琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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サキ博士の願望

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「『いかんせん、この言葉の謎が解けたところで肝心の黒のゴアがない。 黒と青のゴアが揃い合わさる時――と、言葉は伝えているのに、実際受け継がれているのは"青のゴア"のみ。謎である。世界でも類を見ない希少な石"黒のゴア" プラドー家もかつて石の謎を解くため、北の大陸に採石基地を設け、100年の歳月をかけて探したが欠片も見つからず、いまや完全に諦めた模様……』」


 ――何だと?


「ラルフ様、どうかされましたか?」 
 サキの呼びかけに、はっと我にかえる。ラルフは無意識に立ち上がっていた。 
「あ、ああ。すまない……」 
 座り直し、紅茶を口に運ぶ。けんめいに落ち着こうとしていた。 
「そこでラルフ様にご相談なのですが、是非協力していただけないかと」 
「協力……」 
「はい。黒のゴアを探すために」 
 サキは言いながら、ラルフの顔に目を据えている。真剣そのものだった。

「確かに、胡散臭い話です。この記事も興味本位な書き方ですが、まるきり出鱈目には思えないのです。ですから私は研究者として、どうしても"黒のゴア"を発見したい。この目で見て、じっくりと調べてみたい。これほどミステリアスな石はありませんからね」 
「研究者として?」 
 ラルフは博士の顔をじろりと睨む。 
「お粗末な迷信を信じての野心じゃないだろうな」 
「まさか!」 
 サキはいかにも心外という調子で、声を張り上げる。その声に偽りがないのを、ラルフの耳はよく捉えていた。

 二人はしばらく押し黙り、対峙する。やがて切り出したのは、ラルフだった。
「私の手元にある青のゴア。その記事を読んで、薄々勘付いているのだろう? 本当はそれを訊きたかったのではないか」 
「う……」 
 サキの目が怯む。図星のようである。
「どうなんだ、サキ博士。お前は鋭い奴だ。私も隠し立てはしない」 
 胸の内ポケットから青のゴアを取り出し、彼女の前に掲げた。
「この石に近付けば、黒のゴアへの手掛かりが得られる。そう思ったのだろう?」 

 彼女は観念し、こくりと頷く。 

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