、彼だってどっちにしろ時間があったって会いになんか来ませんよ」
榛瑠の友人関係って本当にわからない。私も友達少ないし、あんまり人のこと言えないけど。
むしろ、会わなくても友人でいられるって素敵なのかも。私にそんな人いるかしら?
ふと、いろんなことが頭をよぎって一瞬暗い気持ちになる。
と、榛瑠が私に向かって右腕を伸ばした。手には大きな苺が一粒ささったフォークを持っている。
「はい」
そう言う彼の目は笑っていた。ええ⁈ お店だよ、恥ずかしいんですけど。
躊躇する私を見て、彼は自分で苺を下半分かじると残りをまた私に向けた。って、条件悪化してませんか⁈
「早く食べないと余計恥ずかしいよ」
そう言われてしょうがないので、その半分かじられた苺を口にした。
「甘い方だけかじるのやめてよね」
「そっち、甘くなかった?」
「……甘い」
大きな赤いその苺はちゃんと甘かった。榛瑠が微笑みながら私を見ている。
ああ、また間違えちゃうところだった。今は、つまんないこと思い出したりする必要ないのに。
「お料理、全部美味しかったわ。連れて来てくれてありがとう、ご馳走さま」
支払いが済み、二人で店を出る。道路を渡るとすぐ近くに海辺へ降りる道があってちょっと歩くことにした。
道路沿いに明かりはあったが、砂浜は薄暗くて誰も居なかった。暗い海の波の音と、潮の匂いに満ちていた。
でも、少しも怖くなかった。榛瑠が店を出てからずっと手をつないでくれていた。
暗がりで彼が私を無言で引き寄せてキスをした。ほのかに苺の香りがした気がした。
「苺の件、ほんとに結構恥ずかしかったんだから。やめてよね」
「だって、テーブル越しにキスするのは、ああいった店ではやっぱりどうかと思ったものですから」
はい?
「ちょっと! それどんなお店でも絶対禁止!」
榛瑠は笑った。もう。どこまで本気なんだか。
榛瑠はもう一度私を引き寄せると、今度はぎゅっと抱きしめてくれた。
波の音が聞こえる。空には星が光っている。いつか山の上で見た美しい星々を思い出す。
それから私を包む彼の体温と規則正しい心臓の鼓動。
そんな、美しい夜だった。
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