琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ゴアドアの城

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「多分、これじゃないかしら」 
 サキの指差す箇所に目を当てると、ラルフは思わず声を上げた。 
「ゴアか!」 
 そのまま、ズバリと記されている。ミアの言った化石の名は実在したのだ。 
「ゴアドアのゴアと同じ綴りだわ」 
「そのとおりだ……」
 ラルフは本の記述を丁寧に目で追った。


【希少化石:ゴア】
 北の大陸にて、5000万~2000万年前の地層より、ごく稀に採掘された。
 琥珀に酷似。色は黒、または青の2色。
 闇の中で発光する個体も有る。
 (以上すべて口伝)
 ※現在実物の入手は困難。

 
「やはり間違いない。そうか、琥珀ではなく、ゴアという名の化石なのだな」
 ごく稀にというのが彼の気に入った。その辺にごろごろしているような代物ではないのだ。 
「闇の中で発光する……か。ゴアは古い言語で『光』という意味よね。暗示的な名前だわ」
 サキの言葉に、ラルフは黙って頷いた。


 ラルフはますます、ミアの持つゴアに執着した。手元にある青のゴアも魅力的だが、黒のゴアにはえもいわれぬ深遠な、吸い込まれるような美しさを感じる。
 ルズの背中に乗って暗黒の森を飛びながら、昨夜目にした聖なる光を瞼に浮かべた。
 白く、柔らかく、清らかな光だ――
(ミアのことは、気長に説得するとしよう。次の妻が見つかるまでの繋ぎで、身の回りの世話をさせれば一石二鳥だ) 
 ミア贔屓のルズに聞こえないよう心でつぶやいていると、侵入者の気配を感じた。

「やれやれ、腹が減ったというのに」
「仕方ないよ、この仕事は時無しなんだから。僕は王様にミネラルをごちそうしてもらったから、満腹だけどね」
 ルズの言い草にラルフはしかめ面をしたが、ふと、ミアがこしらえた朝食を思い出す。あの腕前なら夕食も期待できるだろう。
「よし、さっさと片付けて帰るぞ」
 ルズに声をかけると、人間の匂いのする方向へ猛スピードで飛んでいった。


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